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第82章「侵攻〜エレベートテック 上」

 夜。

 「JOAR」一行はいつものようにパーティプレイヤーハウスに集まっていた。

「そういやよ、前回のレイド・ウォーでその、だいぶ味方やられたよな、どうすんだ?」

「今更な疑問ね」

 オルキヌスの問いかけに、アリが呆れた様子で返す。

「まぁまぁ、オルキヌス君がそこに気付けただけてもすごいことだよ」

「リベレントさん?」

 リベレントがフォローを入れるが、あまりフォローになっておらず、思わずオルキヌスが聞き返す。

「それについては前にアリとリベレントに聞かれた時点で勝久さんに尋ねてて、答えはもらってる」

 結論から言うと、当然戦力は補充する。というかそうしないと、充分に兵力を揃えているであろう「エレベートテック」に数で負け、押し負ける恐れがあるので当然だ。

「でも、そんないきなり戦力登用出来るのか? 身元チェックとかするんだよな?」

「あぁ、当然時間がかかる。そこで、『ハーモニクス・ソリューション』は、これまでレイド・ウォーで倒してきた敵対企業の兵力をそのまま登用することにしたらしい。どうも智顕さんがこの展開を見越して事前に全員の身元調査を済ませていたらしいな」

 優秀な人だ、とジンが感心するように頷く。

「なるほど、要は将棋だな!」

「まぁ、そういうことだな」

 聞いた話によると「ハーモニクス・ソリューション」は敵対企業の身元チェックで問題なかった兵力を全登用したらしく、その兵力は単純な人数換算では以前の戦力数に対して実に二倍にまで膨れ上がっているらしい、とジンは補足する。

「聞いた時も言ったけど、それだけ戦力が増えるのに顔合わせとかしなくて平気なのかな?」

 リベレントが疑問を投げかける。レイド・ウォーにおいては各部隊の連携が重要だ。見知らぬ戦力が増えるなら、彼らと如何に連携を取るかは極めて重要な問いかけとなるはずだが。

「それは俺も気になったから勝久さんに尋ねてみたんだが、上としては『エレベートテック』との決着を急ぎたいから顔合わせの時間を取る余裕はない、とのことだった」

「『拙速は巧遅に勝る』、ってわけね」

「あるいは、『兵は神速を貴ぶ』かもな」

 ジンの言葉にアリが反応し、ジンもそれを笑う。

「節足は拘置に勝る?? 節足動物は拘束できない、みたいな意味か?」

「脳内でどんな漢字に変換されてるんだよ」

 オルキヌスが首を傾げる。

「いいか、これはそもそも兵法の言葉で、正しく漢字で書くと……」

 ジンが正解とその意味を教えようとした、その時。

【兵士登録している企業が開戦状態になります。間も無く自動テレポートが起動します】

「アルトリウスの言ってた通り、早かったな」

「よっしゃ、決めてやろうぜ! それで、アルトリウスは失業、『エクスカリバー・フォース』の連中は退学だ!」

「えぇ、なんにせよ、勝つしか無いわよね」

「うん。みんなで勝とう!」

 そして、一行は白い光りに包まれる。


 日本国東京都都内エレベートテック学園。

 日本における最大規模の大きさを誇り、小学校から大学までを兼ね添えた超マンモス学校であり、さらに日本各地に分校も含めれば世界的に見ても五本の指に入る規模を持つ学園である。

 その所有者はメガコープ「エレベートテック」。

 今、その第一グラウンドに「ハーモニクス・ソリューション」軍が転移してきていた。

「ここは……」

「おいおいマジかよ」

「なるほどね」

 「JOAR」のうち三人が驚きの声を上げる。

 特にプレイヤータウンでもない一般フィールドであるため、校舎はボロボロの廃墟と化している様子だが、第一から第四まである全てのグラウンド辺りは問題なく移動出来そうだ。

