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第7話 虐待の事情の確認と裏帳簿の在処



 二人から、自分達は公爵家の人間であり、怪しい者などではなく、名前は、アレクシスとサージュで、公爵家の嫡男と諜報員であるという軽い説明を受けたあと。


 豪奢な雰囲気で、ごてごてと飾り付けられた、伯爵邸にあるお父様が使っていた書斎の中で、沢山の本棚に囲まれるようにして、ぶかぶかのシャツに膝上くらいまでが隠れつつも、部屋の中央に置かれたソファーの上に、ちょこんと座らせてもらってから。


 私は、硬派で精悍な顔立ちであり、深い闇夜を思わせるような雰囲気のアレクシスと、凛とした感じで涼しげな雰囲気を持ち合わせている、闇夜に花開く月光のような華やかさがあって、纏うオーラから、どう考えても影のお仕事に就いているとは思えないくらいのサージュさんに、あれこれと心配そうな表情で見つめられながらも。


「痛むだろうけど、ちょっとだけ、我慢してくれるかっ?」


 と、何だか、お世話焼きっぽい属性を持つサージュさんに、ぶかぶかのシャツの隙間から見えている範囲での、鎖骨や、腕、それから足などの傷に関して、丁寧に塗り薬を塗ってもらって手当をされるという、もの凄く贅沢なことをされてしまったことで、あまりにも恐縮過ぎて、思わず『……わぁぁぁ、凄く丁寧に手当してもらってる……っ!』と、内心で、ドキドキしてしまった。


『サージュさんって、絶対に原作に出てきた人だったら、アレクシスと同様に、もの凄く人気が高かったであろう人だよねっ!?』


 たとえ、そうじゃなかったとしても、『こんなにも、ふかふかのソファーに座らせてもらうのだなんて初めて……っ!』と、本当に良いのかなと思ってしまうくらい、私は、柔らかくてクッション性の高いソファーの上に座らせてもらっていたんだけど。


 二人は私の目線に合わせて、私の対面にしゃがみ込んでくれているような状態であり、伯爵家の人間である私が公爵家の二人からこんなことをしてもらっているだなんてこと自体、身分のことを考えると、それだけで、あまりにも申し訳なさすぎるし。


「本当に大丈夫か……?

 見えているところだけでも、これだけの傷があるってことは、この服の中には、もっと、生々しい虐待の痕跡が残っているのだろう?

 お前のことは、早く、公爵邸に連れて帰って、しっかりと休ませてやりたいが、少しだけ俺たちの質問に付き合ってくれると嬉しい」


 と、原作で、一、二を争うくらいに人気だったアレクシスにも、目の前で顔色を窺うように心配されてしまって、あまりにも近いその距離感に、ひたすらに、あわあわしてしまう。


 だからこそ、眉を八の字にさせて、困り切った表情を浮かべて、アレクシスのことを見つめてしまったんだけど。


 その様子を見て、二人からは、突然見知らぬ人達に連れてこられたことで、私が、不安を感じてオロオロしてしまっているんじゃないかと勘違い

されてしまったようで、それまで以上に、険しく心配の表情で見られてしまったことから『……あぁぁぁ、何だか、もの凄く勘違いされてしまってるみたい……!』と、本当のことを言えない気持ちでいっぱいになりながらも、あまりの申し訳なさに、どこまでも複雑な表情を浮かべてしまった。


 それに、今まで、虐待されてしまったことで、この身体は、男女問わず、誰かの手が近づいてくると、それだけで、どうしても私の意志に反して、条件反射のように、ビクッと身体を震わせてしまって、その度に、二人の表情が痛ましいものを見るような目つきになってしまうのが分かるからこそ、何とも言えない気持ちにもなってくる。


『前世も含めたら、私はもういい大人なんだから、これくらいどうってことないはずだし、頭の中では、全然、大丈夫だって思ってるんだけどな……っ!』


 私がわたわた、オロオロして、表情をあちこちに変えながら戸惑っているのを見て、二人がまた、良くない方向に勘違いしているのは分かったんだけど。


 その勘違いを訂正することも出来ないまま、私は、一人『本当なら、成人済みのいい大人のはずなのに……っ』と、この身体に引っ張られるように、色々と子供っぽくなってしまっているような自分に、しょんぼりと落ち込んでしまった。


