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第2話

僕こと前原悟と魔王アルティノとその護衛のゴブリン達は、神の庭園という教会から無事聖女様の助力あってか脱走し、少し森の中を歩いたところに街が見えてきた。その栄えた夜でも明るい街の名前はフィリップ。夜の明かりを点ける魔法で照らされた街は緑色の肌のゴブリン、はたまたそれを大きくして、さらに茶色にして顔に牙を拵えたオーク、髪に花を携えたフラワーエルフ、まるでリザードの上をいくようなドラゴン達がそこに住んでいた。いや、ドラゴンというか竜族と言うか、そのドラゴンと呼べるものはある種、竜と人のハーフに近かった。まるで魔王アルティノのように。彼らは市場を開き、鍛冶屋を開き、果てはその隣に武器類を売る店まで建てていた。そこはいかにも異世界で大都市と評されるように大きく、その周りに敵から守るための壁は無かった。これでは簡単に攻め入れてしまうではないか。そんな風に儚く、心配していた。

“フラワーオーク武器店”

そんな名前の武器店の隣に鍛冶屋があった。名前は“魔剣職人ザブラー工房。修理からオーダーメイドまでなんでもお任せ!”

そして複数に連なる酒場や飯屋を通り抜けたのち、一つの小さな店が佇んでいた。もはやそこに入り口であるドアという物はなく、オンボロ家屋で一つ壁が外れている所に少し腐食した木の板一つが横に取り付けられていた。その上には紫色の液体が入った瓶や、先端に髑髏が付いた変な棒や、果ては色々な物が置かれており、もはや東南アジアの国にある露店のようだった。明かりも点いていなく、周りの光によって照らされているその店は、看板に“ボットン道具店”と名前が書かれていた。そんな看板が右から左へ歩く度に視界に入っては消えていく。

アルティノ「ここよ。魔王城への道はかなり遠くて数日かかるから」

彼女が振り向いて別の方向に指を指す。その先を見た時、そこは豪勢にガラス張りと木枠で出来た建物がそこに佇んでいた。あたりが暗い中、そこはシャンデリアによる明るく、温かく、そしてな光がその大きな窓を通して僕達を照らし、対岸に5つ、いや4つの長い影を作っていた。まるで僕達の未来を暗示しているかのように。彼女はその扉を開けて、堂々とその権威を象徴しながら入っていく。目の前にはホテルのフロントがあり、彼女はそこに駆け寄って、まるで子供のように何かをフロントに言っていた。

アルティノ「スイートルームを頂戴!一番上階の!」

そんな言葉が微かに聞こえていた。なんとまあブルジョワジーなのだろうか。やっぱり魔王だから高級なものを選ぶべきなのだろうか。それともただ単にこのホテルは御用達なのだろうか。なぜならここは何か落ち着くし、周りの待合室を見てみると、なんともまあ高そうな服を着ている方々がいらっしゃった。

