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第5話

~冒険者・勇者会~


昨日と同じくワイワイと賑やかになっている酒場兼冒険者・勇者会にて、僕は仲間探しをしていた。あの魔王の一行に変わる、新しい仲間をだ。

前原「あの~マスター。この店の中に冒険する仲間を探してるっていう人はいますか?」

僕は台の奥でグラスを拭いているマスターにとりあえず聞いてみた。そして僕が声をかけた途端、こっちの方を見て、

バーテンダー「ふむ、君か。どうだい?初めての冒険の調子は。順調かい?」

マスターは拭いていたグラスの手を止めて、こちらを見てそう言った。

前原「ああ、死ぬほど詰まってる。騎士と戦士と・・・弓使いが欲しいです」

何を言ってるんだ僕は!弓使いじゃなくて魔法使いの筈だろう!なんで違う事言ってんだ!ちゃんと言えちゃんと!魔法使いって!待てよ・・・?魔法使いは僕か。推奨職に書かれていたからな。じゃあ自給自足で問題ないってことか。

バーテンダー「あぁ、騎士くずれとお雇いの戦士の連中は、ここに入りきらない程そこら中にいるさ。だが弓使いは・・・うーん・・・あぁ一人いた。あそこ」

マスターはこの部屋の隅の方に指を指した。ガヤガヤした集団の中にいる、たった一人の弓を持った、白髪のエルフの女が何か気難しそうに、泡立った酒をチビチビと飲んでいた。

バーテンダー「あの白髪のエルフの女だよ。ここに来る前は猟師をしていたが、どうやら不作続きで丸つぶれだったらしい。腕は確かなんだが、どうも性格がちいっと厄介なものでね。自分が認めた相手としか冒険を共にしないって一点張りなんだよ」

僕はそのエルフの方に振り向いて、

前原「猟師の勘ってことですか?」

そう聞き返した。するとマスターは明後日の方向を向いて、ボディーランゲージで“知らない”と言っていた。

前原「分かりました。とりあえず後で聞いてみます」

とりあえずあの人は一番最後に話すとして、まずは戦士。一番強い奴を頼もう。例えば体格の良い獣人とか・・・そもそもこの世界にいるのかっていう問題だけど。

獣人戦士「お前らぁ!!今日は宴だ~!」


周り「フォーーーーー!」

他の方をちらりと見ると、中央に体格の良い獣人と思われる者が、杯を天井に突き上げていた。周りもそれに合わせて雄叫び、歓声をあげていた。

それを横目に見ていた寡黙な獣人が、僕は目に入った。集団としては一番遠くにおり、ただ中心の杯を挙げている男を睨むような顔をしていた。

僕は相手のステータスが見えるメガネを着けたままだったので、名前は見えるようになっていた。とりあえず後でカカリに返しておこう。とにかく、その獣人の顔の周りに生えている毛並みはまるで獅子のように揃っていて、気品のある見た目だった。

“グアポ・ホモ・パンセラ・レオ 男 28歳

体力 5

知力 C

スキル:身体強化、咆哮、武神の儀、威圧、疾風迅雷、獣人としての意地“

スキルはこれといって目に留まるようなスキルというか魔法は無かったが、僕にとっては好都合だなと思って、あのチームから引き抜いてやろうと考えたが、一瞬変な考えが頭をよぎった。


~~~~~

グアポ『おいマエハラ』


前原『どうした?』


グアポ『お前にいい知らせと悪い知らせがあるんだ。どっちから聞きたい?』

その獣人戦士は少し不敵な笑みながらも満面だった。

前原『じゃあ・・・良い知らせから』


グアポ『おめでとう!今日で冒険者引退だな!』


前原『は?どういう事だグアポ?』

僕は意外な事に困惑を隠せなかった。なぜなら僕はこのチームの長だから、そういうのは僕が決めるはず。なのにそいつが明らかに実権を握っているような雰囲気だった。

グアポ『もう使えねえんだよお前は。それと女を連れてきてありがとな!使えねー割にお前は顔は良いからすぐに女がよりついてくるからな』

お前はそうやって僕の耳に囁く。女?どういう事だよ!?もしかしてと思って、その場にいた初めての彼女であるミアに寄った。

前原『ミ、ミア!君は違うよね?だって僕の彼女だから!』

そう言って、僕はミアという同じ魔法使いの両肩を掴んだ。だけどそう聞いてもただすすり泣く声と、ただ微かに聞こえる“ごめんなさい”としか聞こえなかった。その両肩を掴んだ時に乱れたローブの隙間から見えたのはその獣人の男の名前と、その下に書かれていた4本の棒の上とその上に引かれた斜線の集合体が二つ。

前原『そ、そんな・・・おいミア!嘘だと言ってくれよ嘘って!!』

彼女は何も言わずにただ、獣人のそいつの所へとゆっくり足を進める。

前原『嘘だろ・・・なんでだよっ!!ミア!!』

そして彼女はそいつと口付けをして、

ミア『お願い助けて!今あのクソ男に肩を揺さぶられて、その乱れた所から胸を見られたの!』

そう指を指しながら、僕はそう告発された。セクハラまがいの罪へと仕立て上げられたのだ。

獣人戦士『そういうことを俺のチーム唯一の女メンバーにわいせつな行為とは、許せんなぁ、許せんなぁ?』

すると、あいつは腰に差してあるロングソードを抜いて、僕の横に立った。

グアポ『悪い知らせを伝えてなかったな。それは何だと思う?』


前原『・・・あ、あぁ・・・』


グアポ『何にも言えねえか。お前は今日引退と共に死ぬってことだ』

そう言うと、その獣人戦士は抜いたロングソードを振り上げ、僕の首と体が真っ二つになった。

~~~~~

そんな回想と、突如頭に出た存在しない記憶が、彼の脳みそを駆け巡る。

前原「(今の回想シーンに倣って、こいつは絶対に人の女を寝取るキャラだ・・・!僕は知っているんだ。NTR漫画でこういうキャラは金髪日焼けゴリマッチョの次に竿役に選ばれるんだ!)」

僕はそんな偏見とバイアスでその獣人戦士に話しかけるのはやめた。

バーテンダー「どうした、行かないのか?」

それを見かねたマスターは僕に話しかけてくる。僕はそのカウンターに後ろを向きながら答えた。

前原「…いや、騎士くずれ共から話しかけてみます」


バーテンダー「そうか。頑張れよボンボン」


前原「ボンボンじゃねえし」

僕はマスターに貴族と間違えられたので、少し子供みたいな返しをマスターに小さく言うと、マスターは少しニヤけていた。

バーテンダー「(俺もマスターじゃねえし)」

そんな僕は次に騎士あがりの所へと向かった。

前原「なぁ、今いいか?」

その声をかけた先には、ただ一人、小さな樽に取っ手が付いたジョッキをぐびぐびと飲む幸せそうな顔と髭をしたおじさんだった。身なりは甲冑を着ていて、酒を飲むたびにガシャンガシャンと音がしていた。

「おお、どうした。金ならヒック無いぞ?ヒック」

“ボー・アラン 48歳

体力 9

知力 B

スキル:剣術攻撃強化、回復魔法“

またメガネをかけていたのか、またステータスが出てきた。そろそろこれもう外した方が良いかもしれない。もうちょっとステータスが鬱陶しくなってきた。そろそろ外しておこう。

ところで、その声は優しくも、酒のせいかヒックヒックとしゃっくりをしていた。

前原「いや、お目当てなのはお前の金じゃない。仲間を探しているんだ」


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