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第79章「冒険〜凍えし川の下で 下」

「この世界はもはや残滓。だがそれでも、私はこの世界を守るために戦う。お前も世界の終焉を止めたくば、私の世界を終わらせてでも挑んでくるが良い」

 ジンが軽い詠唱で牽制の魔法を放つが、当然のようにそれは大楯で防がれる。

「続くぜ! 《カラミティトランプル》!!」

 オルキヌスが空中で縦に三回転して、輝く神に三連撃をお見舞するが、その全てはやはり、大楯に防がれる。

 輝く神が大楯を操り、オルキヌスに打撃を食らわせる。

 オルキヌスは命中直後になんとかWS後硬直が解けて、自分から後方に飛び下がることで、ダメージを最小限に抑え、後方に着地する。

「こいつ、リベレントやギャラハッド並に硬いぞ!」

「そうじゃなきゃ、取りに来ないよ!」

 とはいえ、ダメージが通らないの話にならない。

「どうした、こちらから行くぞ!」

 輝く神が大楯を構えたまま駆け出す。

 「私が止める! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 その前にリベレントが《ウォークライ》を発動しながら割り込む。

 大楯と大楯がぶつかりあい、火花を散らす。

 ジンがその隙を逃さず、《サンダーストームラッシュ》で攻撃を仕掛ける。

 おおよそ人間業では不可能な雷の如き速度の連続斬りが放たれる。

 だが、輝く神はすり足で大楯を後方にずらして、リベレントの大楯を斜めにスライドさせてずらしてから、その斜めに構えたままの大楯でジンの連続攻撃を受け止める。

「なら、三連撃ならどう!!」

 ジンがいるのとは反対方向に回り込んだアリが《セフィロトリング》に蓄積されたエネルギーを解放しながら《イグニッション》を発動し、輝く神を攻撃する。

 流石の輝く神もこれは回避できなかった。

「複数方向からの同時攻撃か」

 その様子を見て、ジンが頷く。

「私を傷つけたか。流石は世界の終焉を止めに来た勇者だ! だが、この程度、まだまだ怯むには至らないぞ!」

 輝く神が後方に飛び下がってから、頭上でぐるぐると大楯を回転させ、なんと、大楯を投擲した。

 狙いは、アリだ。

「させないよっ!」

 その間にリベレントが割り込み、大楯で飛んできた大楯を受け止める。

 金属同士がぶつかり合う強烈な音が響き、リベレントの手が痺れ、輝く神の大楯は空中へ弾き返される。

 そこへ肉薄してきていた輝く神が跳躍し、空中に飛び上がった大楯を手につかみ、そのまま急降下攻撃を仕掛ける。

「リベレント、上だ!」

 大楯を構えている関係で、前方視界が不安定なリベレントは、ジンの警告で初めて輝く神が肉薄してきていることに気付き、大楯を上斜め前に構え直す。

 大楯の先端と大楯の平がぶつかりあい、火花を散らす。

 防御には成功したが、急降下攻撃を仕掛けた輝く神の方がエネルギー量が多く、リベレントは後方に滑る。

 さらなる追撃をかけようと、輝く神が横に一回転しながら、大楯を振り回す。

「させるかよっ!」

 そこにオルキヌスが《カラミティトランプル》を仕掛ける。

 輝く神は素早く大楯を構え直し、その一撃を受け止める。

 そこにジンとアリが同時に攻撃を仕掛ける。

 ジンの《サンダーストームラッシュ》とアリの《イグニッション》が同時に輝く神に襲いかかり、確実にそのHPを削る。

 輝く神がオルキヌスに対し《ハードパリング》のような動きを取って、オルキヌスの《フォトンクレイモア》を弾き返してから、ジンに向けて大楯を振るう。