「『エレベートテック』軍は第四グラウンドか。ってことは攻城戦じゃないな。ボス戦か?」

「いや、たった今、TIPSが更新されたぜ。これは、陣取り戦だ」

 ジンが金鳥からの視界を得つつ呟くと、隣に歩いてきたシャルルが否定した。

 確認すると確かにTIPSが更新されており、陣取り戦についての解説が出現している。

 簡単にまとめると戦場に以下のようなルールだ。

・戦場にいくつか「陣地」があり、そこに特定勢力だけが10秒留まると「占領」出来る。

・「陣地」を「占領」している数だけ10秒ごとに「占領ポイント」が1貯まる。

・「占領ポイント」を100稼いだ勢力の勝ち。

「陣地にはフラッグが立っているのか。今回だと、四つのグラウンドと校舎の校庭にあるみたいだな」

「見取り図を作ってくれ。俺達はこの学校には詳しくない」

 シャルルとは逆側に歩いてきたベオウルフがそう言う。

「あぁ、分か……いや、俺達は」

「惚けても無駄だぜ、ジン。『JOAR』のうち三人がET学園の生徒って話は有名過ぎる」

「そ、そうか」

 ジンは素早く描画アプリを起動し、簡単なマップを作って二人に送信する。

「なるほど。校舎を中心に左から順に第一〜第四と並んでいて、第一グラウンドと第四グラウンドは校舎を挟んで一直線上にあるんだな。で、隣接するグラウンド同士は直接も繋がってる、と」

 シャルルが頷く。

「あぁ、校舎は第一からも第四からも等距離だから、激戦地になるな」

「どう攻める、ジン?」

 ジンのコメントに、ベオウルフが問いかける。

「まず、激戦区になる校舎は抑えたい。敵も多い戦力で攻撃してくるだろう。ベオウルフ、頼めるか?」

「分かった」

 ジンの指示にベオウルフが頷く。

「俺は?」

「シャルルには第三グラウンドを狙ってほしい。機動力のあるシャルルの部隊ならギリギリ占領を阻めるかもしれない」

「あれ? 俺達が騎馬部隊を編成したって話したっけか? まぁ、分かったぜ、任せろ」

 シャルルが頷く。ちなみに話してはいないが、みんな馬や機械の馬に乗っているのは見れば分かるのである。

「お前達は?」

「俺達は第一グラウンドを防衛する。心配し過ぎだとは思うが、『ロビン・ルイス』との戦いで『キャメロット』が突然後方に現れたのが気になってな。『キャメロット』が現れ次第、俺達は遊撃に出るよ」

