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第10話

~アバドン生命の樹魔法学園・講師室~

カーン「ふむ・・・なにか質問を受けていたら変な人が来たなぁ。実に興味深い。この掲示板というもの、次の学会で発表してしまおうか。いや!発表するにしてもどうやれというのだ・・・これは数日前いきなり出てきたなんて説明するのか?いくらなんでも論理が破綻しすぎて、逆に情報が無い。もう少し何かを探さないと」

すると、彼は椅子から立ち上がって、デスクから右にある棚からとある道具を取り出した。

それは、現代世界で言う所の、“開発者ツール”。その道具を右の耳にかけ、そしてその掲示板と称される物体を観察する。

“魔法名 アルファ掲示板 キーボード

そのブラックボックスの中身はこじ開けられた。中身は<!DOCTYPE html>から始まるヘンテコな文字と記号と数字で出来た物で、当然彼にとっては何も分からなかった。しかし、それにもかかわらず、また次が出てきた。

まず一つ目に出てきたのは何かhtmlだのDOCTYPEだの、この大陸の文字では明らかにない物がそこに書かれていた。一体何が魔法を発動させている3つの鍵なのか。何も分からなかった。もはやそれは、その文字が何を指しているのか分かれば学会で発表できるものの、その何かも分からない文字という盾によって、私はこの物体“掲示板”という物の研究にピリオドを打たれてしまいそうだった。

今度はflaskで始まるものと、所々に書かれた空白と、点の記号がそれをさらに難解にする。もうそれは少なくともこの世界の魔法では到底説明のし様がなかった。なぜなら不可解な文字列で、そして魔力の3原則である方向、属性、大きさがどのように書いてあるのか、一体この魔法が何なのかも、元素科の講師である私には分からなかった。

まるで恐怖をテーマにした小説を読んでいるようだ。恐怖で夜のトイレに行けなくなるが、それ以上に読みたい好奇心に駆られてしまう。

~勇者・冒険者会~

前原「あ、あのぉ~ヴィトさん?」

僕は彼女に下手したてながら、いや物理的に下から彼女を呼ぶ。すると、彼女は 

ヴィト「なぁに?」


前原「(掲示板で)よばれているんで、かえってm「ダメだよ?」

ドス黒い声が上からその圧を強くするようにそうさせた。

ヴィト「だってさ、マエハラさんは僕達を捨ててどこかに行くじゃん。さっき会ってこれから冒険に行こう!って言うのに。だからさ、そういう昔の友情っていうのはナシにしよ?」

そんな提案に僕は逆らえなかった。だから何か理由をつけて逃げたかった。なぜなら彼女たちが怖いからだ。普通の人たちかと思ったが、まさかこんなに束縛されるとは思いもよらなかった。やっぱりあの連れていかれた元騎士の・・・ボーさんだったっけかな?あの人の言っていたことは正解だったんだ。じゃあこの人たちはもしかして実はお互いの事を知っていて、僕は美人局に遭いそうな被害者?それとも何か高額な物を買われそうなパパ括のパパか?もしかしたらこの二人のどちらかが盗賊の一味で追い剥ぎをするために擦り寄ってきたのかもしれない。でも待てよ?そもそも追い剥ぎが目的ならどうして人の目につきやすい、酒場みたいな所で話しかけてきたのだろうか?その方が人目にも付きやすいし、どこへ行ったかという情報も簡単にマスターを含めて全員の所へ行きやすい。しかも追い剥ぎなら顔を見られるリスクがある。それならそういう事なんて到底できないだろう。僕みたいに一度目立った奴なんて尚更格好の獲物になんてできないはずだ。じゃあこの娘達の目的は何なんだ?宗教勧誘?パパ括?もしかして革命への勧誘?僕がいつの間にか指名手配レベルの重大犯罪者に!?こんな僕はアニメを見すぎて、そして好きすぎてつい考察をしてしまう。そんな性格、そんな癖が今も抜けずにいるのだ。それで今もこういう風に相手の素性を考察してしまう。

ヴィト「ね~ぇ~構ってぇ~~」

そのスポーツショートカットの短い髪を靡かせて、まるで主人に構う猫のように掲示板を人差し指で触ろうとする。だが、この掲示板とキーボード自体ホログラムのような魔法の為、それ虚しくその指はただ通り抜けていくだけだった。

アンナ「あ、あのぉ~マエハラさん?お酒でも買ってきましょうかぁ?」

そして隣のアンナ・シュトレンこと駄ルフは、お酒を買いに行ってくれるようだ。でも今はマスターはいないし、というか第一あんまり酒飲めないんだけどなあ・・・。じゃない、とにかく今はちょっと考える時間が欲しい。そして早くこの二人の牢獄から逃げてアルティノの元に向かいたい。あれ?なんでアルティノから逃げてここに来たのにまた逃げようとしてるんだ?僕は逃げてばっかりなのか?

