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エピローグ「日常〜その後の日々」

 かくして「株式会社ジョアー」は「ハーモニクス・ソリューション」を吸収した。

 といっても、「株式会社ジョアー」の目的は打倒「ハーモニクス・ソリューション」であって、事業をすることではない。

 だから、殆どの事業を元の企業に返還した。

 「ムービング」も「イノコア」も「ロビン・ルイス」も「ピークォド・コーヒー」も「エレベートテック」も、その他の取り込んだ企業も、元の企業に戻り、事業を再開している。

 けれど、全ての事業を返還したわけではない。

「仁〜。やっぱりやろうぜー。宇宙開発」

「MMOの開発は本当にやりましょうよ!」

「ね、仁君。この『アントニー』って輸入企業、もう事業やりたくないって。もらっちゃって輸入事業やろうよ!」

 重明、有子、恭子がそれぞれ自分のしたい事業は継続したいと主張したからだ。

 かくして、「株式会社ジョアー」には三つの部門が出来た。

 重明が部長を務める宇宙開発部、有子が部長を務めるゲーム開発部、恭子が部長を務める輸入事業部だ。

 その上に、社長として仁が立ち、その補佐として優希が副社長となった。

 また会社の経営にまだ不慣れなため、勝久をアドバイザー兼秘書として雇っている。

 知名度故に就職を希望する社員も多くいたが、まだ事業を始めたばかりということもあり、そんなに多数の人は雇わず、小規模な社員人数で運用している。


「恭子のところは安泰だな。流石は元々優秀な輸入企業をそのまま吸収した事業だけは有る。暫くは輸入事業部の収益で生き永らえる事ができそうだ」

「えへへ。任せて! 『株式会社ジョアー』は私が支えるから」

 経営会議で、仁が評すると、嬉しそうに恭子が笑う。

「その点、重明のところは金食い虫だな」

 と忌憚のない優希の言葉が続く。

「なんだと、宇宙開発は金がかかるんだよ、トライアンドエラーしていかなきゃならねぇんだ。仕方ねぇだろ」

「それはそうかもしれないが、ハーモニクス・ソリューションの宇宙開発部門をそのまま使ってるにも関わらずこれだけの失敗が続くのは部長に問題がある可能性が高いんじゃないのか?」

「なにおう!?」

 優希の言葉に重明が立ち上がる。

「まぁまぁ、二人とも」

 仁にはどういうわけかさっぱりなのだが、優希と重明は犬猿の仲となってしまっており、いつも衝突を繰り返している。

 恭子が宥めるとすぐに喧嘩を止めるのも不思議なところだ。

「とはいえ、確かに。なにか金を集められるパフィーマンスを考えたほうが良いかもしれないな。俺も考えておくよ」

 仁も宥めるのに加わる。

「その点、ゲーム開発部は順調よ。先日販売開始した小規模シングルプレイゲームが順調に売上を重ねているわ。次は小規模なマルチプレイゲームを開発するつもり」

「有子は思ったより堅実に進めてるよな。この調子でやっていけば、いつかはMMOも目指せそうだ」

「えぇ、期待しておいて。『VRO』以上の人気ゲームを作ってみせるから」

 仁の言葉に有子が自信家な表情を浮かべる。


「しかしよう、仁。俺達、行くところまで成り上がったもんだよな」

 会議の終わり際、重明がそんな事を呟いた。

「あぁ、そうだな」

 最初は名もなき初心者だった。たまたま初めてのレアアイテムを見つけて「レアアイテム初心者ニュービー」などと讃えられたものの、あんなの新しい話題が出ればすぐに埋もれていただろう。

