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第7話

バーテンダー「暴れてもらっちゃあ困るといった筈だ。今日はここじゃなくて騎士団の所で酔いを覚ませ」

一瞬マスターがかっこよく見えた。例えるならそう、殺し屋御用達のホテルにいるあのフロントの人のようだった。

そのままマスターとそいつは立ち上がって、扉の方へと向かって歩いて行った。多分騎士団の詰所にそのままぶち込まれるんだろう。

そのマスターたちが出ていった途端、僕の周りに笑い声が生まれて響いた。

「アッハハハハッ!!こいつはおもしれえなぁ!まさかの店主があんだけあんたの身の潔白を証明してくれたってことだ!!運がいいお人好しめ!」

冒険者の一人が僕の肩に手を置いて話しかけてきた。僕はまあ照れながら頭の後ろを掻いてそれほどでもと思いながら、その話を聞いていた。

「なぁ!冒険の仲間を探しているんだろう?僕なんてどうだい?」

すると、また他の人が遠くから大声で何か言っていた。所々周りの声でかき消されていたが、何か仲間という言葉が聞こえた。やっとかと思ってうれしくなって、見ると今度はフレンドリーそうな人が声をかけてきた。

前原「は、はい!僕ですか?」


「そう!君だよ君!さっき宗教家だって言われていた君だよ!」

その声は段々と近くなって、やがてテーブルへと近付いた。見るとそこには、顔立ちは男の様で、だけど体はどこか違っていた。胸に若干の膨らみがあり、周りの男と違って括れが少しあり、ウエストが細い。その顔立ちと髪をスポーツショートカットにしている所と・・・あとは身長が僕より大きかったから男だと勘違いしていたが、その声色とその体格と喉仏で分かった。女だ。昨今のジェンダー平等に一石を投じるつもりではないが、騎士団は意外と女性もいるんだなと感心していた。あの槍使いのミカラ曰く、そして目の前にいるこの甲冑、というか軽いチェストプレートを付けた女の人曰く、だ。それは騎士といえども華奢な体つきで、むしろ髪を伸ばせばドレスが似合いそうな女性だった。だけどそんなドレスを着ていなくともなんとも容姿端麗であった。

前原「えっと・・・あなたは?」

僕は不思議そうに尋ねると、彼女は右手を胸に当てて、まるで貴族のように丁寧なお辞儀をした後、

ヴィト「僕はヴィト。ヴィト・ローズと言って、元騎士で今は冒険者をやっているよ」

彼女は元騎士だそうだ。

前原「へ、へぇ~。あっ僕は、前原悟と申します。あなたは、騎士なんですか?どこの方の?」

僕もその上品さに気押され、同じように深いお辞儀をした後、僕も名前を申し出る。

ヴィト「騎士団を辞める前はミショーンでずっと着任しててね?そこから一日かけてここに来たのさ」

彼女はえっへんとした態度でそう言った。何が偉いのか分からないが、とにかく仲間になってくれるのはありがたい。むしろ魔王であるアルティノと一緒にいる事で僕さえも危険人物と認定されるだろうし。

ヴィト「それで?仲間を探してるということは僕の出番かい?」

しかしそんな貴族としての威厳はどこにやったのか、今度はキラキラした目で僕を見てきた。まるで子供のように見る目は若干尊厳破壊が垣間見えたが。

前原「ま、まぁ・・・え?仲間になってくれるんですか?」


ヴィト「そうだよ?」

そんなことは当然だと、彼女はそんな口調で、喜んだ雰囲気で伝える。どうやらやっと冒険する仲間が出来たようだ。僕は隠しきれない内心を小さなガッツポーズで晴らし、喜ぶ。

でもその喜びの上に何か振りかぶってくる物があった。


~回想~

とある日の朝、僕は身支度をしようと干しておいた服をクローゼットから開ける。彼女ことヴィトが仲間になって早2年、彼女のおかげで乗り切れない困難もあった。

そんな思いが残りながらも、僕はクローゼットのドアを開けた。だが、そこには何もなかった。あの時手に入れた何かすごいも、あの時手に入れた金貨も、奮発して買ったなんか剣が大量に出てくるなんかすごい魔法の杖もない。あれ金貨2万枚もしたのに、しかも値段相応でいい感じの魔力補正をかけられる道具なのに。

