『VRO』のお台場にあるプレイヤータウン「多様性街」。
東京テレポート駅から伸びているりんかい線の高架の下。
ポツンと建設されたログハウスの前にて、二人組がそれぞれ睨み合う。
【DUEL - Orcinus・Reverent VS Jin・Ali -】
デュエル開始を告げる表示が出現し、両者の位置が強制的に離される。
【5】
そして、カウントダウンが始まる。
「いつもの俺達なら負けない。やるぞ、アリ」
「えぇ」
ジンとアリが視線を通わせ頷きあう。
【4】
「絶対に二人の目を覚させようね、オルキヌス君」
「はい。絶対に負けません」
リベレントとオルキヌスも視線を通わせ頷きあう。
【3】
ジンが腰から《ファンクサスブレード》を抜く。
【2】
オルキヌスが《フォトンクレイモア》を背中から抜き、起動する。
【1】
リベレントが身の丈ほどもある巨大な
【DUEL Start】
「
アリの右手首に魔法陣が出現し、そのままもう一つ魔法陣が出現、肘の位置まで移動し、その道中に二つ等間隔で魔法陣を出現させる。
「おら、《カラミティトランプル》!」
オルキヌスが一気に跳躍し、空中で三回転しながら、ジンに迫る。
ジンは強力だが隙の大きいその一撃を後方に飛び下がって回避する。
それでも鋭い《フォトンクレイモア》の一撃は鋭い風圧を呼び、その鋭い風はジンにまで届く。
当然、ダメージはないが、その鋭い風はもしぶつかれば自分の命はないと感じさせるだけの凄みがある。
「ルックス・サジッタ・スルクールズ」
ジンはオルキヌスがWS使用後の硬直時間に陥っている隙を逃さず、後方に距離をとりつつ、魔法を詠唱し、《マジックミサイル》で攻撃する。
「はん、そんな攻撃じゃ、俺の《バトルヒーリング》の回復量は上回れないぜ!」
「おいおい、以前と一緒だと思うなよ」
ジンのレベルは当時より確実に上がっているし、今はアリのバフもある。
「げ、思ったより削れるな……」
ジンは努力が苦ではないタイプで、四人揃っていない時も一人でコツコツとレベル上げをしていた。
今やかつて二人デュエルした時とは比べ物にならないくらい、ジンも成長していると言うことか、とオルキヌスは思った。
とはいえ、感心している場合ではない。このままでは魔法で押し切られて負ける。
「まだまだ行くぞ!」
オルキヌスはグローバルクールタイムが終わると同時に、《ディザスターターン》を発動し、再びジンに迫る。
三連続の横回転。触れるものを一撃で粉砕してしまいそうな恐ろしい独楽を前に、ジンは後方にバックステップを続けるが、二撃目が頬の皮膚を掠め、一気にHPゲージが減少する。
「ジン、危ない!」
さらに一気に接近してくる三撃目を前に、アリが《ネケク》でジンを一気に手元まで引き寄せる。
「ありがとう、助かった」
「回復するわ」
「いや、時間がない。リジェネだけ頼む」
「分かった」
アリからリジェネ効果にバフを貰いつつ、ジンは再び魔法を詠唱する。
オルキヌスとジンの間にはそれなりの距離がある。長い詠唱による魔法が使えそうだった。
「オルキヌス君、危ない!」
だが、それより早くリベレントの《ハードシールドスロー》が飛んでくる。
「!」
ジンは咄嗟に《ファンクサスブレード》で《スヴェル》を受け止めるが、あまりに大きな重量攻撃はジンを大きく後ろへ後退させる。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
一気に肉薄してきたリベレントによる《ハードダイブ》が敢行される。
「食らうか!」
ジンは《マジカルレイピア》に持ち替え、《リポスト》を発動。
落下してくるリベレントをギリギリのところで回避し、斬撃を命中させる。
「へぇ、ジン君も本当に強くなったね」
減少するHPの量にリベレントが感心する。
そうは言ってもリベレントは元々膨大なHPと防御力を持つ。ジンにしてみれば相変わらず硬すぎるだろ、と言った感想だった。
