『VRO』内の都内エレベートテック学園。
そこで四つのグラウンドと校舎を巡り、激しい戦いが繰り広げられていた。
戦場は大きく分けて三つ。
一つは校舎の中心にある校庭。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リベレントが《ウォークライ》しながら《ハードシールドスロー》を発動し、ガウェインの側面に
「ぐあっ!?」
空中に跳躍したリベレントが《スヴェル》を空中でキャッチする。
「よくも!」
そこへ、ガウェインの《ソーラーレイ》が発動し、空中を太陽光線が薙ぎ払う。
リベレントはこれを《スヴェル》でガードし、そのまま着地する。
「へぇ、新しい大楯を手に入れたのか、ギャラハッドとどっちが硬いか試してやるよ!」
新しく現れたリベレントを敵と認識し、ガウェインがリベレントに斬りかかる。
リベレントはこれを《スヴェル》で受け止めつつ反撃の隙を伺う。
「遅いぞ。だが、助かった」
先程までガウェイン相手に善戦していたベオウルフが礼を珍しくも述べ、部下の援護に向かう。
リベレントの背後にはアリがいたので、自分があえて援護に入るまでもないと判断したのだ。
一つは第三グラウンド。
「喰らえ、《ディザスターターン》!」
オルキヌスが独楽のように高速回転しながら周囲の敵兵諸共ギャラハッドを狙う。
当然のようにギャラハッドはそれを《カルボネックシールド》で防ぐが、周囲の敵兵を薙ぎ払うのは止まらない。
「オルキヌスか! 助かったぜ!」
シャルルはオルキヌスの支援に礼を言いつつ、《ジュワユーズ》を手に、ギャラハッドに斬りかかる。
「おう、協力してこのいけ好かないリベレントもどきを倒してやろうぜ」
「訂正。リベレントがギャラハッドもどき」
ギャラハッドはそう言いながら、側面に飛び、二つの斬撃を回避してから、大楯を地面に突き立て、二人の出方を見る。
シャルルとオルキヌスもそれを睨み、睨み合いが始まる。
共に高火力を持つシャルルとオルキヌス、高い防御力を誇るギャラハッド。それぞれの関係は矛盾という言葉の由来となった故事の矛と盾の関係のようだ。
シャルルとオルキヌスがうまく連携して動けば、ギャラハッドは大ダメージを負いかねない。一方下手に動けば、ギャラハッドはそのすべての攻撃を無力化し、反撃を敢行するだろう。
結果、両者は睨み合いに発展する。
一つは第二グラウンド。
先の二つが周囲に軍勢対軍勢といった様子を示していたのに対し、こちらは文字通りの二人っきり。
我らがジンと、アーサーのみが向かい合っている。
「ガウェインに双子コンビ、ギャラハッドにオルキヌス、なるほど。悪くない対応です。ですが、この場に残ったのが貴方一人、というのはどうでしょうね」
アーサーが《エクスカリバー》を構える。
ジンも《ファンクサスブレード》を構え直す。
両者が同時に地面を蹴って、互いに肉薄、剣と剣をぶつけ合う。
「ほう、この前とは構えも立ち回りも少し違いますね。少しは剣術を学びましたか」
「まぁな」
実はジンはリベレントの大楯熟練訓練に付き合って、剣術の勉強をした。これには智顕も協力してくれており、アーマードバトルという中世風の装備で戦う競技の選手だった嵐士君が使っていたテキスト等を借りることが出来ていた。
余談だが、これによるとストームの最初の戦い方、盾と片手直剣で戦う戦法はアーマードバトルのそれと酷似しており、ストームも選手だった可能性が高いだろうな、とジンは感じた。
「だから、あんたに簡単に負けたりはしないよ」
黄金のフォトンの刃と雷を纏った刃がぶつかりあい、火花と電撃とフォトンが散る。
二人の技のぶつかりあいは止まること無く、集中力が切れた時に、決着が突きそうであった。
最初に状況が動いたのは校舎。
「イグニス・アダレレ・グラディウス!」
《ガラティーン》に炎を纏わせながら、もう何度目か分からない攻撃をリベレントに浴びせる。
「一対一なら、簡単には抜かせない!」
リベレントがその攻撃を一つ残らず《スヴェル》で受け止める。
「マジかよ。こっちは太陽の下で三倍なんだぞ!」
ガウェインが驚愕する。リベレントの防御力と《バトルヒーリング》にアリと玉兎の回復力、いずれも高いレベルのもので、ガウェインでも簡単にはそれを抜くことが出来ない。
リベレントがガウェインを抑えている間に、兵士たちはベオウルフの攻撃の元態勢を立て直しつつ有る。
「こいつはまずいな……」
ガウェインは後方に飛び下がり、右腕の腕輪に魔法発動UIを出現させる。
「マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム……」
「させないっ!」
リベレントが大楯を構え、回転の遠心力で放つ。WS《ハードシールドスロー》だ。
だが、ガウェインはその技を一度見ている。
「イグニス・サジッタ・シェリング・スルクールズ……」
なので、ガウェインは軽い気持ちで《ガラティーン》を振り、《スヴェル》を弾き返した。
「シコッティルデ・マキシーメ・エト・マキシーメ……」
だが、空中でその大楯をキャッチしたリベレントはそのまま次なるWSを発動した。
(なにっ!?)
