アルティノ「なんかマエハラは変な姿勢で聞くわね・・・まあさっきの話に戻るんだけどっ・・・」
彼女は立ち上がって、机の横にある本棚に指を触れる。しかし、彼女の指の求めているものは一番上にあり、身長の低い彼女にとっては何か踏み台が必要そうな高さにあった。僕はそのまま彼女の部屋であろう書斎の中へ入って、
前原「どれが欲しいの?」
上の段に指を指して、どこにあるのかを彼女に聞く。
アルティノ「え~~っとねぇ、一番左の本の形の物を」
その要求に応え、一番左の方に指をやり、そして魚を指で釣るように引きずり出した。
前原「オッケー、これか?重い本だね、何を書いてるのこれ」
しかし、彼女はそれを良しとはしなかった。開けようとしたその時、彼女がいきなり
アルティノ「開けちゃダメ!!開けたら…」
と叫んだ。しかし、その声も虚しく僕は開いてしまった。
その瞬間本のページからいきなり眩い光が現れて、僕ではなく彼女をも包み込む。それは二人の視界を奪って行った。
いきなりの光に腰を抜かした僕はその本を開いたまま落としてしまう。
目が見えるようになると彼女は魔王城とは違う芝生の上に、そして僕の前に立っていて、仁王立ちで腕を組んでいた。
アルティノ「まったく…これは本じゃなくて魔法道具よ!勝手に開けるんじゃないわよ!本当にバカラね!!バカラバカラバカラ!」
そんな彼女は彼の事をバカマエハラ、略してバカラとトランプゲームの名前で罵る。その後ろには先ほど広げた本が落ちていた。
アルティノ「これはね、この本に書いてある言葉、そしてこの日記を書いた人の記憶から再現する魔法なの。本を開ければこの記憶を辿る事になる。幸い良かったわね、本を開けた途端にモンスターとかが現れなくて。魔王になるならこういう罠に気を付けるべきよ!飲まない!食わない!そして開けないこと!」
彼女はそのまま僕に向かって説教を続ける。しかし明らかにさっきの書斎とは違う場所で。しかし彼女は自分が僕と一緒にどこかへ飛ばされたことに何も気にかけずにいた。
そんな彼女は近くにあった本を拾い上げ、その中にある文を一番上からなぞる。すると、とある男がその森から歩いてくる。それは赤いマントに緑の上下布地を張った物と、所々金色に光る頭の飾りやペンダントを着けた一人の青年だった。両手には盾と剣を構えて二人の間を通り抜けていった。見るからにそれは魔王と呼べるような風格ではなく、逆の存在である勇者と近かった。
前原「これが魔王?」
アルティノ「そうよ、魔王」
前原「むしろなんか勇者に見え・・・って、ん?ちょっと待って。」
しかしその魔王というか勇者に近いその青年は、どこか僕が気になる点があった。その彼女の目の前に僕は出て、そして後ろにいる彼女はそのなぞる指を止める。すると周りの世界は少し暗くなり、その目の前の男が来たことで飛んで行った鳥は空中で羽が固定されるように止まった。いや、翼をはためかせてその場にとどまっているわけではなく、その場で何も動かずに、飛んでいく瞬間を撮った写真のようにそこに止まっていた。
~3か月前・前原の居たゲーム会社~
深夜の画面の中には、Blenderという3Dモデリングソフトにて一人の人形が作られていた。そう、その容姿は先ほど彼が勇者と称した男と瓜二つの物だった。
前原「えっと、これを“Hero”っと。それでこの参照ファイルをコピって・・・Unityで落としてっと。できた、恒例のT字ポーズ。まあここまでがテンプレ、ここからがテンプラ。クソ程ダルい作業だ。アニメ見ながらやるか・・・」
そう言いながらポケットからスマホを取り出し、サブスクリプションに入ってるアプリを開いて現在視聴中のアニメを選ぶ。今回はそう、“異世界転生で銃を使うのはアリですか!?”
これにしよう。ワイの高校の時のガンマニア友達イチオシの。そういやアイツ自衛隊行くどころかアメリカ軍入ったとか風のウワサで聞いたけども。
“へぇ~、これがタカシの国の89式小銃っていう武器なのね!すごぉーい!これならゴブリンにだって十分に対抗できるわ!”