 そうして、サージュさんに丁寧に、虐待された痕に塗り薬を塗ってもらっている間、治りきっていない傷がジクジクと疼いて、どうしても痛みが再燃するように湧きあがってきてしまったんだけど。


 それでも治療をするために、そうしてくれたのは分かっているし、原作では、アレクシスのみとの対面となっていたけれど、リュカお兄様に対しても、凄く効果の高い良い傷薬を使ってくれていたから、きっと私に対しても、きちんとしたものを塗ってくれているということは間違いないはずで……。


 全てが終わって、サージュさんが「よし、大丈夫。これで、傷の治りも、ちょっとは早くなるはずだからな。……安心してほしい」と声をかけてくれたことで、私は内心で、『あ……、もしかしたら、さっきまでと比べると、ちょっとずつ、声も出せるようになってきたかもしれない』と感じて。


「あ……っ、あの……っ、凄く高そうな傷薬を使ってくれて、丁寧に傷口に塗って、手当をしてくださって、ありがとう、ございます……」


 と、二人に向かってお礼を伝えたあと、慌ててぺこりと頭を下げた。


 ここまで、されるがままに、サージュさんにこの身体を預けていたけれど、声が出せるようになったら、二人が、コリンズ家の罪を暴いて、お父様やお母様から解放してくれたことについて、一番にお礼を伝えたかった。


 声は、がらがらに掠れてしまっていて、未だに、きちんとした言葉を出すには、ちょっと大変だったけど、私が喋ってお礼を伝えたことで、サージュさんもアレクシスも目を見開いて驚きながら、私に向かって『喋れたのか……っ』というような表情を向けてくれたあと、ほんの僅かばかり、その目を柔らかく細めて、ホッとしたような表情を向けてくれる。


 その姿に、今日、初めて出会ったばかりだというのに、きっともの凄く心配をかけてしまったんだなと感じながらも、私は、私が喋れることが出来ると分かったアレクシスから。


「本来なら、はいかいいえで、頷くか首を横に振るような感じで問いかけに答えてもらう予定だったんだが、もしも、喋れるなら、ゆっくりでも良いから、今から俺たちの質問に答えてくれるか?」


 と言われたあとに、私自身、自分の境遇について、虐待のことも含めて、出来うる限り教えてほしいと問いかけられることになってしまって、それ自体は別に構わなかったものの、多分だけど、この優しい二人が、私の現状を聞いたら、きっと怒ってくれるだろうなと感じてしまったからこそ。


 どこまで話していいのか、二人の顔色を窺いつつ。


 少し躊躇いながらも、結局私は、お父様やお母様だけではなく、他の使用人達に至るまで、コリンズ家にいた人達から、これまで私が生きてきた8年の間にされてきた虐待のことについて、その事情をしっかりと話していくことにした。


 というよりも、アレクシスや、サージュさんから「何歳なんだ」と聞かれたあとに「8歳です」と答えたことから、あれよあれよという間に、8歳にしては痩せすぎているし、身体も小さいということを心配されて「ご飯はどうしていたんだ?」だとか、そういった質問を矢継ぎ早に聞かれてしまったことで、答えざるを得なかったというのが正しいかもしれない。


「あ……、あのっ、ご飯は、一日、一回、持ってきてくれると、凄く良い方で……。

 その……っ、今までは、ご飯をくれる時も、ご飯を持ってきてくれてありがとうございますって、一生懸命にお礼を言わないと機嫌を損ねて蹴られてしまったり……っ。

 のろまで愚図だって、侍女長に責められながら、急いで行動しないと、容赦なく暴力が振ってきたり。

 毎日、跡取りの教育のために鞭で叩かれたりして……、きちんと出来たら出来たで怒られて、言うことを聞けないと酷い暴言を吐かれてしまうようなことも、その……、日常茶飯事で。

