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第11話

しかし彼女は今ここで負けるわけにはいかないと顔で表していて、するとまた今度は同時様に背中を狙わんとその場所から後ろにいきなり瞬間移動のように早く移動していた。またもう一度彼女がよく狙う背中を狙われる。しかし、そんな分かり切っている事は手に取るように対応出来た。

すぐさま振り向くと攻撃してくる彼女が居たので、手に持っている木刀を構えながら上げる。するとその槍先は上の方向へと上がっていき、そして彼女はと言うとボディーががら空きになっていった。

すかさずその浮かせた自分の木刀をすぐに方向変換させて、彼女の元にすぐに降り下ろす。まるでその一連の動作は並外れた動きで、そして柔らかく美しかった。柔よく剛を制すという言葉があるが、ここにのっとって言うのであれば、前原悟が柔であり、槍を一本一本吐く彼女は剛と言っても差支えが無いと言っても良いだろう。そして前原悟は彼女を一刀両断・・・するわけではなかった。なぜならこんなに美麗であるし、そんな顔に傷をつける事を躊躇ったからだ。そのおかげか、彼は首の一つ手前の所で木刀を止め、そこからは動いていない。彼女にとってチャンスかに思われたが、凌雨華は静かにカランカランと木の槍を落とした。

凌雨華「負けた・・・負けたよ。降参」

負けず嫌いの彼女の顔には傷ではなく、笑顔が付いていた。彼は負けず嫌いな凌雨華さえも組み合いで、そして笑顔で負けたと言わせる程に強くなっていたのだ。

そして凌望はと言うと、どこかで娘である凌雨華の成長を見て心の中で感動して泣いている。

その間もなく、遠くで見ていた凌望が、

「止めっ!」

と声を大きく叫んで、その一騎打ちは終わったのだった。

見れば凌望は手に赤い鞘に入っている、刀身が湾曲している物で、あの時に見た刀を持っており、それを抜き出して戦うかと思ったら、それをこちらの方に渡してくる。これでトドメを刺せという事だろうか、勿論出来るわけがない。僕はその刀を返したのだった。

凌望「え?何をしているんですか!?この剣はもうあなたの物ですよ!」

一体彼が何を言っているのか分からなかった。もう自分の物?この刀が?おかしい。これはあなたの持っていたものであって僕に渡る物では無い。というかむしろ武器と言うより宝飾品のような雰囲気を醸し出しているその刀を、彼は一方的にこちらにぐいっと渡してくる。

前原「はい?」

凌望「はい。魔王に素手で挑もうというつもりなのですか?」

考えてみればそうだ。だけどもこれは明らかに頂けない。だってあの刀置台に置かれるほど重要な、そして価値の高い物なのだから流石にいただけない。

そうやって僕はためらっていると、目の前の凌望師範は半ば強引な形で両手に握らせてくる。もうこの程、まるでお腹が空いてるからと言ってたくさん食べさせてくる祖父母のようにおせっかいな物だから何かあるという事だろう。もう念のために持っておこう。

そんなことを考えていた前原悟は、柄が左にある右手でその日本刀らしき物の鞘を握る。その刀はまるで魔力のように魅力があり、そこで男の子のよく通る道みたいに抜刀したかったが、周りに当たるかもしれなかったので、そこでは我慢した。だけどその後数時間ぐらいはずっと手元に置いていたが。

凌望「もう・・・それを持って行ってください・・・!」

彼は僕をどこかもう教えることは無いと言うように、それを僕に押し付けた。

だけどどうしてもその刀を抜きたい欲求に駆られて、僕はまじまじとしていた。


~~~~~

時は先ほどとは日が暮れて、満月が南中した夜。

その月明かりに照らされる一人の青年が、上半身に何も着ずにいる。右手にはその日の昼にもらったであろう日本刀、ここで言う所の低曲湾刀を持っていて、そして彼は少し昼の時より興奮して、ワクワクしていた。そんな刀を彼は持ち替えて、左にあるシャツの所に乱雑にねじ込んで装備する。そしてまた昼の時のように、隠すように構える。いわば日本における武術、剣術にある一つの道、居合切りをするようにその刀を持ち、そこからチャキリと、ゆっくりと抜刀していこうとする。しかし、それは余りにも重くて、最初はそれを引くのにかなりの力がかかっても抜けることは無かったので、逆に鞘の方から引き抜こうとしたそのときだった。いきなり鞘と刀身の間から紫色の炎が出て、それは外に撒き散らされて周りの木々に燃え移ってしまうと思ったが、その炎は刀身の周りにだけ巻き付くようについていた。まるでヴィトが持っていた茨の巻かれた物とどこか同じような感じがしている。そして完全に抜き出して、目の前で一振り。すると周りの草木に炎が少し燃え移って、そして葉っぱが燃え始めてしまった。

前原「あ、やべ」

事の重大さに気づいたのは刀を一振りした後数秒後であった。見れば木一本まるごと燃えており、他の所に燃え移りそうでもあった。僕はすぐさま火を消すために浜へ水を汲みに行こうとしたとき、その僕の後ろから瓶を持った凌望が現れて、

凌望「力というものは火のように一極端に突出している物ではなく、多方に柔軟でならなくてはなりません。たとえばこの水のようにあらゆる形であっても・・・」

すると彼は上についていた蓋を開けて、上を叩く。するとそれと同時的に彼の下と、木の上に穴が出てきた。そして彼が瓶の口を叩いたことによって、瓶の底が破裂してその水が穴へと入っていく。そしてその穴を伝ってその燃えている木の上にある穴から水が降り注いだ。

そして凌望師範はこちらを振り向いて、

凌望「良いですか?もう私はあなたに教える事は、あなたが十分にやられていたのでもうありません。ですがあなたはまだ学ぶこと、心得る事が沢山御座います。マエハラさん、あなたはその無限にあるその道を一歩踏み出した、という事です。いいですね?」

そんな彼は僕よりも背が小さいながらも、僕よりも老いて肉体などが衰えていようとも、その刀についていた火すらも柄を触って消していた。

前原「は、はい・・・」

自分がこの島で強くなったと勘違いしていたが、やはり凌雨華を下せてもその父親である凌望師範には決して敵わないという事がこの一連の騒動で思い知らされることになった。


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