「しまっ!?」

 ジンは咄嗟に《ファンクサスブレード》で大楯を受け止めるが、質量差がありすぎる。

 派手にジンは後方に吹き飛ばされた。

「てめぇ!」

 体勢を立て直したオルキヌスは怒りを顕にしながら、射撃モードにした《フォトンクレイモア》から赤いフォトンビームを放つ。

 ジンへ追撃を仕掛けようとしていた輝く神は方向転換し、大盾を地面に突き立てて、赤いフォトンビームを防ぐ。

 その間にアリが吹き飛ばされたジンの元に駆け寄り、HPを回復する。

 オルキヌスはそのまま射撃しながら輝く神に肉薄し、近接攻撃を仕掛ける。

 一人での連続攻撃は全て大楯で防がれてしまうが、オルキヌスはその攻撃をやめない。

 当然、ジンが回復する時間を稼ぐためだ。

 その背後からリベレントが大楯の先端で攻撃を仕掛ける。

「ちいっ!」

 輝く神がサイドステップで両方の攻撃を回避し、大楯を構え直す。

 その着地を瞬間を狙い、HP回復したジンが魔法を放つ。

 輝く神はその魔法砲撃をモロに受け、大きなダメージを受ける。

 その隙に、再び四人が並び立ち、連携で攻撃を仕掛ける。

 何度も最初か二回目に攻撃したキャラクターが吹き飛ばされ、ダメージを負ったが、その度にうまく態勢を立て直し、ついに輝く神のHPは半分を切った。

「やるな。だが、残滓とはいえ、私は私の世界を見捨てはしない!」

 輝く神が一気に後方に飛び下がり、大楯を構え直す。

 直後、後方の太陽から炎が溢れ出し、周囲が炎に溢れ、周囲の木々や背景の大樹までもが燃え始める。

「ちっ、私の守りが別の方向に向いたからか……」

 輝く神が背後を振り返り、そう呟く。

「やっぱりまた炎かよ!」

 思わずそう叫ぶのはオルキヌスだ。

 一方、ジンはこのボスの持つロアに興味を持っていた。先ほどから気になるセリフが多いのだ。前情報なしで、このダンジョンに挑んでしまったが、本当なら、周囲の村などで、このダンジョンやそのボスについての情報などを聞けたのではなかろうか、などと考えてしまう。

 とはいえ、今はそんな普通のゲームのような遊び方をしている時間はない。いつになるのかは知らないが、刻一刻と「エレベートテック」とのレイド・ウォーの時は近づいており、今は少しでも早い戦力強化が求められる状態にあった。

 ジンは自分達がこの『ヴィジョン・リアリティ・オンライン』と言うゲームを本当の意味で楽しめていないような気がして、少し残念に感じつつも、この炎への対処を考える。

「アリ、全員に……、いやもうやってるな」

 全員にHP継続回復リジェネ状態にする魔術をかけて欲しかったのだが、そう声をかけようとしている間に、視界左上に表示されているパーティのステート部分にHPリジェネのアイコンが表示されているのが見えた。

 幸い、炎のダメージ量は多くない、HPリジェネと炎のダメージは釣り合いが取れており、なんとか保ちそうだ。

「すまないが、世界が炎に巻かれる前に決着をつけさせてもらう!」

 その間に、輝く神も戦意を取り戻したらしく、大楯を構えたまま、一気に突進してくる。

 リベレントが間に割り込み、その大楯の一撃を大楯で受け止める。

 行動パターンがよりアクティブに変化しており、リベレントは輝く神の連撃に晒される。

「後は、こいつに期待か」

 動きを止めた輝く神に向けて、ジンとオルキヌスが同時に左右から攻撃を仕掛ける。

 ジンが詠唱するは《魔法剣・水》。《ファンクサスブレード》がモードチェンジし、水を纏い始める。

 ジンは《オランド・ポラ・リュヴィア》を発動し、強烈な濁流攻撃を放った。

(え、雨が降らない!?)

