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第4話

前原「人の話聞いてた?転生したって言ったでしょうが!まあ異世界転生なんてそんなもん(この世界に)ねえと思うけどさ、とりあえず何か送るからそれを“ダウンロード”してみてくれ。それで出来たらとりあえず成功だよ、ベータテストの実験ってことで」

僕は何とか胸倉を掴んでキレそうになったアルティノの質問に対して、まあ異世界だから仕方ない、15歳の女の子だから仕方ないと思って何とか持ちこたえることにした。

そうして僕はその一番下のコラムにある“魔法”という、僕の世界からしたら何を言っているのか分からない欄をその出てきた掲示板のモニターをポチッと押した。

すると、どこから手に入れたのか分からない僕の個人情報、詰まる所自分の冒険者・勇者会から発行された札に書いてある、スキルの欄の通りにあった。

“翻訳”

“氷の吹雪”

“身体強化”

“ワイルドホーンの呪い”

そんなスキルの欄に書かれた魔法らしきものが4行に鎮座している。僕はその中から一つ選んでアップロードする。一度僕は“ワイルドホーンの呪い”の所に指をやろうとしたが、なんとか良心がその指に悪質タックルした。恐らくこの呪いを知らずに、この掲示板を使っている人たち、例えば魔法学園に勤めている魔術師や魔王、聖女と呼ばれる教祖や何の存在か分からない正体不明これをX、少なくともこの世界の大物、ましてや不特定多数の被害を招きかねない。つまりネットリテラシーの概念すらないこの異世界で僕がこの呪いをアップロードして、周りが鵜呑みにしてダウンロードしてしまえば簡単にこの呪いで死者が出るという最悪の状況をこの指一つで作ってしまう可能性だってあるのだ。だから今はベータテスト、そんな物を実験で出したら結果も取れないし改善するための問題も出てこない。というか一気にアニメの主人公が悪役になるタイプの奴になる。

僕は自分の指を一番上にやって、“翻訳”に指を置いた。すると、その上にポップアップとして確認画面が出てくる。

“翻訳の魔法をアップロードしますか?”

そんなポップアップが出て、その下にまた“はい”と“いいえ”が出てきた。何度も見てきたこのポップアップ、ある時は死ぬ間際に、そしてある時はライバルにボコボコにやられた時に、この掲示板のポップアップが出てきて救われた。なんだろう、例えるならバトル系のアニメで主人公が強くなって生き返るようにしてくれるヒロインみたいな存在だと思う。

前原「もちろん“はい”だ」


僕はそう言って、その“はい”を押して、アップロードを始める。しかし、次に出てきたのは一本の長方形の棒と、その中に左から少しずつ伸びていく緑のゲージ、そして横に書いてあるパーセンテージだった。恐らくアップロードするまでウン数分ウン数時間ウン数日ウン数ヶ月とかかるのだろう。

そんな気長に考えていると、以外と早かった。見ていると数秒後すぐに、左端にあった緑のゲージは直ぐに満杯になり、右端の方へと一気に到達した。この掲示板は何処にサーバーがあるのだろうか?どんなスペックで動いているのだろうか?そもそもこの掲示板は端末?それとも端末ではなくホログラム?いやこの世界にある魔法・・・ってこと?

“アップロードが完了しました”

その通知が来た後数秒後、僕からの発信で“翻訳.magicをダウンロードする”と言う文字が青色で表示されており、そして横にダウンロードをあらわすピクトグラムがあった。いかにもこのUIは、この異世界にとっては不可解なものだったが、僕にとってはすごく分かりやすい物だった。

魔法のちからってすげー!勝手にUI作っておきながら.mp4や.pdfに並ぶ新たなファイルを作り出していた!

