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第1話

「今すぐに警備を固めろっ!!他の奴は何か魔法を使った痕跡がないかくまなく探せ!!」


先の脱走者騒動の直後で騒がしく、せわしなく信者達がその対応に追われている神の庭園にて、とある来訪者が来た。

一人は短い髪に、くびれた腰と所々丸まった体、それに似合わない程の175センチというスタイルを持ち、そして左側の鞘に収まった剣を携えたヴィト・ローズと、金色の長い髪に長い耳を顔に持ったエルフの弓使いであるアンナ・シュトレンが人類王国側からやって来た。彼女たちは所々服が血や土で汚れており、まるでさっきまで戦って、そのまま直接来たような雰囲気だった。

「ハァ…ハァ・・・何か、何か身分を証明できるものは・・・」

そこに走って来るのは、白いローブを纏った一人の青年。見たところ忙しそうに、そして膝に手をついて下を向いて息を切らしている。

ヴィト「大丈夫?何かあったの?」

彼女がその息を切らした一人の信者に話しかける。しかし、その返答は少し遅れたが、

「ちょっと…色々ありまして…えぇ」

そんな息切れ気味に聞こえる声は少し慌てており、彼女たちの来訪に構っていられない雰囲気だった。

ヴィト「とりあえずハイ、冒険者登録表。これでいい?」

しかし、そんな様子を心配しながらも、前屈みになり、左手を膝に突いて彼女は紐の付いた札を取り出して、その信者の前に差し出す。その様子を見ていたアンナもヴィトに渡した後、そこを通じて信者である目の前の人に渡した。

「あ…ありがとうございます!え~~っと、ヴィト・ローズさん・・・ってローズ!?あのローズ家のご息女でありますか!?」

その信者は少し声を張り上げていた。いや、僕の名前を見て驚いていたのだ。僕が良家の生まれだからこそだろう。じゃあ何で冒険者の端くれをやっているのかというのは・・・この信者すらも知らないけどね?そんな僕は何も言わずに、ただコクリと頷いた。

そんな彼女に反応するや否や、すぐに直立してその信者はお辞儀をする。一瞬、ローブについているフードがそのお辞儀のスピードについていけなくて頭からはだけるが、

「これは失礼いたしました!!そんな高貴なる方に対して色々と詮索するなんてとんでもございません!ささ、どうぞ通って行ってください!」

そのように言った後、僕たちの目の前に憚るように、通せんぼをするように走って来たその信者の人はそそくさ右の方向へと歩いていき、またお辞儀をして神の庭園の方向へと手で誘導した。しかし、どこか安心する匂いがここを通って教会に続いていることを、僕の花が捉えていた。

