そんなヴィトやアンナが戦っている中、魔王城で勇者体験ツアー御一行様は、とある場所に来ていた。そう、このアイセラ大陸の中央にある“神の庭園総本部”である。目の前の建物は、この大陸内で最も高く、その権威を象徴するようにそびえ立っていた。目の前にいる短い杖、すなわちステッキを持って、白いローブに身を包んだ男二人が通ずる道で構えていた。ここは関所の筈だ。まるでここを通る事を禁ずるというように、僕たちを睨みつけていた。
そうやってやがて距離数メートルに近づくと、
「身分証を」
と重い口調でそう一人は呟いた。僕はその声に怖気づいて、慌てて自分が持っている札を出す。しかし、その札と共に出てきてはいけない物が手に引っかかっていた。だけども僕はそのペンダントをそのままポケットに入れ返していると、
「おい」
声がもう一つ、後ろから聞こえた。それは二人組の守衛のうち一人で、僕たちを後ろから監視していた男だった。そいつが手に持っていたのは余りにも短くて、まるで大きなローブに隠し収まるような程だった。それは何処か先端の宝石が収められている所が光っていた。
「星の信者か?」
そんな石のように固く発されるような声は、まるで僕らに石を投げるような声だった。
前原「いや、僕はちがいますn「嘘を吐くな」
そんな言い訳は、目の前にいる者によって遮られた。僕は自身とアルティノ達の身分の潔白を証明するために、ポケットに入っていたそのペンダントをもう一度出した。いや、出してしまったのだ。その瞬間、ゴンと言う音と共に後頭部に重い衝撃が走る。まるで金属バットで打たれたような衝撃が。僕はそれに耐えられなくて、すぐに倒れる。結局この世界でも死ぬんだな、そういう風に考えている暇もなく続々と、打撃が僕の背中にやって来た。
「このクソ信者が!!セシリア様の忠実な信徒を根こそぎ奪いやがって!」
「死ね!!祈りながら死ね!」
「てめえらは俺らの神聖なセシリア様とは違ってドブネズミみてぇな薄暗ぇ汚ぇゴミのような分際でここに来るんじゃねえ!ここはてめえらと違って神聖な場所だ!さっさと死にやがれクソ野郎!!ゴミ!クズ!」
二人の連鎖した打撃が、僕のバックに圧し掛かった。そんなことも気にかけず彼らは、僕に向かってあたかも邪教徒であるように、その魔法のステッキで殴り続けた。しかもさらに最悪なのは、そのステッキで発動する回復魔法。セシリアとかいうこいつらが信じているアバズレ野郎の善意だか善意よりのサイコパスな悪意だか知らないが。そんな回復されていく自分の身体は疲れていった。
カカリ「お辞めください!」
そんな中、唇を噛み締めて黙っていたカカリが大声で言った。それを途端に、僕に対する攻撃と回復の繰り返しが終わる。上に圧し掛かっていた魔法と打撃の連続は終わり、おそらくゴブリンの方にあの、痛々しくも惨たらしい攻撃をさせられるのか、その事に絶望してもう止められずにいた。いや、もしかしたらさっきの攻撃と回復によって±0だから動けるのかと思ったが、疲れによって動けなくなっていた。どう脳みそが指令しても筋肉は動かない。
その様子を見ていたのは、その恒久なる権威を象徴するように高い、そびえ立つ塔の主で、この惨状をよく思わない者がいた。
~教団の最上階の一室~
そんな惨状をよく思わない彼女は、目を窄めてその様子を見ていた。
セシリア「え?何してんの?本っ当に何してんの?なんで私を信奉する忠実なる信徒の方々は、ああいう馬鹿な事を平然とやってのけるの?本当に教範作って広めようかしらほんと」
そんなことを愚痴りながら、バルコニーからその様子を紅茶を吹かしながら見ていた。
セシリア「はぁ・・・だから私の宗教は何か煙たがられるのよ。うーん・・・」
そんな彼女は鬱憤をどこかに晴らそうと考えた。そう考えて、私はまたあの娘が来るまで待とう、そうしたがその苛立ちははらわたを煮えくり返らせていた。それはなぜか?彼女自身の所の教団のネームバリューも兼ねてだが、彼女の内心にある良心がそれを許さなかった。
セシリア「アッタマ来た!!あの二人は破門よッ!」
そんな事を叫ぶが、距離があまりにも遠くてそれは聞こえない。あまりにも私のいる場所が高すぎるのだ。何度この高い塔を呪ったのだろうか。何度この高い権威を逆に呪ったのだろうか。何度考えたのだろうか、この塔を壊す事に。
私は手すりから身を乗り出してそれを見ていたが、そこから手を離してその部屋から出ようとしたその時、何か白いパネルが私の左手の方に出てきた。
セシリア「何?これ。誰か?誰かこれを説明していただけないでしょうか!?」
そう叫ぶもの、私だけの声がその部屋と廊下に反響するだけだった。
「・・・」
シーンとしたその部屋。誰も答える人はいなかった。
私はそうやって誰か助けてくれる信者を呼ぼうとするが、誰も来ない。もはやここに来るのは配膳する方だけのようだ。
