~神の庭園・地下牢~
日の光が当たらないほどの地下牢。そこはいかにも牢獄と言えるように、鉄格子で区切られた部屋が何十もあった。中には鎖が壁にかけられている所もあった。地下牢に収監されて投獄されて、多分飯とかもろくに与えられずに死んでいくのだろう。そんな感じで絶望していると、一団は急に止まって、カカリから順番に入れられていった。
アルペン「ここに入ってもらう!」
目の前の軍人気取りの信者は、命令のようにそれを言っていた。僕たちは投げられるようにそこに入れられる。前原悟に関しては、既に使い古した雑巾のようにボロボロになっており、そこに人間の魂は無かった。死んだようにぐったりとしていて、何もその投げられたことにすら気づいていなかっただろう。
そんな僕は地面に投げられた後、その反動で目を覚ました。
前原悟「う・・・うぅ・・・」
僕は暗く冷たい石畳の上で目を覚ました。もう目覚めないかと思っていたが。
カカリ「大丈夫ですか?」
そう言ってメガネをかけたゴブリンが駆け寄った。しかし、
魔王「別に大丈夫よ。いずれ勇者になるマエハラだから」
そんな様子を見ていた魔王アルティノはそこに行くのを止めた。なぜなら勇者として誰の力も頼らずにその勇者という肩書にふさわしい強さを手に入れるべきという魔王なりの考えなのだ。だったらなんで最初助けたんだ?こいつら主体でやった勇者探し初回特典を記念して全回復してやっただけか?
前原「大丈夫、大丈夫だから。カカリ」
僕はなんとか腕を上げて、自分は生きていると証明する。すると、その横にいるゴブリン、カカリは少し喜んでいた。他人に生きているだけで喜ばれたのはなんか不思議だなぁ。僕が死んだときは誰もいなかったけど。そうして僕は起き上がって周りを見る。どうやら監獄のようだ。勿論こんなステージなんて作ってもいないのに、どうしてあるのかが分からないが。ここで、そのアイセラ大陸というゲームを思い返してみよう。彼の作った作品はお世辞にも良いゲームとは言えなかった。なぜなら、作成途中でUIすらまともに表示できなかったのだ。どういうことかと言うと、このアイセラ大陸には元々こんな建物すら無かった。たった4人の人形、いうなればコード作成を頑張りすぎて、もはやコンピューターとは言えなくなった人間に近い人たちとTerrainの上に作った山を型取っただけの物で作成途中だったが。
魔王「立てるでしょ?」
彼女はそんな僕の身にも関わらず、僕にとって厳しい事を言う。そこにいたのは15歳の少女であるアルティノではなく、魔王だった。僕はなんとか彼女に立ち向かう勇者のように、腕と足に力を込めて立ち上がろうとする。幸い疲れているだけなのか、足や腕は切られていないようだ。なんとか残っている力を振り絞って僕は直立になる。そして、鉄格子から少しずつ距離を離して
魔王「大丈夫そうね」
カカリ「とりあえず御無事でよかったですマエハラさん。怪我とかは・・・」
前原「ああ大丈夫。あのステッキで殴られていたけど、実はね、あれって殴った後に回復する奴でね、なんか体自体は無事だよ。めちゃくちゃ疲れているけど」
そんな感じで言いながら、魔王アルティノの方を見るともはや弟子となった主人公の奮闘をただじっと見ているような師匠のような顔をしていた。
そんな中、僕は何か抜け出す方法を考えていた。ここは異世界、3食飯付き寝床ありの日本の刑務所とは違って誰も気にかけない。むしろ誰も僕達を世話しないのだから。
魔王「とにかく、ここから抜けださないとね。なんか道具でもある?カカリ、ネチネチ、ガヴリ」
そんな中、冷静を貫く彼女は神妙な顔つきをしていた。まるで何か考え事をしているような、そんな顔。
魔王「(少しマズイわね。このまま関係が騎士団や神の庭園に分かってしまったら恐らくクーデターの未遂かウソを流しただとかで(マエハラが)処刑されるわね。それは何とか防がないと魔王としてのプライドが許さない・・・それと私が魔王でその人は死んだ。ってちゃんと証明してもらわないと困るわ。とりあえず今はここからどうやって脱出するか考えないと)ねえ、カカリ。ちょっといい?」
彼女は魔王の側近として活躍しているカカリを呼んだ。
カカリ「なんでしょうか魔王様?」
その呼びかけにカカリはすぐ反応して、片膝を床に付けるように跪いた。
魔王「あの~魔法って今出せる?それでさ、この鉄格子を切って脱出できるかしら?」
カカリは一瞬考えた後、少し難しい顔をして、首を振りながらこう答えていた。
カカリ「えっと~、私は氷霜魔法と雷電魔法なら大得意なのですが・・・火炎や防風などは焚火の火種を燃やせるだけですし、そよ風程度の風を起こすだけですよ?水とかも出せることは出来ますけど、おもちゃ程度ですよ。しかもこれは鉄ですからそうそう私の元素魔法程度では切れませんよ?」
そんな否定的な回答に対して、彼女は少し怪訝そうな顔をしていた。