 屋敷の使用人達の虫の居所が悪い時は、お前は伯爵家の恥だって、階段から突き落とされたり、していました……」


 そうして、自分で説明しておいてなんだけど、客観的な立場から聞いたとしても、私の置かれていた境遇は、あまりにも酷い内容だったなぁと、今になって思う。


 私自身、今までお父様やお母様から暴力を振られてきたことも、侍女達といった使用人達に冷遇されて酷い扱いを受けてきたことも、最早、何も感じなくなっていて冷静に話せるくらいには、彼等に対して何の思い入れも持っておらず、嘘偽りのない申告をすることが出来たものの。


 未だに声がきちんと出せない所為もあって、言葉が途切れ途切れになってしまったり、ちょっとだけ迷ったような物言いになってしまったりしたのは、私の話を聞いている間、アレクシスとサージュさんの顔色が、私のことを心配してくれるようなものから変化して、どんどん、コリンズ家の人々に対して強い怒りを滲ませるようなものに変わっていったからだった。


 この3年……、毎日、ご飯を食べさせてはもらえなかったこと。


 当主教育や躾だと称して日頃から暴力を振られてしまっていて、おおよそ人間としての扱いではなく、まるで奴隷にするようなものとして、更に酷く過酷な状況におかれてしまっていたこと。


 それから、この屋敷の一番奥まった場所にある物置部屋のような場所で過ごしていたということ。


 お父様やお母様だけではなく、使用人達に階段から突き落とされたり、捨てられてしまうところだったりといった腐りかけた飲み物や食べ物を出されたり、躊躇なく殴られ、蹴られ、鞭で叩かれてしまったりだとか。


 そういった日常的な暴力を受けていたことなどを、時に言葉に詰まりながらも、何とかひとつひとつ、きちんとした言葉として伝えていけば、私の拙い話を、アレクシスも、サージュさんも、ただ黙ったまま聞いてくれていて。


 途中、ほんの少し、絶句したように長い沈黙の時間があったことを思えば、子供思いの善良な二人が、私の境遇を聞いて、コリンズ家の人々に対し、どういうふうに思っているのかは火を見るよりも明らかで……。


 そうして、私が話を終える頃には、あまりにも強い嫌悪感と共に、空気が張り詰めて肌がピリピリと震えてしまうくらいに、アレクシスも、サージュさんも、激しい怒りで、強い殺気のようなものを放っていて、私の方が。


「あ……、あの、でも、大丈夫です……っ!

こうして、お二人に助けて頂けて、凄く嬉しかった、ので……」


 と、思わず、二人の怒りがこれ以上増大してしまわないように、何とかしなければいけないと感じて、慌てて、止めに入ったほどだった。


 そのあと「これまで、ずっと、そうだったのか……?」と、アレクシスに窺うように問いかけられたことで、小さい時から躾として厳しい教育を施すような人達ではあったけど。


「いえ、その……っ、元々、愛情とかは、あまり向けてくれなかったし、躾などで鞭で打たれたりすることもありましたが、殴られたり、蹴られたりし始めたのは、3年前からで。

それまでは、優しくしてくれる使用人達が、沢山、傍についてくれていたのに、みんな、お父様に解雇されてしまって……」


 と、私は、頭の中で『リュカお兄様が死んでしまったことで、お父様もお母様も完全に人としてのたがが外れてしまったんだよね』と、別に今更、二人に対しては、何とも思わないけれど。


 私の傍にずっといてくれたリュカお兄様のことや、使用人達のことを思うと、どうしても、言い知れないような悲しみや苦しみとして、ズキズキと胸が痛んできてしまって、思わず、そっと目を伏せてしまった。


