~一方その頃~
私こと魔王アルティノはその一部始終を見ていた。殴り合いの末に、爆発する盾の付いたニンゲンが立って、ネチネチが倒れていたのを。彼らはアークゴブリン、そこらあたりのゴブリンとは違って言葉を理解し、魔法を使う事が出来る上位種のゴブリンなのに。そんなゴブリンを圧倒するあのニンゲンは誰?
私は驚いていた。少なくとも私の作戦としては、ここで勇者候補のニンゲンを打ち負かし、私のことを倒す勇者を私で育てる事だった。だけど、返り討ちにされるとは思いもよらなかった。
魔族の
私はそれに疑問があった。だけど、彼らが倒されたのなら、もう残るのは私こと魔王アルティノだ。私は起き上がって、覚悟した顔をする。
魔族の
そうやって起き上がった後、急に声が掛かった。さっきのネチネチを倒したあのニンゲンだ。
前原「大丈夫?怪我はない?何もされてない?」
私は先ほどの決心した顔を忘れて、15歳の少女の顔をする。まるでさっきまでゴブリンに襲われていたように、涙を浮かべながら。
魔族の
と、明らかに言われもないことを言った。本当は襲われるどころか、守られていたはずなのに。少し逆の事を言ったから、私の目がきょろきょろとする。だが、それは目の前にいる勇者候補のニンゲンには見えなかった。彼は半ば膝立ちになって、顔を私の方に近づける。
魔族の
その魔族の少女という皮を被った魔王は、心の中で締めた!とガッツポーズを取っていた。
前原「そう、だったんだ。ならさっきのゴブリンは仲間じゃないんだよね?」
すると、彼は疑心暗鬼そうに聞いてくる。実際にはそうだけども、そうではないという心構えで、
魔族の
前原「よし分かった。とりあえず近くに村があるから、来るかい?」
魔族の
すると、彼は手を差し伸べてきた。私はその手を握って立ち上がる。すると、彼は振り向いて、歩き始めていた。チャンスだ、と私は思って昨日の夜と同じように、自分の目の前に三角形を作り、呪文を唱え始める。
アルティノ「我の血に引き継がれし古代龍よ!その大いなる力を!我が息吹で放ち給え!!」
私の髪は黒髪から白髪に変わりかけ、目は紫と赤が混ざっていた。
前原「え?」
彼はその声に気づいていたがもう遅い。私の目の前からは炎、ブレスが出る。
~一方その頃~
カカリは目の前で倒れているガヴリに、回復の呪文を唱える。
カカリ「我らが癒しの精霊よ。手前にいる者に、大いなる力を宿し給え」
と、私は言った。すると、目の前にいるガヴリには薄い緑色のオーラのようなものが出てきて、傷口が次第に閉じていった。背中に刺さっている剣も、刃先が露出し始め、それはカランと抜けていく。
ガヴリ「んぅ?」
ガヴリの声が下から聞こえた。意識が戻るほど回復したのだ。
カカリ「ガヴリ、大丈夫ですか?」
ガヴリ「あ、ああ、大丈夫大丈夫!」
と、少し確認したような口ぶりで言う。どうやら致命傷には至ってないようだと、私は安心した。
カカリ「あと少しで死んでいましたよ。危なかった、少しズレていたら回復できませんでした」
カカリはふぅとため息を吐きながら言った。
ガヴリ「結局どうなっていたんだ?ネチネチは?」
そう言うと、カカリは少し口を紡ぐ。
ガヴリ「そういうことかぁ」
ガヴリは少しハイライトを失くした目で理解した。
~~~~~
魔族の少女が何か叫んでいた。その方向に振り向くと、目の前には一面の炎。僕は避けようとする。しかしその瞬間、自分の体がビリビリと痺れてと動けない。足が痺れたのか?いや手も動かせない。まるで全身がテーザー銃に撃たれたように、筋肉が痙攣して動かない。避けないといけないのに、出来ずにその炎をもろに受けてしまった。そして意識がどこか暗くなっていく。もう、死ぬのか。早すぎるなぁと思って、僕は地面に倒れた。
魔王「カカリー!少しこのニンゲンの回復をおねがーい!」
死んでからの数分間、ただ微かにその声が炎の外から聞こえる。明らかにオーバーキルだろさっきの炎は。
~カカリ~
私は何か呼ばれた気がした。だが今、目の前で治療しているのは顔半分が筋肉むき出し、そしてに右腕に包帯が巻かれ、めくると骨がむき出しになったネチネチだ。明らかに目の生気が無い彼は片目だけむき出しになり、もう片方は静かに閉じていた。
カカリ「我らが癒しの精霊よ。手前にいる者に、大いなる力を宿し給え」
彼にも先ほどのガヴリと同じく回復魔法をかける。すると、筋肉がむき出しになっていない顔の皮膚から見る見ると再生していき、そして骨がむき出しになっていた手もまた再生していった。
ネチネチ「ぅあ・・・ぁぁ」
と、言葉にならないうめき声を挙げて、ゆっくりと起き上がる。
カカリ「おはようございます。では」
私は起き上がったのを確認すると、先ほどから呼ばれている場所へそそくさと向かった。
しかし、魔王様と言ったら、ヒト使い、いやゴブリン使いが荒くてたまらない。あれでも幾千の魔族を統べる魔王様なのだ。少しぐらい魔王としての帝王学を学んでほしいものだ。
そう魔王様に思いながら、私は急いで魔王様の所に向かうのだった。