アルティノ「しょうがないわね・・・それが“信じる”ってことなのよ。勇者マエハラの世界には宗教という概念が無いの?」
彼女はそう言った。まるで煽るように。
なので僕は自分の国の宗教事をすべて話した。キリスト教だとか、うちの国には信じてない人が大半だけど、宗教的な行事を間違った解釈でやっているとかを彼女、目の前にいる一国の主にすべて話した。
僕はまるで異世界転生のよくあるライトノベルで、まるで自国のさぞ素晴らしい文化を紹介して、それで周りから異世界SUGEEEEE!異世界人TUEEEEE!といったようにチヤホヤされるような口調でそう話した。本当はこういう物はナシで行きたいんだ。だってこんなもので成功した作品はごく一部だけで、他のすべてはアニメ化した途端すぐに塵と化すんだ。例えば状況を将棋に例えるとかな?
アルティノ「・・・まあ、その・・・なんだっけえっと「キリスト教」そうそうそうそうそう!キリスト教とか、神道とか仏教とかクルシミマスとか天皇陛下だとかはよく知らないけど、色々複雑なのね」
そんな彼女の同情は日本人である僕をちょっと苦しめたが、まあ異世界だからしょうがないという精神で自分を強制的に再起動させた。異世界の常識が通じると思った僕がバカだったんだなぁと思いながら。
前原「まあでも話を聞く限りキリスト教と星の信者って若干似てるね。星の所とか」
その事を言った途端、魔王アルティノはその言葉に気づいてすぐに下を向いていた顔を僕に向けた。
アルティノ「詳しく聞かせてよ。今後の魔族領の統治で役に立つかもしれないから」
そんな彼女は興味津々そうにしていた。まるで学者のように、そして子供のように。
前原「馬小屋に流れ星が落ちて、そこで生まれたのがイエスキリストだっていう話。どちらも星に関連して出来た宗教だ。いわゆる星の信者で言う所の“星”にあたる神様だろうな」
彼女は静かに僕の話を聞いていた。僕の顔を見ながら。
前原「まあ信者じゃないからよくは知らないけど、なんていうかな・・・まあ星の信者と違って教会もちゃんと建っているし、どうせなら15世紀ぐらいで派閥争いが起こって、一方がカトリックから独立してプロテスタントになったとか」
僕はそんな異世界の宗教史を彼女に語った。
アルティノ「もしかして、星の信者の方でも分裂が起こるってこと?」
そんな彼女の天才さから、すぐにそんな事を察していた。
前原「まあ、このままだとそうなるかもな」
そんな僕達は宗教史の話で少し盛り上がった。何処があってて、どこが違うか。そんな他愛もない話を魔王と語り合った。もし彼女が酒を飲める年齢だったら、さらに年齢が上だったら彼女と朝まで語り合っただろう。僕は酒を飲んだことはあまりないが。そんな彼女たちの話が区切れると、僕はある事を思い出した。掲示板のことについてだ。
前原「そう言えばさぁ、掲示板のことで色々と質問があるんだけど」
僕はアルファ掲示板を、突き出した右手の前に出しながら言った。
アルティノ「何?掲示板はあなたの能力でしょ?」
そんな彼女は少し不機嫌そうに聞いていた。そりゃあそうだろう、彼女の能力は彼女が良く知っていて、僕の能力は僕が知っているはずだ。だけど僕はそれをよく知らない、なぜならこの身体はおそらく自分の身体とまったく同じような物って言うだけで自分の能力や特性、はたまたアレルギー性の食品や血液型はどんなものかと、よく知っておきたいものだ。
アルティノ「それで?あなたの掲示板の実験台に私はなってほしいってことよね?」
実験台。そんなヤバそうな言葉を僕は言い換えて同じことを言った。
前原「いや、実験台と言うかベータテスターに・・・」
しかし、その言葉が出た途端、彼女はすぐに噛みつくようにそれをもう一度復唱する。
アルティノ「ベータテスター?」
彼女は組んだ足を崩しながら、そして前屈みになりながらそんな言葉に耳を傾げた。なぜなら異世界の言葉だから聞き馴れないのだろう。それほど彼女にとって興味深い物だろう。
前原「初めて一般のユーザー、まあここで言う所の魔法を所有している人以外に試してもらう事をベータテストって言うんだよ」
それを続けると、彼女はとあることを口にした。それはこの世界の一つの原理にある魔法だった。
アルティノ「あ、そうだ。基本的に魔法はね?分かる?一人につき一つしかその時にできないのよ。いわゆる発動の制限ってことよ」
一体彼女は何言っているのか分からなかった。発動の制限?一人につき一つしかできない?なんでだ?この世界の摂理なのか?それとも禁止されていることなのか?
