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第84章「侵攻〜エレベートテック 下」

 『ヴィジョン・リアリティ・オンライン』内の都内エレベートテック学園。

 「JOAR」と「キャメロット」がそれぞれ各小戦場にメンバーを派遣しての広範囲に及んでいた戦いは第二グラウンドに収束していた。

 未だに各地の小戦場では兵士達がぶつかり合っているが、「デネ」や「パラディンズ」に「ハーモニクス・ソリューション」軍側が優勢に切り替わりつつある。

 第二グラウンドの戦いは一度睨み合いへと戻っている。

「このままではまずいですね。この場を早く決着し各地の救援に向かわねば」

 ギャラハッドやガウェインの報告を聞き、そう呟きながらアーサーが金色のフォトンセイバー《エクスカリバー》を構え直す。早期決着をつけねば、自分達が、つまり「エレベートテック」側が負けると考えたのだ。

「はっ、やれるもんならやってみろってんだ!」

 オルキヌスが《フォトンクレイモア》を構えながら、その呟きを一笑し、飛びかかる。

「おら、《ディザスターターン》!!」

 ガウェインとアーサーを巻き込むような位置で、オルキヌスが大回転を始める。

「させない」

 そこにギャラハッドが割り込み、大楯で攻撃を防ごうとする。

「させないのはこっちだよ!」

 だが、そこにリベレントが大楯を投げてギャラハッドの動きを抑止する。

「気をつけろ、ギャラハッド、そのあと追撃が来るぞ!」

「!」

 リベレントが空中で大楯をキャッチし、WS《ハードダイブ》へと派生させる。

 重量と位置エネルギーの乗ったその攻撃は、思わずギャラはっどを後退させる。

「うおおおおお!」

 その間隙を、オルキヌスの《ディザスターターン》が蹂躙する。

 一気にアーサーとガウェインのHPが減少する。

「うおおおおおお!」

 そこにジンが《ライトニングスピード》を発動し、アーサーに迫る。

「おいおい、お前の相手は俺だろ、ジン!」

 だが、その雷の如き速度に追随し、ガウェインが割り込んでくる。

「チッ!」

 真正面から打ちあうことになった《ファンクサスブレード》と《ガラティーン》。

「ラピス・アダレレ・グラディウス!」

 ガウェインの《ガラティーン》に土くれがまとわりつく。

 だが、雷属性の《ファンクサスブレード》に対し、《魔法剣・土》により、土属性となった《ガラティーン》は属性相性の点で、《ガラティーン》に有利だ。

「ほらほらどうした! 自慢の剣が泣いてるぜ!」

 形成不利となるジンをなんとか支援しようとアリのバフが飛んでくるが、アリがバフを練るその時間に、マーリンも回復魔法を放ち、ガウェインやアーサーのHPを回復させている。

「アリ、バフはいい! さっきみたいにマーリンを!」

「分かった!」

 ジンが叫ぶと、アリが頷き、《ソード・オブ・ザ・スピリット》を発動、マインドサーキットを剣状に変化させて、マーリンに向けて駆け出す。

「おっと、そうはさせませんよ!」

 アーサーが《エクスカリバー》を射撃モードに切り替え、アリを狙う。

「させねぇのはこっちだぜ!」

 《エクスカリバー》から放たれる金色のフォトンビームを《ラージセイバーガード》で受け止めながら、オルキヌスが叫び返す。

 アリが一気にマーリンに肉薄する。

「後衛が前線に出てきて後衛を殴るなんてどういうことだろうね」

「お生憎様ね、魔術師の世界では、魔術師が肉弾戦もやるってのは珍しくもないのよ!」

 マーリンが《ストーンヘンジ》を翳して魔法を詠唱し、炎の矢を飛ばすが、アリはそれを綺麗にサイドステップで回避しながら、まだまだマーリンに接近していく。

 アリの剣とマーリンの《ストーンヘンジ》が鍔迫り合いに移行する。

「これはまずいな」

 マーリンはそう呟くと、もう片方の手で、メニューを操作し、騎馬を実体化させる。

 マーリンは先ほどまで《ハイディング》のために騎馬を実体化させていなかったので、他のメンバーと違い、騎馬が無事だったのだ。

「イグニス・サジッタ・スルクールズ」

 騎馬で駆け出しながら、マーリンがアリに向けて炎の矢を飛ばす。

「くっ……」

 アリは一方的な攻撃にただ攻撃を避け続けるしか出来ない。

「アリちゃん!!」

 思わず、リベレントがギャラハッドの元を離れ、アリへの魔法の嵐からの壁となる。

 するとフリーになったギャラハッドが戦線不利なオルキヌスとアーサーの戦いに割り込み、オルキヌスの《フォトンクレイモア》をギャラハッドが《カルボネックシールド》で受け止める。