その驚愕を言葉に出さなかっただけでも、ガウェインは評価されてよいだろう。
けれど、続く《ハードダイブ》の前には無駄な努力であった。
ガウェインは激しく吹き飛ばされ、騎馬から落下。そこに詠唱
その隙を逃さず、騎馬にアリが《イグニッション》を発動し、騎馬を消滅させる。
「ま、まずい。アーサーと合流して回復しねぇと」
ガウェインは戦線を放棄。
第二グラウンドの方へ駆け出す。
「あ……っ! あ、でも……」
リベレントはそれを追撃しようとするが、まだ校庭は比較的「エレベートテック」側が優勢だ。
「こっちはオレが立て直す。お前達は行け」
「分かった」
リベレントが駆け出す。
ガウェインが合流にために駆け出したことで、第二グラウンドの状況も変化する。
ひたすらに互いの集中力が続く限り剣と剣をぶつけ合わせる二人。
このレベルになるとWSも却って前後の硬直が隙になり迂闊に使えないため、二人はひたすらに剣をぶつけ合わせていたのだが。
「アーサー、すまん、ヘマした!」
そこへガウェインが駆けつけてきたことで状況が変わる。
「! ジンか! イグニス・サジッタ・スルクール!」
ガウェインは状況を理解し、素早くジンに向けて《ファイアミサイル》を放つ。
「チッ、ガウェインか。ルックス・ムーラス・クストーディオ」
ジンは素早く後方に飛び下がり、《マジックウォール》を展開して、飛んでくる炎の弾丸の威力を低減して受け止める。
だが、その隙をアーサーは逃さない。アーサーは即座に駆け出し、《エクスカリバー》を振りかざす。
「危ない!」
しかし、そこに大楯が飛来し、アーサーに激突、その動きを抑止する。
大楯を投げた主、言わずもがなリベレントがWSらしい恐ろしい速度でアーサーの側まで接近し、空中に飛び上がった大楯をキャッチする。
そのままリベレントの《ハードダイブ》が発動し、リベレントが一気に急降下攻撃を仕掛ける。
「気をつけろ、アーサー、追撃が来るぞ!」
だが、アーサーは即座にガウェインの警告に従い後方にバックステップを踏んだことで、リベレントの吹き飛ばし攻撃のダメージは最小限に抑えられた。
「盾役が戻ってきましたか、これは厄介ですね……」
アーサーが思わず呟く。
騎馬を失い、HPが減少しここに戻ってくる判断をしたガウェインを責めることは難しいが、とはいえ、一騎打ちでジンを制すればよかった状況を考えると、アーサーとしては状況は悪化している。
アーサーは自身の集中力の持続力に自信がある。故に、集中持続力の勝負において自分が負ける可能性は万に一つもないと思っていた。
この考えは間違いではない。
「助かったよ、リべレント、アリ。このまま一騎打ちしてたら、俺が負けてた」
事実、ジンも同じように認識していた。もう少しで集中力が失われるところだったのだ。
それに……。
「おい、マーリン。いるんだろ、出てきて回復してくれ。相手も魔術師がいる以上、このまま隠れて奇襲狙いとはいかないだろう」
「全く。ボク頼りに逃げてきたのかい? アーサーがいい迷惑だよ」
そう言って、物陰から真っ黒なマントで身を隠していたマーリンが姿を現した。
この場には、マーリンが伏せており、もしジンが優っていても、そこでマーリンが奇襲を仕掛けて、ジンを討ち取る算段だったのだ。
(全然気付かなかった。戦闘に入る前に金烏で周囲を探る癖をつけたほうがいいかもな)
とジンは冷や汗をかく。
マーリンが《ストーンヘンジ》を掲げ、魔法を詠唱する。
「させるか!」
ジンが素早くマーリンに向けて地面を蹴る。
《ファンクサスブレード》の柄を捻ろうとする。