前原「え?なんでできないの?」
アルティノ「まあ・・・なんというか説明はすごく難しいけど、言うなれば・・・そうね、例えばの話だけどあなたは走りながら算術の問題を解くことが出来るの?例えば・・・750掛ける事の43とか?」
アルティノの懐疑的な話に、”Why”を突き付けざるを得なかった。だって話の意味が分からないのだ。
前原「何の話をしているの?もしかして、一度に二つの事は出来ないという事?だったら僕はスマホで異世界転生とハーレム系のアニメを見ながらパソコンでコーディングは出来るぞ?じゃあさ、その・・・1回に二つの魔法を発動する事が出来ない。っていうのになんであの時、攻撃魔法の中に回復魔法を入れたの?それってつまり二つを同時に発動していたってことだよね?」
彼女は少しため息を吐いた後、この話をした。
アルティノ「全然理解してないわね・・・つまり!私が言いたい事は、魔法を同時に2つも3つも発動できないってことよ!それとあれは一つの魔法!元からなああなっていたの!相手の精神を削って戦えなくするために!」
この世界の魔法という物は最早ご都合主義であると彼女はそう言っている感じだった。
前原「え、でももう一つあるよ?あの時魔王とカカリで混合魔法を繰り出して鉄格子を切ってしまおうと言っていたじゃないか。それは出来るの?呪いであの時は出来なかったけど」
僕はあの時の事を口にする。まるで学者のように、初めての未知との遭遇であるように。
アルティノ「まあ出来るわよ、だって二つの力が一つに合わさっているのだから。だからね?それが時に絶大な力を得るの。まあ本当にごく一部の確率だけどね」
そんな彼女は、淡々とそれを言った。
前原「え?いつもできるわけじゃないの?」
僕はそんな心配をしていたが、以外にもあの出来そびれた技は、
アルティノ「そりゃそうよ!と言うか絶大な力っていっても・・・この大陸の半分が消し去られるほどなのよ。常時出来てしまったら私たちもうーん・・・なんていえばいいの?一巻の終わり?そうそう、一巻の終わりよ!」
彼女はそう言うと、少し不貞腐れたような顔をして胡坐を組み、そこに頬杖を突き始める。
アルティノ「・・・で?何の話だったっけ?」
その魔王が魔法によって脱線したその話を戻してくれた
前原「あっそうだ!βテストだベータテスト。とりあえず何かファイル?いやなんか、魔法の呪文と言うか・・・ファイルを共有してほしいんだ」
この世界では魔法をどう呼ぶのだろうか?ソフト?ファイル?いやドキュメントか?とにかく何かしら新しいようなこれを異世界なりの言葉で定義しておいた方がいいかもしれない。まあコードが貼ってあるファイルでいいや。
アルティノ「そう言えばそうよね。あえなく魔法の所でこの話の全部を終わらせそうになったわ。ごめんなさいね」
そんなわけで彼女はベータテストのユーザー一号となった。
前原「それで、何かそのファイルらしきものをアップロードしてほしいんだけど、「アップロード?」まあ言うなればあの時にやってくれたことと同じことをやってほしいんだ」
そんな彼女は一度僕に対して何か掲示板の上でアップロードしていたのを僕は見ていた。
アルティノ「でもね、そのアップロード?って、どうやるの?」
前原「嫌僕も分からん。正直どうやってやるか分かんないから、ちょっとトライアンドエラー、まあ言うなりゃ試行回数と失敗を重ねて、そして成功を見つけていくっていうチョ~~ウダルイ仕事をしていくから、まあちょっと待っておれ・・・っていうかあの時よく氷の息吹を送れたなぁ。どうやったの?」
僕はあの時の矛盾、疑惑を晴らすために質問をした。あの時のとっさの判断で出来るなんて当然出来るはずがない。そして教えてすらないのに。
アルティノ「それは簡単よ?なんか・・・横にあるこういう形のしたボタンを押したらなんか自分の能力の色々が出てきて、それで押したら出来たってこと」
彼女は両手の人差し指を十字に交差させて、
異世界人に一歩先を歩まれた。まさかの彼女の方が使えるとは、やっぱり習うより慣れろという事なのか。いや、もしかしたら彼女にはその“素質”がもうあるのかもしれない。まあ僕は専門学校で涎を垂らしながら状態遷移図とPythonとC言語とC#を日々書く事で努力して仕事になりえた途端死んでここに今北産業だけど。まあ形にしたいほど、天才ゆえの鬱憤があったのだろう。
前原「まじかぁ、異世界人に一本取られるとは・・・それで、ここの“追加する”ボタンを押して・・・」
僕はその十字のボタンを押してみる。すると、そこから何か4つの項目が出てきた。“ドキュメント”、“写真”、“動画”、“魔法”と、4×1の行列を介して作られている。各所に
は線で区切られており、そして左横にはそれを表すようなイメージが書いてあるアイコンがあった。写真とか動画送れるなんてほぼ掲示板じゃん!某ちゃんねるじゃん!なんか正論かますアノニマスみたいな顔した現フランス在住の人が作ってるようなもんじゃん!っていうかUI凝りすぎなのだよ!こんな物作ってないんだよ!
前原「このUI作った覚えないんだけど。誰が作ったの?この掲示板。そうだよ?勿論元は作ったよ?だけどこんな感じでUIとかは後から調整しようとして、その所で僕は死んだんだよ!」
アルティノ「え?じゃあ死んだのならマエハラは今何なの?」