二人だけの決闘の場。お互いがお互いの体勢のまま膠着しており、どうも静から動へともどらない。
ヴィト「フーっ・・・そろそろ降参したら?疲れたでしょ?」
ネチネチ「そっちこそ降参したらどうだ?こっちはまだ奥の手を残しているんだけどなぁ?“体力強化”っていう奥の手がなぁっ!!」
ヴィト「偶然だね。こっちも同じ魔法だよっ!」
そんな事を言っていると、互いに何かオーラのような、オレンジ色の外套のような物が現れ始めた。その数秒後、彼らはその体勢を崩し、各々のファイティングスタイルを取る。まず先陣を切ったのがネチネチ。彼女の肩を掴んで右足で膝蹴りを食らわした。それを食らったヴィトは、少しネチネチとの距離が空く。その次の瞬間、ネチネチの渾身の蹴りが回るが、彼女はそれを頭を下げつつ、四つん這いになりつつ避けた。しかし、その四つん這いになった行動は回避のための行動ではなく、“抵抗”のための行動という事をネチネチは知らない。
彼女は下に落ちていた剣を掴み、一転した後立ち上がってネチネチの横に立った。
ヴィト「形成逆転だね?」
彼女はそう呟いて、横から、彼の死角から横に切りかかった。だが、一歩ネチネチの方がそれに対応した。彼は左手の外側で剣が切りかかるのを防ぎ、右手でボディブロウを彼女の腹に食らわす。
ヴィト「グッフォ!」
そんな息が彼女の口から吐かれる。
ネチネチ「どうだ?効いたか?」
その威力を観察するかのごとく、下からそう聞く。
ヴィト「・・・僕も君と同じ魔法を持っているって聞いていたかい?」
だが、そんな口から息が押しつぶされることも関係なく、ニヤニヤと笑いながら、騎士とはもう言えない顔で笑いながら言った。
ネチネチ「・・・ふん」
ヴィト「もう遅いよ?」
まるで猫のように目を光らせた彼女は剣を上に突き上げ、振り下ろそうとする。だがしかし、その二人の愛し合うような戦いを魅せるカップルに、一つの邪魔が入った。
シュンッ
その邪魔はまるで光のように早く、細長い物だった。
それは木に刺さって、やがてその正体が露わになる。矢だった。その矢尻からは何か毒のような紫色の物が垂れていた。
~~~~~
私ことアルティノは、その飛んできた矢がどこから出ているのか分かった。先ほどの手練れな猟師のエルフではなく、まるで機械で飛ばしたような音だった。
カカリ「魔王様!盗賊です!」
私の隣にいる魔法に富んだゴブリンのカカリがそう言った。
アルティノ「え?盗賊?・・・ああ、盗賊ね」
カカリ「早く隠れましょう!」
私は手を引かれ、近くの草むらへと隠れた。
ガヴリ「まってくれ~!魔王様、カカリ~!」
それにつられてガヴリも草むらへと隠れていった。魔王アルティノは何を考えていたかというと、
アルティノ「(う~ん・・・勇者候補のマエハラは大丈夫なの?)」
~~~~~
互いに揉み合いをしている僕とアンナは、矢が木に刺さった音で目が覚めた。
前原「なあ、今撃ったのって・・・」
その矢について彼女に聞いたが、
アンナ「わ、私じゃないですよ!」
首を振って否定された。
前原「じゃあ誰なんだ?」
アンナ「も、もしかしたらなのですg「おいおい、お熱いカップルが外でせっせこ子作りとは精が出るなぁ?」
その声の下を見ると、後ろにボロボロの服と所々敗れたズボンを着て、頭を角刈りにし、そして何かと目立つ赤いバンダナを着けた男が後ろに立っていた。その瞬間、周りは同じような恰好で、そしてチームであることを示すような赤いバンダナを各所に着けていた。
「なあ、エルフの嬢ちゃんと・・・いいとこの坊ちゃん。どっちも売ったら高く売れそうじゃねえか。え?エルフの方は締まりのよさそうな性奴隷、と・・・あの坊主は奴隷として売った方が価値になる」
そんな卑劣な事を言いながら、そして僕たちのことを指さしながらそう言った。
「なあ、お前さんの首に鉄が欲しくなけりゃついてこい?でなけりゃ、分かるな?」