セシリア「こんな時に来ないなんて本当にどうにかしてるわ!!ほんっとこのクソッタレ!私が牛舎で掃除していた時のクソ以下だ信者のお前等は!さっさと私に貢いだ方がマシだこのおバカ!」
ガンッ
そう怒りながら、木のドアに彼女なりの蹴りを入れる。しかし、
セシリア「いったぁぁぁ~~~!!コユ~ビ~!」
裸足だったのですごく痛かった。特に小指を強く打ちつけたのかその痛みで少し涙目になり、地面にのたうち回る。流石に彼女のストレスはもう限界だった。そのため、目の前のパネルに対してもどこか行けとはたこうとしたら、空を切っているだけの様だった。まるでそこに見えるとだけあって、そこにはない。幻覚を見ている様だった。
しかし、さらに驚いたのはそれがただの幻覚ではない。でも私は見たことがある。あの時、白いうねうねした物が空に漂って覆いつくしたときに。
セシリア「やる気?」
そんな私は少し苛立ちを感じた。そう言って、その白い実体の無い物には恨みがあることを思い出したのだ。あの時、私には決して起きもしない頭痛が、そのうねうねとこの目の前にある白いパネルによって起きたのだから。そんな元凶は何もない空白にいきなり文字が現れてきた。ピコピコと短い間光っては消える一本の棒から、文字が生成されて。“接続しますか?”そんな文が表面に出された。“はい”と“いいえ”の言葉と共に。
セシリア「なにこれ?」
そんな様子に、私は怒りを超えて驚きが舞い込んだ。そうして私はまたその白いパネルを一本指で触ってみる。しかし何と偶然なのだろうか、はたまた神のいたずらだろうか、私の指は自然に“はい”の上にあった。その指が触れる瞬間、白いパネルはにわかに消えてまた違う物が出てくる。今度はその同じようなパネルに近い物に、白い長方形で黒い枠線で囲まれた中に、また短い間点滅する細い棒があった。そこに何か私は書いてやろうと、その下にそのパネルと準じて出てきた、文字が大量に書かれたまるで私が良く遊んでいるチェスの盤面のように細長い物で。
だけどその文字の盤面におそるおそる触れる。すると、私の薬指がその内のどこかに触れたのか、その文字がパネルの中にある長方形に、細い一本の棒から作られて出てきた。いや、私がその盤面の一つ一つを押す度に、それが一本の棒から生成されて、作られていく。
セシリア「え~~~っと・・・しんじゃどもは、みつぐべしっ・・・と!出来た・・・!出来たわ!」
そんなこんなで彼女は自分の願望をそこに書いた。名前を書くのはなにか、危ない目に巻き込まれそうと私の直感がそう言っているからだ。
セシリア「えっと~・・・これは何をする物なの?これだけ?」
しかし、それだけでは何も起こらない。なぜならそれは名前を入れる欄であって、エンターキーなりOKなりを押さない限りはその次には進めないのだ。そんなポカンとしている“神の代行者”ことセシリアは、そこでずっと固まっていた。まるでウィンドウズ97の青いフリーズ画面のように、今にもデン!と音が鳴りそうな感じだった。
しかし、彼女はどこか違うのではないかと考えた。なぜなら魔法の呪文のように、少しでも違っている箇所があれば発動できないということがあるのではないかという事を。おそらくこれは実体がないので魔法である。そんな中、セシリアはゆっくりと左手で、その文字のチェス盤に触ろうとする。すると、何かの奇跡なのか、いや神のお導きなのか分からなかったが、偶然にせよEnterキーに該当する部分を触っていた。その瞬間、目の前に出ていた画面が急に変わる。それは、大量の文字で形どられた会話文。その中には確認できる限り複数人が話しているのが確認できた。“マエハラサトル”、“サラリー魔ン”、“アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限”、“ABS553”という、恐らくこのアイセラ大陸のどこを探しても存在しないような名前だ。
アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限“そういえばマエハラさん、先ほどから連絡が途絶えておりますね。何か重大な事に巻き込まれていなければ良いのですが”
ABS553“おそらく外出している最中という事かも知れませんね。アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限さん”
まるで彼らは人間が言っているように、人が演じているかのように人間らしかった。これはおそらく魔法ではあるが、中にいる人間がいる。もし魔法なら、自動でまるで人間味のないニンゲン、すなわち人あらざる者、すなわち魔族などが自動で書いたような文章だし、所々文法が間違っているはず。私はそんな初めての体験を噛み締めた。しかし、私の目にはそれ以外の事も映っていた。それは、この無駄に高いだけの建物の謎であった。
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