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第8話

前原「まあ・・・ちょっと、ちょっと落ち着いて・・・ね?お酒でも飲んでさ、落ち着こうよアンナさん」

僕は汗汗としながら彼女をいたわる。すると、意外な事を言い始めた。

アンナ「しかも私より若い男の子に労わられちゃった・・・」

若い男?見た目的には19歳のぴちぴちの乙女に見えるのに。

前原「え?アンナさん、年幾つなんですか?」

彼女は渋々答える。

アンナ「437歳・・・」

爆弾発言だった。

前原「えぇっ!?」

まさかの僕より数百歳も年上だった。さすがはエルフ。色々な異世界転生系のアニメの通り長寿と言うのは変わらなかった。いや、それだけ長寿と言う事は僕が死んでも彼女は生き続け、忘れられずにずっと引きずるのだろうか。ちょっとそれは嫌だなと思った自分がいる。

アンナ「笑うなら笑ってください・・・こんな行き遅れエルフには」

彼女はしくしくと泣いている。いや、しくしくと泣いているというか掌を顔に合わせてしくしくと言っているが。

ヴィト「あ~あ!女の子泣かせちゃった~!」

後ろで先ほど話しかけたヴィトがそれを囃し立てた。

ヴィト「ねえどうする?冒険の仲間に入れる?これだけ泣いているなら入れないといけないよね?僕、女の子を泣かせて、そのまま捨てる人は嫌いだなぁ~・・・僕はそんな人と冒険はちょっとね~・・・」

そう囃し立てられて、僕は少し気がめいってしまった。何しろそうやっておだてられるのは嫌いだ。じゃあそのリスクを分かっててどうしてやる?それが人間だもの。

前原「分かった分かった!分かりましたよ!この子も仲間の候補として保留しておきますよ!」


ヴィト「そうだよね~?じゃあ・・・保留じゃなくて・・・ね?」

そう言われて急かされてしまうと、逆に検討したくなる。

もしかしたらと思って、僕はロウテーブルの席に座り、目の前に“掲示板”を出した。なぜかって?こういう仲間のことは色々な人に相談してみたらいいんだ。そう考えている暇もなく、それは出てきた。

そこに僕はキーボードでカタカタと打った文字を読みながらする。

前原「…で、送信!っと!」

そのターンと響くエンターキーと同時に、それはすぐ下にポップアップされ___


~アバドン生命の樹魔法学園~

魔法使いの卵である、学生達のローブが触れ合う食堂にて、その中に異彩を放つ中年の男がいた。そう、彼は“天災魔導士”と呼ばれた男だ。

「次どうぞ」


カーン「すいません、簡単なものを」

彼はそう答えるが、炊事係は困惑した表情をしていた。

「はい?」

しかしその困惑した表情を持つ人は後ろにいる人に代わった。多分彼の事を知っている者だろう。

「あぁちょっと待てお前・・・教授。どうぞ」

その声に導かれ、彼はスープと5つに切ったパンを受け取った。

カーン「ありがとうございます」

この食堂の学食は、今でも霧がかかった魔法学園の外からOBが学生と身分を偽ってこの学園の食堂へ無銭飲食に来る程のおいしさで、勉強を頑張る学生たちにとって指折りの名物である。そもそもここはアイセラ大陸よりもはるか西方の島に位置し、周りは霧で囲まれているため、外界とのコンタクトもない、言うなれば孤島である。そんな学園の食堂で天災魔導士はテーブルに座ってご飯を食べる事もなく、そのまま食堂を出て自分の部屋へと戻っていった。

~カーンの部屋~

研究資料や授業のシラバス、レジュメや実験道具が乱雑に置かれているカーテンの閉まった暗い研究室で、彼はまた椅子に座る。そして机にはあの“掲示板”が置いてあった。

カーン「なるほど・・・私以外にもこの現象に応じた者がいるとは」

“ども、マエハラサトルという者です。アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限さんよろしくお願いします!”

“恐縮ですが、早速質問してもよろしいでしょうか?”