 ジンは一瞬困惑する。《オランド・ポラ・リュヴィア》は雨が降ってきて、その雨を受けて濁流攻撃を放つWSだったはずだが。

 まだ、知らない条件があるのか、と困惑しつつ、その濁流攻撃は道中の炎をかき消しながら、輝く神に迫る。

「ほう、スルトの炎を掻き消すか。流石は勇者だ」

 だが、その濁流は輝く神の大楯によって受け止められる。

「隙あり!!」

 行動パターンが変化しても、三方向からの攻撃を同時に捌けないのは変わらないようで、オルキヌスの縦三回転斬撃カラミティトランプルが輝く神のHPを一気に削る。

 輝く神は後方に大きく跳躍し、大楯を構えたまま、大きく横に一回転して、その遠心力で大楯を投擲する。

 狙いはオルキヌスだが、慣れた様子で、リベレントが割り込む。

 弾かれた大楯が空中に飛び上がり、肉薄した輝く神が空中で大楯をキャッチして急降下攻撃を仕掛ける。

 それを予期していたリベレントはこれを受け止めるが、輝く神は先ほどと違い、ソニックウェーブのような波を発しながら突撃してきており、威力が違った。

 思わず、リベレントは大楯を弾かれ、後方に弾かれて尻餅をつく。

 輝く神はダウンしたその隙を見逃さず、リベレントにさらなる追撃をかけんと駆け出す。

「やらせるか!」

 そこに《ペルポラシォン・デ・リュヴィア》を発動したジンが一気に突撃する。

 愚直極まる一直線の波に乗ったその突撃は、大方の予想通り輝く神の大楯により止められる。

 水で出来たランスと大楯がぶつかりあう。水で出来たランスとそれを持つジンを前に進めんとする波は止まろうとしないが、しかし、一方で輝く神の持つ大楯は揺らがない。

 そして、輝く神は《ハードパリング》らしき動きでジンの剣を跳ね上げる。

 輝く神は大楯を自身の周囲で横に一回転させ、その遠心力でジンを派手に吹き飛ばした。

 吹き飛んだジンはそのまま、フィールドのヘリの見えない壁に激突し、ダメージを受ける。

 どうも直近にダウンしたキャラクターがいるとそれを優先して狙うアルゴリズムになっているようで、今度は輝く神はジンを狙って駆け出す。

 そこへ今度はオルキヌスが攻撃を仕掛け、やはり《ハードパリング》されて、吹き飛ばされる。

「まずいぞこれ」

 輝く神が近づいてくるのを前に、オルキヌスが叫ぶ。

 リべレントが慌てて体勢を回復し、庇いに行こうとする。

「いや、オルキヌス、耐えろ!」

 一瞬の逡巡の末、ジンが叫ぶ。

「分かった!」

 輝く神の追撃がオルキヌスに突き刺さる。

「全員、オルキヌスが耐えている間に、態勢を整える」

 アリの回復を受けつつ、リベレントとジンが武器を持って、立ち上がる。

「これ、どうする? これだけアクティブだと迂闊に攻撃出来ないし、隙も突けないぞ」

 ジンがアリとリベレントに問いかける。

 その間に、オルキヌスはアクティブスキル《プル》で、遠くに落下した《フォトンクレイモア》を手元に引き寄せ、ようやく《ラージセイバーガード》でダメージを軽減出来る状態になっていた。

「《ネケク》が使えないかしら? 普通に持ってる時はダメでしょうけど……」

「そうか、投げた時なら……。試してみる価値はあるな」

 ジンはアリの提案に頷き、《ファンクサスブレード》を構える。

 再び、《ペルポラシォン・デ・リュヴィア》を発動し、波に乗ってジンが輝く神に攻撃を仕掛ける。

 輝く神は素早くそちらへ大楯を向けて防ぐ。

「おらよ!」

 その隙を逃さず、オルキヌスが《フォトンクレイモア》を振るう。

 輝く神は咄嗟に側面に大きく跳躍し、再び、大楯をくるりと一回転させ、遠心力を利用して投擲する。

「行くよ!」

 再び、リベレントが間に割り込んで、飛んできた大楯を弾き返す。

 空中に飛び上がった大楯を輝く神が跳躍して空中でキャッチしようと試みる。

 直前、アリの右腕から伸びた光の鞭がその大楯を掴んで、アリの手元に引き寄せる。

 慌てて、輝く神がアリの方に駆け出すが、その間にリベレントが割り込む。

「ルックス・マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ムーラス・クストーディオ!」「ルックス・マキシーメ・エト・マキシーメ・マンニョム・ムーラス・クストーディオ」

 ジンとリベレントが同時に詠唱した魔法により、光の壁が出現し、行く手を阻む。

 思わず、輝く神が硬直する。

「もらったぁ!」

 その隙を逃さず、左右からジンとオルキヌスのWSが突き刺さる。

 大楯で防げない輝く神は咄嗟に後方に飛び下がろうとするが、それよりジンの突撃の方が早く、ジンに貫かれた輝く神はそのまま、身動きを取れない状態で、オルキヌスの縦三回転連撃を真っ当に喰らってしまった。

「ここまで……か。見事だ。勇者よ」

 輝く神が赤いデータ片となって消える。

 だが、アリの手元の大楯も同時に消えてしまう。

 同時、奥に見えていた大樹が燃え尽きていき、風景はただの巨大地下空洞の見た目へと変化する。

 一同は頷きあって、潜水アイテムを装備した状態で、脱出アイテムを使って、ダンジョンを脱出。

 その後、再度輝く神と戦うために、再度ダンジョンに入るのだった。


 それから、何度となく輝く神に挑み、《スヴェル》という名前のその大楯を手に入れたのはその数日後のことだった。

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