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第7話

ガヴリ「早く・・・早く魔王様の元へ・・・!」

その様子から逃げたガヴリは、四肢をどうにか動かしてその路地裏から逃げた、あの一度振り向いた隙に。しかし、その四肢の短さのおかげか、はたまたその大きなお腹のせいなのかその走る速さは通常の人より少しだけ遅かった。まるで相撲取りが東京の住宅街を走り込むように。何とか、ホテルの目の前までに来たものの、逆にその足取りが遅いせいか、連れてきてしまった。ひゅうひゅうと鳴るその息継ぎでおびき寄せて、ホテルの裏まで連れてきてしまったのだ。

ヴィト「へぇ~・・・ここだねぇ?一番上だよねぇ!!」

それを見つけた途端、まるで水を得た魚のように叫ぶその様子はもうイケメン女騎士の面影すらなかった。もはや何かに対する欲求、追求が彼女を突き動かしていた。もう脱獄犯に対して連れ戻すという事すら忘れているようだ。

ヴィト「ねぇ、マエハラさんに何やった?追い剥ぎ?辱め?それとも街中引き回し?」

そんな言葉が全自動高速矢射ち機のようにそのデカブツのおデブに圧し掛かる。そんな追い込まれるように息が上がるゴブリンは、体中の汗が地面に垂れてその周りが湿っていたり、目の瞳孔が揺れてもいた。

ヴィト「なにをした?」

そんな恐怖をさせる質問がさらにやって来る。まるで彼女の目は何処か黒くなっておりハイライトが無く、そして表情はその麗しい顔が崩れる程怒りに満ちていた。

彼女は左手でその首根を掴み、そして右手でその剣の柄を握って刃先を露わにしてその首根を掴んでいる先に向かって突き立てる。まるで目の前で子犬を殺され、69年式の車を盗まれ、その復讐で息子と父親(ロシアンマフィアを)共々消しかかるジョンさんのように、北米版お前あの祠壊したんかのように。

ヴィト「最後に聞くよ?仲間はどれだけいる?それぞれの体力と知力は?一匹は知っているよ?あの格闘系の子。それとマエハラさんをどこにやったか答えて?」

そんな言葉がヴィトの口からガヴリの耳に伝わっていく。脅しているように言うその口調は、その目の前にいるゴブリンを怖がらせるのには十分の圧力だった。

ガヴリ「…だ」

その圧力で声が押し殺される中、ガヴリは何とか、何か言おうとしていた。

ヴィト「ん?何ていった?」

そんなヴィトは更に首根を掴む力を強めて、そう強迫する。そんな彼女の剣を握る力は食いしばって震えており、今にも突き刺しそうだった。しかし、剣の先から血がたらりと一筋の道を作る。見るとその剣はすでに傷のあった胸に突き刺しかかっており、それはやがて深く、深く心臓へとまっしぐらで、前原悟がそのゴブリンに残した古傷をさらに抉って拡張していく物だった。しかし、そのまま心臓まで突き刺すことはせず、そのままゆっくりと抜いて、拷問するように確かめる。もはや騎士道と離れたそのやり方は、暴虐の魔王に並べられる程だった。そして、そのガヴリと呼ばれる者はやがて地面に倒れるように、壁に寄りかかっていく。

ガヴリ「死んだ。ハーシェル近くの森で、別れる前に」

そんな半分嘘で半分本当のデタラメに踊らされる彼女は、少し困惑した顔を見せた。

じゃああの後死んだのか?いや、僕が見ていたのはマエハラさん本人だ。じゃあいつ死んだ?あの酒場で見たのは亡霊だったの?

そんな誰かを守るための嘘八百が流れ、さらに困惑させる。しかし、その真実かウソかを決めるその剣はすべて抜けきって、完全にその体には無かった。その緊張が解けたおかげか、その恐怖によって震えあがった息のおかげか、そのガヴリと呼ばれるゴブリンは壁に背中で這いつくばるように倒れこんだ。その目の前にいるヴィトを残して。

ヴィト「とりあえず、どこで死んだのかは後で聞く」

そんな彼女は何処か、剣を投げる体勢を取っていた。剣をサッカーのスローインのように振り掲げ、若干後ろに下がった後、上を見上げる。そこには最上階のスイートがあり、若干一つや二つの頭が見えた。あそこだ。