 こうなると、今度はアーサーがフリーになるわけで、アーサーは《エクスカリバー》を射撃モードに切り替えて、オルキヌスやジンに向けて金色のフォトンビームによる支援攻撃を開始する。

「っ、これはまずいぞ」

 ジンが思わず漏らす。

 リベレントの行為が引き金になった形だが、リベレントの行為を軽率とは責められない。

 耐久の低いアリがマーリンの魔法に晒され続ける状態が危険なのは確かだからだ。

 なんとかして、マーリンの機動力を低下させなければ、このままでは、自分が最初に押し切られてしまう。

「ウォータル・アダレレ・グラディウス!」

 とにかく、ジンは《ファンクサスブレード》を水モードに切り替える。

 そうしなければ、ガウェインの弱点攻撃の前に敗れ去るのが目に見えていたからだ。

(太陽さえ覆い隠せれば、まだ逆転の目はある)

 ガウェインの《ガラティーン》には太陽が出ている間、全ての能力が三倍になるという恐ろしいパッシブスキルがある。

 器用貧乏の魔法剣士であるにも拘らず、ガウェインがここまで一線級の活躍が出来るのはこのパッシブスキルのおかげと言っても過言ではない。

 ただ、逆に言えばこれさえ封じればジンはガウェインにまだ打ち勝てる余地があると考えていた。

 そして、ジンはガウェインの太陽を隠す方法を一つだけ思い当たっていた。

(けど、それには二つの障害がある)

 一つは、マーリンの存在。マーリンは偽りの太陽を空に打ち上げ、ガウェインのパッシブスキルを強制的に発動させる事が出来る。だから、ジンは真っ先にマーリンを仕留めたいと考えていた。

 もう一つは、その手段を使うには、こちらが一瞬無防備になるため、その隙を作らなければならないということ。

 どちらにしても、まずはマーリンを倒さなければ話にならない。

「トニートル・アダレレ・グラディウス」

 そんな事を考えている間に、ガウェインは自らの武器を再びこちらの弱点属性に合わせてくる。

「だったら!」

 ジンは《タップエクスチェンジ》で《マジカルレイピア》に持ち替え、《魔法剣・土》を発動、逆に弱点を突く。

 すると、今度はガウェインは《魔法剣・風》を発動し、お互いに魔法剣を切り替えての応酬が始まる。

(これじゃ、こっちは完全に釘付けだ。なんとかしないと……)

