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第9話

そうやって嘶き立ち上がった瞬間、すぐに方向を変えて走り出した。僕はと言うと手綱を両手で握ったままバランスを保つのに必死だった。

前原「ほらどいたどいたー!!轢かれたくなきゃあなぁ!」

そんな張り上げるのにも限界な程の大声で言った。そんなものだからどんどん地面にいるフラワーエルフやオーク、そいつらが道を開けていった。以外にももの聞きがいいというか、何か素直というかの魔物たち。どこかで人伝いに聞いた話とは違うようだった。

そんな風に感じていると、どこかで見たような顔ぶれ二人が目の前に立っていた。

そう、ヴィトとアンナである。しかし、そんな彼女達は僕と目が合うだけで、ただそこに突っ立っていた。ただ僕の顔をじっと見ながら、その馬に揺られている僕の様子をただ顔を合わせて追いかけるだけだった。

前原「追いかけてこないよな?追いかけてこないと思いたい」

そうやって後ろを振り向くと、そこに二人はいなくて、ああ僕はやっと追いかけられずに済むんだなと思った。もう魔王を倒して魔王になるだけだ、僕の目的は。どうしようかなぁ~ここはあえて諜報戦とか繰り広げさせてみようかな。

ヴィト「本当にそうだったかな?」

そんな声が後ろ、いや下から聞こえてくる。僕はすぐさま振り向くと、真後ろにヴィト・ローズが乗っていた。僕は思わず動揺して、うわぁっと大きな声を挙げる。すると後ろにいたヴィトは急に僕の服の後ろを掴んでその馬から飛び降りた。僕も服を引っ張られて同時に下ろされる。

ヴィト「答えて。なんであの時僕たちを置いて行った?」

そんな彼女はどこか怒ったような顔で、いや怒っていたというよりどこか変に笑顔で、そして左にある剣を抜き出して、僕の顔のすぐ横に突き立てている。

前原「えっと~・・・」

僕は少し返答にどもって、だけど彼女はその様子にさらに追い立てるように剣を首の少し横にもう一度突き刺した。どうやらもうこれは質問ではなく尋問になっているのだ。

ヴィト「答えて?」

そんな彼女の凛として怒った顔とハイライトの無い目、垂れ下がった短い髪の毛が僕の顔に当たっている。僕の顔の上に乗って。

どうしよう、ここで全部話して理解してもらうか?いやでもここで話したら逆に目の前にいる男なのか女なのか分からない人に連れ去られて全部パァになってしまう。しかし、ここでとある考えが頭をよぎる。

でも待てよ?僕は魔王様にとってなんだ?魔王を倒す勇者か?いや、でもそれは他の人が代わりにやってくれるだろうし、じゃあ僕は魔王にとってどんな存在なんだ?ただの人間である身分でありながら手下じゃないか。

じゃあもうここで全部話そうかな?彼女が魔王である事と、僕はそれを倒す勇者であるという事。

前原「僕は・・・魔王様のてしt「それ以上言わないで」

そうやって言おうとした瞬間、上に乗っていたヴィト・ローズ、彼女が居なくなっていた。横に見ると、彼女の上に立っていたのは魔王、アルティノだった。

前原「な、なんで!?なんでここが分かったの?」

その立っている彼女に驚きながら聞く。すると、すましたような顔で

アルティノ「簡単よ」

と言って、どうやってやって来たのかを一から説明してくれる。それを元に想像した動画が、頭の中で流れ始めた。

~~~~~

まず私は逃げるふりをしてさっき掲示板で出てきた透明化の魔法で行方を眩ましていたわ。そして部下が一人やられているのに気がついて、とりあえずカカリが今目の前で回復させている。

カカリ「とりあえず魔王様でもいいですから早くお逃げくださ「その必要はないわ」

私は部下、というか護衛の推奨を拒否したわ。だって本丸の将軍が逃げたらこの状況の収拾がつかないもの。

カカリ「あれは魔王様ですら敵いませんよ!?逃げた方が良いです!先ほど私の掛けているメガネで確認したところ、ステータスいわば特性がこの大陸で最高であるあなたを上回っているんです!魔力の級が1ではなく0だったんですよ!しかも魔族による攻撃は物理攻撃以外一切効きませんし、挙句の果てにその相手の知力、体力が大きければ大きい程、その同程度・・・いやそれ以上の力を追加で有するという魔法まで付いていたんですよ!?あれに勝てるわけ・・・っていない!魔王様!ダメですよ行っては!絶対ですよ!」

私はそんなカカリのあのヘンテコマエハラブラ部騎士の分析など聞かずに背中にある龍の証、ドラゴンの翼を広げて、真上に空高く飛びあがって、マエハラがどこにいるか見回した。その4階のホテルよりもはるかに高く、見通しの良い空中で、私を倒す勇者を探し回ったわ。すると何か教団側に間違えて走っているおバカさんがいて、まあ教団側なのだから今頃あっちから追手なり捜索なり来ると分かっていたけどそれでこっちに引き返したかと思ったら急に馬に乗り始めたわよ。まったく、後で持ち主に返しなさいよ?だれかから借りたものなんだから。

それでまあその馬が行く先を見てみるとあの二人が立っていたわね。まあ前回のあの人達とはどこか違っていて、何か変なオーラを纏っていたけど、あとでカカリにメガネを貸してもらってみてみるかしらね。あのオーラの色からして恐らく私の一番苦手ななんか神聖な奴・・・そうだ!雷電系魔法の一つの聖光系の魔法よ!唯一私達魔族が苦手とする魔法の属性・・・と言っておいた方が良いかしら。

彼女はすぐさまマッハを超えるアメリカ製の戦闘機のように直滑降で、その場所へと向かう。そして、足を前に付き出し、空Nのような姿勢で、そして鋭い角度で突撃していった。


