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第12話

僕はそんな怒りの声に何をするのか聞いてみる。その後ろにいるアンナはと言うと完全に弓を引ききっており、そのはち切れそうな弦の中には紫色の液体の付いた矢があった。恐らく痛みを知れ、罪を死を以て知れという事なのだろう。

しかし、その後ろで起こっていたことはそれだけではなかった。彼女の隣から誰も知らずに、緑の肌をした二人の人型がその弓を構えた女に飛びかかった。

ネチネチ「行け!マエハラ!こっちは俺がやる!さっさと行けぇ!」

そのうち一つの人型は、そうやって雷のように叫んで僕を前に行かせるように急かす。その限りにはネチネチの声だった。僕は後ろにいるその3人には気にかけず、そのままその剣が指し示す方向へと向かって走っていく。その棘のある蔓を巻き上げながら。

すると、その蔓は少し、少しずつ左の方へ傾いていく。逆流する時間のように反時計回りに。

そして完全に左を向いたときその巻き付いた足がうっすらと浮いているのが見えた。僕はすぐロボットのように足の方向を左に向けて、その森の中へと入っていく。

そしてその蔓がやがて短くなるにつれて、彼女達の全貌が月光に照らされて明らかとなる。

見ると魔王は木の下で胡坐をかきながら、そして頬杖を突きながら待っていた。一方で

アルティノ「やっと来た。っていうかもうちょっと頭狙いなさいよバカマエハラ!略してバカラ!」

偶然の奇跡により、トランプゲームの名前になってしまった。思わずそれによって吹き出してしまいそうになるが何とか堪えた。そして蔓が巻き付けられているその足の方を見ると、ヴィトが木の枝の上に布団のように垂れ下がったままじっと動いていないのだ。見るとチェストプレートには一発の弾痕、そして顔は死してなおも凛としていて、どこか華麗なる死に対する尊敬に値せざるを得なかった。でもこれあれだよな?この剣の蔓がまだあるってことはとりあえず生きてるってことの証明だよな?そして死んだらこの剣だけ残る感じだよな?

じゃあこれ生きてるってことか。でも胸に一発当てたから生命活動が停止してるはずだから死んでるはずだろう。僕はその凛とした顔と、美しき死に様に敬意をこめて、その木の近くの地面にそれを刺した。彼女の敬意を評するための名誉の墓のように。

アルティノ「もういい、行くわよ!」

その横にいる彼女は立ち上がって、尻をパンパンと土を払ったあと歩きはじめる。その靡く黒髪と一緒に。僕も彼女の後に続いて、恐らく魔王城へと暗闇と月光の森の中を歩いていく。

前原「そういえばガヴリとかは完全に逃げられたのかな?」

僕は突拍子もなくそんな事を聞いてみた。すると彼女は冷静な態度で

アルティノ「まあ大丈夫よ、なんか落ちた後すぐにこっちに来てもう一人の倒し方を教えておいたから。まあ私の護衛は強いから死なないでしょ。多分ね?ああそれとガヴリは今治療中よ。私の体内でね」

いきなり変な事を言っていた。体内?一体どういう事なんだ?もしかして彼女はドラゴンで、今は人間の形態をしているけれどもその飲み込んだ時はドラゴンだったとか?

