そんな初体験に歓喜している中、地に這いつくばっている人間とそれを止めようとしたゴブリンがそこを通るのに苦戦していた。
どうしてしまおうか、このまま反抗するにせよ疲れてしまって動けない。もう抗うのはやめてしまおうか、
カカリ「なぜなのですか?なぜあなた達はそんな事をやってのけるのですか?これらはもう・・・完全に私たち魔族のやっている事となんら変わらないのではありませんか!」
よせ、カカリ。そいつらはお前さんの話を聞いてはいと頷いて納得するような奴らじゃねえ。むしろお前さんの命がヤバいんだ。カカリより話の通じねえ奴なんだ。
「おい、こいつ魔族のくせに生意気にニンゲンに歯向かってるぞ?偉そうな身分に成れたのは誰のおかげだ?ん?」
「いい感じの服なんか着ちまってよぉ?ん?お前のご主人様に買ってもらったのか?」
そう言いながら、番人の一人はその服をひらひらと掴んで言う。そしてその声の途端、二人の間からは笑い声が聞こえてくる。それは面白いから笑うではなくて、カカリの恰好や言い回しを嘲笑うのだ。しかし、その緑色の肌のゴブリンは、少し拳を握っていた。頭には血管が昇り、あと一歩の寸前だった。
辞めろカカリ。殺されるのはあんただぞ。ここは大人しく従うんだ。
アルティノ「あの~ちょっとひと悶着やっている所申し訳ないのだけど」
そんな対立が吹き荒れる中、魔王アルティノは一人堂々としていた。やっぱり魔王だ、意外と動じない物だなぁと感心していると、その顔を見れば澄ましたような顔で居た。おいおい、いくら何でも平静とは言えこの状況を分かってないんじゃないか?
そんな考えが頭をよぎる中、魔王はそのまま淡々と告げる。
アルティノ「そのご主人様っていうのは、私の事を指しているの?」
まじかよこいつ、今それを言うか?まるで空気を読んでいないよこの魔王。
「は?」
「おい嬢ちゃん。あんたがこいつらのご主人様かい?ってなわけねえよな?パパじゃねえのか?本当は」
そんな煽りにも負けず、いや効かずにそのまま淡々と言う。
アルティノ「いいえ、彼らは私の護衛なのだけど」
まるで彼女は、もはや魔王と言える貫禄をその守衛の者たちに向けていた。そして、先ほどまでその彼女の護衛を笑っていた顔は曇り、静かに怒る顔を見せている。
「お前らはここを通さない」
「死にたくなければ引き返せ」
石のように固い口調で言っては、今度はその魔法のサディストなステッキを魔王たちに向けた。彼らは各々臨戦態勢を整え、その大きな見た目は白いが中身はどす黒い物へと挑もうとしていると、
「動くな!全員監獄行きだ!」
後ろから白いローブを連れた集団と、周りとは違う何か幹部のような奴がそう言って、その白いローブの集団に僕達を囲んだ。先ほどの守衛より長く白い魔法の杖を持って、まるでライフルのように先端の青い大きな球を僕たちに向けながら。そして2段の列になって構えながら。
「我が名はアルペン!聖女セシリア及びその神の命の下に貴様たちを新月まで監禁する!抵抗するなら処刑しても構わない!」
その声が響き渡ると、目の前の守衛たちは立ち止まって、振り返ってから“休め”の姿勢をした。ここで言う所の敬礼に当たる物だろう。
「星の信者の人あらざる者1、魔族4の集団です」
アルペン「ご苦労!」
まるで軍人のような号令はその守衛を下がらせて、その部下に当たるであろう周りの連中にここを任せた。一方その頃、倒れた時の地面から横目から魔王とその護衛一行は全員跪いていた。
ネチネチ『魔王様、マズイです。あの杖はおそらく対魔族用に作られた奴です。掠りでもしたら俺たちの命はありません。しかも魔王様は魔力探知対策のために呪いを自分に振りかけていますから今ならやられ兼ねません』
その時、ネチネチは人間にとっては分からない魔族の言葉でその雇い主、アルティノにそう告げた。その口の先にある彼女の耳はバッチリそれを聞いていた。そのため、彼女もそこで魔王としての力を開放することも無く、泣く泣く降伏したという事だ。
そうして、その魔王の方にいる全員が降伏したのが分かると、周りはその武装を解除して、二人一組でその魔王の一団と、僕の腕を掴んで引っ張っていく。
ネチネチ「ちょっ!俺は一人で歩けるって!引っ張んなって!」
一人は自分で歩けると抵抗するものの、そんな事を聞かずに腕を掴んでいる。すなわち、彼らのペースに合わせざるを得なかった。一方その頃前原悟はというと、足を引きずりながら、意識のないまま彼らに連れて行かれた。吊られた両手に、それに引き釣られる足は、そこに監獄への道を作っているようだった。魔王アルティノは後方にいて、それらと同じく手を掴まれ付いていくだけだった。
~~~~~
その最中を私ことセシリアはじっくりと見ていた。そして私はこう決心する。
セシリア「もういいや、あいつら破門。クビ!二度とこの神の庭園の領地に踏み入れさせないわ。信者ではない人や魔族の方々に向かって暴力を振るったから破門されるべき対象よっ!!」
そう考えた途端、ちょっと怒りが湧いてきて、
セシリア「絶対にっ!!!!!」
私は壁に拳で殴ろうとした。だがしかし、手にジーンときたのは痛みだった。
セシリア「いったぁ・・・!!2回目よ2回目・・・絶対指の一本か二本ぐらい折れたはず・・・」
そんなバカな事に時間を割いていることがおかしいというほどの痛みだった。私はそれを手を振るいながら、何とか痛みを抑えようとする。
そうしながら、彼女はその部屋から出て行ったのだった。