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第二話

~洞窟内~

暗すぎて1メートル先も見えない。一瞬本当に僕が作ったのか迷ったが、確かに作った記憶はある、もう少し面白みをつけようと思ってダンジョンとかを真っ暗にしたんだっけ。

うーん・・・なんか焚火とか松明とかないのかな?

辺りを見渡していると、森だった。木々があふれただけのただの森だった。僕はその内の一本の枝を掴み、バキリと根元から折って洞窟に向かい、壁に擦り始めた。摩擦熱だ、摩擦熱を起こせ!何とか点いておくれ!そう願って高速で上下に擦りまくる。

~一方その頃~

先ほど無視された頭に角がある魔族の少女と3匹のゴブリンは、唖然としていた。

「あのニンゲン私のことを置き去りにした?どういう事?」

先ほどの彼女は起き上がり、周りのゴブリンに聞こえないような声で

「魔王様、どうするのですか?あのニンゲン、オレたちを無視して行きましたよ?」

1匹のゴブリンが、少女に話しかける。すると、その少女はため息をついて、

「分かってる!!ああいう変人は勇者にしない方がいいの!!絶対ぜぇ~~ったいにああいう人間は魔王様と結婚したいって言いだすんだから!絶対アタシのこと倒さないんだから!」

「はぁ・・・」

その内の一匹のゴブリンは、ため息をついた

「魔王さま!命令をお願いします!」

また一匹の鼻水を垂らした笑顔のゴブリンが話しかける。少女は少し怒った口調で告げる。

「ここでじっとしていなさい!」

「はい!分かりました!」

その魔族の少女は、ゴブリンに囲まれながら体育座りをして、翼で自分を隠すように籠った。

~暗い洞窟の中~

ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス

僕は汗だくになりながら、洞窟の壁に向かって木の枝を擦る。しかし、何時間やっても火が付かない。もうすでに外皮は剥がれ、中にある木部も削れに削れ、完全に尖っていた。今ここに原始的な武器が出来たと言っても過言ではない程、鋭く、そして粗く尖っていた。

その時、洞窟の奥から何か唸る音がした。僕は木の枝を擦ることをやめて、洞窟の奥にその尖った先を向ける。その洞窟の奥から、赤い2つの目が光って見えた。それは待つのも厭わずすぐに僕の所へと向かってくる。僕はその尖らせた木の棒を、両手で持ってそいつに向ける。その2つの目は怯まずに僕の所へ向かってくる。いや、突進してくるのだ。

「く、来るなら来い!!」

僕はそいつに叫んで威嚇する。

「ブモオオオオオオオォッ!」

そいつはそうやって叫び、僕の太ももに向かって突進してきた。

僕はその圧倒的な速さに避けることもできず、地面に倒れる。あまつさえ、この洞窟で唯一の武器だった尖らせた木の棒までもどこかに行ってしまった。首だけ起き上がって、その姿を見ると、イノシシのようなモンスターが見えた。そのモンスターは何か見覚えのある形だった。

「リトルホーン!?」

僕がゲームで一から作った敵キャラだった。イノシシのような見た目で、鼻にある角を突いて獲物を狩るという設定まで作ったほどだった。その敵は今、地面を掻いて僕に突進し、その大きな角で僕という獲物を狩る雰囲気だった。

僕は地を這いながら洞窟の外へ逃げる。だがそのリトルホーンは僕の動きに追いつくようにその角で突いてきた。

「やばいってぇ・・・!やばいってぇ・・・!!」

そう呟きながら息を切らして這いつくばり、洞窟の外へ出ようと踏ん張る。まるでゲームのクイックタイムイベントの時にAボタンを連打するかのように。その時、手元に何か棒状の物が当たった。その先は尖っていて、そして軽い。木のようにゴワゴワとしていた。さっき落とした木の棒だ!

僕は思いっきりそれを掴み、その尖った先を横から突き刺す。

ザシュッ!とそいつの首に木の棒は刺さり、動かなくなった。木の棒からは赤い血がどくどくと流れる。

「大丈夫?復活とか・・・しないよな?」

少し強くなった気がした、ステータスとかの具体的な数字は見えないが。

僕は立ち上がって、その見えないままの洞窟を一歩、また一歩踏みしめて歩き、自分の記憶だけを頼りにその奥へと消えていった。

~一方その頃~

「魔王さま、道すがら食料を探しておりますと、こういう物を見つけたのですが・・・」

3匹目のメガネをかけたゴブリンは、円形のカップ麺を拾ってきた。側面の所には“ごつ麺”と、大きく書道の筆で描いたような文字がプリントされていて、上のラベルには先ほどの文字と、醤油味と書かれている。勿論、このアイセラ大陸に日本語はおろか、カップラーメンすらもない。

「何これ?なんて書いてあるの?」

そうやって魔族の少女こと3匹のゴブリンから魔王様と呼ばれている少女はそのカップラーメンを持ってきたゴブリンに質問する。

「申し訳ございませんが、この言葉は大陸のどこを探しても存在すらしない言葉です。方言ですらありません。私はあなたの通訳としてこの大陸のあらゆる言語を理解し大まかに通訳することは可能ですが、これに関してはさっぱりです」

そうやって言うと眉間に皺をよせて、ゴブリンは分からない素振りをした。

~暗い洞窟の奥~

僕はゲームを作っていた記憶を頼りに、宝箱のある隠し部屋の場所を手探りで探す。

コンコン・・・コンコン・・・

壁を伝ってはノックして、音の反響で、時に自分の記憶で。

その時、コッコッと軽い音が聞こえた。ここだ、ここに隠し部屋がある。そう確信した僕は思いっきりその壁を押し込む。すると、その壁はゴリゴリと音を立てながらゆっくりと回転し始めた。そして、90度回したその隙間から入ると、

四角形の部屋に宝箱がポツンと一つ配置してあった。

「しゃあっ!!タカラバコォ!!」

僕は歓喜のあまり、ガッツポーズをして喜ぶ。そのテンションのまま、宝箱を開けて中にある物を確認した。すると、中に入っていたのは鞘に納まった一本の剣。日本刀のような片刃で曲がっているものではなく、両刃でまっすぐの西洋剣だった。

僕はその剣を両手で持ってみると、凄く重いように見えて軽かった。なにかアルミニウムとかの軽い金属でできているのだろうか?それとも、ゲームを作っているときにこの剣の重さだけRigid BodyとGravityをいじったりしなかったのだろうか?とにかく、その剣は柄に黄色い宝石が秘められていて、その上刃こぼれや錆びさえいなくて、いかにも新品同様といえる物だった。

「ご・ま・だ・れ~!」

宝箱を開けた時の効果音を自分で口ずさみながら上に掲げる。そして、僕はズボンに剣の鞘の紐を右側に括り付けた。しかし、僕は剣道部に入っていたわけでもない。フェンシングでもない。剣の扱い方は一個も知らないんだ。

僕はまた洞窟の奥深くまですすむのだった。

「暗くて気味悪いなぁここ、これ作った奴絶対バカだろ」

誰もいない洞窟の中で気味の悪さを紛らわすためにひとりごとを呟く。

「あ、僕でした」

つまらない冗談を言ってはその声が只虚しく反響したのだった。

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