目の前のアルファ掲示板には、そう書かれていた。



~勇者・冒険者会~

前原「えっと、アバドン生命の樹ゴールド講師@月曜一限さん。こちらから少し質問してもよろしいですか?っと」

そう言いながらエンターキーを押す。

ヴィト「なにこれ?魔法?」


前原「そうだよ?」

そう言いながら僕はまたキーボードを触る。

ヴィト「へぇ~~、でもさ、なんかコレ攻撃する魔法じゃないみたい。そんなのも(魔法界には)あるの?」

彼女は不思議そうに聞いた。

前原「あるよそりゃあ。色々と」


ヴィト「魔法のチカラってすごいね!僕は家の関係でずっと騎士のための剣術と座学ぐらいしかやってないから魔法はお姉さんに分かんないや」

彼女は両手を横に突き出して、やれやれとした顔でそう言う。

アンナ「あ、あのぅ~・・・それってお話したら返してくれるんですかぁ?」

そして駄目エルフこと駄ルフのアンナさんは恐ろしそうに、先ほどの初対面の態度とは違ってねっとりと聞いてくる。

前原「そうだよ。だって掲示板だからね?返してくれなきゃ何も意味がないじゃん」

すると、駄ルフのアンナさんは少しニヘラッと笑っていた。もはや陰キャエルフである。

前原「え~~~っと?“どうぞマエハラサトルさん。何でも質問していただいて構いませんよ?”なるほどね。じゃあ・・・」

僕はまたキーボードを叩く。

~アバドン生命の樹魔法学園~

“僕は今冒険者・勇者会で仲間集めをしているのですが、どうもうまくいきません。基本的に候補は二人いるのですが、どうも少し不安で・・・そこでどなたか詳しい人にアドバイスを頂きたかった所存でございます。今現在仲間として候補に挙がっているのは騎士と弓使いの二人です。二人とも女性です。”

私が何の質問をしてもよいとこの“掲示板”とやらに載せてしばらくした後

カーン「ふむ、仲間・・・か。うーん、このマエハラサトルさんの職業によるものだなぁ。ちょっとそれ聞けるか試してみよう。第一それによって集めるのは変わってくるだろうし。えっと・・・」

私は無言で文字盤を打った。



~冒険者・勇者会~

ビットで表された文字が、僕の打った質問の下に音もなく出てくる。

“マエハラサトルさん。質問ありがとうございます。あなたの職業を教えていただけませんか?恐らくその職業によって集める仲間も変わりますので”

前原「なぁるほど~・・・」


ヴィト「どう?何か帰ってきた?」

そのひとりごとを聞いていたヴィトが話しかけてきた。彼女は身長が大きいので、まるで僕の上に乗りかかるように。

前原「うお重っ。うーんとね、僕の職業は何だって聞いてるんだよ。これって推奨職書いておけばいい?」


ヴィト「まだ職業決まってないの?」

彼女は圧し掛かった僕の上から話しかけてきた。そして手を僕の首から提げ、まるで彼女の手はネックレスのようになっていた。ヴィトは僕の頭の上に彼女の頭を乗せて、もはや僕をクッションにしているようだった。

前原「まあ、いずれ見つけていくさ」


ヴィト「多分君は僕より賢いから魔法使いとかでも全然なれると思うよ?」


前原「魔法使い?簡単には成れないの?」

彼女の口調はさも当然かのように、

ヴィト「当然だよ!魔法使いになるために皆行くのはアバドン生命の樹魔法学園。そこから魔法使いになるための試験を受けて、そこでもやっと半人前の魔法使いっていう職業で活動できるんだよ?しかも、あの学園は人間以外の魔族も受け入れてるから試験の時には限りなく多くの学生と受けることになる。少なくともこの大陸でその魔法使いになったのは、魔族を合わせて・・・数万人ぐらい?他で魔法学園を出てなくて魔法使いって言っている人は多分詐欺師か何かそれで身分を隠したい特別な事情がある人だけだよ?」

ホグワーツかよ・・・と一瞬思ってしまったが、そのネットミームはもう異世界人に通じないと思って封印しておいた。しかし、色々と彼女は教えてくれた。でも一つだけ心残りと言うか疑問があった。

前原「なるほどね。でもなんで僕のこの・・・札?には、推奨職の中に魔法使いがあるの?」

彼女はそれを聞いた途端笑って、

ヴィト「そりゃ推奨はいくらでも出来るからねぇ。とにかく、その推奨職っていうのはたまにめちゃくちゃ難しい物を出してくるから」

彼女は二本指で僕の腕をとことことしながらそう言った。まるで猫のように甘えるのである。

前原「じゃあ・・・」



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