だからと言って諦めるわけにもいかない。ジンは素早く武器を《ファンクサスブレード》に持ち直し、《ハードダイブ》失敗で大きな隙を晒しているリベレントへ連続攻撃を叩き込んでいく。
「こんのぉ!」
リベレントが《スヴェル》を大きく振るってジンに向けて攻撃するが、ジンはそれをあっさりと最小限の動きで回避し、攻撃を加えていく。
「早い!?」
「まだ三日だけど、現実世界でも勉強してるんだ」
ジンは勝久越しに智顕と連絡を取り、嵐士が使っていたという西洋剣術スポーツ「アーマード・バトル」のテキストや練習ソフトなどを受け取っていた。
この三日の間にジンはそれらから学び、今実践の機会としていた。現実では理論だけでは動けないが、ステータスの分だけ身体能力が向上するこの世界であれば、軽々と実践出来る。
「リベレントさん!!」
そこにオルキヌスが追いついてきて、大上段にジンに向けて斬りかかる
だが、やはりそのシンプルすぎる動きは容易く見切られ、却ってWS《サンダーストームラッシュ》による強烈な反撃を受ける。
リベレントとオルキヌス。二人の敵から同時に攻撃されているにも拘らず、ジンは巧みな動きで攻撃を回避しつつ、確実に両者にダメージを与えていく。
オルキヌスが後方に大きく跳躍し、《フォトンクレイモア》を射撃モードに切り替える。
「武道ベースなら射撃戦はどうだ!」
「撃たせねぇよ」
だが、WS《ライトニングスピード》で一気に肉薄したジンが無防備なオルキヌスの胴体を一気に突き刺す。
「ぐっ……」
「オルキヌス君!」
リベレントが再びWS《ハードシールドスロー》を放ち、ジンに《スヴェル》を投擲する。
「ルックス・ムーラス・クストーディオ!」
ジンは《マジックウォール》を詠唱し、アリからも防御バフを受け取り、飛んでくる《スヴェル》のダメージを最小限に抑える。
リベレントは空中に打ち上げられた《スヴェル》をキャッチし、そのまま地面に着地する。《リポスト》による反撃を警戒してのものだ。
再び状況は先ほどと同じに逆戻り。
二人の攻撃はジンには当たらず、ジンは確実に二人にダメージを蓄積させていく。
「まずいぞ、何か思い切った手を打たねぇと、負けちまう」
オルキヌスがジンに横薙ぎの一撃を放ちながらぼやく。
ジンはそれをうまく跳躍で回避し、そのまま斜めにオルキヌスに斬撃を浴びせる。
何か手を打たねばならない。それだけは分かる。だが、オルキヌスにはその何かが思いつかない。そういうのはいつもジンに任せていたのだ。
「なんとか出来るとしたらオルキヌス君だけだよ。ずっとそばでジン君を見てたんだから」
リベレントが《スヴェル》を構え、タックルを仕掛けるが、ジンは軽々とそれを回避し、縦一文字に切断攻撃を放ち反撃する。
「俺……? 俺に出来ること?」
「無駄だ。このまま二人とも俺とアリのコンビの前に負けてもらう。変な危険を犯す必要なんてない、『ハーモニクス・ソリューション』の下で、みんな一緒だ。みんな一緒にお金持ちで世界一有名なパーティになるんだ……!」
「ジン……」
ジンの動きは的確で隙がまるで見当たらない。
ただ、ふとリベレントは気付いた。
【Reverent > ジン君、いつもより攻撃的だよ】
リベレントが一度攻撃を中断し、オルキヌスに向けて個人チャットを打つ。
明らかに隙だらけの行動だが、オルキヌスに対し反撃するのに夢中なジンはその隙に気付かない。
【Reverent > やっぱり、ジン君は焦りで冷静さを失ってる。なんとかそこを突きたいね】
「でも、どうすれば……」
その文字を見て、オルキヌスがぼやく。
「?」
オルキヌスの突然の呟きに怪訝な表情をしたジンがふと振り返り、リベレントの隙だらけの状況に気付く。
「! アリ!」
「うん!」
その目線だけで、二人は理解しあった。アリの《ネケク》が片手だけで保持していたリベレントの《スヴェル》を奪い去る。
「もらったぁぁ!」
ジンが《ファンクサスブレード》を水モードに切り替え、《ペルポラシォン・デ・リュヴィア》を発動する。
ランスのように尖った水を纏ったジンが波に乗って、一気にリベレントに肉薄、その胴体を貫通した。
