ザワザワと森の声がする、ピャアピャアと鳥の鳴く声もする。ここはどこだ?
草の感触が瞼を擦って開けさせる。
地面に生い茂る草の匂いと、排泄物の匂いが鼻腔を突き刺した。
そういえば僕、ゲームを作るのに夢中で気絶するように寝ちゃっていたけど・・・
夢か?
そう思って、試しに上半身を起こして自分の頬をつねってみたがどうもおかしい。本当に痛みを感じる。そしてこの周りに生い茂る木々や草原。どこか見覚えがあるんだよなあ。何だったっけ?
あ、思い出した!
ここ・・・僕が作っていたゲームの世界だ。
~半年前~
「前原!プレゼンの用意頼む!」
「前原君、これ整理しといて!」
「前原さん、今からこのゲームプレイしてバグ見つけてくれない?」
「前原悟くん、このコードのデバッグを頼むよ」
電話のなる音と、パソコンのキーボードの音が同時に社内に鳴り響く。
僕個人の仕事よりチームの仕事の方が多いため、趣味どころか僕に任された仕事すらも出来ないほどであった。もはやゲームを作る夢のような職業ではなく、自分はただの社畜だったのだと思い知らされる瞬間だった
~あくる日の午前3:00~
誰もいない社内、僕は今、私用のスマートフォンで異世界転生系のアニメを見ながら、そして夜食用のカップラーメンのラベルを剥がさず置いて、社内のパソコンの前で天地創造をする。海を作り、地形を作り、ゴブリンを置いてはまたそれを動かすためのコードを作り、実行する。
「*****」
おっ、声出た。まあ、これらの面倒くさいことをやれるからこそ、この会社に雇われたのかもしれない。ゲームクリエイターになるには経験が必要だ。だからこそ、この作品を作るのも一つの経験だ。それと、こういう事は新人の僕にとってゲームで例えるならレベル上げだ。
~6か月後~
今日も定時から午前3時までUnityでの天地創造に没頭する。なんとか終電まで間に合えばよかったものの、どうしても僕の性格的にどうしても許せない物があるし、プロットと現実があまりにも乖離しすぎて迷走していた。
「これじゃあもう終電は見逃して社内泊するか・・・」
僕はそう呟きながら、画面にあるプレイヤーを動かしてテストする。結局ゲーム制作というのはそれの繰り返しだ、何度も何度も繰り返して問題がないかチェックする。
23歳新卒にとっては痛くも痒くもない。むしろ天性のアニメ好きのオタクにとってゲームはアニメと同じ。何も出来ずにくたばってたまるものか。
そう考えていると自然にやる気が上がってきた。僕の止まっていた指は動き始め、頭にふとアイデアが浮かんできた。自分をキャラクターのベースにしよう。
なるべく自分の体型に合わせて、自分と同じような能力を作って・・・
なんかスキル入れたいなぁ。でもこのファンタジーRPGの“アイセラ大陸”にどう入れよう?
その時、アニメでは、主人公のチート能力で皆から崇められたりするシーンがあった
その瞬間、脳内の電気信号がビリビリと僕の手を高速に動かした。息をすることすらも忘れる五分間が今、キーボードを叩く感触に支配されている。
その5分間が終わった時、僕は社内にいた。目の前を見るとすでにコードは打ち込まれており、そして画面にはあるものが出来ていた。それは何かというと、白い長方形のようなものだった。
「何か・・・UIでも作ったのかな?まあ分かりやすいからいいか」
さっきの5分間で自分は何を作っていたのかは分からない。だけどもこれは使えるかもしれない。とにかくその能力をプレイヤーにインプットして、実行する。そしてさっき作った能力を、“アルファ掲示板”という名の詠唱で発動する。
そしてSEが鳴った瞬間、白い長方形のホワイトボードのようなものが出てきた。僕は喜んだ。しかし、視界がぐらりとなってよろけた。さすがに毎日こんな事をやっていれば当然体調は悪くなるし、生活習慣もボロボロだ。少しの間寝よう。そう決めて椅子に座り、目をつぶった。息をせずに、そして心臓をぴくりとも動かさずに。異世界転生系のアニメが流れたまま目をつぶった。
あとちょっとなのになぁと思って・・・
~~~~~
そして今に至る。
そうだった、ここは夢でもないのだ、そしてあの世でもないという事も分かっている。ここは僕が死ぬ前に作っていたゲームの世界。そう、それ即ちここは“アイセラ大陸”。
僕はゲームの世界に転生してしまったのだ。
「うっはww自分で作ったゲームの世界行くの現実逃避で本当にワロスwww」
と、ネット用語全開で喋った。何ちゃん民だったっけ?
辺りを見回すと、三匹のゴブリンに囲まれている、角と翼の生えた魔族の少女が居た。
魔族の少女「助けて・・・助けて・・・!」
と手を伸ばしながら。襲われているのかと思い、立ち向かおうとしたが、あることに気が付いた。このゲームのシナリオ通りに動くのはさすがにどうかという事だ。もうこの三匹のゴブリンと魔族の少女がチュートリアルだという事は、何度も何度もテストプレイして知っている。じゃあどうしてやろうか?
ふとしたその時、僕は彼女たちを無視して、逆の方向を歩き始めた。あえてチュートリアルを外す、このゲーム、いやこの世界のベテランである僕にとってはもう分かり切っていることだ。そんな矢先に待っていたのは小さな洞窟だった。