人の往来が激しいその街の大通り、人やらドラゴンやらゴブリンやらフラワーエルフやらが行っては来てを繰り返すその通りでただ一人、緑の肌に見合わぬ大きな腹を持ち、そして大きな体格を持ったゴブリンが道の右傍で立っていた。彼はどこか左右を見渡しており、敵になるものはいるかと観察していた。しかし、見ればどこにも敵対するものはいない。ただ露店の店主の鳴り響くたたき売りの音と、ワイワイガヤガヤした人だかりの声がただ響いていた。しかし、それが途端に遠い方から次第に止んでいく。そして皆その止んでいった方向に段々と顔を向けていく。え?何あれ?だとか、血?だとかの反応を浮かべながら、指を指しながらそう細々と呟いていた。
おでもその方へと釣られて見る。そこには顔や体に血を浴びながら、あの時の襲撃者が立っていた。そして彼女は目の前を歩き始めれば、周りにいる通行人は勝手に道を開けていく。自分は被害に遭いたくない、ヤバイ奴だと察しながら。
おではその襲撃者が来たという事を報告するために立っていた道路の傍から、建物と建物の間に溶け込んでいく。そのおでの大きな体がすっぽりと収まるほどの幅の中に入ってその魔王様の居るところへと向かう。
ガヴリ「まずい・・・奴が来た!」
そんな言葉が口から洩れて、だけどもその魔王様に危機であることを伝えるために向かった。
ガヴリ「真っ先に伝えておかないと・・・やられる!魔王様!マエハラ!全員!マズイ!」
そんな事を口走っていたものだから、災いの元になってしまったのだ。その体格からか小走りで行くデブリンの裏に、災いが潜んでいたのだ。
ヴィト「ねぇねぇその大きいからだのゴブリンさん。今なんて言ったか教えてくださるかい?」
それはまるで童話のように、甘い声が後ろから話しかけられる。しかし、その甘いマスクの口調とは反して中身は残虐な物だった。神をも超える程の加護を受けた人間は残酷になり、そしてひとたび選択を誤れば大きな損害へと変わっていく。今はその転換点に立っているのだった。誤魔化そうとするが、その誤魔化しも効かない程の恐怖をガヴリは味わう事になる。
そんな彼女は何処か怒りがこみあげていた。まるで、何か自分が彼の幼馴染だ、恋人だというように、僕が一番知っているからその名前を騙るんじゃねえクソデブ野郎と言いたそうなほどの怒りをそのガヴリにぶちまけそうな程だった。
そんな彼女のニヘラとした顔と、追い詰める恐怖の目が今そこで交差し合った。そして左にある剣の柄を掴んで、そのゴブリンに二度目の心臓へ突き刺さんとしている。
その目標となっているゴブリンは顔から汗が出始めて、体は勝手に震え始めている。手汗がその手には滲んでおり、どこか気持ち悪いような感じであった。しかしその理由を聞かずに、今そこにある恐怖はどんなに図体がでかい奴でも子犬に思えてしまうほど低い声で何か言っている。
ヴィト「動くなよ?」
その後ろにいる声は怒り狂っている魔王様よりも冷酷な恐怖を感じた。魔王様がどんなものでも焼き尽くす炎だったら、この後ろにいる襲撃者は凍てつくような氷の声をしていた。
そのおかげか、おでの足は竦んで動けない。その氷の声で足が凍って動けないのだ。
ガヴリ「・・・」
その凍てつく声とは一転、彼女は後ろを振り向いてアンナにこう告げる。
ヴィト「アンナは先に行っていてほしいな?多分この大通りの裏にある宿屋を虱潰しに探して行ったら見つかると思うから。僕はこの大きな大きなゴブリンさんと“お話し”してどこにいるか聞いてみることにするよ」
それを聞いていたアンナは少し動揺していた。
アンナ「ま、待ってくださいよぉ!私も何か・・・「大丈夫大丈夫!その方が“戦いやすい”からね?」
しかし、その言葉で彼女の動揺は直ぐに終わった。その“戦いやすい”という事をキーワードにした途端。しかし、二人の目の前にいるゴブリンはというと、もうそこにはいなかった。
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アルティノ「それで?次は私の能力をダウンロードしてみたいって?」
そんな彼女は一度笑うのを辞めて、いや少し笑いつつもそう言った。
前原「そうだよ?もう一回試してみたくってさ。しかも今度は魔王様だけじゃなくって掲示板にいる色々な大物たちと会話し、能力をダウンロードする。それを試してみようと思うんだ、あれよ。この掲示板の醍醐味よ、ヤマザキ春のダウンロード祭りするんよ」
そう言うが、彼女はその醍醐味という言葉が分からなかったのか少し、首を傾げた。
アルティノ「うん、ヤマザキ春のダウンロード祭り?」
インターネット老人会の言葉は到底通じるわけがない。ましてもこの版権スレスレあと数センチギリギリ訴訟のハードラインを決め込むスタイルなんて到底分かるわけも無い。
前原「今からメッセージを出してみる。これで多分まああの数人ぐらいは釣れるだろwww」
僕は某ちゃんねるに出てくるまとめサイトにまとめられそうな事をそこに書き込み始めた。
~アルファ掲示板~
マエハラサトル“おまいらの最強魔法挙げてけwww”
そんな歌い文句を言えば勝手に投下してくれる優しい大物ニキネキ達が出てくると思うから結果も得やすい。勝手にダウンロードしてみてその各々が強いと自賛している魔法を試してみようっと。
アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限“そうですねぇ、私が考えられるのはこのアイセラ大陸の4元素を使った魔法で、相反する二つの元素で一つの大きな魔法にするんです。例えば火炎と氷霜を合わせて、大陸すらも簡単に破壊してしまうロマンのある魔法なんです。ちょっと二人がかりでやらないといけないのが不便ですけどね?”