「ジン、危ない!」
それより早く、アリの警告が飛び、ジンが咄嗟に足を踏ん張ってブレーキを踏むと、目前をガウェインのWS《ソーラーレイ》による太陽光線による斬撃が通過していく。
「チッ、タイミングが少し早かったか」
ガウェインが舌打ちする。
そんなガウェインの元にリベレントが攻撃を仕掛ける。充分に近接戦闘訓練を積んだリベレントの《スヴェル》による重量攻撃が耐久に割り振っていない魔法剣士であるガウェインには厳しい。
「ちっ」
その重量攻撃を《ガラティーン》で凌ぎながら、ガウェインは早く回復をするように催促するが。
「|また、救いを兜としてかぶり、霊の剣、すなわち神の言葉を取りなさい《And take the helmet of salvation and the sword of the Spirit, which is the word of God.》」
マーリンはマインドサーキットを剣状に変化させたアリにより肉薄されていた。
救援に向かいたいアーサーも、ジンにより足止めされる。
「まずい、このままではマーリンが倒され、戦力バランスが崩れる。ギャラハッドを呼びさねば」
アーサーは一度後方に飛び下がってから、腰から一本の拳銃のようなものを抜き放ち、空中にその弾丸を放つ。それは信号弾であった。
信号弾の発射により、今度は第三グラウンドの状況が変化する。
第三グラウンドの戦闘は睨み合いが基本であったが、その戦いはどちらかといえば、ギャラハッド側に有利に推移していた。
ギャラハッドの守りは想像以上に手堅く、オルキヌスとシャルルの連携攻撃の前にも、簡単には揺らがなかった。
二人いるのだから、基本的には挟み撃ちを狙いたいのだが、ギャラハッドの騎馬は重い大楯を持っているとは思えない身軽な動きで攻撃を回避し、挟み撃ちの状況をひらりひらりと交わされてしまう。
「ちぃ、二人相手に汗ひとつ書かないとは、可愛くない騎士だぜ」
「どうする、このままじゃジリ貧だ。どころか、兵士は騎馬部隊にした関係でこっちの方が少ない。このままじゃ負けるぞ」
そう、二人の戦いはお互いノーダメージでも、周囲の兵士の問題がある。
機動性重視で少ない部隊を騎馬部隊にして編成した「パラディンズ」とその部下達は他の戦場と異なりそもそも兵士の数で敵に劣っている。
騎馬が無事であれば機動力で敵を攻撃できたため、それでもよかったが、ギャラハッドにより騎馬が失われた今、戦力差をひっくり返す手段は、オルキヌスやシャルルのようなひとつ頭抜きん出た戦力の協力が必要だ。
だが、そちらに回れば、対ギャラハッド戦術が不利になり、結局倒れてしまうだろう。
かくして、第三グラウンドはじわじわと戦力が減らされているギャラハッド側有利な状態で推移していた。
そこに、信号弾が発射される。
「!」
ギャラハッドが思わずそちらに視線を奪われる。
「隙あり!」
「隙ありぃッ!」
二つのWSが、意識を逸らしたギャラハッドに対し、放たれる。
「しまった」
咄嗟にギャラハッドはガードするが、それでもダメージを完全には防げなかった。ギャラハッドの騎馬が撃破され、データ片へと消える。
「とりあえず、合流、了解」
ギャラハッドはそのまま一気に駆け出した。
「あ、待て!」
オルキヌスが追いかける。
「こっちは俺に任せろ。『キャメロット』は頼んだぜ、オルキヌス!」
そんな言葉を背中に浴びながら。
かくして、第二グラウンドに二つのパーティが揃った。
片方は「JOAR」、もう片方は「キャメロット」。
いよいよ、正真正銘の決戦の時だ。