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第9話

 時雨の一件から三日が経った。俺たちはというと、一度任務を中断しあれこれ考える時間が増えた。

 向こうから接触してきたチャンスを逃した自分たちから、逃げているのかもしれない。だが、そうする時間が必要だった。だって俺たちはまだ高校生で、世界と戦うとか重すぎるから。覚悟は決めていたつもりだったのに、実際はこんなザマだ。情けない。

「……でもそろそろ、任務にはいかなきゃいけませんよ?」

 月影が言う。そんなことはわかっている。わかっていて、皆逃げている。おじさんも連絡はしてこなくなった。恐らく、何か勘づいて放っておいてくれている。おじさんのところへ行けば、任務を再開することになるだろう。しかしそこでまた連中に遭ってしまったら? それが、怖い。

「再び覚悟を決めろ、ということか」

 暁人は餡ドーナツを頬張りながら呟く。毎回思うが、キメる時はお菓子を手放してほしい。

「そうね、逃げてばっかりじゃ始まらないわ。散々考えたもの」

 望月が便乗する。確かに、考える時間は腐るほどあった。断片的すぎる情報では、何も進まなかったが。

「そうだよ、獏。だからいい加減、おじさんのところへ行こうよ!」

 咲夜が、突っ伏している俺に手を差し伸べてくる。俺はその手を、迷わずとった。

「そうだな。ここで話し合ってても仕方がない。行こう」

 俺たちは部室を後にした。廊下に靴音がこだまする。


 月谷ネットカフェは、相変わらず静かだ。その雰囲気を壊さないように、おじさんに話しかける。

「おじさん、久しぶりだな」

「獏じゃないか。久しぶりだな。死んでなくてよかったよ」

 確かに前回の夢の内容なら、俺は死んでいてもおかしくなかっただろうけど。

「縁起でもないこと言うなよ、それよりさ。奴らがついに接触してきたんだ」

 おじさんには、トワイライト・ゾーンのことを話してある。奴ら、で通じるはずだ。

「そうか……! ついにか」

 おじさんの声が跳ね上がる。場の緊張感が増した。俺はあの日あったことを説明すると、出されたコーヒーを飲む。ブラックだ。苦すぎて表情が歪んでしまった。

「奴らにも、余裕が無くなってきているということか。凄いじゃないか、皆」

 おじさんは俺たちを見渡し、笑った。それはそうなのだが、俺たちにも余裕がない。どちらも追い込まれているのは一緒だ。

「ここに来たということは、また悪夢退治をする気になったということで良いか?」

「おう」

 そう頷くと、おじさんは微笑んだ。俺たちがここに来るのを、ずっと待っていてくれていたらしい。辛抱強い人だ。

「じゃあ、俺の口から今日の悪夢の説明をしよう。見ているのは、お菓子の悪夢。童話とかであるお菓子の家に閉じ込められて、それを壊そうと食べても食べても壊れない。やがて飽食になった夢の主は、ケーキを切る包丁で自決。そうなる前に救い出すのが、今回の任務だ。オーケーか?」

 これがもっとポジティブな夢であったなら、暁人でも見そうだ。そんなことを考えながら頷く。もう、現実からも夢からも逃げない。そう決めた。

「オーケーだ。じゃあ、深夜零時にまたここで集まろう。俺たちの力、見せてやろうぜ!」

 今日は俺の言葉で解散となった。


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