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第80章「新武器〜スヴェル」

 ヨーロッパリージョン、ノルウェー西部、ソグネフィヨルド、その海底にある海底洞窟の奥。

 輝く神の消失と共に、背景の大樹が燃え尽き、一つの世界の如く見えていた風景がただの地下大空洞へと変化していく。

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そんなもはや何十回と見た見慣れた風景より、今は地面に突き刺さったままの一つの大楯である。

 リベレントは嬉しそうにその大楯を手にとる。

「《スヴェル》……」

 リべレントは噛み締めるように手に入れたその大楯の名前を読み上げる。

「どうだ、使い勝手の感じは?」

 ジンが声をかける。

「うん」

 リベレントが軽く《スヴェル》を振り回し、最後に地面に突き立てる。

「うん、多少こっちの方が重い気がするけど、基本的には同じ感じで使えそうだよ」

「そうか」

 じゃ、帰るか。とジンがダンジョン脱出用のアイテムを取り出す。

 一同は頷いて、ダンジョンを脱出する。

「ねぇ、ジン。レア武器には驚きの機能が実装されてることが多いわよね」

 リージョン間移動のために、タウンへと移動中、アリが声をかける。

「そうだな。オルキヌスの《フォトンクレイモア》なんか、未だに《オーバーロード》の方法が分かってないし」

 ジンが頷く。彼自身の《ファンクサスブレード》だって、レイド・ウォー当日に突然 《モードチェンジ》なんて隠しスキルが発動したほどだ。

「お姉ちゃんの大楯は私達の生命線。もし予期せぬスキルが発動して、それを使いこなせなかったら、最悪パーティ全滅もありうるわ」

「確かに」

 アリの言葉にジンが頷く。

「つまり、本番前にしっかり練習する時間を作るべきだ、とアリは言いたいんだな?」

「そういうこと」

 アリが頷く。

「今日はもう遅いから、明日からだな。手近なF.N.M.を狩りに行くとしようか」

 そう言いながら、ジンは手元にウィンドウを表示させ、情報がまとめられたWikiを開き、日本リージョンのF.N.M.の情報を調べ始める。

「出現周期が割としっかり決まっていて、出来れば人気がなくて、かつ学校帰りの時間に行きやすい奴がいいな……」

 そうやってしっかり調べ始めるジンを見て、アリはこういうところは本当に頼もしい、と再認識した。

「そういう下調べをしっかりするところ、助かってるわ、頼むわよ、リーダー」

「あぁ、任せてくれ」

 アリの言葉に、ジンが頷く。


 翌日。相変わらず、魔女狩りまがいの行為を繰り返している「エクスカリバー・フォース」による監視社会が如き学園生活を乗り越え、「JOAR」は『VRO』のゲーム内に集合した。

「よし、三重の方に向かうぞ。オルキヌス、すまんが車頼む」

「おうまかせろ!」

 オルキヌスの車が空に飛び立つ。


 三重県鈴鹿市。

 そこに、旧時代から長い人気を誇り続けるレジャー施設がある。

 東西に細長く、中間部分の立体交差を挟んで右回りと左回りが入れ替わる、世界的にも珍しい8の字形のレイアウトのサーキットを中心としたそのレジャー施設は、ジン達にとっての現代でも、未だに多くのレースが行われ、楽しまれている。

 その名を鈴鹿サーキットと言う。

 『VRO』における鈴鹿サーキット一帯は「スペースコロニーワールド」の侵食を受けている。

 当然、鈴鹿サーキットも普通の自動車はほとんど走っておらず、超伝導モータファンエンジンを搭載した「フロートスピーダー」と呼ばれる極低空を浮遊しながら前に進むSFチックな車が主に走っている様子だ。

 そんな『VRO』には鈴鹿サーキットには一定間隔で必ずF.N.M.が出現するという特性がある。

「さぁ、もうすぐ時間だ」

 サーキットの内部に直接降り立った「JOAR」一行の前に、それは飛び出してくる。

 周囲の走るフロートスピーダーを弾き飛ばしながら、両肩の多連想ミサイルランチャーからミサイルをぶっ放すそれは、ロボットだった。

 【Racing Robotレーシングロボット】と表示されたそれは、四足の脚についたローラーでサーキット場を滑走し始めた。

「時間ぴったりな上に、周囲には他のプレイヤーもいない。なかなかベストなF.N.M.を見つけたわね」

「まぁな」

 レーシングロボットは「JOAR」達には目をくれず、周囲のフロートスピーダーを破壊しながら、レーシングコースを滑走している。

 このようにレーシングロボットはポップすると勝手に暴れ回って、一時間もすると自然にいなくなる。

 人気がない理由はシンプルで、派手に走り回るため、追いかけながらの戦闘が厄介なのだ。その上、現状レアドロップの情報もなく、旨みの少ない​​F.N.M.として知られていた。時には、まだ見ぬレアアイテムを期待して挑むものもいるようだが、幸い今日はそう言ったプレイヤーはいないようだ。

