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第4話

残された二人は何をするべきか分からず、呆然と立ち尽くす。だけども僕は何とか自分のやるべき事を考え、その着ている紫色の袖をまくってまた同じ体勢にしゃがんだ。

凌雨華「良いよ、別にそんなに父さんが見ていない間にやらなくても。それより・・・色々と聞きたいことがあるんだけど良い?」

彼女は垂れ下がっていた髪の毛を耳にかけながら、そう尋ねる。そしてこちらを覗き込むような体勢になっており、たわわに実るその果実が短い服のおかげで下にぶら下がっているのが見えた。彼女の凛とした顔は、まさしく僕が最初の村で出会ったミカラと瓜二つであった。

そんな好奇心が転じては、僕はさきほど禁忌とされていた質問に触れる。

前原「あの~・・・凌雨華さんって、「雨華でいい」雨華さんって、ハーシェルの村の騎士団の詰所に居た…ミカラさんだよね?」

そうやって彼女に聞く。すると彼女は少しため息を吐いた後にその全てを僕に話し始める。

凌雨華「ハァ…そうよ、私はミカラと言う名前で騎士団に入ってたわ。だってあの時はとにかくこの島から抜け出したかったんだから。もしそのまま凌雨華の名前を使っていたら一瞬で凌望の娘だ、仙人だなんだかんだでもう一度島に戻され兼ねなかったからね?」

そんな彼女はどこか暗そうにそれを語っている。というか、え?仙人?いきなりなんか話が飛躍しすぎじゃない?もうなんかバトル漫画でよく見るインフレ状態だよこれ。ド〇ゴンボールだよこれ?本当にもう、テンプレートみたいな、ある意味王道展開だよこれ。

前原「そう・・・だったんだ。でもどうしてここを抜け出したかったの?(ていうかそもそも仙人って何?何の仙人なんだ君は?)」

僕はそんな彼女に厚かましくもっと尋ねる。まるでデリカシーは何とやらの子供のように。

凌雨華「簡単な話。ここの後継者として後を継ぎたくなかったの」

後継者、いかにもこの島が何か継がれるべきのような、そして凌望がいかにすごいのかその言葉一つだけで分かる。そんな彼女は目の前で胡坐を組み、真ん中で頬杖を突きながら語り始める。

前原「ちょっと待ってな、大体ここの後継者として後を継ぎたくないって言うのは分かる。だってこの島は何もないからね?それは分かる、分かるよ?だけど・・・仙人って何?」

僕は何かと簡単に流されたその彼女の特異点、仙人について思わず質問してしまった、自分はその定義だとかどんなものかは知っている筈なのに。少なくともこれは何かルートを変える変数ではないと多分確信しているが。

凌雨華「え?そんな言葉も異世界には無いの?仙人っていうのは人間が神に最も近づいた結果なの。私は生まれてから仙人として、この長い、永遠の寿命を果たす事を余儀なくされたわ、ついでに死ねないってことも。何も願うどころか、努力もしてないのにね?分かる?受けざるを得ない義務を生まれてから強制的に授かった感じがして本当に嫌だわ。それとね、もうこの長く終わりが無い人生だからいっそ楽しんでみようと思って跡継ぎをしたくないの。良い?」

彼女は僕に愚痴を吐く。一方で僕は体勢を維持したまま彼女の話を聞く。もうこの体勢を直さなくていいや、リラックスしてみようと考えていた。すると彼女は話を変えて、

凌雨華「ここは蓬莱の島、人々から忘れられた島だって巷では言われてるけどね?でもマエハラサトル、良いところに流れ着いた。実はここ、それとは違った別の名前があるって知ってる?」

そのまま僕の体勢がどうとやらとは言わずそう尋ねる。

前原「うん、なんて呼ばれてる・・・んですか?死んで生まれ変わって転生したからこの世界のことなんか何にも知らなくて」

僕は何処か少し丁寧な口調で言う。そしてそれを聞いていた彼女は少しニヤリと笑って、こう自身がありそうな雰囲気で言った。

凌雨華「“挑戦の島”よ」

~~~~~

マエハラと連絡が取れなくなって早月が何回回ったことだろうか。私の机の上には数千枚に積み重なる紙の束が複数束出来上がっており、全て未記入の物だった。

アルティノ「ふぅ~~~~」

私は脱力するように、オークの分厚い皮で出来たボールに穴が開いて空気の穴が抜けるように自分の椅子の背もたれに掛かる。かれこれいつほど経ったのだろうか、先ほどの最後の一枚でやっと一束分は終わった程度なのである。

アルティノ「これだったらさすがにさっさと鍛錬させて決闘すれば良かったわね、こんな仕事なんて後のマエハラに擦り付ければ、私は死んで楽になるというのに。もう、自分で死のうかな?」

私はおもむろに手紙を切って開けるためのナイフを手に取り、それを眺める。その白銀に光る刃を取り、それによって光の反射が私を照らしている。私は目を閉じてゆっくり、ゆっくりと首元にその刃を突き付けた。

アルティノ「(大丈夫、あとは全部放り投げてもいいから・・・)」

彼女はそう願い涙の出る目で、少し澄ました顔で、これでいいんだという気持ちでその首とナイフの間に出来た少しの空間を押して自分の喉元に刺して自害しようとする。しかし、その少しの空間はどんなに力を入れても、どんなにそのナイフで首元に刺すように衝撃を加えても、それが首に達することは無かった。

アルティノ「・・・なんで。なんでッ!なんで死ねないのっ!!」

彼女は叫び、ナイフを持っている拳の後ろをトントンと平手で叩くも、それは微動だにしない。彼女は泣いていた、自分の生殺与奪すら決められないのだ。他人の手でしかないと、自分を倒すことは出来ないのだ。この仕事から抜け出すためであっても。


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