カカリ「ただいま戻りました。哨戒のために街を少し歩きましたが、このホテルの周りに危険はありません。残りはガヴリに任せております」

その異世界の魔法に驚いていると、玄関の扉からカカリがやって来た。どうやら街で偵察していたらしい。

そんな事には気にかけず、そのまま作業を進める。どうにかアップロードしたその“翻訳”という魔法をダウンロードしてくれているのか心配だが。

前原「おーおかえり。そういえば魔王、アップロードしたから見てくれ」

僕はすぐさま彼女の方を見て、そう促す。

アルティノ「分かったわ・・・って翻訳?私にはカカリが付いているから大丈夫よ笑」

しかし、そのファイル名を見た彼女はどこか失笑しているような、鼻で笑っているような雰囲気だった。

前原「いいからダウンロードしてみてよアルティノちゃ~ん」

そうやって少しくだけた感じに彼女のことを呼んでみると、カカリの方が固まってこちらを見ながら、“お前それは言うな”という雰囲気で首を横に振っていた。

アルティノ「その名前で呼ばないでって!魔王って呼んでってさっき言ったでしょ!分かったわよ!やるから!」

その予想通り、どこか不機嫌そうにそう言う彼女が居た。しかし、そんな不機嫌さと共にどうにか彼女にボタンを押させることが出来た。

アルティノ「それで、翻訳?ねぇカカリ、何か私が分からない言語を使って話してみて!」

そんな言葉を彼女は窓側でメガネを拭いているカカリに命令した。

カカリ『別にそんなことやらなくても伝わるんじゃないんですか?第一こんな能力さえあれば私はもうお役御免じゃないんですか?』

しかし、僕も翻訳の魔法が勝手に付与して勝手に作動してるので全部日本語で出てくるのだが、まあ何も言わないでおこう。

アルティノ『別にあなたのお役はまだあるから大丈夫よ!だって護衛の中ですごく頭がいいもの!』

しかし、そんな彼女もそのカカリの僕にとっては完全に丸わかりな言語をいともたやすく理解し、そして使っていたのだ。もしかしたらその翻訳という魔法は他言語というインプットを魔法という関数を通じて自分が良く使っている言語に直すというアウトプットがあるんじゃないか?つまり、魔法と言うのは一見異世界でよくあるご都合主義な展開になるが、ある意味数学的な関数、ファンクションだと考えられる。

そんな僕のかんがえたさいきょーのりろんは彼女たちにとってはもはや不明だろう。

カカリ『そうですか・・・ていうかよくわかりますね!私は今完全に魔王様が聞いたことすらない言葉で話しているのに。どうやら翻訳の魔法は無事使えておりますね。それとマエハラさん、私の方からも魔王様のスキルの欄に翻訳がある事を確認いたしました』

なぜだか分からないが、僕が聞いているはどの言語と変わらず日本語だった。そしてその語彙力、いわばボキャブラリーは普段と変わらない物だった。

前原『そうだね。ぼくもなんで喋れているのか分からないけど聞いている感じには二人とも日本語をしゃべっている感じだよ』

そして僕もどうしてか分からないが、二人に対して日本語で話してみると、彼女たちは少し不思議がって、僕の方へと見てくる。どうやら伝えていなかったようだ。

アルティノ『日本語?』

カカリ『聞いたことのない言語ですね。異世界の言語ですか?』

そんなことからか、二人はそのまま笑っている。

前原『ずっと日本語で喋っていたんだよ?この言葉だって日本語のままだよ?』

僕も思わずわらってしまっていた。そんな3人の間で永遠に笑う声がずっと聞こえる。そんな三角形の笑い声は、まるで魔法陣の周りで唱えているように不気味だった。

そんな不気味な笑い声の魔法陣はずっと続いていた。しかし、各々が違う言葉をしゃべっているのに通じ合っているのは何処か新手のカルト宗教かにも思われるほど奇怪な三角形だろう。とにかく彼らは腹を揺らして、大笑いしていたとさ。

ネチネチ「偵察終わりました~・・・」

ギイイッ

そんな状況に横やりを入れるように扉は開く。ゴブリンの護衛の一人であるネチネチだった。しかし、そんな状況を見て一言。

ネチネチ「・・・こわっ」

バタン

しかし、そんなあまりにも奇妙な物事だからその扉は数秒した後に閉じてしまった。いやネチネチに閉じられてしまったのだ。

前原「ん?今誰か来てたか?でもまあいいや。それよりさあ!アッハハハハ!アァ~息がっ!笑いすぎてw!息が出来ないww」



~~~~~



少し彼女達が歩いた所にとある街が見えてきた、それはフィリップという街。ゴブリンと人間が共存している事で有名な街だ。それ故にどこか賑わっており、高い建物は何棟もあるのが見えた。

ヴィト「多分ここを通ったんだ。あの脱獄犯とマエハラさんは」

僕は屈んでその街に続くあぜ道の足跡を見る。すると、5つの足跡が五角形に近い形を作っていたのだ。その内足の大きさが若干違う二人は足の指がよく浮き出ており、そして土踏まずの所が浮いていたので裸足だと分かった、残りの3人は人間の靴、内一人は女の子だった。

アンナ「あの~・・・これがマエハラさんじゃないんでしょうかぁ?」

その地面に着いた一足の足跡を指さして、アンナ・シュトレンは言う。どうやら彼女の元猟師の勘が効いたようだ。

ヴィト「何で分かるの?」

僕はその理由を聞いてみた。すると猟師らしい説明をしていた。まずマエハラさんの靴はブーツ、というかかかとが少し上がった靴で、その分跡が残りやすい物だったこと。そして若干疲れたというように足の歩幅が一致していなかったこと。それが決め手となってマエハラさんだと断定したことを言っていた。

ヴィト「え?まってまって、もしかして僕たちが追ってる脱獄犯とマエハラさんが・・・同じ?」

そんな彼女は何処か焦ったような顔で、アンナの方を振り向いて迫る。しかし、そんな彼女に圧に押されてか、あやふやな態度、そして表情を見せる。そんな彼女の様子を見て、ヴィトは更にこう言った。

アンナ「いやぁ、それはまだ~・・・分からないんですけど「じゃあどこかで追い剥ぎにあったんだよね!?やっぱり!あのゴブリン達と魔族のサキュバスか何だか知らない魔族のあばずれ女がなんか変だと思ったんだ!最初からこれが目的だったんだ!今すぐ行かないとマエハラさんは今頃死んでる!」

ヴィトはいきなり立ち上がって、その5つの足跡の上を消すような速さで走る。そう、祈られて加護され、何かが変わっていた彼女達はランボルギーニカウンタックより早く、そのフィリップという街へと走って行った。胸から金属音を鳴らしながら。



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