「さぁ、戦闘開始だ」

 ジンが最初はこちらを狙って来ないのをいいことに、長い詠唱を要する魔法を詠唱し、レーシングロボットに攻撃を仕掛ける。

 レーシングロボットが攻撃を仕掛けてきたジンを認識し、両肩からミサイルを一発放ち、攻撃する。

 リベレントが間に割り込んで、そのミサイル攻撃を受け止める。

「とりあえず、大楯としての最低限の役割に問題はないみたいだな」

 そう言いながら、オルキヌスが目の前を通過するレーシングロボットに向けて、一気に肉薄する。

「おらよっ!」

 オルキヌスが跳躍しレーシングロボットの胴体に《フォトンクレイモア》を突き刺す。

 レーシングロボットが派手に走り回り、オルキヌスを振り落とそうとする。

「うおおおおおおお!」

 どうやら、レーシングロボットのヘイトは自身に攻撃を突き刺しているオルキヌスに向かっているらしく、レーシングロボットがミサイルを発射する気配はない。

 ジンはこれ幸いと魔法を詠唱し始めるが。

「これだと、お姉ちゃんの出番がないわね」

 というアリの呟きにジンも内心頷く。

「なら、新しいWSを試してみるね」

 リベレントがWS《ハードシールドスロー》を発動し、以前に輝く神がしていたのと同じ、大楯スヴェルを体を中心に一回転させて、その遠心力で投擲した。

 同時、リベレント自身も駆け出す。

 《スヴェル》がレーシングロボットに衝突し、空中に弾き返される。

 その飛び上がった《スヴェル》を、駆けていたリベレントが空中でキャッチし、そのまま地面に着地する。

「なるほど、遠距離の敵に接近するのに便利そうなWSだな」

 ちょうど魔法を詠唱し終えたジンが頷く。

「あの輝く神がやってたみたいに、急降下攻撃したりは出来ないの?」

「うーん、どうだろ、空中でWSの効果が切れるから、頑張って体を動かせれば出来るのかな?」

「なら、体術の訓練が必要かもね」

 などとアリとリベレントが話していると、オルキヌスがついにレーシングロボットから振り落とされ、落下してくる。

 尻餅をついて隙を晒しているオルキヌスにレーシングロボットがミサイルを放つが、当然それらはリべレントによって阻まれる。

「前半戦はミサイルだけか? これは余裕そうだな」

 そう言いながら、オルキヌスは再びレーシングロボットへ駆け出していく。

「あ、そうだ、リベレントさん、隠しスキルの中には硬直終了直後にさらに同じWSの発動動作を取るってパターンもあるらしいぜー」

 などと言う言葉を残して。

「分かった。やってみる!」

 再びリベレントが遠心力で《スヴェル》を投擲する。

 レーシングロボットに命中し、《スヴェル》が空中に飛び上がり、それをリベレントは空中で掴む。

「どうかな?」

【ハードダイブ】

 空中でリベレントがさらに《スヴェル》の持ち手を捻ると、そのWSは発動した。

 リベレントが縦に一回転し、その勢いで、《スヴェル》をレーシングロボットにぶつける。

「おぉ、悪くないダメージが出たな」

 その様子をレーシングロボットに張り付きながらオルキヌスが笑う。

 ジンもその様子を後方から見て、シチュエーション次第ではリベレントにもアタッカー的な役割を果たしてもらえそうだな、と思った。


 さてそんな風に楽勝ムードで敵のHPを削っていると、敵が劇的な動きを見せた。

 そう、HPが半分を切ったのである。

 ミサイルランチャーが上へ向き、そのまま一斉に無数のミサイルが放たれた。

「まずい、範囲攻撃だ!」

 オルキヌスが叫ぶ。

「せめて、ジン君だけでも!」

 迫り来るミサイルの中、リベレントはせめて、ジンだけでも守ろうと、ジンの前で《スヴェル》を地面に突き立てる。

 直後、奇妙なことが起きた。

【シャイニングシールド】

 そんなスキル名の表示が出現し、リベレントの《スヴェル》から銀色の波動が放たれる。

 すると、周囲一帯に降り注ごうとしていたミサイルは突然その軌道を変えて、一斉にリベレントに向けて飛翔を始めた。

 全てのミサイルがリベレントとその大楯スヴェルに命中する。

 リベレントのHPが大幅に減少する。と言っても半分よりはまだ多いくらいである。ただ、一撃のダメージ量で考えるとリべレントのHPに対してこの減少量は無視出来ないものだ。

 慌てて、アリと玉兎がリベレントに回復を施し始める。

「これは……、範囲攻撃を自分だけに吸収出来る効果……ってところか? 使い所を間違えると自滅しそうだが、強力だな」

「そうだね……、自滅だけは気をつけないと」

 ジンの呟きに、リベレントが少し苦しげに頷く。

「今発覚してよかったわ。レイド・ウォー中に突然発動したら、最悪その場で消滅よ」

「だな、使い所に注意だ」

 アリがそのダメージ状態についてそう評すると、ジンも頷いた。

 とはいえ、このスキルはこの戦場では圧倒的に有利に働く。

 本来なら、派手にばら撒かれるミサイルを回避しながら戦わなければならないレーシングロボットとの後半戦。

 だが、リべレントは——アリと玉兎の回復あってのことだが——その全てを自分で受け止め、ジンやオルキヌスが攻撃する隙を作り出した。

 結局、一同は苦戦らしい苦戦をすることなく、F.N.M.レーシングロボットを撃破することに成功したのだった。


 その翌日の木曜日。その夜。

 リベレントはパーティプレイヤーハウスの前に設置した練習用カカシに向かって《スヴェル》を使った攻撃の練習に明け暮れていた。

 《ハードシールドスロー》からの《ハードダイブ》は彼女に新たな「近接戦闘」を言う役目を与えたが、しかし、リベレントはこれまで大楯を相手の攻撃に合わせるばかりで、大楯を使って相手を殴るようなことはしてこなかったので、その練習が必要になったのだ。

 それを見守り、時には助言の真似事のようなことをしていた「JOAR」一行。

 ジンの元に一通のメールが届く。

 内容は簡単に要約すれば以下の通りだった。

【まもなく戦力補充が終わる。明日の夜、攻撃宣言を行う。全員準備しておくように】

 いよいよ、『エレベートテック』との決戦の日が決まった連絡であった。

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