アルティノ「あっ、体内っていうのはね私が魔法で作った体内の部屋の事。そこで回復魔法を流して治療してるの」

すげぇなポータブルICU(集中治療室)かよ。魔法ってすげぇな、本当にこっちの世界の概念壊れるわ、3次元4次元のあれこれで。

アルティノ「そういえばマエハラ、そんな事よりあなた意外と女たらしね?」

前原「ええ、何でさ?」

僕は彼女にまたまた質問をする。ここのところ僕が一方的に彼女に聞いてばっかりだなぁと思いながら。

アルティノ「だってさっき戦った人、マエハラと結婚するんだとか子供産むんだとかなんかすごいこと言ってたけど・・・」

前原「うわメンヘラだ、こわぁ」

作者自身の性癖には、メンヘラもヤンデレもドストライクである。あの愛してほしいという欲望をかなえさせてあげたいという気持ちもあるし、こちらこそよろしくと礼をして受け入れてやりたいという気持ちが無限に出てくるのである。


~~~~~

一方その頃、前原悟とアルティノが魔王城へ向かっている裏腹にてネチネチ、カカリの二人は誰にも知られないような戦いを繰り広げていた。いわゆるネチネチ、カカリペアvs.アンナ・シュトレンのエキシビションマッチである。

まず先制としてネチネチが彼女を道というリングの、外へと追い出して始まったこの戦いは、若干二人という数の優劣でペアが優勢を取っていたものの、それに負けじとアンナも弓矢を用いて彼らに隙を取られないようにしている。一本、また一本と放たれる彼女の矢は、彼らに命中するのではなく間合いを消していった。

そこで、ネチネチはとある事を考える。それはある意味捨て身の特攻に近しい物だった。

ネチネチ「いいか?俺が上に飛ばす。だからその間に魔法を撃って無力化できるか?」


カカリ「出来ます」

そう言った瞬間、確認が取れたのかネチネチはすぐに彼女の目の前まで走り、胸倉を掴んで空へ放り投げようとする。しかし上がらない、彼女がその拳に矢尻を刺して静止させているのだ。

ネチネチ「くっ…だめだ上がらん…!」

また左手で今度はその矢尻を取ると、今度は両足をそこに絡めて、地面に共々落としていった。やっていることが逆なのである。

カカリ「え?」

その目の前の状況に、カカリはただ茫然と立ち尽くしていた。だけどもアンナはその拍車にアクセルをかけるようにして、後ろに着けていたホルスターから狩猟における解体用の刃渡り15センチほどのナイフを取り出して、ネチネチを刺そうとしていた。

その刃渡りの月光が見えると、カカリの身体は動いていた。押さえつけるのではなく、魔法を繰り出す手が。

カカリ「我らが雷の精霊よ、友に脅威を与えし鉄の反射を、跳ね返させ給え!」

その瞬間、人指し指の先から稲妻が一本出て来てその持っているナイフを弾くように彼女9の手から離した。その一瞬に気を取られていた彼女は、締め技をかけているネチネチにチャンスを与えてしまった。

ネチネチ「今だぁっ!!上げるぞぉカカリ!!」

その締め技から彼女のくびれた腰を掴み、それを空中に持っていく。しかし、その力は強くして天高く彼女はネチネチによって2,3メートル程飛ばされる。それを待ってましたかと言わんばかりに、カカリの手は空に向けられていた。

カカリ「ここがいい、一番です。我らが雷の精霊よ!目の前の人間を痺れさせ給え!!」

その号令と共に轟雷が響いて、それがあの金色のオーラも無くなった彼女にビリリと当たる。その瞬間固まって、地に落ちていった。まるでこちらは制御不能で自由落下する戦闘機のように。

その下にはネチネチが居て、偶然その落ちてきた物をキャッチしたが、その後すぐに静かにゆっくりと置いた。

ネチネチ「フゥ・・・これでいいな?カカリ」

カカリ「ええ、殺生はどうにもいかなくなった時です。だから今はそれではないんです」

目のまえに横たわっている彼女を見ていた二人はその後、魔王様と前原悟に合流せんとその場を後にした。


~~~~~

“・・・ト”

誰が僕を呼ぶ声がする。どこかで聞いたことのあるような声が。

“ここには来てはいけません”

まるでこの声は、お母さん?

