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第11話

バーカウンターにて、彼女たちは待っていた。

ヴィト「遅いね。マエハラさんのトイレ」


アンナ「に、逃げたんじゃないでしょうかぁ?わ、私の勘がそう言ってます!」

すると、ヴィトはアンナに笑ってこう言った。

ヴィト「一緒に冒険、する?マエハラさんがこのまま帰ってこないなら」


アンナ「で、でも私は猟師ですから!一度逃した獲物はあきらめることは私のプライドが許しません!」


ヴィト「でもね?いずれ僕達はどこか別れることになる。死んだり、だれかが結婚して引退したり。でもやっぱりマエハラさんは僕にとっても離したくないけどね?」

そんな彼女は上を向いて、指を折って数えていた。

アンナ「なんでですかぁ?」

彼女はバーカウンターをなぞりながら、

ヴィト「あのね、ちょっとあの人の何を言われてもケロッとしてる態度に一目ぼれしちゃったんだ。その時すぐにビビッと来て話しかけて、ね?」

そのまま、彼女は話し続ける。

ヴィト「でもアンナの猟師のプライドも分かるよ?一度逃がした獲物はずっと頭の中に“泥”として残るからね。あぁ、実家で監禁すればよかったかなぁ?」

彼女は小言で何かよからぬことを言っていたが、エルフである彼女の長い耳であってもそのことは聞こえなかった。

~~~~~

前原「決心がつきました」

僕は立ち上がって、相談事を聞いてくれたマスターにそう言ってお辞儀をする。

すると、彼はこちらの方を笑いながら見て、

バーテンダー「そうかい。そりゃあ冒険者として一歩前進したってこと事・・・と受け取ってもいいのかい?」

と言った。しかし、マスターは上を向いて泣いていた。おそらく酒のせいだろうか。少しずつ涙の道がひたひたと頬を伝っていく。

バーテンダー「がんばれよ」

そう涙ぐみながら出された声は、僕を奮い立たせた。そして、僕は彼のいない勇者会のドアを開けるのだった。

~勇者・冒険者会~

相も変わらず人で賑わっている中で、ヴィト・ローズとアンナ・シュトレンはカウンターの方にいた。僕はそこへ向かって一歩、また一歩と足を進める。

前原「あの~ヴィト・ローズさん、アンナ・シュトレンさん。話があります」

僕はそう言った瞬間、耳を傾けるように彼女は振り向いた。

ヴィト「どうしたの?そんな改まってさ」

彼女は凛とした顔で頬杖を突きながらそう言った。

前原「・・・」

言え自分。お祈りメールを!言え自分!意思表示を!あなた達と僕は一緒に冒険することは出来ませんって言うんだ!

前原「スゥ・・・ごめんなさい!」

僕は一息吐いた後、謝罪を決めた。その時僕は、ヴィトやアンナの膝より頭の位置は低くなっていた。しかし、そんな僕の態度はヴィトの大笑いによってあしらわれることになる。

ヴィト「アッハハハハハッ!なにを言ってるのマエハラさん!何も君は僕達に嫌な事はしてないから大丈夫だよ!」

彼女の大笑いは周りの騒がしさに同化していき、より一層騒がしくなった。彼女は理解してないのである、そのごめんなさいの意図を。

前原「僕たちは仲間になることは出来ません!話しかけてしまい、すいませんでした!」

そのために、自分の勇気を振り絞って言った途端、彼女は顔色を変えて、

ヴィト「え、え・・・え?」

少し“冗談だよね?”と言いそうな複雑な顔をしていた。僕はすぐにその場を逃げるように、その冒険者・勇者会をあとにした。途中マスターとすれ違ったが、

~~~~~

ヴィト「・・・」

前原悟が出ていったあと、彼女は放心状態だった。何を考えればよいのか分からなかったのだ。

アンナ「あのぅ~・・・ヴィトさん?」

私はそうやって肩をポンと叩いたとき、彼女は何か一つの単語を何回も何回も言い始めた。

ヴィト「・・・嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘」

まるで現代で言う所の壊れたラジカセのように。

アンナ「ヴィ、ヴィトさ「それ以上喋らないで」


ヴィト「ねえアンナちゃん。好きな男の子に逃げられたことある?」

そんなヴィトさんは途端、私の方を向いて、そう聞いてきた。そう、二人だけの女子会の始まりである。

ヴィト「あれさ、マエハラさんの目さ、あれ絶対僕のことを“女の子”として見てるよね?意地悪だなぁ~。惚れさせるだけ惚れさせて、最後は裏切るんだぁ」

そんな中、彼女は少し涙ぐんで惚気話をさらに加速させる。

ヴィト「ずっと色々な人たちに話しかけたんだけど誰も僕の見た目で目を合わせようともしなくて、そんな中僕と目を合わせて話してくれて、何も見た目とかには言わなかった。それで良いんだよ!」ガンッ

彼女はバーカウンターのテーブルを叩いて、大きな音を出した。その瞬間周りが静まり、酒を飲んでいた人たちの視線が彼女に刺さった。

ヴィト「だいたいねえ!皆僕の見た目ばっかり気にして!別に男の子みたいな髪型でも、僕って言ってても!別に関係ないじゃん・・・強いとか弱いとか」

彼女は鼻水をすすりながら、そしてグスリグスリと泣きじゃくりながらそう言った。その小さなホロホロとしたしょっぱい粒は、木の上に落ちて染み込んでいく。そうなっていくたびにどんどんと短い間だった彼との記憶が思い出されていった。

ヴィト「冒険・・・したかったなぁ・・・アハハ」

泣きながら笑って、そんな記憶を思い出させないようにする。そんな一人の悲しい女は、ただカウンターにて、連れの女性を放って泣いていた。しかし、その連れは見かねて、そして彼女には何かが切れた。

アンナ「泣くんじゃないヴィトッ!!」

元猟師であるエルフのアンナ・シュトレン、彼女は泣いているヴィトと違って冷静であった。彼女の持つ金髪はどこかしら輝いていた。

アンナ「良い?マエハラサトルが欲しければ行く!私もついていくから」

彼女はどこか笑って、ヴィトを励ますのではなく応援するように、そう言っていた。

ヴィト「で、でも・・・「泣き言は言わない!」

アンナはまるで親のように、しかし彼女より小柄であってもその言葉の威力はヴィトにとって大きかった。

アンナ「だから、行こう」

そしてそれは狼のように面倒見も良かった。その目先にいるヴィトは泣き腫らした後の目をしながら、静かにゆっくりと頷いた。彼女も決心がついたのである。


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