ザシュッ!
その草をも抜けるほどの一本の槍は、どこか何かを探すようにして、先の辺りを見回していた。
前原「魔王、逃げるぞ?」
しかし、彼女は何も言わず固まっている。そりゃそうだろう、こんな同人誌ぐらいでしか見ない棘のある触手みたいなものなのだから見たことすらない。僕は彼女を左手で抱き上げて、何とかその場から逃げようとした。しかし彼女は15歳、そして想像よりはるかに体重が重い。
うん、多分服だなっ!!(断定)
そんな明らかな重さと、彼の日頃の運動不足の結果か、その遅い足取りは棘の付いた縄によって足を巻かれてしまった。
前原「こんどは何だよッ!こっちは触手プレイなんて性癖じゃないんだぞ!」
僕は右手に持っている剣をマチェットのように使い、その縄を何とか切ろうとするものの、しかし僕が切っていたのは下の土だった。その縄は魔法で、実体が無かったのだ。しかもよく見てみると、それは縄ではなく一本の蔓だったのだ、茨と言う名の。
前原「落ち着け~・・・もちつけ~・・・こういうのは他の木の枝を足と見て巻き付けさせればいいから・・・」
そんな足に巻きついている蔓から脱するために近くの木の枝をちぎって取り、その巻き付いている蔓と足の間にゆっくりと入れ込む。所々木々の小さな枝や節が痛かったが、そのおかげで何とか隙間が出来て、僕の足が抜ける程の隙間が何とか出来た。どうやら巻き付ける力を強めたりとかはないそうだ。おそらくこのまま行けるのならば逃げられる。僕はその残りの小枝をすべてその巻き付いている蔓に巻き込み、自分の足と同じくらいの大きさに持っていく。
僕はその間に魔王アルティノを抱えて重くなった体と、日々の運動不足でなまけた体のせいで遅くなった足取りでゆっくりと逃げて行った。
~~~~~
その光の筋を投げた彼女はそこに駆け寄り、どうにか獲物が取れたかとワクワクした思いでその剣を取りに来ていた。
ヴィト「マ〜エ〜ハ〜ラさーん♡逃げるのは良くないよ〜?」
しかしそこには誰も引っかかっていなくて、漫然とただ剣が突き刺さっていたので、彼女は不機嫌となってしまった。そしてその剣を引っ張ろうとしたその時、ある物が目に入った。その彼女の試合である魂に巻きついていた茨の蔓が、一本不自然に変な方向へと伸びているのだ。
ヴィト「そこかぁ・・・」
そんな彼女は茨で張られたその道を、巻き取りながらその行き先をじっくりと行く。その尻尾は道の傍の草むらの中にあった。
ヴィト「みぃつけた♡って違うか・・・なんか絡まったと思ったんだけどなぁ。乱雑に入れられた木の枝だけかぁ・・・さすがマエハラさん、木の枝を巻き付けるとはかなりの手練れなことだ」
彼女は何処か一本取られたと言いそうな顔で、その無数に巻き付けられた木の枝をじっくりと見ていた。
~~~~~
一方で僕こと前原悟と魔王アルティノは、二人してどこかヴィトより遠くの場所へと逃げていた。草むらと木々が繰り返しの背景を掻い潜り、二人は少し森林の中にある窪みが出来たところで一度立ち止まった。
彼女の方を見ると、どこか呼吸が早くなっており瞳孔が大きくなっていた。さきほど彼女にとっての最強魔法、いや十八番である必殺技がヴィトに通じなかったのだろう。そんな彼女は過呼吸になっていた。
前原「魔王様、大丈夫か?」
僕が声をかけるものの、彼女はそのまま過呼吸が続いていて、僕はどうすれば良いのか分からない。
アルティノ「呼吸が・・・できない・・・」
そんな声が過呼吸交じりに聞こえる。どうすれば良い?僕は苦肉紛れに彼女の手を握って、背中をさすりながら、
前原「ハイ大きく息を吸ってぇ~~~」
僕は彼女にそう言う、過呼吸を止めるために。すると、彼女は腹を大きくして息を吸い始める。多分自分のプライドと、自分の魔法が効かないことでかなりのストレスがかかったのだろう。しょうがない、魔王とは言っても15歳の少女なのだから。
僕は彼女の手を強く握って、また背中をさすりながら今度は大きな声で、
前原「ハイ大きく息を吐く~~~~!」
そう言って落ち着かせた。すると彼女は自然に気を取り戻していき、最後にはやっと僕の事やこの状況が認識できるほどになった。
アルティノ「あれ?私は何を・・・」
気を確かにした魔王は先ほどまで15歳の少女のような顔から、一気に魔王の顔へと変化していった。
前原「とりあえず逃げてきた。だけど夜だから周りが暗くてどこに行ったのか分からな「克服の丘」い・・・え?」
彼女は何処か知っていそうな口ぶりで、その辺りを見回しながらそう言った。
アルティノ「克服の丘、私の第二の故郷。小さい時によくここへ来て月に話しかけたわ。ねぇ、どうしてお前は月なのって。どうして私は月なのって」
いきなり何を口ずさむかと思えば、彼女のノスタルジー。一体何を言っているのかは僕にとっては分からなかった。
前原「何を言ってるんだ?」
僕は懐疑的な目で、顔でその目の前にいる草むらに座った少女にそう言う。だけどもその彼女は月すらありもしない虚空を眺めていた。
アルティノ「今宵は満月。反撃するならそれが私の直ぐ下に出てくるまでよ?いまは夜に書かけて曇りで隠れているでしょうけど」
彼女は立ち上がって、そして大人びた静かな顔でそう言った。
今や冷静になった彼女は一見、魔王という称号が一番似合いそうな一面があった。