アルティノ「早く行くわよ?最上階に部屋を取ったから」

そう言うと彼女は階段のある方向へと歩いていき、それに釣られて3人のゴブリン達も歩いて行った。

前原「あ、カカリ!魔王にこれを」

しかし、なぜか彼女は鍵を受け取らずに行ってしまった。その代わりとしては何だが、平民の僕がそこに入る権利を貰ってしまったのだ。

カカリ「あぁ、どうもありがとうございます」

だから僕はその側近であるカカリにそれを渡しておいた。その様子を残りの二人は見ていて、その鍵が受け渡された時と同じくして、皆歩きはじめる。



~~~~~



私たちは教会から出て魔王領に向かっている時、ヴィトと私ことアンナ・シュトレンは神の庭園を脱して魔王領内へと足を進めていた。二人とも黙りながら、そして静かに歩く。自分を傷つけた男とそれをたぶらかした連中が今、教会の追っているその脱獄犯達の特徴が酷く一致している事がなぜかずっと頭にある。

でもそれでやっとマエハラさんの行方が分かったっていう少しの安心感もあった。だって当然だろう、そんなニンゲンとゴブリンなどの魔族と一緒にそこを通り抜けたら、普通に危険人物として認定されてしまうのだから。

僕は少しニヤリと笑っていた。どうしてだろうか、この状況を少し面白がっている自分がいる。僕の追っていたマエハラさんこと一目惚れのあの困った人をそのままどうしてやろうかと考えている僕が居る。そのまま教団に引き渡すのはなにか面白くない、いっそ僕が無理矢理・・・いやでもあのサキュバスを許さない。だって僕の初恋の人を奪ったのだから。

そんな僕はニヤリと笑っている一方で女同士の汚い戦いに身を引き締めていた。もう引き締めるほどの贅肉や脂肪分は無く、理想的でスレンダーな体になったというのに。



~最上階・スイートルーム~



アルティノ「ねぇ、星の信者ってマエハラは知っている?」

彼女はソファに座りながらそう尋ねてきた。そして足を組んで僕を見ている。僕は立っていたので、彼女は手でソファに誘導するように僕を座らせた。

前原「星の信者?名前は一回聞いたことあるけど・・・結局それって何?」

そう聞き返すと、彼女は少しため息を吐いたが、淡々とその事について説明した。

アルティノ「星の信者って言うのはその名の通り“星”を信仰する信者たちよ。世界中に信者がいるわ。勿論私の魔族領内にも一定数いる事は確認したけど、まあ現状で脅威にはなりえないという事にしているわ。普段は表舞台には出てこない。そうね・・・例えばあの神の庭園が言っていた“ドブネズミみたいな薄暗く汚いゴミのような分際”って言葉が似合う場所って言えば分かるかしら?」

僕は一瞬その例え文句を理解するのに苦労したが、要するに地下の下水道のような場所であるという事で納得した。しかし星の信者。信者の数も謎、教祖も神の庭園のセシリアと比べて謎。何よりそんな謎すぎる存在に対して魔王アルティノは脅威ではないと断定しているのもかなりの謎だ。もしかしたら何か、隠しているのか?

前原「つまり魔王側はその星の信者達にそういった対応を取っている。と?」


アルティノ「まあ、そうね。でもこれからどうなるか分からないけど」

僕はそんな彼女の言った言葉が少し不安になった。なぜなら多分、あの時に言われた“あなたは祝福”という事がどうしても気になったのだから、僕はおそらくこれまで会って来た星の信者の誰かを通じて、それで動向を把握されているのかもしれない

前原「どうなるか分からないって、敵にも成り得るってこと?」

そんな彼女は少し“ん?”という反応をしたその後、

アルティノ「そりゃあそうでしょ?なぜなら“謎の勢力っていう区分”なんだから敵意を向けているのか、はたまた友好的なのかも、敵対的なのかも謎。だから今は“謎の組織”っていう区分なのよ」

魔王のその口調から恐らく目的も不明か・・・いや目的は分からなくもない。ただ単に星を信じる感じの宗教なのだろう。でも何で星の信者って星を信じるんだ?

その謎を解明するために、一行はアマゾンの奥地ではなく魔王アルティノの下へと向かったのだった。僕はそんな何も知らない魔王アルティノに対して暖簾に腕押しする勢いで、

前原「その星の信者って言うのは、“されば星に願いし時、彼らはその願いに祝福を以て返すだろう。”っていう教えはある?」

しかし、彼女は首を振って否定していた。

だから僕はこの世界に来た後、最初に魔王アルティノとカカリ、ガヴリ、ネチネチを見た事、だけど即刻反対方向にある洞窟に向かって、剣や盾を手に入れたこと。そしてその洞窟を出た後に偶然騎士団とばったり出会って問い詰められたが、その時に先ほど言ったフレーズと、一人がその祝福が僕である事を言っていた事。とにかくすべてを話した。いや、話さざるを得なかったのだ。そのどこで聞いたかを答えるのに、全部答える必要があったのだ。

アルティノ「なるほどねぇ」


前原「なあアルティノ」

そうやって魔王を呼ぶ。すると、彼女は

魔王「魔王と呼びなさい。勇者マエハラよ、何でも聞くがいい」

どこかの魔王をパクったような言葉が彼女の口から発された。

前原「あっごめん、じゃあ魔王。何で星の信者って星を信じるんだ?」

そんな質問は彼女にとって悪手だった。彼女は上を向いて少し考えた後、話し始めた。

魔王「じゃあ・・・例えば勇者マエハラが船乗りだったとしよう。ある日、それは新月の夜であり、明かりすらない。この時、あなただったらどうする?」

僕は少し考えた後、とある答えを出した。

前原「そりゃあコンパスとGPSをつかt「ちなみに、この時のマエハラは転生者ではないとしよう。当然異世界の知識とかは使えないし、道具もない。この時、あなたは本当に目的地に着くのか。それを聞きたいの!」

彼女は少しイライラとしながらそう言った。

前原「うーん・・・「なかなか答えが出ないわよね?じゃあこうしましょう。夜空には満天の星が光っていた。これで分かるでしょう?」

いかにも星を目印にして航海をするって言わせたそうな追加情報だな。まあそう答えるか、異世界の常識を伝えても背負うがないし、先ほど否定されてしまったから。

前原「星を目印として見て、自分の位置を知るつもりだけど・・・」

彼女は目を瞑って静かにうんうんと頷いた。これがこの世界にとっての正解なのだろう、僕はそう思った。

アルティノ「そうよ、これはあくまで比喩。つまり私が言いたいのは、“迷う者は皆星を見る。なぜならそれが希望という目印だから”っていう事なのよ。要するに星の信者っていうのは夜中の船乗りと一緒。星というのは人がそこに思いと運命をかける最後の希望であるってこと」

そんな彼女の言っている事に混迷を極めていた。理解できない。一体どういう事なんだ?星の信者というのはいわば夜中に女の上ではなく船の上に乗る船乗りで、星と言うのは彼らにとっての目印、でもそれが希望というような大きなものではないと思うんだよなぁ。別に星と言っても北極星と南十字星さえ見えれば方角が分かるんだし。

前原「ちょっとわからんなぁ、異世界の現代人にとっては発想が思いつかない。星を見て自分の位置を知るってのは昔の人がやっていたことだ」



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