 ――特に、リュカお兄様のことは、大好きだった分だけ余計、考えるだけで、今も苦しくなってくる。


『エスティア、俺……っ、いつも、エスティアに無理はしないでねって言ってもらって励まされてるけど。

俺だってエスティアのこと、本当に大事に思っているし、辛かったら、いつでも言ってほしい。

お父様も、お母様も、俺達のこと、あまり見てはくれていないけど、ずっと大好きだよ』


 今も、頭の中を過るのは、狭いベッドの上で二人身を寄せ合って、内緒話のように耳元で、お互いに勇気づけあったこと。


 原作でリュカお兄様が、エスティアに励まされていたように、私もまた、自分のことを守りたいと言ってくれるリュカお兄様に、ずっと励まされ続けてきた。


『リュカお兄様……っ』


 だからこそ、私が視線を落として、リュカお兄様を思いだし、長い睫を伏せたところで、アレクシスとサージュさんが私のそんな姿を見て、グッと息を呑み込んだのが聞こえてきた。


 私に何て声をかければ良いのか分からなくて、きっと迷ってしまっているのだと思う。


 その対応に、二人は何も悪くないから、どうかそんな顔はしないでほしいと視線を上げれば、ほんの僅かばかり、口を開きかけて躊躇したように一瞬だけ言葉に詰まったあと、アレクシスが『お前は……っ』と、私に何か言葉をかけようとして……。


 そのタイミングで「アレクシス様、コリンズ家の帳簿が見つかりましたっ!」と、鎧を着た王家の騎士の一人が、バタンと大きな音を立てて、廊下側からこの書斎の扉を開け、慌てたように、コリンズ家の帳簿を持ってきたことで、それまで、ソファーに座らせてもらっていた私に心を痛めるような視線を向けてくれていたアレクシスとサージュさんが、ハッとした様子で、この部屋に入ってきた騎士の方へと振り返り、立ち上がってから。


 お父様と財務官が管理していた帳簿を確認するように、二人が顔を突き合わせるようにして、一枚、一枚、ページを捲っていくと、みるみる内に、今度は険しい表情になっていくのが見てとれた。


 ソファーに座っている私には、その中身まで窺い知ることは出来なかったけど、あれは、何かあった時に、外部の人間に見られても困らないようにと財政官が表向きの帳簿として作っていたカモフラージュ用のものだったはず。


 それでも、そもそも、この財政官も、お父様よりは仕事が出来ていた様子だったものの、いかにお金を横領して自分の懐に入れられるかということだけに必死になっていた人であり、あまり優秀な人だとは言い難く。


 国全体で豊作だといわれていた年に、周りの領地は、当然、それだけ多くの税金を申告していたにも拘わらず、自分のポケットマネーにするために、本当は豊作で、住民達から巻き上げられるだけお金を巻き上げていたのに、帳簿上では過小申告をすることで、近くの領地との収益に、かなり大きな開きとして差が出てしまうことにさえ気付いていなかったり。


 ところどころで収入と支出のバランスが明らかにおかしくて、本来なら帳簿上では、何にお金を使ったのかなどの記載を事細かにしなければいけないのに、そういったことも面倒くさがって、お金を抜き取るためだけに、用途を不透明な感じにして、その殆どを『雑費』の項目で記載したりしているんだよね。


 これだけでも、不審に感じられるほどの内容で、証拠にはなると思うし。


 幾ら領主といえども、雇っている財政官と共に、領地に必要不可欠なはずの予算の中からも横領し、王家に献上するべき税に関して、脱税などといったことも平気でやっているのだから、アレクシスもサージュさんも苦い表情をするのは当たり前だと思う。


『帳簿の中にある違和感は、どうやったって誤魔化せるものではないと思うし。

 不正と汚職に関して、お父様のやってきたことが、今、あの帳簿を見ただけでも、ほんの少し浮き彫りになってしまっているんじゃないかな……っ?』


 アレクシスは勿論のこと、サージュさんも、そういったことへの観察眼が鋭くて長けているような雰囲気を持っているし、彼等の目は決して誤魔化せないはず。


 ただ、それだけでは証拠として弱いことから、表向きに用意された帳簿だけではなく『裏帳簿』の存在に関しては、是が非でも見つけておきたいと思っているんじゃないかな。


 サージュさんと共に、簡単に、表向きの帳簿の中身へとザッと目を通していたアレクシスが騎士の人に向かって「帳簿はこれだけしかなかったのか? 他の書類などは……?」と厳しく問いかけるのを聞きながら、きっとこのままじゃ、見つけるのにもの凄く時間がかかってしまうと感じて私は裸足のまま、ぺたりと、ソファーの上から降りて、重たい身体に鞭を打ちつつ本棚の方へと向かっていく。