驚き方テンプレートすぎん?量産型やんけ。しかも銃がニッチなんよ、わからんよ。もっとなんか有名な奴選べよ。AKとかM4とか。
“あぁタカシ様!あなたのお力をどうかお貸しください!”
“あれ?またなんか僕やっちゃいました?”
結局チヤホヤされる。なんか強いってことで。
もう何か異世界転生系に関して王道どころか飽和状態をかなり感じてるけどまあこれでいいや、あ!そうだ!“Hero”のステータスゲロ上げしておこ。とりあえず実験用に。
~~~~~
前原「これ、僕が作ったキャラクターだ」
そいつを指さして僕はそう言う。それを聞いていた彼女は、少し困惑していた。
アルティノ「え?どういうこと?あれは私の祖先にあたる人物よ?」
しかし見るからに魔族などではなく人間だ。
前原「その~・・・言うのを忘れてたんだけど、この世界はもしかしたら僕が死ぬ前に作っていた“アイセラ大陸”っていうゲームなのかもしれない。さっき見た通り僕が作ったキャラクターだ。まあ町とかはあんまり作ってないけど」
完全に話としてこんがらがっていた。僕がここにいる経緯に収拾がつかない、じゃあ僕は誰なんだ?少なくとも僕は主人公じゃないただの転生者だ。でもなぜこうなったかにも説明が付かない。
アルティノ「まあ・・・あなたがこの世界を作った神だって言う証明はどうでもいいから続けていい?」
彼女はそう言いながらその本に指を置き、またなぞり始める。
その男を見ていると、少し僕たちの先を歩いていたうえで何かが起こっていた。
後ろのマントがまるで生き物のように暴れはじめたのだ。そこには風もない、だがしかし彼のマントはまるで体に巻き付くように暴れていたのだ。そこにはくっきりと線があるのも見えていた。
アルティノ「あれはよくあることよ、記憶があいまいだと変にどこかが不自然になるから」
彼女は冷静にそう言うが、僕はあれが何か分かった。
前原「いや、あれは細分化のしなさすぎだよ。256面でやったのが間違いだった・・・もうちょい細分化しておけば、ああいう感じにはならない・・・筈」
しかし、細分化のしすぎも結構なデータが必要で、パソコンに負荷がかかるのだが。
そんな細分化をあまりやっていないマントをひらひらと靡かせる男は目の前に大きな城があった。
アルティノ「そしてあそこが魔王城・・・になるところ。今はあれより少し大きいけど、まああの時は今ほど大きな力を持ってなかったし、あの城はただのドラゴンの巣窟だったわ」
彼らはそのマントの男の後を着いてゆき、そして城の主である魔王がその事について5分で分かる今の魔王が出来るまでをダイジェストで送ってくれている。
前原「んで、これからどうなるの?」
彼女は何も言わずに、日記のページをバラバラバラとめくる。すると、周りの世界は早くなっていき、やがて僕たちもその魔王城の中へ入っていく。見ればそのマント、いやクローク男は目の前にいる、普通の人が考えるだろう四つ足のドラゴンと敵対していた。そのドラゴンはいきなり雄叫びを挙げ、彼のマントや服を後ろに靡かせる。
マント男「来いドラゴン!・・・いまここで・・・命を終わらせて・・・もういいやこれ外す!」
しかし後ろのマントが何度も靡くのでセリフが途切れ途切れになってしまい、なかなか戦いが始まらない。その男の一つのセリフで、今少し彼女の祖先であることを僕は察した。
前原「始まらないね。ていうかあれって本当に魔王?見た感じ勇者・・・「そうよ」」
アルティノ「私はある意味勇者の末裔なのかもね。もう一度言うけどあ・れ・が!魔王だからね?」
彼女はあの男を親指で指さしながら、そう強く言った。目の前にいる男は刃を光らせており、いかにもその男は目の前にいるドラゴンを狩らんと立ち向かった。赤いドラゴンもそれに負けじと炎のブレスを放つ。その勇者(魔王)は見越してかわし、龍の首回りにその剣を添えた。
前原「で、なんで魔王になったの?あの・・・君の祖先」
アルティノ「まあここら辺は全部すっ飛ばしていい内容ね。別に私だって何回も観た展開だから」