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第1話

ドサッ

重い音が地面になる。それと同時に、僕の体の上半分が木から露わになってしまった。

そして、その音の方を振り向いていたゴブリンと、一人の魔族の少女がこちらを見ている。

どうやら3匹のゴブリンとその魔族の少女に見つかってしまったようだ。3匹のゴブリンはすぐに僕の前に立ち、魔族の少女は後ろで倒れ、僕の方に手を伸ばして助けてと言わんばかりの目をしていた。先ほどまで4人で鍋を囲んでいたはずなのに、いきなりそんな食われるような態度をしているとは、そいつらと少女の関係はよくわからなかった。

魔族の少女魔王「助けて・・・助けてっ!」

彼女はか細い声で僕に助けを願っている。その瞬間、目の前にいたゴブリンたちは彼女の元に寄り、

「ケーけっけっけっけぇ!!今からこの魔族の少女を食ってやるわい!」

メガネをかけたゴブリンが叫ぶように言う。

「Fu-Fu-!」

それに共鳴したのか、普通のゴブリンが口笛を鳴らす。

「何して食ってやろうかなぁ?おで、食いしん坊だからなぁ?」

鼻水を垂らしたゴブリンは口に指を入れ、物欲しそうに彼女を見る。その口からは涎が彼女の近くに垂れた。それがさらに彼女の危機一髪さを引き立てた。

魔族の少女魔王「助けて・・・助けて!!」

その魔族の少女はさらに泣き出し始めた。さすがに泣き出すという事は演技ではなく、おそらく本当に助けてほしいという事が分かった。

私ことアルティノは少し心の中で喜んでいた。なぜなら

魔族の少女魔王「(どうやら私の演技力で彼を騙せているわね。このまま彼を勇者として強くすれば・・・)」

カカリ「(魔王様はどうしてそんなに執着するのですか?そんなことやっても政務は逃げませんよ?)」

ネチネチ「(いいんだよな?この・・・こういうお芝居に引き込むことが作戦なんだよな?魔王様)」

魔族の少女魔王「(3人ともいい演技よ!そのまま目の前にいる勇者候補をやっちゃえ!)」

私ことアルティノ、魔族の世間体では魔王に当たる私は3人にウインクをする。だが、それが通じなかったのか、カカリが私の耳に口元を近づけてきて、

カカリ「その…次どうすれば良いですか?」

と、私の耳元でそうボソボソと尋ねる。

魔王「それはあなたの決断よ!このまま目の前にいる勇者候補をとっちめちゃえばいいのよ!後から蘇生するレベルの回復魔法を私がかけて置くから!」

私はカカリにそう諫言する。すると、彼は困った顔をして、

カカリ「えぇ、でも流石に突っ込むという選択はちょっと・・・」

魔王「やってみなさいよ!あなたそれでも上位種のゴブリンでしょ?」

カカリ「ウッ!はぁ~・・・痛いところをついてきますね魔王は。しょうがない、少し本気を出しましょう。ガヴリ、ネチネチ、出番です!」

その掛け声を聞いた途端、他の二人は首や手の関節をポキポキと鳴らし始める。私の命令通りに動いてくれることで、自然に口角が上がるのだった。

~~~~~

僕は柄に手を付けていたが、どれだけ待ってもゴブリン3匹の攻撃は来ない。あの魔族の少女も然りで、どうせならあの魔族の少女に何か話しかけてもいる。僕はそんな事で退屈になってしまった。僕は胡坐をかき、頬杖をついて待つ。

カカリ「待たせたなニンゲン!いかにも魔力が小さすぎて反応すらもしなかったわい!」

そのメガネをかけたゴブリンの声を聞いた途端、横にいる二匹のゴブリンは突然笑い始める。なにか、僕を煽っているような声で笑っている。だがそれも何かつまらなくて、どうしても帰りたかった。帰ってハーシェル村の逆方向に歩いて冒険してみようと思い、

前原「帰ってもいいですか?」

と口に出してしまった。

すると、メガネのゴブリンではなく、涎を垂らしたゴブリンでもないもう一人の筋骨隆々である奴が、

ネチネチ「敵前逃亡とは風上にも置けぬニンゲンだな!貴様には我こそ好敵手であろう!」

と、なにかネチネチと漏らしていた。すると、そいつは目の前に現れ、

ネチネチ「一対一でやらせてもらう。ガヴリとカカリはそこでじっと見ていろ(少し、何か大物の気がする。俺の“何か”がそう言っているんだ。まるで人間の皮を被った化け物みてぇに)」

カカリ「え?ちょっと待ってそれ私の出番なんですけど・・・」

僕はため息をつきながら、

前原「早くしてくれよ。どうせなら3対1で来てくれ。その方が良い」

それを聞いたネチネチと漏らすゴブリンは少し怒った表情をしたが、

ネチネチ「いいだろう。そんなに貴様が強いのならその厚意に感謝して3対1でやらせてもらう。ガヴリ、カカリ、どうやらじっと見ている必要は無いようだな?」


カカリ「ふむ、寝ようと思ったがその必要は無いみたいでよかった。魔王様にも良い報告が出来そうだわい!」

そうやって、メガネをかけたゴブリンは笑ってその闘いの輪の中に入る。そして、涎を垂らしたゴブリンも涎を拭いて、

ガヴリ「昼飯前だなぁ」

と、腰を落として構えを取った。まるで相撲の四股を取るように膝を曲げて。

ネチネチ「どうやら1対3の戦いは間違いだったようだな?だがもう遅い!死んでも知らんぞ!」

すると、何かアニメに出てくるようなセリフを吐き終えたネチネチした奴が走って向かってくる。僕は胡坐を直して立とうとしたが、足が痺れて立てない。四つん這いの姿勢になってしまった。万事休す、絶体絶命かと思われた。だが、そいつが僕の顔に向かって右足で蹴りをし始めた途端、僕は軸足を掴んだ。そして、その足を自分の方向へ持ってくる。その足を掴まれたゴブリンは、体勢を崩して倒れた。

ネチネチ「うおぉっ!?」

と叫び声を上げながら。そして僕は少し足の痺れが引いたので立ち上がる。下にいるゴブリンと目が合った。まるで僕が勝利を確定したかのような雰囲気だったので、

前原「ふっ、俺は少女を辱めるやつを絶対に許さない!だったっけな?」

と、異世界転生系のアニメに出てくるキャラのセリフを言ってやった。いや、言っちゃったのだ。このセリフであの助けを求める少女が恋に落ちてしまえばプラマイゼロだろう。とにかく、次の奴に向かう。それは誰か?僕はメガネをかけた方に向かった。


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