駄目だ!逃げちゃダメだ!

前原「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」

僕の上の住人にそう言った。すると、彼女は上から退いた。

ヴィト「あっはーい」

そして僕は立ち上がり、勇者会の中にあるトイレ・・・ではなく出口へと向かう。



~外~



僕はドアを閉じた後、近くの壁にドサッと倒れるようにもたれかかった。

前原「ああっもうどうすりゃいいんだ?どっちを取るべきなんだ?アルティノの方なのか?それともヴィトやアンナの方を取るべきなのか?そもそも僕は選ぶ人間という資格があるのか!?選ばれる方なんじゃないのか?」

僕は考えすぎて、それが脳みその中でグルグルと回っていた。そして僕はいつのまにかうずくまるようにへたり込んでいた。しかし、そんなグルグルと回っていた彼に、思わぬ救世主が現れる。

バーテンダー「おいボンボン。うちはテラス席なんか無いぜ?」

マスターのコラーダ・・・さんだったな。

前原「知っております」

僕は少しへそを曲げた様に、不貞腐れた様に答える。

バーテンダー「まあ外の空気も悪くはないな。ずっと中で酒を注いでいるより気分がいい」

しかし、そんな僕の不貞腐れた態度も、彼にとっては何も変わらなかった。それどころか、僕の隣に座り始めたのだ。

前原「なんなんですか?」


バーテンダー「なんでもねえさ。別にお前さんに何があったのか僕は模索する義務なんてはなっからない」


前原「・・・」

僕は何もしゃべらない、ただ地面に座っているだけの石像となっていた。

バーテンダー「まあなんだ。酒でも持ってきてやろうか?」

そう言うと、マスターは立ち上がって店の中に入っていこうとした。でも僕はそこで引き留めて、

前原「なあマスター。なんで僕にこんなよくしてくれるんだ?昨日と今日とで」

そう尋ねてみた。すると彼は、

バーテンダー「別にお前さんを何の理由もなく贔屓したっていいじゃねえか。なあ“兄弟”」

兄弟。そんな言葉が僕の耳に残った。もしかすると、マスターは僕と同じ・・・「なーんてな!がっはっはっは!」


前原「ふふっ」

僕はちょっと笑ってしまった。思わずにやけが顔に出るような笑いだった。やっぱりマスターはこういう風にユーモアあふれる漢でなくっちゃ。

~~~~~

前原「でな?僕はどっちの方に行けばいいか分かんないってわけよ!アルティノの方に付くべきかぁ!それかヴィトやアンナと一緒に仲間を組むべきかぁ!迷ってるわけよ!」

ベロンベロンに酔っ払いながら、マスターに打ち明けた。

バーテンダー「そうかいそうかい!つまり、お前さんは今苦渋の決断を迫られてるってわけだな!」

マスターは笑いながら話を聞いてくれた。

バーテンダー「でもな、お前さんの今の大事なもんはな、それを決める力ってことさ!冒険者なら全員必ず一回はある!それによって大きく人生を変えた奴も見たな!盗賊の首領と結婚した貴族の女もいたな!」


前原「えぇ~?それ何処にいるんですかぁ~?」


バーテンダー「宿屋の店主だよ!」

マスターはグラスを一杯飲み干して、そう言った。

バーテンダー「今は宿屋の看板娘ってことだな!がっはっはっは!あいつもいつの間にか、ばあさんになっちまってなぁ・・・」

そう言ってグラスをフリフリと小さく揺らす。僕たちは完全に昼間から酒を飲んで酔っぱらったおじさんたちだった。

バーテンダー「まあ、なんだ。本当にお前さんが行きたいと思ったところに行けばいい。それが冒険家の流儀として、引退した身として言えることはそれだけだ」

行きたい所に行けばいい。マスターはそう言って僕を元気づけてくれた。

自分の心の向かうがままに生きる。かつての思想家も口にしたような言葉だが、それがここまで来ていることが思いもよらなかった。思いもよらなくて酔いが覚めてしまった。



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