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第10話

あの後僕は鍛錬をとことんこなしていった。何も辛いのは一瞬だけで、あとはもうまるで子供の注射の後のように楽になっていた。いつしか楽しくなって、そして気楽であった。

前原「98!99!・・・ひゃ~~~く!」

腕立て伏せを100までやり切って、僕は疲れて地面に大の字になっていた。

凌雨華「はい、もう一回!」

彼女はそんな僕をもう一度奮い立たせる。けれども僕はそれにうんともすんとも言わずにもう一度、両手と両足を付けて同じ体勢になるのだった。もう彼の元に疲れと言う言葉は存在しない程に自分の信念、そして気という魔法自体が強くなっており、もう完全に過去の自分よりは強くなっていたのだろう。そうして僕は自分の動きを100数えるのだった。どうせいうなら多分経験値、いや努力値とパワーの値があるのなら上がっているのかもしれないと思うけれどもこの世界に無いので、それは話さないでおこうと決めた前原悟であった。

~~~~~

凌雨華「はい15びょ~う!!」

彼女がそう言う。それに呼応して僕も

前原「あい~す!」

その踏ん張り声、いや掛け声的な声を出す。しかし彼の心臓を見ても何も動じていない。まるでスポーツ心臓、いやそれ以上をも形容するような彼の感じがひしひしと鼓動と共に伝わってくる。

凌雨華「(姿勢も何もブレてすらいない・・・あの時、父さんと密かに会っていた時に何をしていたんだ?)」

彼女はその奇妙すぎる、恐ろしすぎる彼の成長を訝しんだ。なぜならただでさえ自分の剣術、いや槍術に負け、そして鍛錬すらも怠っていた男が一つ機転を変えただけで強くなるわけがない。

~~~~~

時として3か月、いやこのアイセラ大陸にとっては月が90回程回ったころだろうか。

鍛錬に継ぐ鍛錬に自分の腕は明らかにおおきくなって、死んでからこの世界に来る前よりも筋肉がよりついており、それでは飽き足らず腹、胸、背中の筋肉がたくましくなっていた。そのためか彼はその紫色の教祖の服が合わないので脱いで腰の所のボタンで巻いており、それらの筋肉が上半身から露わになっていた。

そしてまたもう一度、今度は凌雨華から対戦を望まれた。どうやらこれまでの体勢維持で感じていたらしい。恐ろしい程の僕の成長がおかしいから一発対戦させろというのだ。

凌雨華「信じられない、おかしい程成長しているなんて嘘だっ!!」

彼女はそう言って、槍を地面に刺して左手で平手を、右手で拳を作って拱手をする。恐らくこれが彼女にとっての一騎打ちに対する礼儀なのかもしれない、そんな彼女がやるのを見て、自分も同じように、いや右手に木刀を持ちながら拱手をしながら礼をした。

前原「対決前は必ずこうやるんだな?」

そして二人とも儀礼が終わると、それぞれ自分の得意な武器を相手に向かって構える。彼女は槍を自分より前にして、そして前原悟は凌雨華から隠すようにして。そして両者とも目が合っていた。すると、最初に踏み出したのは・・・前原悟だった。

~~~~~

「あなたはこの底に、何が見えますか?」

あの昨日言われた言葉を、そして彼に言われた言葉が呼応する。あの時見えていたのはグリッド線の境界だけではない。笑うアイツの姿が居たのだ。しかも僕の目の前に大きく現れて、こっちをニヘラとメガネを口角で上げている奴の姿が。僕はそんな奴に、そんな人を利用して自分の地位を確固たるものにする吐き気を催すような邪悪が見えていたからこそ、僕はあの場所に寸前で留まる事が出来ていたのかもしれない。そしてもう一人、魔王の悲しむ顔であった。

~~~~~

だからこそ僕は今、ここで互角に戦えるという事だ。あのまま落ちずに。

そう考えているとやっぱり彼女も攻撃に移る。僕の頭目掛けて容赦なく槍を突いて来ようとする。だけども僕は見えていた。間違いなく頭に当ててくると。そして防ぐために木刀をその木槍に添えるようにして両手で持つ。すると案の定そこにそれが当たって、おかげでカンッと木と木が打ち付ける音と、それによって摩擦で擦れる音がその直後に続いた。しかしその様子は一瞬の土埃によって外で見ている凌望には見えなくて、すると数秒後に全ての真相が見えた。

凌雨華「くっ・・・!」

凌雨華の首の横には木刀があり、今にも彼女の首を斬りそうで、そして彼女の槍は完全に前原悟を外しておりその懐の内に、前原悟は居た。一騎打ちであった。それはこの大陸において最も効率的に勝敗が決まる、効率主義な彼女が最も得意としている戦いであった。背中を突かれないようにするためには背中を守るのではなく、先に降参させてしまえばいい。彼女にこの三か月間何度も倒されるなかで一つ考えた策であった。それと一つ、魔法だ。これまでに彼女は僕が“アルファ掲示板”や、“剣術の極意”を発動しようとしたとき、いや技名を叫ぼうとしてた時に急に攻撃してきた物だから、今度は魔法を使わないで行こう、己の体力を頼りにして対抗しようとしたのだった。この三か月間、彼女にやられながらも何度も何度も挑戦する機会と、鍛錬する機会を与えられたのだ。

凌雨華「くっ~~~!!!」


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