いや魔法の方送れよ。
サラリー魔ン“その最強魔法とやらを送ってほしいってマエハラは今目の前で嘆いてるわ。ちなみにどうやって魔法を送ればいいかと言うと十字のボタンを押して魔法っていう欄が出てくるから、そこから選べばいいわ”
僕より知っているネキがご丁寧に説明してくれたンゴ、んでそいつ魔王と言うなの社畜やってるンゴねぇ。しかし、なんで僕より知っとる奴がおるんか・・・よぉ分からんもういいや。
マエハラサトル“だそうです。”
ABS553“もはや掲示板を作った人より知り尽くしておりますね、サラリー魔ンさんは。とりあえず私が考えられる最強の魔法はこれです。
グラファイト・ブレット ダウンロードする
そこに書かれていたのはグラファイト・ブレット、いわゆる鉛玉とその考え、そしてその横に青くダウンロードするという文字が、ゴールド講師のスレッドの下に立った。
マエハラサトル“kwsk”
2001年生まれだけど某ちゃんねる用語を使って話してみる。どうか伝わっていればいいなという思いでエンターキーと思われる文字盤をターン!と鳴らした。
ABS553“?打ち間違いですか?”
ダメだった。通じない!クソったれ!どうにかそれも翻訳魔法で訳してくれよ!
マエハラサトル“詳しい説明をお願いします”
ABS553“一つの鉄の固形物を発射する魔法です。一直線を描いて高速で動きます。”
もしかしてピストルのように発射する魔法ってことなのか?じゃあなんだ?パラベラムなのか45口径なのか?いやもしかしたらライフル弾?そんなガンマニアの友達からの入れ知恵が頭の中に駆け巡って来ている僕は、さらに詳しい説明を求めんと文字盤の区切りをタイピングしていく。
マエハラサトル“もしかしてその固形物ってどんな形をしていますか?”
あまりにも気になってしまったので、さらに僕は質問を吹っ掛ける。すると、こんな答えが帰って来た。しかし、それは掲示板特有の文章ではなく、一本の動画が送られてきた。
それは明らかにグロテスクな物だった。
揺れる画面には白い部屋の中に一人の人間が立っており、その人は手を後ろに縛られている。そして頭には目隠しをしていた。しかし、次の瞬間、雷のような銃声がその掲示板から聞こえてくる。見ると目の前にいた一人の人間は倒れて、そこから赤い水たまりが出来ていく。
前原「え、何これ?なぁ、え?魔王、今の見たか?」
僕はそう言って、横で見ていたアルティノの方を見る。しかし、彼女は泰然としており、黙々としていた。魔王だからやっぱりあの流血沙汰だとかは見慣れているんだ。
僕はそう思っていたけど、流石にグロすぎる。グロ系のアニメならまだしも、実際の映像を見せられるのには抵抗があった。
アルティノ「死んだわね」
それを見ていた魔王は、ただそれだけを呟いた。
しかし、その一遍の掲示板の所では、とある一人がそれについて驚いていた。
アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限“死んだ!?あの魔法、恐らく雷電魔法・・・?”
しかし、そんなあからさまで驚いた反応の後にも型番ハンドルネーム、略してカタハンはそのまま続ける。
ABS553“あなたもよく知っている物です。これは私からのサプライズです、我が星よ”
それを告げるだけで何も言わないそのカタハンは、まるで誰かに問いかけるように書かれていた。ある意味異世界で見かけたその異世界にとっては異世界な技術、僕が居た地球や日本にとってはまあ至って普通の銃弾に近い物だった、あの撃たれた感じから察するに。
前原「こんなものをネットで流すなんて・・・」
僕は作成者であるが故に、ネットリテラシーの無い物は削除していく責任がある。
アルティノ「別にいいじゃない。何も財産とかにダメージなんて無いわ。ただ人が死んだ、それだけよ」
しかしそんな彼女は何か僕のやる気を削ごうとしていた。僕はそれで少し彼女に胸倉を掴んで一発お見舞いしたくなるほど怒りそうになったが、なんとか気を取り直して元のレールに戻し、ベータテストを続けることにした。
だが、たかが掲示板と言っても異世界の掲示板だ。大まかに誰が居るかは把握しているので、すぐに新顔は出てくる。
剣の初心者“何があった?魔法なんぞ使いおってくだらない。こういう事をするから剣術こそ大事なのだ”
剣の初心者“おい雨華!魔法も一つの闘い方だ!ここはひとつ相手に尊敬した態度でだな・・・あぁすいません!私の名前は凌望(りんおう)と申します。私の娘がすみません”
そんな二人のリプライが下にポップアップされて、驚いていた人の下に同じ名前が二つ連続で出てきた。多分口調が違うからには二人で一つのアカウントを運用しているんだろう。しかし、そんな下にはさらに目を引くものがあった。このベータテストの目的だ。
アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限“とりあえず私が出せる最大限の魔法は”透明化の魔法“と”寒波“です。一つは雷電魔法を応用したものともう一つは氷霜魔法という二つの元素を応用した物で、毎回私は学園内で季節を作って魔法学園の生徒に四季を感じさせています。
透明化の魔法 ダウンロードする
寒波 ダウンロードする”
何しとんねんお前。というかアバドン生命の樹魔法学園に四季ないんか?常夏なんか?エクアドルなんか?インドネシアなんか?それともグリーンランドなんか?