“まだ死ぬ時ではない”

お父さんも何で?あの時僕は守り切れなくて・・・

“生きろ”“生きて、私達の為にも、家の為にも”

もう家は無いんだ、ローズのおうちは。

“自分の為にも”

自分の為、生きる理由があったのかな?いや、確実にあった。

ヴィト「マエハラ・・・さん?」

僕がそう言いながら息を粗くして目を覚ますと、地面と空がさかさまになっていた。しかしそれ以上に彼女を不可解にさせるものがあった。

ヴィト「何で生きてるんだろう・・・?あの時死んだはずじゃなかったっけ?」

その死んだ証拠を見るために、半分顔を起きあげてみると、確かにそこには死んだ原因である一つの小さな穴があった。しかし、そうやって動いてしまったのでバランスを崩してしまい、地面に頭から転げ落ちてしまう。

ヴィト「うわああ!」

その痛みに騎士として堪えながらも、その穴を見てみると穴ではなく深く僕のチェストプレートが窪んでいた。これが僕を死から一番遠ざけて、マエハラさんに一番近づけさせたのだ。

だけどあまりにもその窪みが気になるので僕は後ろの紐を緩めて防具を取る。周りには誰も居なくて、ただ分かったのは目の前に僕の剣が茨を巻き付かせたまま地面に刺さっていることだった。彼女はそれを手に取り、とある決意をする。

ヴィト「とどめを差さないっていう事はどんなことになるか教えてあげないとね?お嬢さん。人が目を付けていたものを奪うってどういう事か」

その刃先を見ながら、リベンジを望んだ。

ヴィト「それとマエハラさん。トドメぐらいは刺しなよ、こうやってもう一回敵として出てきちゃうんだから、でも剣を突き合う付き合いもまあ、悪くはないけどね?」

そんな彼女はどこかニコリとすました笑顔で、その剣を鞘に納めた。


~~~~~

前原「そう言えば魔王城に着いた後はどうすれば良いんだっけ?」

僕は呟きながらに彼女に聞く。

アルティノ「言ったでしょ?そこで私を倒すくらいに鍛えるって」

前原「でもこういう感じのアレでいいのかねぇ。魔王城で勇者を鍛えるって何かコレジャナイ感があるけどいいのかい?」

僕は揶揄うように彼女に聞いてみる。すると彼女は笑って、何か変な事を言っていた。

アルティノ「あっはっはっはっは!面白いことを言うわねマエ・・・いやバカラ。違うわよ・・・あぁそっか説明してないんだったわ。私たちの国では戦争と炎が日常なのよ、それを踏襲したうえで魔王も君臨してるの。分かる?だから、もしあなたが魔王を倒したら、まあ今は出来ないでしょうけどあなたが次の魔王ってことになるのよ。しかもそれは死ぬまでの任期よ」

魔王の業務説明を15歳の少女から食らっている転職活動している僕はどこか複雑であった。というか魔王の職業ブラックすぎん?だから逃げた理由がよくわかったわ。というか言い直すなや・・・

前原「死ぬまで辞めれんってこと?」

アルティノ「まあ実質的にそういうことになるわね」

絶対嫌だ!過労で死んだっていうのにここでも同じ死因で死ぬのはなんか違う!せめてそれ聞くまではさっきの人たち、アンナとヴィトに連れされれれば良かった!戻ればよかった!そしてヴィトではなくアンナと結婚したかった!だってエルフ好きだもん!しかもたぬき女子要素も入ってるし!現代技術の粋を尽くしたゲームや技術で頑固な分からせたい!

アルティノ「それで、あなたはどうするの?」

彼女はそう不思議そうに聞くと、僕は少し曖昧な回答をした。

前原「うーん、出来ますん」

アルティノ「どっちなのよ!」

僕たちはそんな会話をして、魔王城へ辿る旅を再開した。

しかしその後ろでは、もう一つのどす黒い何かが蠢いていた。


~~~~~

或る一人のフラワーエルフが、その彼らの足取りを追っていた。目立たぬ服装で、そしてボロ布を被りながら。

「確認したわ、右の人間が星。名前はマエハラサトルよ」

そう言いながら、目の前の手に持っている水晶に話しかける。すると、その水晶は周波数の動きのように円を動かして、なにか、

「了解、今後の動向を深く探れ」

と言っていた。それを聞いた途端その水晶を仕舞って、すぐにその二人の追尾を始める。

「まさかあれが星とは、思いもよらないものね・・・人生というのも然りだけど」

そんな彼女はどこか不自然に笑って、彼らの後を追った。


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