凌望「時にマエハラさん。“アルファ掲示板”の事についてお伺いしたいのですが」
そんな質問が前から聞こえてくる。見れば凌望はこちらに振り向いていた。それは自分の能力の事についての話。
前原「まあ、答えられる範囲なら・・・」
そんな彼の質問には否応なく答える。しかし、自分もこの内容については余り分からないのだがまあ、経験値がそれを保証してくれるだろうと思って。
凌望「では聞きましょうマエハラサトルさん、その“掲示板”はいつ頃出てきましたか?」
そんな彼は一つ、最初に起きたことについて話していた。僕はその彼の優しい質問にちゃんとした答えを伝える。
前原「えっと~・・・3日前からだと・・・」
3日前。この大陸にとっては不明なる単位であった。まあABS553、所謂この世界に楯突いて僕を頼んでも居ないのに崇拝する人ならまあ分からなくもないが。
凌望「3日前?3日前というのは?」
前原「あぁすいません!僕の世界の単位でした!えっと~・・・この世界なら月が三周回る前・・・」
その身長が僕よりも小さい凌望は少し懐疑的な目線を僕に送った。多分遭難していたり、あとは何かあの場所で、教団の施設で起きたのが遅くなっていたせいで
凌望「う~ん・・・私としては月が12周回る前のような感覚でしょうかね?大陸の方から謎の波がやってきましてね・・・そしたら月がそこから3周か4周かした時に、雨華も同じような物を見たって帰ってきまして」
彼は少し笑いながらそう伝えた。しかし僕は何処か自分が嘘を言ったのか、それとも凌望は本当の事を知っているのかという雰囲気で少し動揺していた。なぜなら彼はどこか只者じゃない雰囲気で、そしてその貫禄からか何か殺されるのではないかと悪寒がしていた。これまでもそうだ。何処か凌望と言う人は謎に満ち溢れた人で凌雨華よりも大物のような感じがしていて僕にとっては堪らないのだ。そんな堪らなさから僕は“アルファ掲示板の秘密”、いや事実を証言してしまったのであった。
前原「い、いえ!あの波は僕がその・・・“アルファ掲示板”を初めて使った時に偶然出てきて、“接続しますか?”っていう所で“はい”を押したらそこから変な光が空高くあがったんですよ!でもそれで何も起こらなくて・・・」
この世界で夢のような、いや夢と言うのは大半が思い出せない物なのにこの世界で彼のやったことはなぜか明晰で鮮明に覚えている事を一つ一つ彼に教えているような感じがした。
そう言い終えるのもつかの間、彼はすごくにこやかに微笑んでおり、まるで仏のような感じが漂っていた。
凌望「そう・・・なんですか。あの波はあなたがやったと・・・」
そう彼は少し顔を少し困ったような眉をひそめて、頷く。そして両手は後ろで組んで、こちらをちらちらと見ていた。そう、僕は多分掲示板の事で十中八九弱みを彼に握られたという事だ。
凌望「まあこのことは誰にも話さないでおきましょう。その代わりとしては何ですが・・・」
しかしそんな彼は弱みを利用して、こちらになにか頼み事をしてくる。
そんな考えが始まっては過ぎ、そして僕は凌望、いや凌望師範にとある場所に連れてこられる。山頂にある森を抜けた後、どこか広い平原、いやその半分で途切れており、そしてその手前に刀置台、そしてその上に一本の鞘に収まった・・・刀が置いてあった。刀?この世界にあった事すら知らなかった。というかファンタジーの雰囲気とは的外れすぎるだろ!
僕たちはその刀に近づいて、そこでまた質問・・・かと思われたが今度はその先ほど話した弱みの頼み事のないようであった。僕はその刀置台すら超えた所で、区切れている所を見る。するとその下はグリッドで升目状に区切られており、そのグリッド線だけで底が見えない、いや底が無いのだ。その線はUnityで、平面のオブジェクトを浮かせて設置しなければ無限に落ち続けてしまう、無限落下バグのように何も無かった。僕はそれに興味津々となっており、身をかなり乗り出してそれを見続けていた。
そんな油断をしていた僕のせいなのか、いや後ろから誰か押したのか、僕は前のめりになったままそのグリッド線の底の中へと引き込まれていった。
前原「え?」
しかしそれは寸前の所で止められる。それは自分の服がつられたようになって。
凌望「私達の秘密ですよ。あなただけがそれを差し出してこちらは何もしないなんて少し不公平でありますから」
僕は彼に服から直接命を掴まされていた。信頼していた凌望に。しかし自然とそんな気がしなかった。なぜか冷静でいられるのだ。
前原「その~・・・秘密を見たのならすいません!黙っておきますかr「いえ、」」
彼の口調には動揺と言う二文字は無く、震えていた手もなぜか自然に止まっていた。この果てを見ても、そこに突き落とされる寸前の所であっても、いたって冷静であったのだ。
前原「これって?」
僕は訊く、その手を掴んでいる凌望師範に。
凌望「ふふふ・・・成果です。あなたが行った修行の」
彼はそう言うと自然にその服に絡んでいた手を放し始める。次第に僕の後ろに首を吊られているような感触が次第に、おかしい様に離れて行った。完全に物理法則を無視したそれは完全にゲームであり、そして僕は完全にマインクラフトで変に宙に浮いたブロックのようにその場で固まっていた。
凌望「マエハラさん。もう一つ質問をすることを忘れておりました。何度も何度も申し訳ありません」
「あなたはこの底に、何が見えますか?」