そう確信した時にはすでにそれは手から離れており、ヒュンヒュンと空に飛んでいく。

ヒュンヒュンヒュン

それは音を立てて、高く高く、その4階にある部屋のすぐ近くにまで来ていた。


~~~~~


信者どもは貢ぐべし“まえはらさんまずい。ヴィトというひととアンナというエルフがおいかけてきている。”

そのアルファ掲示板から、信者どもは貢べし、いわゆる聖女セシリアのハンドルネームでそんな文が送られてきた。どこか急いでいるようには感じられなかったが。

前原「追いかけて来ている?あの二人が?冗談じゃない?あの時眩ますように逃げたんだから足跡は分かってないはず」

その文に若干の疑いがあったが、それはその直後に確信へと変わる。

ガッシャーン!!

そのガラスが砕ける音と、何かが突き刺さる左から聞こえてきた。僕たちはすぐさまその左に撃ち放たれたものを見る、掲示板を閉じて。見ると一本の剣が壁に突き刺さっていた。

前原「え?」

僕はその剣を見るために近寄ろうとするが、それは後ろにいるとある声によって引き留められた。

アルティノ「触らないで!毒が付けられているかもしれないわ!」

そんな魔王が一人叫ぶ。恐らく彼女の勘、いや魔王として生きる術だろう。触らず飲まず食べずの戦略で暗殺を免れてきたことだから、そう叫んだのだろう。しかし、その剣は何処か見覚えのある物だった。

前原「多分逃げた方が良い。ヤバくない?」

ヴィトの腰にかかっていた剣だ。僕はすぐに後ろへ後ずさる。その時、割れた窓の方から4つの爪がその下縁から出ていた。

「よっこらしょっと」

そんな声と共に、4つの爪の持ち主が姿を現す。それは正真正銘、僕をずっと追いかけてきた、そして聖女から警告をされた時に出ていた、そのヴィト・ローズだった。ここ四階だぞ?最上階だぞ?しかもどこの部屋か言ってないのになんで分かったんだ!?まるでバトル系のアニメのように驚いた。しかもその彼女は何か、黄金というか、それと白が混ざり合ったような外套、いやオーラを纏っていた。そしてヴィトは壁に刺さった剣を引き抜くと、

ヴィト「やあ、来ちゃった♡」

そんな彼女はニコニコと笑いながら言った。どこか恐怖さえも感じた、まるで亜人の佐藤というラスボスのようなサイコパスというか、このゲームを楽しんでいるかのような狂気さがそこにあった。しかし、僕を確認するや否や彼女は一番に、安堵した顔でこう言った。

ヴィト「やっぱり死んでないじゃん、良かったマエハラさん、大丈夫?何もされてない?」

まるで子どもに話しかけるような口調の彼女は、“恐怖”と“冷血”を混ぜ合わせて擬人化したものだった。

ヴィト「一個取引してもいい?僕はマエハラさんが欲しいんだ。解放してくれるんだったらその魔物である君たちに危害は加えない、君たちはそのまま冒険を続けてもらって構わないよ?ねぇマエハラさん、僕は君が好きなんだ。ああ、僕を女の子として見るその目が!僕を女の子として扱ってくれるその性格が!騎士団や僕のお家では出会う事すらなかったその新たな体験が!男の子として育てられて、騎士として訓練させられた僕を女の子にしてくれたんだ!それに感謝を込めて、“私”を授けるよ。どうか・・・どうか誰も知らない場所で、二人でずっと暮らそうじゃないか♡だってマエハラさん、君は僕のことが好きなんだろう?相思相愛なんだろう?だってあの時態度で示してくれたじゃないか。これまで男扱いされた僕を唯一女として見てくれたんだ!絶対僕の事が好きなんだよ!」

~勇者会の酒場・数時間前~

あの時見ていた目、僕を舐め回すように見て女の子だって確認したよね?あの時あの酒場で。その時から僕は思ったんだ、君は本当の私を見てくれているのかもしれない、愛する事が出来るのかもしれないって。他の人たちに聞いたけど皆が断っちゃった。だって僕みたいな男みたいな女、そりゃあ女として見られないからね?しかもそれを言ってきた人たち、特に騎士団の仲間は皆、僕を恐れて逆に寄り付かなくなっちゃったのだから。

前原「違う!僕は宗教家なんかじゃない!!」

でも君がいた、困ってる君はどうにかしてその偏見を払拭しようとしていた。反抗していた、僕と違って。僕が出来なかったことが君に出来たんだ!その好奇心が好きに変わるまでには多大な時間を要さなかった。私の憧れの存在が今!この目の前で出てきたんだ!もはやそれは崇拝する対象だった。彼の元にいたい、結婚したい、ずっとあの人の元で彼を拝んで暮らしたい!それと転生してきたって言っていたから彼に色々と私が教えてあげたい、この世界の事、僕の事、共に生きる事を全部全部。

そうするためにはまず君に会わないといけなかったんだ?


~~~~~


そんなヤンデレでキモイ告白を聞いているわけでもなく、僕はどうにかしてこの場所から魔王と抜け出すか、そしてどうにかして目の前にいるヴィトにもう来ないでくれと説得するか考えていた。

カカリ「我らが雷電の精霊よ、我が手と指の先に集まり、その眩ますほどの眩しさを宿し給え!!」

しかしその考えを打ち破るように、横から一つの光が彼女にあたる。閃光手りゅう弾のように光るそれは、彼女の視界を数秒だけ、たった数秒だけ奪った。その数秒間、僕と魔王とゴブリン達は走って部屋の外に出ていく。

カカリ「まずいです!彼女の・・・ステータスは・・・魔王でも勝てません・・・」

それを起こしたカカリは、どこか気づいたような顔で僕と一緒に走っている。所々聞こえなかったが、どうやらステータスが見えるメガネで何かヤバい物を見たんだろう。

前原「え、ステータスが何て?」

そのカカリと言う名のゴブリンは、緑色の肌が青ざめるほどに恐怖していた。そして逃げるだけに集中していた。そんな追いかけてきているだろうと思われるヴィトはと言うと、後ろから足を高速で動かしてこちらに迫ってきているではないか。

そんな彼女はどこか怒ったような顔でいて、もはや般若だった。

そんな彼女は叫んでいて、それと同時に剣を振り回して周りの物を破壊していた。ちょっと待て、弁償するのどっちだ?こっちじゃないぞ?ヴィトの方だぞ?っていうかステータスがってことは何か・・・ヤバいんじゃないか?あの時(ステータスが)スケスケメガネを着けて置けばよかった。

そんな想像もつかない彼女は、今後ろで剣を振り回しながらこちらに迫ってきている。そんな中、残りのゴブリン二人がいないことに気づいた。





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