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第十話

そして光の柱もその掲示板から消えていく。掲示板を見ると、“接続が完了しました”との通知が来た。しかし、チャットの文字は何もなく、ただ白い壁がそこにあるだけだった。

前原「何も・・・来ないね。うん、何も来ない。多分失敗だな。やっぱり異世界人に掲示板を理解させることなんて無理なんだよ」

僕はあきらめて空地で大の字で横になる。

僕はため息をついて無言、真顔になる。そして、少し立ち直ったような顔で立ち上がり、

前原「よしっ!寝よう!宿へ行ってふかふかのベッドで寝よう!」

とつぶやき、歩き始めるのだった。

~村の宿屋~

宿屋に入ると、右手にはソファがテーブルを囲んでおり、まっすぐ行くとフロントデスクがあり、そこに腰が曲がったおばあさんがいた。

おばあさん「いらっしゃい。一泊銀貨一枚だよぉ」

その優しい声がする。

前原「夜分遅くにすみません。一泊お願いできますか?」

僕は金貨一枚を差し出した。するとおばあさんは頷いて、

おばあさん「はいよぉ、10泊ねぇ」

前原「いや、おばあさん!一泊一泊」

そしておばあさんは目を見開き、後ろに回してあった両手を出して、銀貨9枚を差し出し、机に置いた。

おばあさん「ごめんねぇ、おつりの銀貨9枚だよぉ」

そう言って、机には銀貨9枚と、部屋の鍵があった。

前原「ありがとうございます。では、おやすみなさい」

おばあさんはにこにことして、頷きながら、

おばあさん「おやすみなさい」

と返してくれた。

~部屋~

ガチャリと鍵を開けると、部屋には2台のベッドと、壁側に寄せてある椅子と机と鏡があった。おばあさんはたいそう豪華な部屋を選んでくれたものだ。

前原「おぉ~!」

思わず、日本人の観光客がホテルで上げるような声を出す。僕は履いていた盾と剣とパンプスを脱いでそのベッドの一つにダイブした。何と幸せなことだろうか!こんなにもふかふかなベッドで一泊過ごすことが出来るとは。まるで会社の椅子で眠るのとは大違いだ。

そのふかふかなベッドを堪能していると、ふと、思い出した。

前原「(あれ?会社で死んだんだよな?じゃあ誰か発見しているはずだよな?それでなんかヤバい事になってそうだけど・・・まあいっか!異世界ライフは満喫しないと。会社なんて考えることはこの異世界じゃあご法度だ)」

でもまた考えるのをやめて、ベッドのふかふかを堪能する。一度死んだ人生。二度目はどうかアニメの異世界転生みたいにチート能力をくれたり、不老不死だったりバフかけてもいいよねってこと。

僕はそのまま天井を見る、大の字になって。するとどうだろうか。何か眠くなってきた・・・

僕はそのまま目をつぶりかける。今度こそ死なないよね?そう思いながら、目を閉じていびきを欠き始めた。

~朝~

小鳥のさえずりが聞こえ、窓から日差しの入る中、僕は体を起こす。鏡をみると髪がぼさぼさになっており、髭が生え、スーツのネクタイは緩んでいた。

前原「やっべ、寝ちゃっていた」

僕は履き捨てたパンプスを拾い、地面に置いた盾と西洋剣を取っては体に身に着ける。

~フロント~

前原「おはようございます!」

元気よくおばあさんに挨拶をする。すると、

おばあさん「おはよう。よく眠れたかい?」

前原「はい!おかげさまで」

おばあさん「きょうは、どこに行くのかい?」

前原「近くの森に行こうと思っているんです」

すると、おばあさんは目を閉じながらも驚いて、

おばあさん「そうかいそうかい、森へ行くのかい。くれぐれも遭難するんじゃないよ?元も子もないからねぇ。これを持っていきな?」

そう言うと、ここ周辺の地図を渡してきた。しかもよくわかりやすく、昨日行った洞窟の場所も書いてあった。

前原「ありがとうございます!これ頼りにさせていただきます」

僕はまた日本人特有のお辞儀をしてこの場所を出た。

バタン!

おばあさん「あの変な服の若者はぁ、貴族なのかねぇ?礼儀もしっかりしておるし、言葉遣いの節々に丁寧さを感じるよぉ。懐かしいのぉ、昔貴族である私と、盗賊だった爺さん、私が惚れて駆け落ちしてここに行きついたからねぇ。のう?爺さん」

そう言っておばあさんはデスクの陰に隠れている小さな肖像画を見る。そこには、何か若い男が、額縁に囲まれ、笑顔で佇んでいた。


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