「後は任せたよ、オルキヌス君」
リベレントが赤いデータ片へと消える。
「リベレントさん!!!」
オルキヌスの頭に血が登る。一気に肉薄し必殺のWSを放ちたいと心が訴えかける。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
オルキヌスが《ウォークライ》を発しながら一気にジンへと肉薄する。
《フォトンクレイモア》を天高く掲げ、そのまま大上段に切り下ろしてやろうとする。
【フォトンクレイモア・オーバーロード】
直後、《フォトンクレイモア》がフレームに赤い光が灯ったまま、射撃モードに移行する変形を見せる。筒から赤いフォトンビームが放たれ、そのまま継続照射された状態になる。
「なっ」
「なっ」
ジンとオルキヌス両者が同時に驚く。
そして、両者は同時に思い出した。
(そういえば、ニンバスもオーバーロードする時は武器を天高く掲げていたな。そんな簡単なことだったのか)
オーバーロードしたことに驚き、そのまま接近してしまった。WSを発動出来る体勢ではない。
オルキヌスはそのまま大上段に切り下ろすが。
ジンはそれを容易く横に避けて、斬撃を繰り出してくる。
(待てよ、今の光景……どこかで……)
大上段の攻撃を放って避けられて斬撃を喰らう。まさに同じ光景を以前に見た気がした。
(あっ)
ジンとリーダーの座を賭けて、デュエルした時だ、と思い出す。
最後の最後、激昂したオルキヌスは《カラミティストライク》を放ち、まんまと《リポスト》で反撃された。
あの時、言われたものだ。
「そっちを選んでくれて助かったよ」
と。
あの後、意味を尋ねたら教えてくれた。
「もし、放たれたのが《スライドクリーヴ》だったら、俺は《リポスト》で反撃出来ず負けてたんだよ」
《リポスト》は地上にいる場合、必ず横に避けるWSであるらしく、横薙ぎの一撃である《スライドクリーヴ》は回避出来なかったらしい。
【Reverent > やっぱり、ジン君は焦りで冷静さを失ってる。なんとかそこを突きたいね】
リベレントの言葉が頭に蘇り、オルキヌスの脳裏に一つのアイデアが浮かぶ。
上手くいくかはわからない。けど、やってみる価値はあるように思えた。
「おら、《カラミティトランプル》!!」
《フォトンクレイモア》の柄を捻り、力の限り叫ぶ。
「学習能力がないな!」
ジンは《タップエクスチェンジ》で《マジカルレイピア》に持ち替え、《リポスト》を発動する。
リベレントの指摘は正しい。ジンは焦っていた。もし、ジンが冷静であれば、きっと気付いただろう。
オルキヌスの構えが跳躍をしようという構えではないことを。
また、いつもなら叫ぶのは跳躍した後であることを。
そう、発動したのは独楽のように回転するWS《ディザスターターン》であった。
「!!」
気付いたがもう遅い。《リポスト》は不発し、WS後硬直がジンを襲う。
三連撃の横薙ぎがジンを飲み込み、そして、そのままジンを赤いデータ片へと変える。
「ジン!!」
アリがマインドサーキットを剣へと変化させ、《セフィロト・リング》から光弾を放ち牽制をするが。
「それがどうした」
オルキヌスはその全てを《ラージセイバーガード》で防ぎ、一気にアリへと肉薄。そのまま速やかにアリのHPを0にし、赤いデータ片へと変えた。
【DUEL Finished】
【Winner : Orcinus・Reverent】
かくして、デュエルはオルキヌスとリベレントの勝利で終わった。
「じゃ、約束は果たしてもらうぜ」
「……そうだな」
オルキヌスの言葉にジンが頷く。
「なぁ、俺はなんで負けたんだろう?」
「それは、ジン君が名誉欲に目を眩ませていたからだよ。きっとそれがなく冷静だったら、二人があのまま勝ってたと思うな」
「……そう、か」
なんだか目が覚める思いだ。とジンは感じた。
「これは、認めるしかないわね」
アリが呟く。
「あぁ。戦おう。『ハーモニクス・ソリューション』と」
決意した四人はプレイヤーハウスへと入っていく。