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第3話

それによって震える体は治まってきた。しかし、それで落ち着いたのか、抑えていた手を下ろしてしまい、それが地面の枝に当たってバキッと音が出る。

その時、そいつは草むらから体を出して僕こと前原悟を探している。だが、その草むらの後ろにいたのは、

前原「みーつけた」

そうやって話しかけると、そのメガネは絶望したような顔で振り向く。

カカリ「っっっっっ!」

そいつは声も出さず、僕に怯えた顔を向ける。それはまるで、目の前にいる怪物を見ているようだった。そこで僕は思い出した。彼の状況を表す言葉を。

“前門の虎後門の狼”

今そいつは魔族の少女という“後門の狼”に睨まれ、前原悟という“前門の虎”に今屠られようとしているのだ。その虎は今、刃が銀色に光る剣を振り上げ、地面に振り落とす。しかし、

カカリ「すいませんでしたあっ!!!」

そいつは命乞いをし始めた。僕のズボンに手をかけて、顔を僕に向ける。そして、あわあわとした顔で、

カカリ「どうかっ!どうか殺さないで!!!なんでもしますからっ!!」

僕は少し飽き飽きとした顔で、

前原「今頃命乞いかよ!つまらないなお前!やっぱり賭博でもやっていたんだろう!そういう命乞いをするんじゃない!」

カカリ「な、なんで・・・ですか?」

僕はその質問に少しうろたえるが、

前原「何でってそりゃあ、面白くないからだろう!そうやってさっきみたく殺しにかかっておくれよ!それでも魔王様の通訳やってるんだろ?どうか僕の国の誰かさんみたいにさあ、ただ表では雑な翻訳するだけで裏では賭博で生計立てて、そして裁判所の裏口からでるような奴になるなよ!」

僕はこのゲームにとって、つまらない物を見てはいられなかった。もうその憎悪に任せていっそのことこいつを殺そうと思ってもいた。よくあるんだよなぁ、いつも異世界転生系のアニメはこうやって、敵はあっと驚く弱さで主人公の靴をなめる奴、ヒロイン達は筋肉モリモリマッチョマンの変態最強主人公にチヤホヤとお熱をかます。そのカタルシス、使い回されたストーリーの構造、必ずにせよ主人公の生まれ持ったチート能力や地位で最強、そしておまけにハーレムになって、そしてまたなんかやらかしたようなセリフを吐く。こういう異世界転生系でよくあるお約束は僕は大嫌いだ。こういうのは王道的な展開ではなくてただのパルプ・フィクション、三文小説なんだ。最初は良かったけど皆模倣して安物に成り下げていくんだ。だけど、どうしてもその同じストーリーを楽しみにしている自分がどこかにいる。それと、創作系アニオタの行動力と執念をなめるなよ?その気になれば諸所の動作から異世界の成り立ちの歴史まで全部描くからな!まあもしここにパソコンがあればの話だけどな。

僕はため息を吐きながらこう言う。

前原「つまらない」


カカリ「?」

そして僕は半分怒りながら、そいつに語り始める。

前原「いいかい?お前は今殺されようとしているんだ。それなのにやれ助けてください殺さないでください。ふざけてんじゃねぇぞお前?そこは恐れずに、殺しにかかる所だろう!アニメみたいにさ!」

熱中しすぎてアニメって言っちゃった。こいつアニメって言葉分かるか?まあ頭いいから分かるか。

カカリ「(アニメ?)」


前原「ほら、分かるでしょ?お前さんはこの場において今目の前にいる奴を殺さないといけないんだ!この世は殺すか殺されるかなんだ!」

そう諭しても意味がない。そうやって辞めようとしたその瞬間、そのメガネは笑っていた。こういうのは絶対に何かある。そう不審に思って後ろを見ると、

ガヴリ「す~き~あ~り~!!」

と言いながら左右の手を組んで、大きな一撃を落とそうとしていた。僕はすぐに回避しようとしたが、足が動かない。下を見るとそのメガネのゴブリンが足を掴んでいた。

カカリ「フッ」

先ほどと同じく笑っていた。

前原「まずい!防御!!」


~一方その頃~

仲間に取り残された魔王とネチネチは、ただ二人とも地面に倒れたままだった。ずっと倒れて、空を見ていたのだ。さすがにネチネチは飽きはじめて、

ネチネチ「(あ~・・・いつまでこの体勢取ってればいいんだろ?)」

前原悟とカカリが戦っている中、ネチネチはずっと倒れていた。

ネチネチ「魔王さま~いつまでこう言う感じにしてればいいんですか~?」

と、倒れている魔王様に話しかける。すると、

魔王「知らなーい!」

と子供っぽく言った。

ネチネチ「わっかりましたよ・・・」

すると、ネチネチ言いそうなゴブリンは立ち上がり、

ネチネチ「何すりゃいいんですか?護衛?」

それを聞いた魔王は、怪訝そうな顔をして、

魔王「早く行った行った」

と、手で彼を“早く行け”と振り払った。

~~~~~

前原に重い一撃が落ちる。だが、それは彼の盾によって防がれた。

前原「な、何のこれしき~!(あ、ヤバい!さすがに無理だ!!)」

若干、突拍子もなく出てきたデブの重さで押されているものの、まだ何とか押し切れるかもしれない。その鍔迫り合いが今ここで起きていた。

ネチネチ「落~ち~ろ~!」

そのおデブちゃんで図体のでかい奴は、ここぞと負けんばかりに、手の力を強める。

前原「(さすがに、もう耐えきれない。降参するのはありなのか?いや、そうしたら多分次に狙われるのはあの娘だ。ここで正念場を見せなきゃ、殺られる!!でももう無理だ・・・)」

そこで僕は考えた。

前原「(このまま押しつぶされた方が良いのか・・・いや待てよ?この作戦なら・・・行ける!!)」

そう考えている中も、そのデブは更に力を強める。

前原「(もうすぐだ・・・もうすぐ・・・今だ!)」


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