 突然、何の前触れもなく動き出した私に、みんな、動揺してしまったみたいだけど。


「あの……っ、お父様が秘密に管理していた帳簿なら、ここに……」


 と、コリンズ家の中でも、特に秘匿性の高い情報として扱われている、お父様が隠していた裏帳簿の存在を、アレクシスとサージュにも分かってもらえるよう。


「ここの、本棚だけ、動かせる、ようになっているんです……っ」


 と、この書斎の中にある本棚の内、一番右端の本棚だけ、子供の私でも軽く押しただけで、くるりと反時計回りに回転して動かせるようになっているのだと、二人に伝えていくことにした。


 そうして、本棚の裏にあった一畳ほどの僅かなスペースに、屋根裏部屋へと続く階段が出てきたのを、二人と騎士さんが驚いたような表情で見つめる中。


 私は、人が一人通れるだけの階段の上部に、ぽっかりと四角く切り取られた場所を見上げて。


「お父様はいつも、大事な書類は、この屋根裏部屋に隠すようにしてたんです」


 と、お父様と財務官が結託して隠していた『裏帳簿』や、伯爵家が所有する全ての財産を記載した財産目録、それから公費の横領を行った証拠の資料なども含めて、今までの悪事などが全て纏められた資料が、この屋根裏部屋にあるのだということを間接的に伝えることにした。


 原作でも、この部屋の存在は凄く分かりにくいものとして書かれ『裏帳簿などが、絶対にどこかにあるはずだ』と探していたアレクシスが見つけるのに何日も、凄く手間取ってしまっていた描写があって、それで取り調べの際『この部屋は絶対に見つからないだろう』と高を括っていたお父様の横柄で強気な態度などに、公爵家の人々も、ほんの僅かばかり苦心していたような描写があった。


 この部屋が見つかるか見つからないかで、コリンズ家の人々が追うべき罪に対する刑罰の内容も変わってくるものではあるし、コリンズ家と関わりの深い貴族派の中でも同じように裏で色々としている家柄に、怪しいお金を入金していることを示す書類とかもあったから。


 私が伝えることで、この部屋の存在が明るみになって、早めに、色々な書類などを見つけてもらえることで、お父様に反論するような隙すら与えずに、このまま、断罪してもらえるようになったのは良いことだろう。


 そうして、時間にしたら、数分くらいだっただろうか。


 アレクシスに視線で促されたあと、軽い身のこなしで屋根裏部屋に上がったサージュさんが、部屋の中にある書類をザッと確認してくれたみたいで、ほくほくとした笑顔を浮かべて、幾つもの書類の束と帳簿を片手に抱えて戻ってきた。


「本当に、お手柄だっ……!

 裏帳簿だけじゃなくて、コリンズ家と関わりが深いとされる貴族派の名前が連なっている名簿もあった……!

 名簿の中で、コリンズ家が不自然に、余所の家に金銭を送っているような形跡もあるし、貴族派の中でも自分達の家柄を贔屓して特別に取り立ててもらえるよう、色々な面で、癒着関係にあったに違いない」


 その上で、サージュさんが、もの凄く柔らかい表情をして、私のことを褒めるように声をかけてくれるのと同時に、ポンッと感謝をするように頭に手を置いて、くしゃりと優しい手つきで撫でてくれたことに、ビックリして目を見開きつつ。


 その言葉と、頭を撫でられたことに、ほんの少し胸の奥が熱くなって擽ったい気持ちになっていたら、アレクシスからも。


「もしかしたら、俺たちだけじゃ分からなかったかもしれないし。

これだけの証拠が見つかったのは、お前のお陰だ。……本当に、感謝する」


 と言われたことで、私は、二人の役に立てて本当に良かったと嬉しい気持ちになりながらも、これで、伯爵家の人達も、他の同じ貴族派の人達も正当に断罪されることになるはずと、ホッと胸を撫で下ろした。