魔王「ほら、アレを使うのよアレを!何だっけ・・・えっと、う~ん・・・混合魔法!例えばあなたの得意な魔法である氷霜魔法と、私の得意な魔法・・・まあ全般出来るけど特に火炎魔法で、目の前の鉄格子なんか簡単に切れちゃう凄い奴を作るの!」
しかし、そんな答えにカカリは少し口を噤んだ。
カカリ「正気ですか?氷と炎なんかで「一応出来るぞ」
だが、その否を魔王が聞くまでに、ある者が横やりを入れた。それは、疲れて奥の方で壁にもたれかかっていたこの僕、前原悟だった。
前原「一応、異世界転生者としての知識を披露するんだけど、えっと・・・僕の元居た世界ではね、水を高圧で噴射してその威力で鉄とかを切断出来る物が出来るんだよ。確か名前は・・・ウォータージェット、だったっけなぁ」
そんなように呟いている僕は、魔王含む4人の目を僕に釘付けにさせていた。
前原「・・・あ、ちょっとわからなかったかn「それです!」
その瞬間、カカリの顔は少し口角が上がり、目を光らせてその話を聞いていた。何かに分からなかったものが一気に紐解けて分かったと、そんな感情を顔に出していた。
カカリ「じゃあ今から実践してみます。ガヴリ、ネチネチ、マエハラさんは下がっていてください」
そう言うと、彼女たちは二人で横一列になって手を目の前に出す。
カカリ「我らが氷の精霊よ!我が指の下に集まり、絶大なる力を合図と共に放出せよ!」
アルティノ「我の血に集いし古代龍よ!その大いなる力を!我が息吹で地dを裂きし暴風と火炎を放ち給え!」
そしてもう一方は顔の前で三角形を作り、腰を後ろに突き出してそう言った。
しかし、なにか問題があった。カカリの方は大きな氷柱を作り出したのだが、魔王アルティノの目の前には何も炎さえ出なかった。
アルティノ「あれ?わ、我の血に集いし古代龍よ!その大いなる力を!我が息吹で放ち給え!」
もう一度そう言うが、結局何も起こらない。
カカリ「あ、魔王様・・・呪いかけましたよね」
アルティノ「え?呪いなんか・・・かけたわ。忘れてた、さっきの忙しさで」
それを聞いた途端、カカリは上を向いて呆れたような顔をして、
カカリ「ダメですかぁ~~・・・でもその“呪い”を外したとしてアレですよ?全員気づきますよ?全員あなたが魔王だって。だってここの信者は平均して知力がB~Aの辺りです。特にアルペンという男は・・・おそらく人間の持っている平均的な知力とは桁外れです。魔王様とは天と地ほどの差ですが、あのニンゲン、心はおろか力もニンゲンを辞めております」
そうため息のように呟いていた。
アルティノ「どうして知っているの?」
そんな彼女は少し興味があってそう聞いてみた。
カカリ「歩いてる時に周りの“ステータス”をメガネで確認していました。幸いこのメガネが魔法道具だとバレなくて良かったです」
アルティノ「すごいわね、流石私の護衛」
僕たちは“あぁ、やっぱりか・・・”という顔をして、あきらめかけていた。しかし、僕は相談をするためにアルファ掲示板を開いた。そして、スレッドとはいかないがとある質問を立てる。すると、
前原悟“神の庭園通って魔族領行こうとしたらボコボコにされて地下牢にぶち込まれました。アイデアで脱獄を実践してみます”
アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限“それは災難に遭いましたね。やっぱり神の庭園は何も変わっていない。私が来た時も少なくとも疑われたことがあります。”
そんな中、唯一ゴールド講師さんが話に乗ってくれた。彼もあるのか、じゃあこの宗教の施設ヤバいでしょかなり。
そんな風に思っていると、とあるコメントが僕が上にあるのが見えた。そこに書かれていたのは
信者どもは貢ぐべし“これなに”
というひらがなで書かれた文だった。いや、ひらがなというよりパソコンを初めて触った人の書く文章といえばいいのだろうか?しかし、信者どもは貢ぐべしとか、アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限とか、この大陸の人達は掲示板で大喜利をする傾向が多いというデータが取れそうな程だ。実に面白い、ちょっとこの能力が好きになった。
とりあえず、新規の方々のためにこれを説明する責任があると思って、僕はその信者どもは貢ぐべしという名前の人を乗せて、手取り足取りこれが何かを書いておいた。
マエハラサトル“これはアルファ掲示板という物で、遠くの所にいてもまるで近くにいるように話すことが出来る物です。話して伝えるという方法ではありませんが、本のような文字を使って話すんです”
そんな感じで、まるで祖父にインターネットを教える孫のように簡潔に、そして分かりやすく説明したら、どうやら見ていたらしかった。
信者どもは貢ぐべし“ありがとう、それより地下牢に囚われているのですか?”
マエハラサトル“はい、集団で他の魔族と一緒に地下牢に収監されました。”