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第七話

~一方その頃~

「魔王さま、僭越ながら申し上げますと、恐らく彼は勇者に向いていないのではないかと。なので他を当たりましょう。拗ねていても、ただ時間が流れていくだけでありますよ?」

メガネをかけたゴブリンが魔王に諭す。だが魔王はそれに反論して、

魔王「・・・だって無視されたんだもん。この私、魔王アルティノを無視したんだもん!私ならあそこで絶対殺してるよ?」

そう言うと彼女は別の方向を向いて、頬を膨らませ、また翼で自分を隠すように籠ってしまった。

「魔王さま!くよくよしていたらだめ。良いこと考えよう!」

鼻水を垂らしたもう一匹のゴブリンが彼女を元気付ける。だけどもちっとも魔王様こと自称アルティノは聞く耳すらも持たない。

「そもそもどういうことですか?自分のことを倒すためだけに勇者を見つけるというのは」

またもう一匹のゴブリンが質問する。すると、彼女はうずくまりながら小さな声で

魔王アルティノ「・・・もん」

「?」

魔王「魔王の仕事辛いんだもん!!何?みんな私が魔王ってわかると慄くしひれ伏すし!それで質問しても何も私に忖度したような事ばっかり!しかも魔王生活はただ玉座に座っていればいいだけの簡単なお仕事だと思ってたのに、魔王城の魔族不足で私も長い時間働かないといけないし?挙句の果てに私の種族をオークはなんて言ったと思う?」

彼女は振り向いて先ほど質問したゴブリンに問いかける。

「え、何ですかね・・・?」

すると彼女は大きな声で言う。

「サキュバスよっっ!!!サキュバス!!!サキュバスって呼んだのっっ!!!!」

周りの鳥も驚いて飛び立つほどの大きな声で。

「サキュバス?あの精気を吸い取る淫魔の?」

魔王「そうよっ!」

「へぇ、魔王さまは大変ですね。そんな身分は僕にとっては分かりませんけど」

そのゴブリンはやれやれまたかといったように魔王の愚痴を聞き流す

魔王「そう!だから・・・だからね?早く私を倒す勇者が欲しいのっ!」

すると、彼女の紫色の目から涙がこぼれ始めた。急に泣き出したのだ。

魔王「うわぁぁぁぁん!!魔王辞めたいよぉぉぉぉぉぉ!!」

そして、泣き言を言いながら地面に顔を伏せる。

「かっこ悪いですよ、魔王の身分でありながらそんなお姿を現されるのは。しかも魔王は終身代を引き継ぎますからね。死ぬまでやめる事なんて出来ませんよ?」

魔王とはいっても本当は齢15にして前代を打ち負かし、その身すぐに次代の魔王を引き継いだのだから心はただのいたいけな魔族の少女だ。魔王の政務に耐えられること等もってのほかである。

魔王「嫌だ嫌だ!!今すぐや~め~た~い~!」

そして、魔王は地面に転がり、駄々をこね始めた。いささか尊厳が破壊されるレベルの魔王の醜態である。すると、その状況を鑑みていたメガネのゴブリンはため息をつきながら、

「魔王様、どんなに叫ぼうが泣き喚こうが仕事の量は変わりませんよ!」

そうきっぱりと言われた魔王はまた萎縮し、小さな声で

魔王「・・・じゃあどうすればいいの?」

少し悲しそうに、物乞いのようにメガネのゴブリンに聞く

「少し食事をしましょう。ここらで食べられる山菜がありましたので」

そのメガネをかけたゴブリンは、後ろに背負っていたかごを置く。

「ガヴリ、鍋を引いてください」

ガヴリ「うい!分かった!」

そのメガネをかけたゴブリンは、鼻水を垂らしたゴブリン“ガヴリ”にお願いして鍋を置かせる。そしてその鍋の中に持っていた水筒の水を入れ、その下に周りに落ちていた木の枝を集めて、置く。

ガヴリ「カカリ、火の魔法!」

カカリ「できております」

メガネのゴブリン“カカリ”が火の魔法のために呪文を唱え始める。

カカリ「我らが火炎の精霊よ、木の枝に集まり、力を宿し給え」

すると、何も着火剤や火など入れていない木の枝が燃え始めた。

そして、カカリは順に採れた山菜を入れていく。

魔王「お肉食べたい・・・」

「そんな甘ったれた事を言うんじゃありません」

魔王「黙って?ネチネチ」

その気迫で先ほどまで

ネチネチ「はいすいません」

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