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マエハラサトル“信者どもは貢ぐべしさん、ヴィトに挙げた加護の解除方法を教えてください”
僕はすぐさま敵の情報を少しでも集めようと、その加護を授けたクソやろ・・・いや持ち主に問い詰めた。そう、信者どもは貢ぐべしこと聖女セシリアだ。数分後、その本人からメールが来た。
信者どもは貢ぐべし“いえない”
しかし、彼女はその4文字のレスをするだけで、他にはなにも返って来ない。
マエハラサトル“質問が悪かったです。加護はどうやったら無くなるかを教えてください”
なので自分に非があると感じたので、今度は質問を変えてみて聞いてみる。
信者どもは貢ぐべし“そらをとぶ。あのかごはじめんからでてるまほうをすいあげている。かごをなくすには”
しかし、返ってきたことはポケモンのウィンドウメッセージのコマンドだった。いや、どうすりゃいいんだこれ?空を飛ぶっていっても飛べるわけがない。飛行機でも作って飛ばすべきか?いや、それとも・・・
~~~~~
僕はいつの間にか開いていた掲示板を閉じて彼女の方を見ながら、
前原「なぁアルティノ。空って飛べるか?」
そう言った。すると彼女は、
アルティノ「まあ・・・飛べるけど?っていうか、魔王って呼びなさいよ!あの時も言ったでしょ!」
と言いながら、後ろにある翼を見せた。それはまるでコウモリの羽のようで、そして彼女を包み込むほどの大きさであった。
アルティノ「それで、あなたも逃げろって言うの?魔王だから?」
しかし、彼女はそうどこかで言われたような事を僕は言うんじゃないかと言っていた。
前原「いや、そう言うわけじゃなくって・・・」
僕はその逃げる事を勧めるのを完全に否定して、首を横に振ってその意図を伝える。すると彼女はいきなり理解したように少し口をニヤリとして、
アルティノ「そういう事ね・・・!」
と、僕が言うまでも無く彼女は頷きながらそう言った。すると、いきなり僕に拳を突き出す。どうやらパンチするという意図は無いようだが、何を意味するのは分からなかった。だけど魔王はその拳を「んっ!」と言う感じにお前も合わせろというように顎をくいっとまえに出した。やっと意味を理解した僕は同じように拳を前に突き出して彼女のそれと合わせる。少女ながら小さな手は、僕の手よりもどこか大きく感じた。
「共同作戦、開始よッ!!!」
そんな彼女が号令を起こし、互いにそれぞれが出来る最大の準備を今からし始める。
僕は掲示板を開き、何か大物たちの生き残るための戦略は無いかと情報を集める。
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マエハラサトル“今から魔王よりなんか強いヤツとワイは戦ってくるで!とりまアップロードしてくれたヤツ使っていくんやで!ありがとなおまいら、ワイの生命がこれで延長するで!”
そんな某チャンネルの大航海時代の入植者ことやきう民特有の似非関西弁を駆使して、何とか有力な情報が無いかをざっと確認する。
アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限“あっ、頑張ってください!えっと~・・・先ほどの文章を見る限り加護ですね。加護を解くにはその種類によって解く方法があるのです。
でも解く方法は・・・たしかそらをとぶでしたっけ?少なくとも魔法学園では見たことのない解除方法ですね。おそらく神の庭園の方がよく知ってると思います。“
信者どもは貢ぐべし“まほうをじめんからきゅうしゅうしてちからをむげんにだしてかごをつくっている。そらへとばしてこうげきすればかごはなくなる。いちどこうげきされたら、わたしがもういちどとなえないかぎりもどらない”
けれども、他のユーザーが気になったようなので、そのひらがな長文で全部説明してくれた。
マエハラサトル“サンガツ!とりあえず変換したいときは下の真ん中にある盤を押すんやで!”
多分困っていそうなひらがな文だったのでとりあえずスペースバーで変換できることを教えておいた、加護の解除方法の代わりに。
信者どもは貢ぐべし“分かった。こういう感じ?”
すると彼女は直ぐにそれを示したように、すぐ感じの入った文で返してきた。
マエハラサトル“まあとりあえず頑張ってくるで!なるべく生きて帰る事キボンヌ”
僕はそうタイプした後、その掲示板の画面を指でスクロールして、投稿した人たち(大物)のアーカイブを見て、そこからダウンロードしようとする。
まずは一番新しいダウンロード欄にあった剣術の極意、剣の初心者から出された魔法なのか分からないものだが。
前原「剣術の極意?え、これって魔法なの?」
僕は少しその名前に戸惑った。魔法だったら何か呪いとか寒波とか元素とスピリチュアルを掛け合わせたような物ばっかりだと思っていたので、その剣術の極意が魔法に値するのかは分からなかった。えっと・・・確かなんか武神のなんちゃらとか持ってる奴いたけどそれとどこが違うのかは分からない。
アルティノ「一応魔法よ。剣術に特化したものだけど」
しかしこの世界の魔王である彼女はそんな事もまるでアカシックレコードを手に入れた様にすぐに答えてしまう。
前原「そっか、じゃあこれもこの中に入れておこうかな」