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第10話

そんな意味深なセリフと共に、僕をその扉の中に押し込んでいった。すると、そこは大広間で、右と左に数十人どこか、もしかしたら100人を軽く超えるほどの大人数の黒いローブを着た者がそこで正座をしながら俯いていた。それらは魔人もドラゴンも人間も平等に正座している。地面にはボロ布を敷いており、それはどこか破れていたり、黄色や黒のシミがあった。まさしくそれは貧乏人や困窮者であった。

ABS553「あなたが来ていただいたおかげで、ここにいる全ての人間が救われるのです。あなたは星なのです、それ即ち救いなのです」

そんな事を言う彼、ABS553は僕を奥へ奥へと導いていく。そこにあったのは、一つの高級そうな座布団、そして周りには蚊帳のように囲むように張られた布だった。

前原「え?ここに座れってこと?」

僕はそう言うと、彼は直ぐにこう言う。しかも何か食い気味の雰囲気で。

ABS553「はい、左様でございます」

そう言ってくるので、僕は座らざるを得なかった。そしてその圧に押されて座ると、

ABS553はいきなりその大人数の方を振り向いて、

ABS553「面を挙げよ。星を追う迷子達よ、いまここに星は降臨なさった」

そう目の前に立って宣言する。すると、俯いていた黒いローブたちが一斉に顔を挙げて、こちらの方を覗いていた。すると全員「おぉぉっ!」と大きな驚きの声を揚げる。

見ると服はどこかシミが黄色く残っており、そしてどこか刺激臭程ではないが、かなり強烈なにおいがㇺワリと押し寄せた。

しかし彼らはそれすらも気にかけず、自分たちの手が千切れるほどの大きな拍手を僕に浴びせる。僕はそんな一つの集団的な狂気に笑わざるを得なかった。

「我が星よー!待っていたぞー!」

「スキィィィィィ!!!」

「お星様万歳!統一宗教万歳!」

「統一宗教万歳万歳統一宗教万歳万歳」

「この調子で神の庭園もぶっ潰すぞー!!」

「女は犯せ!男は奴隷にしろー!」

「プォォォォン!!」

「ガタンゴトン!!」

所々現代のコンプラに引っかかって表に出せなさそうな奴が数名、いや魔人も含めると数十名、というかすごい神の庭園絶対ボコボコにするタイプの過激派がいっぱい。もうこれ一歩間違えたら多分・・・魔王と人類王国、少なくともこの大陸が全部消し炭になると思うなぁ。だからまぁ神の庭園でボコボコにされたことは黙っておこう。

この世の平穏のために!(遠い目)

ABS553「どうですか?こんなにあなたのことを慕っており、そして崇拝しているのですよ?ここにあなたの居場所があるのですよ?それともう魔王討伐なんてしなくても良いのではないですか?なぜあなたがあそこに居たのかは私も理由を教えていただきたいとは言いませんが。」

彼は直ぐ目の前にまた信者達と同じように正座をして、そう語りかける。まるでその態度は、先ほどの側近のような態度とは打って変わって同じ信者としての態度であった。そして周りと同調する、いや周りの始発点としていきなり手を叩き始め、そして周りも一斉に大きく拍手をする。それはまるで全員同じくして、全員目がおかしい程に笑って、まるで笑う仮面をかぶっているようだった。

彼は直ぐ目の前にまた信者達と同じように正座をして、そう語りかける。まるでその態度は、先ほどの側近のような態度とは打って変わって同じ信者としての態度であった。そして周りと同調する、いや周りの始発点としていきなり手を叩き始め、そして周りも一斉に大きく拍手をする。それはまるで全員同じくして、全員目がおかしい程に笑って、まるで笑う仮面をかぶっているようだった。

前原「う~ん・・・」

僕が今考えている道は二つある。一つは魔王を倒して自分が新しい魔王になる事。今まで魔王なんて嫌だ嫌だと言っていたが、こんな目の前の狂気を見たらさすがに魔王を選ぶ。いや魔王を選んだ方がよほどこれらよりいい。どっちみち人類と敵対する事には変わりないけれども。よし、断って帰してもらおう!多分彼らもこっちが星だから、祝福だから分かってくれるはずだ。

