・・・さん!・・・
誰かの呼ぶ声がする。しかし、僕の目は真っ暗で何も見えない。
・・・すぐに・・・を!・・・
そう言う声が耳に朦朧としながら聞こえてくる。そして塩の匂いが鼻についた。どうやら海に、いや砂浜にいるようだ、砂の砂利砂利した物がズボンに入って不快感がするから。僕はゆっくりと目を開ける、だけどもそれは何とも歪んだ、ボヤけた視界で自分が何処にいるのかは分からなかった。黄色と緑が入り混じった地面、ここが常夏のバカンスだったらどれほど良かったのか、海底の教団から逃げてきたという事は覚えている、そしてABS553が拳銃を持っていたことも。しかし、その場所を知る前にまた僕の視界は暗転してしまった。
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凌望「大丈夫だ~?大丈夫だぞ~?生きれるぞ~?」
目の前で横になっている男を目の前にして、父さんはすぐさま水を瓶から汲んで飲ませる。だがしかし、それは魔法に棍棒で何も効き目がない。
凌雨華「父さん!私海で見つけたんだよ?溺れてたんだよ!?だったら水は全然逆効果だよ!」
そうやって主張した。すると、父さんは
「おぉ、そうかそうか。じゃあこれ必要ないな」
と言って水が入っている瓶を片付けた。私は思いっきり目の前で倒れている者の腹を押す。すると、口から大量の水を出した。するとそれに父さんは気づいたのか、胸に手をやる。そう、もしもの時の応急措置である心臓発起に近い物だ。父さんはその目の前にいる人の胸に手を当てて心臓と同じペースを打つことによって体を活性化させるんだ。
凌望「雨華(ユウカ)!雷魔法は出来るか?」
私を呼ぶ父さんはそう頼んでくるものの、私に出来る魔法は無い、いや剣術の極意と言う名のスキルしかない。どうすればよいのか分からくて、何も彼にはしてあげられない。私はただ首と清楚な自分の髪を横に振るだけだった。
もう何も彼女は埒が明かないと思ったのか、
凌雨華「悪く思わないでね・・・これが一番効率の良い方法だから・・・」
そう言って平手を大きく振り上げて、
バチィィンン!!
と、右頬に向かって鞭の音を鳴らす。そう、彼女は死にかけの男にとどめを刺す、いや生き返らせるようにビンタしたのだ。すると彼らの間で横になっている男は「んうぇ?」とふにゃけた様な声を出す。しかし、彼は半分目を開くだけだった。
凌望「何をする!死んだかもしれないんだぞ!?」
彼女の愚行に父親は一瞬地が崩れるほどの怒号を放つ。
しかしそれは彼が、この物語の主人公が完全に起きるきっかけでもあった。
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目が開くとそこは知らない天井で、小さな線が奥行から広がっているのがあった。まるで藁ぶきで出来た屋根のようで、そこが病院ではない、詰まる所これまでの記憶はただの幻覚ではなかったと確信した。あの時水に呑まれて死んで「あぁこれは仮死体験でした。起き上がったならさっさと仕事に入ってください」という事にはいかなかったようだ。
隣を見れば、二人が対になって立っていた。一人は髪の長い女性で、その彼女の着ている短い服装でそのスタイルを引き立てており、もう一人は少し老けた男だった。見ればそれはその髪の長い女性と目や鼻のパーツがどこか似ていて、兄妹か親縁関係を垣間見るような物があった。
「よっしゃ起きたぁ!」
その内男は歓喜してこちらを見ており、そして笑っていた。まるで赤ん坊が生まれたことを喜ぶ親のような感じがその二人にはあったのだった。もしかしたらあの時死んでもう一度転生したのかもしれない、そんな考えがよぎるほどに笑っていた。
前原「えっと、ここh「起きてるか~!?」
バチン!
しかしその笑顔から一転、横からじ~んと来る衝撃が走る。
本日2度目のその衝撃は、さっきとは違って右頬に走った。そう、今度は兄貴か父親の方である。
前原「なんで二回叩いたの・・・?」
僕は彼らの異常な行動に何で?と言わざるを得なかった。なぜなら一度起こすために頬を叩いたのなら100歩譲ってまあ分かるのだが、二回目はもう起きてるっていうのに、なんで二回ぶったんだ?親父にもぶたれたことないのに。
「あぁ!すいません、ついてっきり雨華、うちの娘のせいで死んでしまったかと思いましてね。生きていて良かった、良かったです」
そんな2回目にぶってきた親父の方は、先ほどの暴力とは違って逆に謙虚であった。
雨華「やっぱり起きた!この方が一番効率的じゃん、ねぇ父さん!」
その謙虚さとは対に立っている娘の雨華と呼ばれるその女の子は所々効率という言葉を変に使っているアホの子感があった。
「ああ、落ち着いて。焦る事はありません」
しかし、そんな彼女の主張も無視するように、その父親の方がいきなり喋りはじめる。しかもそれはどこか、ゲームで聞いたことのあるようなセリフだった。何回も落ち着いてとは言っているけどもこっちは落ち着いているんだけどなぁ・・・という思いで彼の言葉に耳を傾げた。
凌望「私の名前は凌望と申します。そしてこっちの方は凌雨華、私の娘です。あなたにお話があります、いいですか?どうか、落ち着いて。あなたは砂浜に打ち上げられていたところを、私の娘である凌雨華に担ぎ込まれてここに来た。そこまで分かりますか?」
彼はそう言って、こちらを覗き込む。
前原「あぁ~、はい!そこまでは何とか・・・」
そんな覗き込みの魔力からか、僕は半ば強制的にはいと言った。そう言った途端、色々と思いだしてくる。なぜ僕は海で溺れていて、それでここに流れ着いたのか。しかしここが何処かは知らなかった。
前原「あの~・・・ここって、どこですかね?アイセラ大陸ですか?」
僕はおそるおそるその覗き込んでいるその彼女の父親のような人に聞く。しかし、彼は首を振っていた。どうやら僕は多分精神病院にいるのだろう、今頃現世にいるのなら。
凌望「ここはアイセラ大陸から東方に位置する蓬莱の島です。まあ人々から忘れられた島だとか公では言われてますけどね?いや~人が来るなんてめったにないからねぇ雨華?ヘヘへ(笑)」
彼は笑っていて、所々その発言には謙虚さが垣間見える。どうやら優しい人なようだ、いや謙虚なのか優しいのかは定かではないが。まあ彼は手の方へと回ると、僕の手をつないで、そして腰に手をやり、
凌望「よいしょっと」
僕を半身起こした。みると僕の素足は特に砂で汚れている以外は何もなく、紫色の上下だけが映っていた。