姫乃はその夜、繁華街をふらふらと一人で歩いていた。
そこにはあまり柄のよくない男達がいる。
声を掛けられ、姫乃は逃げようとして、わざと捕まった。
そしてお茶になどと言われて誘われ、酒の場に連れて行かれたのだった。
酒の場で、姫乃は酔った……振りをした。そのままの勢いで、姫乃は優菜についてを男達に軽く教えていた。とても可愛くて、純粋で、親が決めた婚約者はいるけれど男を知らないのだと。
男達の目がぎらぎらとし、もっと優菜の情報が欲しいと姫乃に教えるように言った。
姫乃は「彼女のこと、本当に好きなの。だから、酷いことはしないでね。ただ、遊ぶくらいなら、きっと大丈夫だと思うの」などと言って、心の中で笑っていた。
ついでにと社内で使っているトークアプリの、優菜のアカウントを教えた。
男達は姫乃に「ありがとう」と言って、姫乃には何もせずにそのままどこかへと行く……はずもなく、姫乃に「もう少し遊ぼう」と言ってどこかへ連れ去ろうとしたが、姫乃の方がそこは上手だった。姫乃は少しお手洗いへと言って、そのまま店を出た。
自分の連絡先は男達に教えることもなく、優菜の連絡先だけ教えてそのまま帰って来たのだ。
姫乃は自分の家に帰ると、着ていた服を脱ぎ捨てるようにして洗濯機に入れ、回し始める。
「あんな汚い男達に触られたなんて、反吐が出る」
その視線は、どこまでも冷たいものだった。
そして下着姿のまま鏡を見に行き、自身の体に何か変化がないかとよくチェックをして、太っていないことなどを確認すると、シャワーを浴びて、さっさと次の日の準備をして眠りに就いた。
その頃になると、優菜は令に送ってもらって自宅のベッドでスマホのゲームで遊んでいた。
しかし、しばらくしてからピロンとメッセージアプリの音がした。
全く知らない人からだった。
それも、何人からも届く。
どれも遊ばないかといった内容で、写真を送ってほしいなどといった要求を書いたものまであった。
優菜は気持ち悪くなって、アプリの通知音を消した。
しかし、どんどんメッセージは増えていく。
優菜はすぐに誰が何をしたのか、想像がついた。
「また……か」
過去にも、同じようなことが何度かあった経験から、すぐに姫乃だろうと思った。
優菜はどうしたらいいのか悩み、結局無視するのが一番だと思ってブロックして終わらせた……つもりになっていた。
その行動が、男達を逆に誘い出すことになるとは知らずに……。
次の日、優菜は姫乃に「おはよう。昨日はよく眠れた? なんだか目の下、隈が出来てるけど大丈夫?」などと言われたが、優菜は目の下に隈など出来ていないし、そう聞いてくる時点で、やはり姫乃が犯人だったのだと確信させる結果となった。
「大丈夫です。隈……は、ありませんし、姫乃部長こそ、昨日どこに行ってたんですか」と聞くと、姫乃はなんだか昨日繁華街に行ったことがバレたかのようで、腹立たしく思えた。
「別に、どこだっていいじゃない。それよりも、新しいお友達とも仲良くね」と姫乃が言い、優菜は「生憎、友達には困ってませんから」と言い返すのだった。
そして二人はそれぞれの部署に行くのだが、優菜は内心、おっかなびっくりというところがあり、言い返したことに強い高揚感のようなものを感じていた。
自分にも言い返すことが出来たという、確かな自信が、優菜に出てきたのだ。
優菜は今の自分に怖いものなどないと、まるで自分が無敵状態のような気がしてしまった。しかしそれは間違いだったと後に気づくことになる。
それだけ、優菜を待ち受けているほんの少し先の未来は、難しいものなのだから。