前原「ことわr」

僕は断る一言を言おうとしたその瞬間、白いパネルが出てくる。見ればABS553が何かをまた送っていた。それは一本の動画であった。

前原「もう、何送ってんの?ABSさんさぁ本当にTPOわきまえないn・・・って、は?」

見るとそれは何処か見覚えのある風景から動画は始まっており、そこには椅子に座っていた自分の姿とその下には例の鶏肉、そして横には大きな例のオークであるクボウの二の腕が若干見切れているように映っていた。意外な画角で、右側からとっているのだろう。そしてその画角は固定されているというわけではなく、少し揺れていた。すると何かゴソゴソとした音と共に少し視点がずれてはっきりとこちらが真ん中に入るようになっていた。

そして何か喋っている音声も聞こえてくる。例えば魔王が喋っている内容、言うなれば僕のもう一つの道などが。そして肝心な事が漏れてしまっていた。

ABS553「よく聞こえますね。魔王になる事も、この小さい水晶玉はねぇ。遠くの声もこれを通せば聞こえてしまうのですよ」

彼はそう呟く、一つの透明な小さな玉をポケットから出して見ながら。どうやら電話(水晶)で全部盗聴されていたのだ。

前原「…」

一方で僕はと言うと、何も話さなかった。なぜなら恐らくあの時と同じように盗聴されてしまうというケースもあると、先ほどの会食会で知らずに聞かれていたのだから。

ABS553「そこで、一つ提案がございます。もしあなたがこの星の信者の教祖であり星人という降り立った神様となるのであれば、あの魔王気取りの小娘には何も致しません。しかしそれでもなるというのであれば今から魔王を幹部であり、そして内通している者に対して裏切るように仕向け、アルティノという名の小娘の生首をここに献上して差し上げましょう。これはあなたの命運であり運命です。あなたが選ぶ事で生かす事も、殺す事も出来るという事です」

まあ・・・多分魔王は別にどっちでもいいと考えるだろう。とにかく仕事がなくなるのなら良いと考えているのだから恐らく別の者を勇者にして、そして魔王と言う名の人、いや魔柱になるのだろう。言うて教祖になるのも悪くない条件だ。どうしよう、どっちを取るべきか。死を覚悟して、魔王にのし上がるべきか、それとも勇者から教祖として堕落を極めるべきか。しかし、その葛藤の中も周りの星の信者の顔は狂気に包まれていた。皆目が笑っていなくて、口角だけが上がっていたのだ。

前原「ちょ、ちょっとあの・・・3日、いや1日!1日だけ時間をくれ!いや、ください!お願いします!」

僕は土下座をして、何とか時間稼ぎをするために、時間を決めた。交渉段階一つ目だ。

その事を言うと、目の前のABS553は少し怪訝な顔をしていたが、

ABS553「えぇ?・・・う~んまあ、いいでしょう。よく考える事も大事ですからね?」

と言って恐らく承諾してくれた、と思う。

慕っているには慕っているんだけどなぁ・・・なんかこの人たちの教祖にはなりたくない感が今僕の中にある。だって皆目が死んでる、ギャグマンガ日和みたいに。

前原「まあちょっと考えてくるから、なんか・・・ベッドのほうに行ってくるわ」

僕は立ち上がって、絨毯の真ん中を歩きはじめる。すると、信者たちは度々こちらに顔を合わせて来て、僕が歩く度に身体で追っていた。そんなに崇拝する要素はこっちに何もないのに、なぜかこう謎に顔を知らない、身分やどこの出身かも知らない奴らに謎に慕われている。そんなパラソーシャルな関係はそこはかとなく形容できない気持ちの悪さがそこにあった。

僕はその気持ち悪い空間から脱出せんと、唯一ある扉から抜け出そうとする。しかし、一つだけ顔も知らない、自分を崇拝している誰かも知らない信者に一つだけ言い忘れていたことがあった。

前原「今から信者達の皆さんは風呂に入るなりして体を清潔にすること。次会うまでになんか・・・花の匂いとか漂わしておくこと!なんかいい匂いの花!」

僕はそう言って部屋を出て、すぐに走って自分が元居たところに向かっていく。以外にも近くにあったので、すぐにドアをバタンと大きな音で閉め、その先でガタガタ震えて過呼吸になっていた。


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