「はっは! こんな戦い、魔法剣士にしか出来ないぞ! 高まるよなぁ、ジン!!」

 ガウェインは自分が優勢なのもあって、テンションが高い様子だが、ジンとしてはそんな場合ではない。

「マーリンを撃て!」

 ジンは悩んだ末、オルキヌスに向けて叫ぶ。

 オルキヌスはあいよ! と大声で返事して、《フォトンクレイモア》を射撃モードに変更、マーリンに向ける。

「ほう、この私を無視するとは、いい度胸です」

 対して、アーサーは《エクスカリバー》を強く握りしめ、その刀身を巨大化させる。

「オーバーロードしてきたか……」

 オルキヌスはこいつはヤベェな、とボヤきながら、魔法を放ちながら大地を駆け巡るマーリンに狙いを定める。

 赤いフォトンビームが放たれる。都合三発。

 放てたのはそこまでだった。

 オルキヌスはそのまま、黄金のフォトンの刀身に飲み込まれる。

 一応、オルキヌスは後退しながらビームを放っていたのだが、オーバーロードした《エクスカリバー》の間合いからすれば問題にならなかった。

 さて、三発のフォトンビームはマーリンには当たらず、その周囲を掠めた。

「ちぃ、やっぱり動いてる目標には当たんねぇな」

 そして、オルキヌスは生きていた。

 ギリギリのところで、刀身を盾にした《ラージセイバーガード》を成立させていたのだ。

「よかった……。動きさえ止めればいいんだな?」

「よそ見してる隙があるのか、ジン! だったらもっとペース上げてくぞ!!」

 ガウェインが、オルキヌスの方によそ見するジンに苛立ちながら、本当に剣のペースを上げていく。

「こいつ……手を抜いてたってのか……」

 ここに来ての敵のさらなる強敵化にジンが焦る。

 動きを止める一番ベストな手は《ペルポラシオン・デ・リュヴィア》を使い、一気にマーリンに肉薄してしまうことだ。

 だが、WSの発動には隙が生じる。ペースが上がってきたガウェインの攻撃とアーサーの援護射撃をさばくので手一杯のジンにはその余裕がない。

 迷った末、ジンはリベレントの名前を叫ぶ。

 リベレントは頷き、《ハードシールドスロー》を発動。一気にマーリンに向けて駆け出しながら、《スヴェル》を投擲する。

 ギャラハッドが慌てて防御に回ろうとするが、素早い大楯の投擲の前に間に合わない。

「くっ!?」

 リベレントの《ハードダイブ》が突き刺さると同時、そのまま、リベレントはマーリンに攻撃を開始する。

 ギャラハッドがリベレントの元へ駆け出す。

「いけません、ギャラハッド!」

 だがそれは、二人がかりでマークしていたオルキヌスを一瞬フリーにすることを意味する。

 オルキヌスは再び、射撃モードに切り替えた《フォトンクレイモア》を構え、マーリンの騎馬に向けて赤いフォトンビームを放つ。

 一瞬ジンへ援護射撃していたアーサーがそれを中断し、再びオルキヌスに向かってオーバーロードした《エクスカリバー》を振りかざす。

 オルキヌスは射撃を終えると同時に素早く《ラージセイバーガード》の構えを取る。

 果たして、マーリンの騎馬は赤いフォトンビームの直撃を受け、赤いデータ片へと消える。

 一方のオルキヌスは《ラージセイバーガード》が間に合わず、大ダメージを負った。

 ジンは素早く、マーリンに飛びかかろうとしたアリにオルキヌスへの支援を命じる。マーリンの相手はリベレントだけで充分と判断したのだ。

 そして、ジンも切り札を切る。

 武器を《ファンクサスブレード》に持ち替え、《オランド・ポラ・リュヴィア》を発動する。

「はっ、WS頼りか? もらった!!」

 ガウェインは防御を捨て、一気に攻撃に移る。ガウェインの太陽の輝きを借りたWSを発動する。

 だが、直後、太陽の輝きを称える《ガラティーン》の輝きが鈍化し、太陽の力を借りたWSが不発に終わる。

 そう、雨が降り始め、太陽が翳ったのだ。

 攻撃に出たガウェインは無防備な状態。

「嘘だろ!?」

 直後に放たれた激しい濁流がガウェインを飲み込み、そのHPを完全に刈り取った。

「ん、なんだい!?」

 さらに、角度を調整し、マーリンをも巻き込むように放たれていたその濁流はマーリンのHPをも刈り取った。

「ガウェイン! マーリン!」

「よそ見している暇はねぇぜ! おら、《カラミティトランプル》!」

 オルキヌスの連続縦三回転がアーサーに襲いかかる。アーサーはこれを《エクスカリバー》で受け止めようとするが、それは防御を完全にオルキヌスに向けてしまった事を意味する。

 直後、波に乗ったジンの鋭い一撃が、アーサーを貫通する。

 既に戦況は四対二。

 振り回される《エクスカリバー》はリベレントの大楯によって止められ、そこへオルキヌスとジンの攻撃が襲いかかる。

「アーサー!」

「行かせない!!」

 せっかくのギャラハッドも《ネケク》を始めとした各種魔術を用いる変幻自在のアリの手管に翻弄され、その防御能力を活かせないでいる。

「これで終わりだ!」

 ジンの《ライトニングスピード》が発動し、アーサーに突き刺す。

「あなた方は、『ハーモニクス・ソリューション』が作る新世界こそが良い世界だと、本当に信じているのですか?」

 アーサーのアバターが赤く染まる中、アーサーはそう言いながら、消えていった。

「無念」

 四対一ともなれば、鉄壁の防御ももはや意味はない。

 アリの《ネケク》で《カルボネックシールド》を奪われたところを一斉に攻撃され、ギャラハッドもまた、赤いデータ片へと変わっていったのであった。

 敵の中核戦力は消失し、勝敗は決した。

 天下分け目の決戦を制したのは「ハーモニクス・ソリューション」であった。


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