 ついでに、そのタイミングで。


「あの……、お父様もそうなのですけど。

帳簿の管理をしている財務官が、お父様に口八丁のことを言って、横領をしているお金の中から、更に、多くのお金を抜き取っているので、もう少し、財務官についてもしっかりと調べあげてもらった方がいいと思います。

当主様には、これくらいの金額を与えておけば満足するはずだって、言っているのを聞いたことがあって……」


 と、説明すれば、二人は驚いた様子だったけど、私の話を、ただの子供が言っていることだと聞き逃す訳でもなく、真剣に耳を傾けてくれた上で『分かった。……必ずそうしよう。お前が、もたらしてくれた情報が本当に何よりも有り難い』と私に約束してくれた。


 それから、サージュさんがアレクシスに伯爵邸の屋根裏部屋にあった書類の殆どを証拠として手渡したのが見えたあと、特に重要そうな書類に関しては、今、この場で話す必要があるということで、二人は一転して真剣な話をし始めてしまった。


 お父様達を捕まえたからといって直ぐに帰るという訳にもいかず、事態をしっかりと把握しながら、後処理まできっちりと終わらせなければいけないと感じているんだろう。


 二人が話しているその間、もうちょっとだけ待っていてほしいと言われたことで、慌ただしそうな、アレクシスとサージュさんに『お仕事、本当に大変そうだなぁ』と感じつつも、私は、ソファーに少しだけ横になって、身体を休めることに専念させてもらうことにした。


 体力もグッと落ちきってしまっているし、普段からの鞭打ちに加えて階段から突き落とされたことで、あちこちがズキズキと痛むしで、少しでも休憩を取らないと、身体が重すぎて、本当に、どうにもならない。


 それから、時間にして、何分くらい経っただろう?


 私のこともあって、きっと早く休んでほしいという思いから、アレクシスもサージュさんも凄く早く、仕事を終わらせてくれたのだと思う。


 そのあと「待たせちゃってごめんな……っ」と、再び、サージュさんに優しく抱きかかえてもらった私は、アレクシスとも一緒に、伯爵邸の敷地内に停まっているという馬車へ行くことになった。


 これから、コリンズ家は、王の采配により、土地を取り上げられ爵位を没収されることは決定的で、これから、その処罰などは細かく決まっていくと思うけれど、たとえ没落したとしても、この地は、また別の貴族に宛てがわれることになるだけで、長年、圧政に苦しんでいた領民にとっては、それだけできっと救われることになるはず。


 私自身、お父様やお母様が圧政を敷いていた時は、何も出来なかったのだけが心苦しかったけど、アレクシスやサージュさんがコリンズ家の悪事を暴いてくれたお陰で、新しい領主がやって来て、これから真っ当な統治を行ってもらえるようになるのなら、本当に良かったなと思う。


 原作では、お父様もお母様も、してきたことが悪質だと判断されて、牢に入れられることになって、長い刑期をその中で過ごすことになるし、使用人達もまた同様だった。


 リュカお兄様の時もそうだったから、伯爵家にいた人間の全てが関与して虐待を行っていたことで、そちらに対する罰もかなり重いものになるだろうし、サージュさんが言ってくれていたけれど、ただ捕まって禁固刑になるだけでは済まず、これから彼等には厳しい尋問なども行われることになるだろう。


『8年間、この家で暮らしてきたけれど、終わるときは本当に一瞬で、あまりにも呆気なかったなぁ……』


 自己中心的で私利私欲に塗れていたお父様やお母様のことを思えば、この領地に住まう領民のためにも潰れた方が良いのだけは確かだったし。


 そこに何の感慨も湧き上がってくることはなく、ただその光景をぼんやりと見つめながら、バタバタと忙しく動き回っている騎士達の間を縫って、私は、再び、サージュさんに壊れ物を扱うかのように大事に抱えられたまま、アレクシスと一緒に伯爵邸の敷地内に置かれていた公爵家の馬車に乗り、丁重に保護されながら、公爵邸へと向かうことになった。




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