一方で姫乃は今日も繁華街に行くことにした。
そしていろんなところで優菜の話を……と思ったのだが、いくら話してもそんな人物はいないのではないかと言われ始めてしまっていることに気が付く。
確かに、アカウントは存在しても、既読すらつかないのだから、遊ばれていると思われて当然だとも姫乃も思うのだった。
ならば、伝言ゲームのようなものをすれば面白いのではないだろうかなどと、またくだらないことを姫乃は考えた。
まず吐いた嘘は優菜があまりにたくさんの人から連絡が来て戸惑っているということ。
そして、友達になるにはある程度ちゃんとした人がいいなと言っていたということ。
遊ぶのは、嫌いじゃないとも言っていたと、そう伝えた。
さあ、これからが見ものだ。この伝言ゲームがどう変化していくのだろうか。
そう思うと、姫乃はぞくぞくと、身体の芯が震えるような感覚を味わった。
男達はそんな姫乃からの伝言ゲームで勝手な優菜のイメージを作り上げた。
きっと男遊びに長けた尻の軽い女だろう。何かプレゼントしたらきっと遊んでくれるだろう。性格はちょろくて、簡単で……などと、好き勝手妄想し始める。
そしてメッセージを続々と送り続ける。見られないかもしれないことを承知の上で、この伝言ゲームに乗った。
というのも、このゲームから降りなければ、優菜ではなく姫乃で遊ぶことが出来ると考える悪いやつも当然何人もいるからだった。
姫乃は優菜を陥れることだけを考えていて、そんな簡単なことにも気づくことが出来なかった。
それがどんな結果を招くことになるのかということも、もちろん見落としていた。
そして、男達も馬鹿ではない。逆に姫乃に伝言ゲームをしてやろうと思うのだった。
優菜をも、使って。
「優菜ちゃんを捕まえたって本当? ……酷いこと、してないよね?」
姫乃は優菜を捕まえたという男達の嘘にまんまとハマった。
心の中ではそのことに喜んでいた。
男達から「今、別のやつらと楽しんでる最中だよ。控えめだけど可愛い女の子で皆嬉しいって」などと嘘を吹き込まれる。
「……そう。なら、よかった」と、本当に何も知らない純真無垢な女性を演じ切る姫乃。
しかし、男達はそんな姫乃に手を出そうとするのだった。
「お姉さんも、俺達と遊ぼうよ」と……。
「い、いえ、私は遠慮しておくわね。友達ならたくさんいるの」
「いやいや、あの女の子だけ楽しませておいて、お姉さんを楽しませないなんてことがあったら俺達も心苦しくてね……。ほら、こっち」
男達は姫乃の腕を引っ張った。
「痛いっ! やめて!」
繁華街での小さな騒ぎなど、日常のことのようで、周りは横目で見ては通り過ぎていく。
「いいから、いいから。今更、こんなところまで来ておいて、何もしないで帰るなんてことないだろう」
そう言いながら、姫乃を引っ張ってある場所に連れて行った。
そこは、カラオケで、姫乃は多少安心した。
しかしその安心が、問題だったのだ。
個室に連れ込まれたら、もう戻れなかった。
結局姫乃が解放されたのは朝方で、姫乃はその日、初めて欠勤した。
会社に連絡を入れると、姫乃は乱れた服装のまま家まで帰り、家に帰るとすぐにシャワーを浴びて、全てをなかったことにしたいと思うのだった。
しかし、そんなことでなくなるはずもなく……。
姫乃は優菜への恨みをより強くして、どうしてやろうかとそればかりを考えた。
逆に言ってしまえば、そう思わなければ辛くなってしまうのだろう。
男達に遊ばれた姫乃。こんな屈辱的な思いは初めてだった。
優菜も同じ目に遭わせたい。同じ、いや、それ以上の屈辱を遭わせてやらなければ気が済まない。
「私は、綺麗。綺麗だから……大丈夫。でも、優菜だったら、きっと綺麗になんかなれない。そうしたら、令に抱きしめてもらうことさえも出来なくなるね」と、姫乃は呟いて、くすくすと一人で笑うのだった。
そんなことが起こっているとも知らず、令と優菜は今日も二人で仲良く出社し、仕事をしていた。
姫乃が、ついに理性をなくした獣のようになってしまったということも知らずに。
姫乃は、自身のスマホを強く握りしめ、そして今朝まで遊ばれていた相手に「お礼」のメッセージを送っていたのだった。
「今度、優菜も連れて行く」と、そんな一言を添えて。