草むらに隠れた魔王アルティノ、ガヴリ達はそこから逃げるつもりであった。
アルティノ「どうやらマエハラは上手く切り抜けているようね。このまま盗賊を全滅させる事は出来るだろうけど、時間がかかるからさっさと次に行きましょ?」
私は草むらから飛び出し、前原悟とネチネチを呼び戻そうと、あまり苦労をしないその身を走らせ、
アルティノ「ネチネチ!」
その声を出して、“早く帰るぞ”と、を顎で指図する。ネチネチはそれを合図として受け取り、ヴィトには見えない形で撤収していった。彼は一本道から木々と草むらの影に向かい、忽然と姿をそこから消した。
アルティノ「・・・次はマエハラね」
そんなことを呟きながら、さらに一本道の先に向かって行った。
先ほど冷えるような空気が私の頬に伝わったのは言うまでもない。
そして少し走ったところに見えたのは緑色に光る木の葉ではなく、それはもう白銀の雪景色、木の枝に雪のような白い物が積もっているのが見えた。マエハラだ、マエハラサトルだ!
そこへ向かって走ると、少し血で赤みがかった青色の服を着た、マエハラが立っていた。その周りには氷漬けにされた盗賊達がその直前にしていた動きで止まり、まるで彫刻のようになっていた。氷の芸術かしら、私は魔王城の地下にある冷蔵室の所で冷凍されているニンゲンの男と女を思い出した。一度小さかった頃に、私が魔王を倒して継承する前に、一度だけ行ったあの場所で見たあの忘れられない光景が今でも焼き付いて・・・って、この話は私が死ぬまで誰にも話さないっていう約束だったでしょ!
私がそんなことを考えていると、マエハラが追いかけようとしていた。
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その声がした先には魔王アルティノが居て、彼女は待っていた。
アルティノ「ここで時間を費やしていたら間に合わないわ。そんな雑魚ばっかり倒してたら日が暮れr「ちょっと待って」
しかし、彼女の声は前原悟によって遮られる。
アルティノ「何?」
彼女は少し怪訝そうに聞いた。
前原「あのぉ~雑魚ってところ少し変えて、雑と魚の間に小さいぁを入れて発音してみてくれ」
僕はそう言うと、彼女は少し不思議そうな顔をして、
アルティノ「え、雑ぁ魚って?」
前原「そうそうそう!じゃあその最後に♡付けて妖艶にしゃべってみてくれ」
完全に前原悟はゲスのような顔をしていた。そうである、彼は魔王アルティノを言葉巧みに利用し、メスガキにしようとしているのだ。
アルティノ「え?それって「いいからいいから!」
僕はそうやって急かすと、彼女は少し口ごもりをして恥ずかしそうに、
アルティノ「・・・ざ、雑ぁ魚♡」
そう言った。僕は少し安心したので、まあそれでついていくこととした。
前原「よし、ありがとう。元気が出た」
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アルティノについていくと、彼女の護衛であるカカリ、ガヴリ、ネチネチが待っていた。
カカリ「間に合ったようですね。行きましょう」
メガネをかけたゴブリンがそう言った。
ネチネチ「ああ」
そして所々血や泥で体が汚れているネチネチも、それに相槌を打 って腕を組んでいた。その一団は合流すると、また足を進める。それはなにか、魔王城に進むジャーニーである。
前原「それより、どうやってあの状況を抜け出したんだ?ネチネチ・・・さん」
ネチネチ「さんはいらねえ、呼び捨てで良い。簡単だよ。敵が逃げたからそれを追いかけるって体で離脱した」
そんな説明からは予想できないような事が彼の口から発せられた。ネチネチならもっと強行突破とかしているかと思ったが、以外と頭の良いやり方だった。
ネチネチ「おいちょっと今小馬鹿にしただろ」
まさかの考えていることがバレた。なんで分かったんだこいつ?
ネチネチ「なんで分かったんだこいつって?お前さんさぁ、魔王の護衛を侮るなかれ。ニンゲン一人の心なんざ簡単に分かるさ」
なるほどなぁ、と僕は感心した。やっぱり魔王の護衛としてちゃんとこいつらは動いてる。本当にこいつらはプロだ。
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一方その頃、自分が旅に置いて行かれたと思っているヴィトと、付いて来ざるを得なかったアンナは、盗賊達の襲撃に遭っていた。戦力は少し減っていたからか、彼女たちは苦戦していた。
ザンッ
彼女は剣を振り落とし、その盗賊を倒す。そしてそれが終わったらまた一人と戦っていった。その茨と刀身は、返り血によって赤くなり、まるで薔薇のようになっていた。
ヴィト「・・・ふぅ」
一息ついた後、彼女は横に剣を捌くが、空を切るだけだった。見たところ、逃げられたかもうすでに全員倒したか。“やったか?”と思うほどだった。まあそういう時は大体やってないのであるが、しかし辺りを見回した時、もうすでに周りの盗賊はいなくなっていた。
居たとするならば、遠くで腰を抜かしてこちらを見ている2人が居た。赤いバンダナを着けた盗賊、おそらく下っ端の奴らだろう。目が合った途端、その二人は逃げ出す。でも、僕は剣をヒョイッと投げる。それはクルクルと回転し、その先には逃げ出した盗賊の内一人、そいつはクロスボウを持っていた男だった。その背中にグサリと刺さって、動かなくなる。だが、もう一方はその刺さって動かなくなっている方に目もくれず、一目散にどこかへと走っていった。
僕の剣は魔法が解けて、薔薇のような茨の棘は無くなり、血が付いたその剣を血が付いたままそれを鞘に納める。
バスッ
しかし、その風を横切る音と重くはじける弦の音は僕の剣を抜かせないようにした。その矢は盗賊には少し。僕はその剣の柄を握っていたが、流石に後ろから倒したり、追いかけたりするのは僕の騎士道と反する。だからそれを握る事を辞めた。
ヴィト「ふぅ、あのバンダナどこかで・・・いや、見たことないや。ただの見間違いだね」
そのシュンと投げた剣に寄り、その刺さった剣とその盗賊が着けていたであろうバンダナを拾い上げながら言った。
~~~~~
その走る盗賊は、心臓の鼓動を早くしながら、その騎士に恐怖しながら逃げていた。
「今頃さっきの騎士やエルフや魔族のあの売女共の身ぐるみを俺たちが剥いでいたはずなのに!どうしてあのクソッタレ女騎士が居やがる!?あいつはもうローズ家の襲撃で・・・そ、そうだ!俺らが殺したはずなんだ!ありゃあ別の奴だ。別人なんだ!アヒャヒャヒャヒャヒャああああ!!!」
そんなことを言いながら、それはもう世界が終わったように笑いながら走っている。行先もなく、場所もなく、ただそこにある恐怖から逃げるように。