「私達と出会ったのがデカかったわよね」

 そう言って有子も笑う。

「あの時はびっくりしたなぁ、昼飯食ってたらいきなり声かけてきてさ。もう一年になるのか」

 仁はしみじみと言う。有子と恭子と出会い、デュエルに仁が勝ったからこそ、パーティ「JOAR」は結成出来た。

「そして、レイドで勝ちまくって……、そうだ旅行に行ったらストームの奴が悪さしてたんだよな」

「あぁ、思えばあいつとも長い因縁だった」

 重明の言葉に仁が頷く。それで、「JOAR」は「多様性街」と用心棒契約を結び、有名パーティへの一歩を踏み出した。

「嵐士君はその後、『トーキョータウン』を乗っ取ったんだよね。今にして思えば、あれは手っ取り早く有名になって、お父さんに認めてもらいたかったのかな」

「素直にレイドに挑んでればよかったのにな。そこで歪んだ手段を取ってしまうのが、あいつの悪いところだったんだろう」

 恭子の言葉に仁が頷く。

 そして、「JOAR」は「トーキョータウン」を奪還し、一躍有名に。

 「スカイライク」と契約し、CMまで撮影した。まさに日本中に知られるようになったのがこの時だろう。

「でも、その後は危なかったわよね。ストームが何度も妨害してきて、危うく契約を切られるところだった」

「あぁ、それで俺は……、ストームを、嵐士を殺した。そしてそれを、知らずにいた」

 仁は自分の手に視線をやって握りしめながら呟く。

「そして『来るべき時』が来て、私達は『ハーモニクス・ソリューション』の兵士になった」

「で、最強になった!」

 仁の言葉に重明が続ける。

「だけど、『ハーモニクス・ソリューション』の野望が成立する一歩前まで進めさせてしまった」

「でも、結果的にそれで良かったんじゃないかな。私達が『ハーモニクス・ソリューション』に所属してたからこそ、強くなれて人気になれて、それで彼らを止めることが出来た」

 仁の言葉に恭子が微笑む。

「恭子さんの言う通りだ。回り道に見えても、案外これが最短距離だったのさ」

「そして、ついには社長と役員にまでなった!」

 優希がそう言って仁に言うのを半ば遮るように、重明が堂々と宣言する。

「あぁ。けどまだまだこれからだ」

 優希が重明を睨むのを置いて、仁が頷く。

「俺は、『株式会社ジョアー』をメガコープにする。みんなと一緒に」

 そう仁が強く宣言する。

 その言葉にその場にいた全員が頷くのだった。

「お茶が入りましたよ。お茶菓子もお持ちしました」

 そこに、優希の秘書になった玲子がお茶とお菓子を持ってくる。

 経営会議は終わり、楽しい歓談の時が過ぎていくのだった。


 それから数十年後。

「皆さん、今日は待ちに待ったのオルキヌス七号の打ち上げの時です」

 ニュースが流れていた。

 大きな単段式宇宙輸送機SSTOが大写しにされている。

「カウントダウンが始まるようです!」

【5】

 テレビに大きく数字が表示される。

【4】

【3】

 エンジンが点火され、大地が炎で満たされる。

【2】

 見ている人々が一斉に数字を読み上げている。

【1】

 SSTOが飛び出す。

 それは宇宙で見事に軌道に乗り、軌道上に一つの大きな人工衛星を配置する。

「それではいよいよ、外宇宙へメッセージを送るときです」

 人工衛星が大きなパラボラアンテナを広げる。

 そして、青白いレーザーを銀河の外側に向けて放つ。

「いやー、素晴らしいですね」

 テレビでその様子がワイプに移動し、スタジオの人々が言葉を交わす。

「人類が夢見た異星人へのメッセージ。今回は過去に行われたどのメッセージ送信手段より遠く広く届くそうじゃないですか」

「御存知の通り、メガコープ『ジョアー』は輸入事業、ゲーム開発、宇宙開発の全てで素晴らしい成果を上げており……」

「うちの娘も『ジョアー』の開発したMMOにドハマリしてますよー」

「うちの妻も、『ジョアー』の輸入店には大助かりで……」

「まさに日本が世界に誇るメガコープですよ、『ジョアー』は」

 そう。オルキヌス七号と呼ばれたSSTOとそれが配置した人工衛星を開発したのは『ジョアー』。

 『ジョアー』は仁の宣言通り、日本一と呼ばれるほどのメガコープとなっていた。

「『ジョアー』は今後もアメリカのメガコープと協調しての軌道エレベータの開発事業や外宇宙探査船の開発などを目標として掲げており……」

「輸入事業も店舗拡大するとの噂が……」

「例のMMOももうすぐ大型アップデートでしょう? 娘が毎日楽しみにしていてねぇ」

 それでも、夢は終わらない。

 まだまだ『ジョアー』は拡大を続けている。

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