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第5話

彼女は机の上で一人すすり泣く。机の上にうずくまって、頭をその木にこすりつけながら涙を拭う。無力さに打ちひしがれ、魔王なのに何もできない自分を悔やんでいるのだ。

アルティノ「・・・うゎぁぁあぁぁぁあああん!!!」

その瞬間、涙腺をためていたダムが決壊してしまい、彼女は魔王と違って15歳の少女のように泣き出した。その泣き声は、少し奥にある扉に響き、そしてその扉をも超えて、とある者がそれを聞きつける、いや引き付けるのだった。

バァン!

扉が叩かれるように開き、一人のゴブリンが入って来る。その男はメガネをかけ、ニンゲンの貴族のような服を着ている、この水の泡に伏した勇者探しの旅に、彼女が無理を言ってついてきてくれたカカリだった。

カカリ「魔王様!どうしたのですか!?」

駆け込んできたカカリの目は、どこか心配そうに魔王と呼ばれる15歳の少女を見ている。どうやら偶然通りかけていた所で泣く声を聞いたようだ。

アルティノ「だって・・・!だってぇ・・・!」

彼女はカカリが入ってきているのを確認したが、泣いたままだった。手には思いっきり握りしめた手紙のナイフを机に置いて、自害するに死ねない自分の身体を嘆いて。

カカリ「魔王様、また死のうとしたんですか?」

そんな彼は何処か内情を知っているようで、彼女の元に駆け寄る。しかしそのうずくまっている魔王は何も言わずに、カカリ、そのゴブリンの肩に頭を擦りつけていた。

そう、彼女は死ねないのだ。自分自身で。その自分の呪い(ボックスコライダー)が、彼女を殺させないのだ。

アルティノ「死のうとして何が悪い・・・こんな仕事ばっかりだから死にたくなるのよ!」

彼女はその不満をゴブリンにはけ口として言う。こんなことをされたら溜まったもんじゃない。もしこれが会社ならすぐに退職届を代行業者に依頼するほどだ。しかしそうであれば簡単だろう、だがここは異世界。そして彼女は魔王、死ぬまで魔王と言う職に就かざるを得ないのである。その様子を介抱しているカカリは、その彼が持つ緑色の手を彼女の両手の上に乗せて、呪文を唱える。

カカリ「我らが癒しの精霊よ、目の前にいる魔王に集まり、癒し給え・・・!」

少し動揺していたが、それでも冷静に魔王に治癒魔法を与える。しかし、その魔法は彼女の心までは治せなかった。どうしてだろうか、この治癒魔法に直せないものは無い筈であるのに。どんなに怪我しようと、果てには死のうともすべて元に戻した。なのに魔王様の心は一向に癒えない。

カカリ「これは少々まずいですね・・・マエハラ殿に代替する勇者を探さなければ、魔王諸共ここで組織が参ってしまいますね。何とか、何とかあの方をどうにか・・・」

彼はため息交じりに呟いた。

~~~~~


時は変わって辺りが暗くなり、月が出始めた夜、僕と凌雨華はまた小屋の所へと戻っていく。そう、見るもそれは質素で彼女が継ぐにはどこか物足りないような雰囲気があった。すると、彼女は歩き際に僕にこう耳を打つ。

「私がミカラという話はしないで。したらもう一回溺れさせるから」

と、モスキート音のような声を耳の傍で鳴らした。

そう言って僕たちはヴィラの下位互換のような掘っ建て小屋の中へと入っていく。中にはろうそく、いや松明で灯された部屋がそこにあった。まるでバカンス気分・・・とまではいかないが、どこか特別な感じがしていた。二つ椅子があり、その椅子の前には僕が担ぎ込まれたテーブルがあった。その上にはこの島で捕れたであろう大きな魚を丸々一匹焼いて、その周りに何か野菜を散らしている大皿と、そして小鉢に何か・・・黒い藻のような物があった。海産物だ。僕はここ数日まともなご飯、まあ魔王城でコカトリスの肉を食べただけで、教団でも何もご飯は支給されなかったのですごく空腹で、少し涎が垂れそうになったがそれも抑える。凌雨華と凌望はその長方形のテーブルの、長い方に座っており、僕は何処に座ればいいかは分からなかった。

凌望「あぁ、これをお使ください」

そんな僕を可哀想に思ってか、凌望は立ち上がって奥から一脚の椅子を取り出してきた。僕はそこに座って、そして元居た3人と共に食卓を囲んだ。そして僕は手を合わせて少し小声で「いただきます」と言った後、すぐそばにあるスプーンを掴んでその黒い藻のような小鉢を掬って口に運ぶ。するとその途端、舌にはどこか馴染みのある味が広がった。海藻、いやしっかりした味でなにより歯ごたえの良さが際立つ。そう、その黒い物はひじきだったのだ。

前原「おいしい・・・!このひじきをどこで捕ったのですか?」

僕はそう、その黒い何かをこの世界でひじきと自分の舌で定義づける自分はどこか、奇妙な者として彼らに見られていた。二人は顔を見合わせた後、口を合わせて

「「ひじき?」」

と言った。

前原「ひじきですよこれ!ひじきっていう海藻ですよこれ!」

しかし彼らは首を傾げて、そして凌望はボケた様に口を開けていた。二人ともどうやらこれがひじきであることを知らないようだ。


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