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 第百十一話 両親

 新婚旅行を終えてから、優菜はというと長い産休に入っていた。

 その産休中、あまりに退屈だったが、散歩でもしようものなら令が必死の形相で「俺も行く」と大事な会議を放ってでも付いていこうとしたのだ。

「令、ちょっと……過剰反応しすぎだよ……」

「いや、優菜にも子どもにも何かがあったらと考えると、恐ろしくて堪らない。それに幸せな日を家族で過ごしたいと思うことのどこがおかしいんだ」

「それは、そうだけど……」

「それに、俺はいい両親とは言い難いやつらに育てられたからな……。手さぐりで、いい親は無理でもそれなりの親にはなりたいんだ」

「そっかぁ……」

 令もいろいろと頑張ってきたからわかるのだろう。

 子どもの苦労というものも知っているし、財閥の御曹司というだけあって、親の期待を背負う義務もあった。それらを全て、子どもに背負わせたくはないというのが、令の気持ちなのだろう。

「そういえば、ベビー服……何色がいいだろうか」

「私は黄色かなー。男の子の色とか女の子の色とか、今は関係ないけれど、でもそういう目で見てくる人もいるから……。だから黄色とかオレンジがいいかな! それに、元気いっぱいの子になってくれそうだもの!」

「そうだな」

「あ、令……。ベビー服とかなんだけど、結構出費が重なると思うんだ……。いいかなぁ……? 生まれてから、もちろん成長するし、吐き戻しとかもしちゃうだろうし。肌着はどうしても何着も必要になるんだよね」

「その辺りについては、俺にはよくわからないからな……。もちろん、いくらでも使ってくれていい。だが、俺も知る必要があるな」

「本当……!? そう思ってくれるの?」

「父親ならば、当然だろう」

「だったら、パパママ教室、一緒に行ってくれないかな……。お仕事で忙しいから、今まで言い出せなかったけど、もうすぐ妊娠中期に入るから、パパママ教室に参加できるの。もしよければ、令も一緒にどうかなって思ってたんだ」

「行かせてほしい。俺も、赤ちゃんについてもっと勉強したいと思っていたし、どんなに本を読んでも実際とは違うなんてことはよくあることだ。それらの不安の解消にも、ぜひ一緒に参加させてほしい」

「うん……! わかった! じゃあ、予約入れておくね。市のパパママ教室と、産院ではパパ教室もやってるよ!」

「どっちも参加する」

 令はさらっと言ってのけた。

 しかし、優菜は少し不安になった。

「でも、令はいつも仕事忙しいのに……。これ以上無理をしてほしくもないんだよね。気持ちはありがたいけど、少しずつでいいんだよ? 全部の日程を出る必要はないからね? そりゃ、出てくれればありがたいなぁとは思うけど」

「安心しろ。仕事の方も赤ちゃんの方も、もちろん優菜のことも……。全部を大事にしているから、倒れないようにちゃんと調整するさ」

 なんとも心強い言葉だった。

 それからその言葉の通り、令は優菜と共に市や産院がやっているパパママ教室によく参加してくれていた。どうしても抜けられない、出なくてはいけなくなってしまった仕事などの日以外は、ちゃんと出てくれた。

 そして「これでおむつ替えの時は俺もあたふたせずに優菜に任せないで出来るな」などと言って、おむつ替えを覚えたり、沐浴の仕方を覚えたりと、頭の良さをフル活用したのだった。

 また、優菜のマタニティーライフがより過ごしやすいものであるようにと、令は休日には一緒に散歩に行ったり、家の中でも退屈しないようにいろんなものを始めてみては? と言って、一緒に趣味を始めたこともあった。

 そして優菜が割と飽きやすいことも判明した。しかし、そんな優菜だったが、ずっと長続きしているものもある。それは日記だった。

 赤ちゃんがいるとわかってから、日記を取り寄せて書き始め、ずっと続けて書いている。その日記には赤ちゃんへの言葉と令への言葉、そして自分の生活が少しだけ書かれているのだった。

「優菜、毎日日記を書いているな。……俺にも見せてくれないか?」

「えー、恥ずかしいよ」

「見せてほしい。見てみたいんだ。優菜の見ている日々を」

「……そこまで言われたら、いいとしか答えらえられない、かな。どうぞ」

「ありがとう」

 令は優菜の日記を読むと、心の中がぽかぽかと温かくなるのを感じた。

 少しの出来事が、優菜にはこんなに響いていたのか。ちょっとのお礼の言葉に、こんなに嬉しいと感じてくれているのかと、とても嬉しくて仕方がなかった。

 どうか、その気持ちが、子どもが生まれてからもずっと変わらないでいてくれるようにと願い、令は日記を閉じて優菜に渡す。

「とてもいい習慣だ。これからも、続けていてほしい。たまに……読ませてくれると、嬉しい」

「ちょっと恥ずかしいけど、令が読みたいなら、読んでもいいよ。でも、私がいない時には読まないでね!」

「俺を何だと思ってるんだ……。そんなことをするはずがないだろう」

「ふふっ」

——こんなパパとママだけど、どうか、よろしくね。赤ちゃん。

 優菜はそう心の中で思って、幸せな日々を過ごしていく。


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