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第8話

前原「えっと・・・?こういう感じで良いんだっけ?」

僕はアニメで見た三節混を回すように槍を回す。しかしどうしてもそれは体の各部に当たってしまい、なんでもなくはない、ダイジョバナイほどの結構シビアな痛みが打撲として残る。

前原「もう二度と武器とかの危険物は回さないでおこう」

剣術の極意が使えないのでどうとも言えないのだが、付け焼き刃よりはマシと言っておこうか、彼の剣術は。

一方で遠くにいるクボウはというと、斧を掴んでこちらに向かってきている。もう戦いは川の瀬戸際手前までやって来たのだ。

僕も槍先をそのオークに向けて、何も準備していない臨戦態勢を取る。

すると、目の前のオークはいきなり音を消した。いや違う、その場からいなくなったのだ。

前原「?」

一瞬そのさまに動揺して、僕は辺りを見回す。恐らく相手は死角から攻撃してくるのだろう、でもそれが何処にいるのか分からない。槍先を前にして自分の身体を振り乱しながら後ろに後ずさる。

しかし、その槍の末端がつっかえるような感じが彼の手を伝って、脊椎と脳みそにその刺激が伝わる。しかしそれは脊椎にしか伝わらなく、すぐに反射神経として後ろを振り向いた。するとそのオークが立っており、そいつの手斧より小さな自分を見ていた。

僕は直ぐに攻撃しようと、その手に持っている槍を僕の頭より高い場所に突き刺そうとするものの、その瞬間に吹っ飛ばされる。その力はまるで老人が運転する車にはねられたようで、宙を舞っていた。

前原「(見た目のパワー系に反してスピード系かよ・・・体格詐欺だろあんなん)」

その圧倒的な力は、僕をもう一方の壁まで押し込み、激突させる。

グゴォォォン!

クボウ「(弱きニンゲンよ。吾輩の事をもう少し知っておれば戦わぬという選択もあっただろうに・・・)」

その槍は何処かへ飛んでいき、少なくとも手元には無かった。

壁にめり込んでいたけれども、どこかもう痛くなかった。そのためバラバラと落ちる瓦礫の中から体を動かし、その遠くにある怪物に立ち向かう。その怪物はまるでゼルダの伝説に出てくるガノンドロフの第二形態のように斧を構えており、今にも襲ってきそうなポーズをしていた。恐らく超スピードとかでまたこの僕を壁に追いやるのだろう。そう考えていたので余計負けられない戦いが今あった。

ここで出来ることは何だ?今ある自分の身長は完全に劣っている、と言うか桁違いだ。体格とかの上でのポイントは省くとして、もう一つあるのは隙を突く。いやそれしかない!

僕は真っ直ぐ走った、敢えてまっすぐ走った。隙を作らせる為だ。

目の前のクボウは今ここで斧を振り落とさんとしている。だけど僕の体はその股の下の或る者を手に取る。それは先ほど落としたであろう槍だった。

僕はそれをすぐさま地面を滑ると同時に拾い上げる。

すると斧もそれめがけて落ちてくるが、そこに彼はいなかった。

その様子を腕を組みながら見ている魔王は少しうんうんと小さく頷いた後、

アルティノ「それでこそ私を倒すにふさわしい」

感心しながらそう呟いた。

けれども、それでどうにか出来る物では無かった。その時、僕の目にはそのオークの隙、いや急所だと思われる所を見つけた。それは、膝の所にある裏ががら空きだった。いや、恐らく可動性を重視するために甲冑をそこにつけられなかったのだろう。そこに向かって槍を一突き。そこからいきなり血が出るものの、もう片方の膝の裏に向かって一突き。結局戦い方がガヴリとほぼ同じになってしまい、あまりアニメで例えると戦闘シーンとしては映えないが、結局強いんだよなぁ・・・。

目の前の大きな門はドスンと大きな音が膝から鳴り、体勢が崩れ落ちる。

相手の隙とは自分で作るものだ、そこがよくわかっていなかったからさっきは吹っ飛ばされた物だ。

そしてその怪我した足を伝い、背中を伝い、頭の方に向かう。しかしそこは角がついた甲冑で守られており、槍で刺すには無謀な物だった。

前原「(考えろ~・・・考えるんだ・・・なにか、何か魔法とかで使える物は


前原「う~ん・・・あ、そうだ!」

僕は頭の中で電球が点くのが分かった。ひらめいたのだ。恐らく剣術の極意と言うのは剣術による物理攻撃とスピードを大きくする関数であって、ただ単に自動的に攻撃する魔法じゃないんだ!

前原「剣術の極意!」

その瞬間、槍先が少しきらりと光って、その突きが次第に早くなる。まるで光のように光速に。しかし、それは一つだけではなく、何度も何度も、工事現場のドリルのように、その鎧を突き破らんと、それはその甲冑に何度も傷をつけていく。そして・・・

バリィン!

ガラスが破れるようにその鉄が破れると、その彼の茶色の頭が出てくる、そして謎に生えたモヒカン頭も。僕はそこに槍を突き落とそうとしていた。

アルティノ「そこまで!」

その大きな声が、その闘技場の中に響く。見ればいかにもその主である、王であると言わんばかりに主張する玉座からその声が聞こえてくる。それは先ほどと少し服装が違った魔王アルティノで、その称号を代表するであろう典型的なマントを肩にかけていた。むしろあれこそ魔王と形容すべき服装だったと考えられる。

その魔王と形容される少女は、少しニヤリと笑っていた。

アルティノ「やはり、私の見立ては間違っていなかったわね。精神面を除いてっていう話だけど」

そう小声で確信したように玉座から立ち上がり、パチパチパチとその階段を下りるのと同じテンポで拍手をしながら次第に近づいてくる。

アルティノ「おめでとう!これで十分実力は知れた。そうだろう?クボウ、貴様の倒す相手がどれほど強いのか」

そんな彼女は魔王らしい口調でそう言っていた。僕は何かその彼女の何かを知った、というか本性をそこで見たのだろう。いや、あの旅に出ていたのが本性で、ここでは恐らく魔王として威厳を保たなければいけないのだろう。やっぱり魔王になるのはやめておこうかな?また死ぬかもしれないし、プレッシャーとかで。

「参った!参った!」

そしてまた下から声が聞こえてくる。どうやらクボウが降参したようだ。

僕は右手で拳を作り、空高くに挙げた。勝利のポーズか?いいや違う。それは、

前原「(いや~!!この展開本当にアニメに欲しいレベル!どうせなら下から描く感じで、線画っぽくして、少しフレームレートをちょっぴりとだけ落として、僕が頭を下げた瞬間に全体像を映す感じ。いや、魚眼風に撮っても悪くないこのポーズ・・・!)」

もしこの冒険記をアニメ化した時にこのポーズで、こういう作画で出来たらいいなという自分の願望であった。

そんな自分の願望に浸っている僕を砕くように突然、DMの通知がやって来た。しかしそのUIは前に見たものと違って、前よりだいぶ進化していた。そのUIに映し出されている物をタップすると、この世界の謎の存在のうちの一つである人兼、なぜかこっちを慕っている人だった。そのハンドルネームは“ABS553”。ここ数日でよく掲示板で浮上してくる人だった。

そんなダイレクトメッセージは、

“行きます”

それ以上でもそれ以下でもない一言だけだった。

アルティノ「マエハラ!後ろ!」


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