~~~~~


アルティノ「っというわけよ!」

そんな彼女はドヤ顔でサムズアップしながらこっちを向いてくる。僕はというと地面に寝転がったまま、

前原「ごめん、分からん」

そう受け答えする事しかできなかった。

そんな彼女は僕の否応、理解不理解関係なく、いやそれをも言わずに彼女は振り向いてあのヴィト・ローズの方へと立ち向かう。その背中はまるで15歳とは思えない程だった。

むしろ彼女こそがこの物語る主の一人であると考えられるだろう。

ヴィト「痛いねぇ・・・誰だい?僕とマエハラさんの水入らずな空間に水を差すとはっ!!」

そんな彼女はまた髪の毛を白くして、またあの技を繰り出そうとしてくる。そして、胸の辺りに手で空洞の三角を作り、そして前に突き出す。そう、彼女の十八番である技だ。

アルティノ「我の血に引き継がれし古代龍よ!その大いなる力を!我が息吹で放ち給え!!」

そう言って完全に白くなった髪の毛と、血のように赤く染まった眼を以て、そしてその龍をも、猛き者すらも食らったその口から出す、そのすべてを焼き尽くす黒炎を放った。

そこから出てくる炎は、周りの草木を燃やし、目の前にいる彼女すらもその黒き炎で包む。

それは数秒間続いた、だがその後すぐに、それはいきなり止まった。見ると一本の腕、五本の指が彼女の手を掴んでいたのだ。

ヴィト「熱いけどさ・・・熱いけどもまったく火傷の痕すらもこの身体には一つも傷すら付かないよ?」

そんな言葉がまさかの炎の中から聞こえてきた。思わず彼女は黒炎を浴びせ続ける事を辞めてしまい、彼女に立ち上がらせることを許してしまった。

するとその目の前にいるヴィトは、先ほど魔王アルティノがしていたあの空洞の三角形を作り、そして同じように前に突き出して、魔王と同じような呪文を唱えようとしていた。

ヴィト「我の血に引き継がれし古代りゅ「させるかぁっ!!」

僕はただ見ているだけではなく、すぐに立ち上がって腰に差してあった剣を使って彼女に切りかかる。

前原「じゃあこっちはどうだ‼ヴィト!」

その声で、そのド三流の剣の術にもなってすらないただの振りで彼女に挑む。だけどそれは彼女の繰り出す洗練された騎士の剣術によって、いとも赤子の手をひねるように簡単に跳ね返されてしまった。彼女は元騎士であるがそれ以上に加護があって、僕はおろか魔王ですら敵わないのだ。

ヴィト「だから何度も言っているでしょ?この体には傷どころかその持っている剣を僕の身体に当てる事すらできないんだ。勿論君が一緒に来てくれるんだったら君だけ僕を傷物にしてもいいけどね?♡あの時の君の顔、君のその性格が僕をここに来させるまで狂わせたんだよ?だから、責任取ってもらわないとね♡君はさ、僕の身体を見て容姿端麗だとか髪を伸ばしたらドレスが似合いそうな女性って思ってたでしょ?」

そんな彼女は何処かニヤリとしていて、またこうも言っていた。

ヴィト「でもそれでいい、それでいいんだよ?君を守れるのだから、愛せるのだから♡目の目にいるお嬢ちゃんから色々とたかられて、追い剥ぎをされたんでしょ?」

愛を叫ぶ彼女は、どこか勘違いしていた。まるで何か決めつけるような言いぐさで、そしてどこか心配するような顔で。

そしてまた彼女は、その彼女の足丈近くある程の長い剣を上げ、またあの剣を投擲しようとしていた。彼女は少し、いや少しと言っても加護の影響によってかなり遠くの距離に引き下がった。

ヴィト「ローズ家バラ流剣術。道は茨のように、姿は薔薇のように。掴んでみなさいその茨を。耐えてみなさいその痛みをっ!!」

彼女は遠くの所で何かを呟いていた。だけどそれは何を言っているのか分からなかった。すると、彼女は左足の一歩で地面を強く踏みつけ、その反動で体を一回転させた後、一本の光る筋が投げられる。それは彼女の剣、騎士にとっては魂のようなものだった。そんなものをなげうつ彼女に恐れて、足がすくんで動かない。だけどそれ以上なものは、それが魔王アルティノへと向かっている事だった。

前原「まずい!(いやでも・・・結果的にはまずくないか。倒されるのと同じだから助けなくても・・・)」

僕は彼女の方に飛びかかって避けるように道の外れへと僕共々突き出すとその一本の光る筋はそのまま真っ直ぐに、彼女のいた場所に突き刺さる。しかし、その一本の剣には何かうねうねとしたものが巻き付いていた。それは鞭のような、棘のある痛そうな縄が付いていた。

前原「えぇ!?ありゃなんだ?変に巻き付いているものは・・・棘?」

頭にはてなマークが漫然と浮かびあがる。あれは何なのかと懐疑的な目で、草むらの中から見る。生い茂ったあの漫然とした草の匂いが、あの棘が付いて巻かれたものをさらに困惑させるものにした。

しかし次の瞬間、その棘の付いた緑色のその縄がこちらを振り向き、一直線でこちらの方へと高スピードで突っ込んでくる。まるで生き物のように。


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