そんな騒がしいその神の庭園の施設に僕たちは入っていく。



~~~~~



「早く証言集めろ!」

「おいアルペン隊長のクソ野郎はどこ行きやがった!!」

「セシリア様にも連絡を取れ!」

「あと軽食と人数分の水を忘れるな!少し経った後に幹部、庭園護衛団団長と副団長、及びその他幹部は至急会議だ!長時間になる事を予想しておけ!」

園内では怒号があちらこちらに鳴り響き、まるで息を吐く暇もない程切羽が詰まっている。もはやそこはただの宗教施設ではなく、僕が居た騎士団の詰所に近かった。訓練の毎日、響く怒号の日々、僕が怒られる事じゃなくて、他の人が隊長や教官に詰められている所を見るのが十分に怖い。そんな情景が浮かぶものが、庭園の中にあった。

そんな騒々しい中、僕たちは横からいきなり声をかけられた。見ると、フードを被っていない、髪を後ろに束ねた女性が立っていた。

「この度は参拝していただきありがとうございます。セシリア様がお待ちです。こちらに」


その女性は僕達を聖女に会わせるための手引きの人だった。それに導かれて、僕ことヴィト・ローズとアンナ・シュトレンはその騒がしい開けた場所から、静かで少し狭い廊下へと向かい、そして数十歩歩いた所にとある一室へと入る。そこはこの神の庭園にある大きな礼拝堂とは違って小さく、神に祈るための最小限のものが揃っているだけの部屋だった。左には何か書物を置くための台。右には8脚ほどの長椅子が左右に納められていた。

そんな書物の台に、この建物の主であり、そして“聖女”と呼ばれる女性がその後ろに立っていた。まるで、今から神の庭園の経典を読まんとしている。

セシリア「よくいらっしゃいました。入信ですか?お布施ですか?」

そんな彼女は私たちに気づくと、すぐさま聖女のような笑顔を僕たちに見せる。まるで天使に微笑まれているその顔はどんな男でも、いや女である僕ですらも恋に落としてしまいそうだ。僕は胸に手をやって、お辞儀をする。

ヴィト「どうもご無沙汰しております、聖女様。僕はヴィト・ローズと」

アンナ「アンナ・シュトレンよ」

そんな息の合った会話が二人同士で繰り出され、互いの名前をセシリアと呼ばれる目の前の金髪で、笑顔が素敵な人にそう教える。

セシリア「そうですか。まあ私の教団の中に血や汚れの付いた服のまま来るのはいたたまれないけど、今回はまあ良しとします。それで何かお伝えしたい事は?」

そんな僕たちの急いでいる様子を見て、伺っている。

ヴィト「端的に聞きます。このいつにも無く騒がしい教団にて何があったのですか?」

そんな僕の質問に対して、彼女が貫いていたのは沈黙であった。

なぜならそうだろう、その聖女自身が主犯となって、この一連の騒動を起こしたのだから。

セシリア「・・・」

3人、いや扉の前にいる一人の信者を含めた4人の間に沈黙が広がる。

ヴィト「答えてください、僕たちも何か手を貸す事が出来るか考えているんです!」

そんな沈黙を突き破ったヴィトはさらに聞くと、

セシリア「なぜですか?これは教団内で起きたことです。あなた達には関係のないことですよね?」

そうきっぱりと言って、何もその騒動については言わなかった。

ヴィト「いいえ違います。僕はもう騎士団を辞めておりますがそれでも騎士道の一端、端くれです!困っている人が居たら助けるというのは僕も騎士団でも変わっておりません!」

僕はそのきっぱりと言い様に彼女も心が折れて、一息ついた後、急に話し始めた。

セシリア「実は少し前にここに来た人が暴れて投獄されたのですが、その後音も立たずにこの教団から魔王軍の領へと脱獄致しました。まあ別に時間があったらですけどね?時間があったら~・・・まあ捕まえてきてほしいかなって言うぐらいなのですけど、まあ忙しかったから・・・この依頼は無かったことにしてもしなくても・・・」

あまりにも行ってほしくないオーラを醸し出していたので、彼女は少しあやふやに、そう言った。しかし、ヴィトとアンナの二人はそんなことも気にせずすぐに振り返って行こうとした。その重く血生臭い服と共に。

ヴィト「すぐに行ってきます!!アンナ。出発しよう!」

そう呼ぶ声と共に彼女も向かおうと振り向いた。

その様子に聖女は焦って彼女達の手を掴んで止めた。

セシリア「え!?ちょっとまって待って!」

しかし、その戦気の手を掴まれて、彼女たちは振り向いて立ち止まった。

セシリア「信者とは見えないあなた方がここに来たってことは・・・あなた達はこれから魔王軍の領内に入るってことよね?」

そんな笑顔の写る彼女の顔の裏には、彼女たちを危惧する、いや心配する様子が見えている。その聖女の考えには、これから彼女たちは魔王の悪政によって占領されている、人類と1000年前から敵対している領内に向かい、その首領と恐れられた魔王を討伐しに向かうのだろう。私はそんな旅先に危機が無いことを心で祈る。しかし、それは明らかに表に出てしまっていた。そんな彼女たちは、私をじっと見つめている。

セシリア「我らが崇拝せし神よ、創生神よ。汝はこの皿にて大地を作り、アイセラ大陸を作り、そして生命を作りたり。その御恩、今になりとも忘れず、今後とも永劫忘れなからず。その愛すべき皿の地に、彼女たちに絶大なる加護があらん事を」

そんな呪文のように長い祈りを僕とアンナは聞いていた。しかし、その瞬間から僕たちに何か異変が起こり始める。その呪文を発した直後、体の周りが少し黄色、いや金色と白が混ざったような色をしていたのだ。そんな彼女たちはどこか、“何か“が変わっていた。

セシリア「では、今後も冒険頑張って!」

彼女がまるで親のようにそう言うと、また手を振って見送っていく。そんな彼女に僕達は鼓舞され、その部屋を出て行った。また騒がしい庭園の再開だ。

ヴィト「ちなみにその~・・・脱獄した人の名前は?」

しかし、出ていく間際、僕はあまりにもその釘の刺された話が気になりすぎて、また振り向いてはそれをニコニコとしている聖女様に聞いた。

どうしても名前とかを聞いておいたほうが発見させる手がかりにもなるし、それ故にどこにいるか人に聞くこともできる。

一方その頃、横にいたアンナ・シュトレンは小さな手帳とペンを準備していた。

セシリア「あ~・・・えっと・・・(まずいわ!さすがに名前を出したらマエハラサトルさんとサラリー魔ンさんがまた戻ってきちゃう!さすがにそれだけは防がないと)う~ん、(私が逃がしたから、それで何か変なこと考えられたらいやだから)名前は言えないけど黒髪の人と、3匹のゴブリン、あ!あと何かそのご主人様見たいな魔族が居ました!」

そんな言葉が彼女から連続して出てくるのに、僕ことヴィト・ローズは少し懐疑的な目で、アンナ・シュトレンは紙とペンを動かす手を止めて彼女を睨み始めた。まるで狼のように鋭く、そしてどす黒く。



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