「なら、第二グラウンドはどうする?」

「そこは俺の副官、ローゼンクロイツに部隊を率いてもらっって占領してもらうつもりだ」

「えぇ、自分ですか!?」

 突然話を振られ、ローゼンクロイツが驚愕する。

「あぁ、駄目か?」

「いえ、光栄であります!」

 そうして、作戦タイムは終わりの時を迎える。

【RAID WAR−Conquest−Start】

「いくぞ、『デネ』、俺に続け!」

「よっしゃ、『パラディンズ』突撃!」

 土埃を上げ、ベオウルフとシャルルが部下を引き連れ進軍を始める。


 まず交戦状態に入るのは、ベオウルフの率いる『デネ』とその配下達だ。

 校舎にある陣地を示すフラッグを中心に、二つの部隊がぶつかり合う。

「おらおら、俺を楽しませてみせろ!」

 ベオウルフは《フルンディング》を振り回し、隙を見つけてはハンドアックスを投擲し、前衛を固める敵兵力を切り崩していく。

 そうして撹乱されたところに配下達が突撃し、敵陣を蹂躙する。

 戦線はベオウルフに有利に進んでいる様子だ。


 戦線がベオウルフ有利に進み始めたその頃、第三グラウンドでも戦闘が始まっていた。

「敵が陣地占領を開始してるぞ、総員射撃しつつ突撃!! 《ジュワユーズ》の導きの元に!」

 シャルルが《ジュワユーズ》を射撃モードに切り替え、第三グラウンドの敵に向けて攻撃を開始する。

 虹色のフォトンビームを先頭に一斉にフォトンビームと銃弾と魔法が第三グラウンドを占領しようとする「エレベートテック」の兵士たちに襲いかかる。

「行くぜ、突撃チャージッ!」

 一斉に近接武器を持った騎馬部隊が「エレベートテック」の部隊に突撃を仕掛ける。

 敵部隊を突破した騎馬部隊はそのまま反転し、再度の突撃を仕掛ける。

 こちらの戦線もシャルルに有利に進んでいる様子だ。


「おかしい」

 と、ジンが呟く。

 いくらなんでも順調に推移しすぎだ。敵はこちらを迎撃するための準備を整えていたはず。それが後も容易く進むものだろうか。

 「キャメロット」が出てこないのもおかしい。

 この調子で行けば、第一、第二グラウンドを抑えている分、1ポイントずつリードした状態でポイント状況が推移し、その分で勝利できるだろう。

 勿論、そう簡単には行かなかった。


「ベオウルフ、そこまでだぜ!」

 ベオウルフの《フルンディング》が、光り輝く《ガラティーン》に受け止められる。

「ガウェインか。魔法剣士如きが俺の《フルンディング》を止めるだと?」

「おいおい、今は太陽の陽が照ってるんだぜ? 俺の《ガラティーン》は絶好調さ」

 ベオウルフはさらなる連撃をかますが、大剣の《フルンディング》をものともせず、片手用直剣ガラティーンが受け止める。

 それどころか、騎馬に乗っているガウェインはそのまま馬に乗って駆け巡りながら斬撃を放ち、ベオウルフを圧倒して見せる。

 そうして、ベオウルフがガウェインに抑えられ始めると、戦線の有利は崩れる。

 押されていた「エレベートテック」軍の部隊は士気を取り戻し、次第に「ハーモニクス・ソリューション」軍を押し始める。

 ベオウルフは慌ててフォローし合うように指示をするが、如何せん顔合わせもしていない即席の部隊、動きは鈍い。

(まずいぞ、ジン。急いで対応してもらわないと厳しいぞこれは)

 ベオウルフはガラにもなく焦り、そんな風に思っていた。


「そこまで」

 シャルルによる幾度目かの突撃。

 そこに割り込むように騎馬を駆けたギャラハッドが現れ、《カルボネックシールド》で《ジュワユーズ》の攻撃と突撃そのものを押し止める。

「げ、ギャラハッドか!」

 シャルルは機械の馬がそのまま前進するのをうまく操って反転し、ギャラハッドに《ジュワユーズ》を振るうが、それより早くギャラハッドの一撃がシャルルの馬に突き刺さり、破壊される。

「畜生!」

 慌ててシャルルが跳躍し、機械の馬の爆発から逃れる。

 だが、その間にギャラハッドは次々と突撃を敢行する騎馬部隊の騎馬をデータ片へと変えていく。

「ギャラハッドといえば防御のイメージだったが、攻撃もなかなかだな」

「騎士としては当然のこと」

 シャルルがギャラハッドと戦闘状態に入るが、抑えるので精一杯で、周囲のフォローまでは手が回らない。

 その間に、第三グラウンドを占領しようとしていた「エレベートテック」軍の部隊がシャルル麾下の部隊へ攻撃を仕掛け始める。騎馬という有利を失い、形勢は逆転しそうだ。

 シャルルは慌ててフォローし合うように指示をするが、ベオウルフ麾下の部隊と同じく、如何せん顔合わせもしていない即席の部隊、動きは鈍い。

(まずいぞジン。早急に対処が必要だ……)

 シャルルは焦っていた、しかし、チャットで増援を送る余裕もなかった。


 しかし、ジンも焦っていた。

「あの光は、《エクスカリバー》!?」

 第二グラウンドの方だ。まず間違いなく、オーバーロードしている。

「急ぐぞ」

 ジンは金鳥の視界を解除して、第二グラウンドに急ぐが、あまりに遅い。

 《エクスカリバー》は振るわれ、第二グラウンドを占領し、防衛していた部隊は全滅した。

「アーサー!!!!」

 赤いデータ片の中心で、ジンが《ライトニングスピード》を発動し、アーサーに迫る。

「来ましたか、ジン!」

 素早いジンの一撃は、アーサーにとっては想定外だったのか、防御が完全には間に合わず、騎馬が破壊される。

(くそ、ローゼンクロイツもやられたのか。畜生!!)

 生き残りは少ない。ローゼンクロイツの姿はない。ジンは自分の判断ミスを呪った。

「驚きました。まさか後方に残っていたとは。おかげで騎馬を失ってしまいましたよ」

 と、アーサーは正直に驚きを口にする。

「四人で私の相手をしますか? ですが、その間に第三グラウンドと校舎の戦いは決着が付くでしょうね」

「なに!?」

 ジンは慌てて金鳥をの視界を借りる。状況は読者のみなならご存知の通りだ。

「ちっ。リベレントは校舎へ。オルキヌスは第三グラウンドへ! アリはリベレントについてやってくれ、この日が照っている中でガウェインの相手を一人でするのはまずい!」

「おや、まさかどちらにどちらがいるのか把握しているのですか? ……ふむ、まだ明らかになっていないスキルをお持ちのようだ」

 アーサーはその的確な指示に驚く。

 「JOAR」はジンの指示に従い散っていく。

 「キャメロット」対「JOAR」。その決戦が、いよいよ始まろうとしている。

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