そうやって一人は僕の肩に手をやっており、残りの数人はエルフの方に向かった。だけど、僕は鞘のない剣を抜いて、そいつに切りつける。すると、その僕よりも数十センチ大きいその男は、僕の剣によって胸を切り裂かれ、浅い傷だが倒れた。周りはその様子に動揺していた。その瞬間、全員はナイフなり剣なりを懐や後ろから取り出し、その研いですらないボロボロの刃先がチラつく。
「てめえ、八つ裂きにしてやる!」
まずは小さなナイフ、いわゆるダガーを突き付けてこちらに向かってくる。
「ドスπロスペラペラソース!」
その瞬間、すぐに下からそいつを刺そうとしてきた。何かこの展開はあの洞窟で見たような猪数匹がチラつくが、とにかくそのダガーを避けた。どうやって?そりゃあもちろん・・・
「死ねぇーー!!!」
僕は横に避けてそのダガーを掴む。そして、その刃先をバンダナの野郎に向ける。それはプルプルと震えていて、どちらが強いかの力勝負になった。そのバンダナ野郎のノースリーブでボロボロの服から筋肉が露わになるが、構わず僕はそのまま突き刺していく。そういえば避け方が悪かったのか、剣をどこかに落としてしまった。
「ふぬぬぬぬっ!」
「グぐぐぐぐっ!!」
その盗賊は段々と押されていき、やがて刃先は胸から数ミリの所で膠着していた。あと数ミリ、僕はその場でトントンとダガーの下の部分、言うなれば握っている柄の底の部分を押し込んだ。だが、どれだけやっても彼の胸にはダガーは突き刺さらない。それどころか服にすら届いていなかった。そのぼろ布の野郎でありながら皮肉にもついた腕の筋肉が、それを防いでいるという事だ。
野郎どうしてやろう?腕の筋でも掴んで力を出させないようにするか。それとも何か打撃で怯ませてしまおうか。
「右がお留守番だぜ・・・オラッ!」
その声の後に重い、ドスっとしたような衝撃が走る。揉み合いになっている中、僕は周りにいるもう数人盗賊に右のわき腹を蹴られたのだ。その初めの衝撃に悶え、地面にうずくまって、
前原「いってぇぇぇ~・・・」
そんなよわっちい声を出していた。だけど、それがその聞く耳どころか耳を切り落とされて持ってなさそうな奴らに届くはずもなく、さらなる蹴りが背中、足、そして腹にやって来た。
「このクソ野郎め!最もフィジカルで最もプリミティブで最もフェティッシュなやり方でぶっ殺してやる!!」
そんな余計に筋肉と語彙だけは大量に持ち合わせている盗賊たちは蹴りを繰り返す。僕は何とか頭だけを守って、それに負けじとしている。その蹴りは滞りなく続き、一人が木の角材を取り出して、さらにそれで殴り始めた。もはやリンチである。
そんな最中、突然バスっと音がした後僕の腹を蹴っていたのが止んだ。そのかがめた手と頭の隙間から見ると、僕のお腹を胎児とは大違いの勢いでまるでクリスティアーノ・ロナウドの時速132㎞のシュートのように蹴っていた盗賊が、頭から血を噴き出しながら倒れていた。見ると頭には矢が刺さっており、それは僕にとっても見える程だった。横から見えた、という事はおそらく角度的にアンナの居た方向から撃たれたものに違いなかった。
その盗賊に囲まれた足の隙間から見ると、残心に浸っているアンナが、そこで弓を下ろしていた。彼女の張り詰めた弓は戻っており、彼女の顔はまるで猟師のようだった。先ほどの動揺し、ぶるぶると震えていた彼女はそこにいなく、周りはすでに目に矢を射られたり、彼女が隠し持っていたであろうと思われる刃渡り数センチのナイフで喉元を掻っ切られていた。
僕の周りにいる連中はそれに気づき、そこへ向かった事で居なくなり、その蹴りばっかりの攻撃から解き放たれた。
僕はアンナの方へ連中が振り向いて行った時、立ち上がって自分の剣を掴み、その
バンダナ’sに向かっていく。そして一番後ろにいた奴を
前原「そいやぁ!!!
と、突貫し、その手に持つ剣を心臓に突き刺した。その突き刺された盗賊の一人は、県が抜けると、まるで萎んだ風船のように何も動かなくなった。僕はその突き刺した“針”を抜き、
そしてさらにはそいつの持っていた角材を持って、それをさらにヒョイッと投げる。だけどそれが当たる事は無く、その投げたことが仇となって、そのアンナの方に向かっていた奴らが全員こっちに向いた。手にはナイフなり剣なり刃物を持ちながら。