目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第2話

凌望「立てますか?」

そう彼は聞いてくる。どうやら彼らは溺れている所を救助してくれたのか、いや久しぶりのニンゲンだから珍しいのかよく分からないのだが。

どうやら僕は無事だったらしい。運がツイてるというのだろうか、それとも逃げ切ったというべきか。しっかしなぁ~、こんな島に行くとは思いもよらなかった。

僕は横になっていた机から立ち上がって、歩き始める。そこは黄色の砂が、夕陽の太陽によって輝いていたその場所は、先ほど屋根があった場所を見れば後ろは藁でこしらえたような屋根に木をそのまま壁にくっつけたような掘っ建て小屋。言うなれば南国のヴィラの下位互換のようだった。

え?多分リゾート地・・・ではないな、間違いない。

前原「え?ここって?」

僕はもう一度聞いた。

凌望「言ったでしょう?蓬莱の島だって、忘れられた島だって。まあ忘れられるものですから言わないと、ですけどねぇ」

ここは島、蓬莱と名がつく島。住人は確認するだけでただ二人。僕は首を左に何の理由もなく向けた。それは、この蓬莱の島は住人が二人だけである理由であった。見ればそこには倉庫のようなちいさな小屋があり、その周りには入りきらなかったほどの武器が置いてあった。槍に西洋剣に大剣、弓。さらにはこの世界でかなりマイナーであろう双剣や戦槌、ソードブレイカーや挙句の果てには某株価も国もイーグルダイブしてる会社のゲームのアサシンが持っていそうな物まである。もはやそれは武器庫であった。そして彼女達を見れば、どこか常人ではない、まるでこの道数十年、いや千年の雰囲気がその二人にあった。

これから魔王の下で勇者となるというのにどうしてだろうか、何かそこでは勇者とかけ離れた者になってしまうぞと、行くなら私たちを倒してから行けと、彼らがそう推しているように見える。そういえば、僕の名前を言っていなかった。いや、そう考えるのは後からでいい。むしろ彼らの名前をどこかで聞いたことあるような・・・

僕は自分の記憶に従うままに、あの“掲示板”を開く。そう、この僕が持っている唯一無二の能力である“アルファ掲示板”である。僕は彼らの目の前で右手を出し、それを出そうとした瞬間、娘の凌雨華の方がいきなりシュンッと目の前から消えた。

前原「アルファけいj」

しかし、その掲示板を出す直前に、僕は空を向いていた。先ほど横になっていたように、そして上にはその娘が僕の頭のすぐ左に、槍を地面に突き刺している事を確認した。

凌雨華「何を出そうとしていた?言え」

凌望「雨華!客人に対して何をするんだ!やめなさい!」

僕の体の上に仁王立ちになっている彼女の顔は、まるで鉄のように固く感じた。

前原「・・・」

僕は沈黙を貫いていると、また槍を左から引っこ抜いて今度は右の地面に刺す。

凌雨華「言え。3度目は無い」

そんな彼女の尋問はおおよそ2分程続いた。なぜなら僕は固まって言えなかったのである。その様子を見ていた上の者は、僕の沈黙にどこか不機嫌そうにしながら、

凌雨華「言えっ!!」

そう叫んだ。

前原「アルファ掲示板・・・」

その叫びと尋問に耐えきれなくなった僕は、その名前を告げる。そう、自分のなんとも言えない能力である。そう言った瞬間、彼らの顔に少し疑問の顔が生まれる。そして僕もだった。

凌望と凌雨華・・・どこかで聞いたことある名前だ。

~~~~~

剣の初心者“おい雨華!魔法も一つの闘い方だ!ここはひとつ相手に尊敬した態度でだな・・・あぁすいません!私の名前は凌望(りんおう)と申します。私の娘がすみません”

~~~~~

その二人の名前を、手前に出ているアルファ掲示板で見る。それは彼女たちの名前と瓜二つであった。

前原「もしかして、剣の初心者さん?いや、二人いるから“達”か」

その名前を出した瞬間、二人の顔は驚きに包まれる。そうなのだ、その名前を知っている人間はこの掲示板のみに限られる。そんなことに食いついてきたのは父親である凌望の方だった。僕の上にいる凌雨華は槍を僕に刺そうと、地面から引き抜いて振り上げていた。

凌望「待て雨華!殺すな!」

しかし、その声によって先が銀色に尖った槍は僕の目の先数センチで止まる。そして彼女の長い髪の毛も垂れ下がって来た。

凌雨華「それがどうと言うのだ・・・その掲示板とやらがどうと!名前がどうと!」

彼女はその様子に怒鳴り、そして先端の槍が震えている。怒っているのだ、自分が正しいのか負けず嫌いなのか分からないが。

凌望「違う雨華!違うんだ!・・・その~、“掲示板”の人。名を教えていただけますと幸いです」

その父親である凌望は、間違いを犯す雨華には厳しく、そして僕には謙虚な姿勢だった。そんな物がその凌望さんをさらにどこか大物、いや強者感を醸し出している。

前原「マエハラ・・・サトルです・・・」

僕はその槍に怯えつつも、自分の名前を言った。どうやらそれで理解したのか、彼女は少し不満な顔で銀色に光る槍先を上にして、僕をゴミを見るようなドン引きした目で立っていた。

凌雨華「そうか、マエハラサトルよ・・・え?マエハラサトル?もしかしてあのハーシェルの森に居た?それで皮を剥いで確かめれば良いって言ったあの?」

僕は静かに頷く。しかし、そのドン引きした目とは裏腹に、彼女はハーシェルの森、僕が転生した時の場所で僕の名前を知っていたようだった。とすると僕もどこかで凌雨華を見たことがあったのかもしれない。でも誰かに似ているとするならば、それは騎士団の詰所にいた・・・

前原「え?あ~・・・知ってる?知っていらっしゃる?ていうかあれだよね?あの・・・みかr「それ以上言ったら突き刺す。いい?」

騎士団のミカラだ、間違いなく騎士団の中で最高戦力のミカラさんではないか!でも何でこっちでは凌雨華って名乗ってるんだ?

凌望「もしかして・・・お二人さんは知り合い?もしかして・・・」

すると何か感づいて、実写版王騎将軍のように腕を組んで微笑んでいる。

僕は立ち上がると、辺りを見回して浜辺の方へと向かう。

凌望「お待ちください。どこへ向かおうというのです?まだ色々とあなたの事を知らないのに勝手にどこかへ行かれるのは少し私の島ではなるべくやらないでいただきたいのですが」

彼はそんな僕が何処へ行くのか興味津々なようだ。これから勇者になるために魔王城へ行くと伝えても分かってくれないかもだけど。とりあえず自分がどこへ行くのかを伝えておこう。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?