そう、もうそのクローゼットには何もなかったのだ。そして朝起きた時に気づいたのだが、彼女は、ヴィトは音を消すようにして、痕跡すらも残らず消えてしまった。

前原「え、ヴィト・・・?じゃない装備どこ行った!」

僕は周りの箪笥やベッドの下を探すものの、どこにも見当たらない。どれだけ騒いでも、何も起こらない。全て奪われたのだ。

そういえば気になる節が僕はヴィトにあった。彼女は僕が宝箱を開けてその中の物を拾い上げていた時、ずっと何か興味津々にみていたのだから。いや、興味津々に見ていたというよりまるで睨むように、それを見つめている節があったのだから。

~~~~~

そんなありもしない、存在しない記憶が今頭の中の喜びを押さえつけるように乗っかった。それは目の前にいる彼女に話せない程酷いバイアスのような物で、人前には当然出せない物だった。

僕はそれで少し頭が痛くなった。何事にも偏見を起こし、それで否定する。

そんな僕が、僕自身許せなかった。第一こんな身なりの良い女性、いやボーイッシュな騎士が、そんな盗賊のように装備を奪う事をそもそもするはずがない。ただの考えすぎだ。

前原「あぁ、やっぱりその・・・ちょっと保留してもいいですか?」

僕はそうやって仲間になる事は出来ないという旨を日本人なりに伝えると、彼女は少し驚いていたがそのまま何も物怖じせず、そして何か懇願するような態度も見せずニコニコとしていた。  

ヴィト「分かった。良いよ!もし気が合ったらよろしくね?僕はあっちにいるから、ね?」

どうしても他人をバイアスで、自分の小汚い妄想で評価しないといけないのか。どうやらそういうのが自動補正でこの異世界についてくるようだ。

僕はそう言った後、振り向いて別の方に仲間を集める。今度はあのエルフの元猟師で、凄い気が難しそうな女性だ。しかし、それよりも気になることがあった。視線だ。後ろから何か視線を感じる。振り向いてはいけない物だったけども、僕は振り向いてしまった。見るとそこには、ニコニコと微笑みを浮かべるヴィトが居た。

前原「えっと~・・・ヴィトさん?」


ヴィト「なぁに?マエハラサトルさん」


前原「何見てるんですか?」

僕はそういうと、彼女は目を見開いて首を横に振った。

ヴィト「別に見てないよ?」


前畑「そうですか・・・」

僕はそう言いながら振り向いて、僕はまたあのエルフの元猟師の所へ向かおうとするのだが、どうして真後ろから視線を感じる。僕は真後ろを振り向くと、今度は少し・・・距離が近くなっている気がした。

前原「ヴィトさん?」


ヴィト「なぁに?マエハラサトルさん」


前原「近くないですか?というかまた見てますよね?」


ヴィト「だから見てないってば」

そんな見たか見てないかの論争も、周りの集団の声に巻き込まれていった。



~~~~~



僕は、元猟師で気難しそうに酒を飲んでいて、たぶん彼女にしたら通帳と胃袋と親権を握られそうなあのエルフの元へ向かった。

前原「あの~」

僕は横から彼女の視線に入り、話しかける。

「あら、先ほど変なヒトに絡まれていた方よね?どなたかしら?」

そのエルフの女性は白い肌の顔と、揺れる金髪と長い耳をこちらに向けて、話しかける。どうやらさっきの騒動を聞いていたようだ。見た目は胸のところにチェストプレートを着けて、弓の弦が肩から斜め一直線を引いている。

前原「まあ、そうですね。僕は前原悟と申します。特技はこれと言ってないんですが「それくらいでいいわ」?」

一瞬彼女は何を言っているのか分からなかった。それくらいでいいという事が一体どういうことなのか。

「あなた、冒険に行く仲間を探しているのよね?ならその探してる仲間と対等にならないといけなくて?」

彼女は僕をゴミを見るような目で見ながらそう言った。今話すのはまずいと思い、後から話すという事を彼女に言っておく。

前原「嫌だったなら別に良いですよ。他を当たります」

僕はそう言いながら去ろうとすると、

「諦めが早いわね。あなた、猟師には向いていないわよ?」

そう言われたので、僕も最後の抗いとして、

前原「じゃあ名前を訊いてもいいですか?」

名前を聞いてしまえばここで“身分を知らない名前を知っている同士”という対等な身分が出来るからな。

「ハァ・・・アンナよ。アンナ・シュトレン」

彼女はクールな口調でそう言った。

前原「なるほど。ありがとうございます」

僕はそう言って去ろうとしたが、後ろから手を掴まれた。その主はアンナ・シュトレンだった。彼女はその白い肌の頬を紅くして、下をうつむいていた。

アンナ「嘘よ嘘!ね、ねぇ前原悟・・・さん?その~・・・えっと~・・・」


前原「なんですk「やめておけ」

そう言いながら僕の肩に手を置く人がいた。周りで飲んでいた冒険者だった。

「こいつは何て呼ばれているか知ってるか?」

その冒険者はビールをぐびぐびと飲みながらそう言った。

前原「何ですか?」

そして少しフッと笑って、

「狂犬だよ。狂犬のアンナだよ。一度逃した獲物は逃がさない」

狂犬?こんな赤面しているエルフが?とんでもない。狂犬なら狂犬らしく孤高で、誰も話しかけるなオーラを纏っているはずなのに、目の前にいるのはコーギーちゃんだ。飼い主にかまってかまってと飛びつく犬のようだ。だけどそれが恥ずかしくて赤面しているのだろう。

前原「これが狂犬?誰かと間違えてるんじゃないですか?」


「いいや、正真正銘、強いから狂犬って呼ばれてるんだ」

正直名前詐欺かと思われるが、手を握られているからには何か狂犬である意図があってやっているのだろう。

アンナ「・・・嫌だ。おいてかないでっ!」

置いてかないで言うてません?しかも少し泣いてるしさ。もはや狂犬じゃなくて捨てられそうな飼い犬でしょこのエルフ。

アンナ「なんでもするから・・・私の名前はアンナ・シュトレン。猟師が続けられなくてやめてここまで来たエルフです・・・誰かに話しかけてもらいたくてずっと待ってましたけど誰一人ッ・・・!やってきませんでした・・・!あなたが初めて話しかけてくれた人です仲間になってくださいさっきは調子乗って変なこと言ってすみませんでしたぁ!後衛でお役に立ちます前衛でも命張れますぅ!」

この女、仲間0人・・・!まさかのこのエルフ、仲間0人・・・!というか発言の一部一部からポンコツさの滲み出る所が節々と感じる。もはやこれ技術は有能性格は無能を現したエルフだろ・・・というかこのゲームにエルフが居たのが驚きだわ。僕作ってないよ?こんな駄目エルフ、略して駄ルフ!



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