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第4話

僕は少しずつ盾を傾け始めた。これまで垂直にかかっていた力が一気に抜ける。そして、さっきまで上から抑えられていた大きな拳がカクンと地面に落ちた。あまりにも大きな力だったのか、僕とそのデブゴブリン、略してデブリンの周りに土埃が立った。それによって、そいつの周りが煙に包まれた。今がチャンスだ、ここで奴を仕留められる。

僕は落ちる直前に回避して、回り込んだ。今見えているのはそのデブリンの2メートル程ある大きな背中。

ズサッ

僕はそいつの足に向かって一突き。

ガヴリ「うぅっ!?」

そいつは声にならない物を出し、体勢が崩れ始めた。すると、肩の上からいきなり拳が数発降ってきた。僕はそれを避けて、もう片方の足を一突き。それによって、そのデブリンは四つん這いになっていた。

前原「これでとどめだ!後悔しても知らんぞ!」

僕は最後に決め台詞らしきものを吐きながら、その四つん這いの上に登って、そして刃を下にし、柄を両手で持って振り落とす。

グサリッ

その剣は柄の所まで深く刺さった。

ガヴリ「ぐ、ぐおぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

と、叫び声を挙げながら、そいつは四つん這いを崩し、大の字になって地面に倒れた。それを横目に、僕はその倒れたデブリンの上に乗りながら、

前原「あのな?メガネさん。今僕の下にいるデブのゴブリン、デブリンみたいにさぁ、こういうガッツを見せないとゲームが面白くならないんだよ!まあ囮で僕の事おびき寄せたのはいいよ?そこらへんは評価しよう。僕もさ、こういうのが好きだから言っているんだけど、良いかい?今お前さんに求められているのは敵陣に飛び込むガッツなんだよ。相手に媚びる柔軟性とか必要ないんだ!」

あまりにも熱中しすぎて、もうどっちが敵役なのか分からなかった。それより、この“アイセラ大陸”は、前原悟にとってはスタジオであり、彼が監督でもあり演者でもあるのだ。だからこそ、今ここでゴブリンに熱中して語っているのだ。その語っている事こそが今、このゲームにおいての“プレイスタイル”なのかもしれない。

カカリ「(さっきから何を言っているんだ?このニンゲンは。ゲーム?アニメ?そんな言葉は知らない。新しいニンゲンの言葉なのか?それとも魔法の詠唱か!?それだったらまずい。何か魔法を発動しなければ!)」

私は緑色の指と、その先の長い爪を口の前に置いて、ゆっくりと口を動かす。

前原「いいかい?ただのヘタレ役じゃあだm「我らが雷の精霊よ。目の前のニンゲンを、痺れさせ給え!」って人の話を・・・」

僕はそのデブリンから降りて、ボソボソ喋っているメガネのレンズをかち割ろうとしたその瞬間、そのメガネの上から一つのスパークが放たれた。だけど、その秒速約30万キロメートルの魔法は、僕より数メートル横に寄れた所を通り過ぎていく。僕はまず下を見て、次に右のデブリンの何も動かない体を見る。そして、明後日の方向に放たれて、どこか見えないところにまで行ってしまった魔法を見た。

前原「僕は死ぬべきだったのかもな。お前さんのスパークで」

そう語りかけていた先のゴブリンは、少し唖然とした顔だった。だがそんな事に怯まず、僕はそいつに向かって話し始める。いや話し始めるというより説教に近い物だった。

前原「それより人の話を聞けっつってんの。あんな魔法なんか唱えずに、人の話聞けっつってんの。分かる?だから、命乞いすんなって言ってんの」

少しこれをアニメと考え、本気になってうっかり喋りすぎてしまった。さすがに申し訳ないと思って、僕はその場を去る。

カカリ「(一体どこの出身なんだ?あのニンゲン。明らかにこの大陸の出身ではない。もしかしたら彼こそが・・・)」

そう思ったカカリはメガネを外し、大きく息を切らした。

カカリ「一旦落ち着こう。落ち着いて、後はアイツをボコボコにして・・・魔王様に育てさせればいいだけだ。まだネチネチが残っているはず。あとはそいつに・・・」

カカリは余りにも疲れたのか、地面を背にして大の字になった。


~~~~~


ネチネチ「そろそろか」

ネチネチ言いそうなゴブリンは、すぐにその場で手足に何か包帯のようなものを巻いて、ファイティングポーズを取る。そして、足はステップを踏み始めた。すると、そのゴブリンの目の前に、その“男”が現れた。

ネチネチ「(こいつの戦い方は何なんだ?鞘があるから剣での攻撃か?いや、あれを見る限りもうあいつに使ったか・・・じゃあ俺への攻撃は拳だけになるな。それなら俺の得意な拳と足での語り合いだなぁ・・・)」

そいつは身長5足9印。俺より少し大きいそいつは左の方に盾を構えている。

そう、その男とは、先ほど彼の足を引っ張って転ばせ、挙句の果てにはそこを狙って殺しもしなかった中途半端で卑怯な男だ。

ネチネチ「先ほどの恨み、とくと返させてもらうぞ!!」

そう言いながら、その鉢巻をしたゴブリンは間合いを詰めてくる。まるでそれは僕の世界にいるボクシングの選手のように、だけど凄い速さで。

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