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第78章「冒険〜凍えし川の下で 上」

「というわけで、優希君には少し前に私がリベレントだってバレちゃってて、それからはもし学校でなにかあった時に協力してくれるように約束してもらってたの」

 「エクスカリバー・フォース」による魔女狩りの標的にされた日の夜。

 「JOAR」の四人はメタバース「スカイダイン」のインスタンスエリア個室に集まっていた。

 アバターは勿論、『VRO』でのもの。

 「スカイダイン」の母体である「スカイライク」は「エレベートテック」にレイド・ウォーで敗北し、事実上消滅したが、「スカイダイン」はその人気から存在を許されているらしい。

「そういうことだったのか」

 リベレントの説明にジンが頷く。

「突然、優希が嘘で庇いだしたからびっくりしたぜ」

 ジンの言葉にオルキヌスも頷く。

「ごめんね、味方だと知らないでいた方が、役に立つ場面もあるかも、っていう話だったんだけど……」

「思ってたより敵の動きのほうが早かったわけか」

 リベレントの謝罪に再度ジンが頷く。

「まぁ、仕方ないでしょ。あのタイミングではまさか敵チームの首魁が直接学校に乗り込んでくるなんて想像もしてない時期だもの」

「だな」

 アリが擁護意見を出す。オルキヌスもジンもその言葉に頷く。

「しっかし、ムカつくぜ−。アルトリウスのヤツ、あんな方法でリアルを攻撃してくるなんてよ」

「あぁ、あくまで自分の手は汚さず、勝手に生徒がやってるだけ、ってポーズだ」

「『エレベートテック』での戦いでは、絶対に初期化してやる……」

「あぁ、失業させてやろうぜ」

 オルキヌスとジンがアルトリウスへの対抗意識から、二人でアルトリウスを『VRO』内で懲らしめることを考え始める。

「二人だけで盛り上がらないでよ、私も同じ気持ちなんだから」

 そこにアリも加わる。

「あ、ねぇ、それなら一つお願いがあるんだけど」

 そこにリベレントが口を挟む。

 ジンが「お願い?」とオウム返ししつつ、不思議そうに首を傾げる。

「うん、私もレアな武器が欲しいの!!」

 リベレントが自己主張するのは極めて珍しいので、一同の視線がリベレントに集中する。

「確かに、リベレントの大楯って店売り品なんだっけか。それでここまで戦えてるのは結構すごいことだよな」

 ジンがリベレントの言葉に頷く。

「へぇ、お姉ちゃんが自己主張なんて珍しいね。何かあった?」

「え? えーっと……、ほ、ほら、ギャラハッドと戦った時にやっぱり強いレア武器じゃないと押し負けるなって……」

「ふんふん、で、本当は?」

 アリの問いにリベレントが答えるが、アリは笑顔のまま聞き流し、問いを重ねる。

「本当だってー」

「お姉ちゃんは自己主張は控えめだけど、思い立ったら我慢出来ない方なんだから、『ロビン・ルイス』と戦ってから主張までにこんな時間が経つことはないでしょ」

「む……」

 アリの的確な指摘にリベレントは思わず唸る。

「お姉ちゃん?」

「本当は……、優希君に、『そういえば『JOAR』の中でリベレントさんだけ象徴する武器がないですよね』って言われて悔しくて……」

 言いにくそうに、リベレントが言う。

「あぁ……」

 ジンはなるほど、と呟く。

 ジンなら《ライトニングソード》や《ファンクサスブレード》、アリなら《セフィロトリング》、オルキヌスは《フォトンクレイモア》と、レアアイテムを持っており、それぞれ、非常に有名だ。

 どの武器も「JOAR」に憧れた後追いの人々がレア武器掘りに行っていることで有名で、《ライトニングソード》などは、未発見だった頃を思えばびっくりするほど、あちこちで見ることが出来る武器となっている。

 対して、リベレントの武器である大楯は先程ジンが言った通り、ただの店売り武器でしかない。優希の言葉は残念ながら事実という他ない。

「分かった。勝久さんに聞いてみるよ」

 そう言って、ジンはチャットアプリを開いた。

「いいの?」

「あぁ、リベレントの盾が強くなるのは『JOAR』全体の戦力アップにもなるし、何より良い武器を持つことは士気に関わるからな」

 そう言いながら、ジンは勝久に対し、チャットを送っていた。

 内容は簡単に言うと、智顕に連絡を取って、大楯のレアアイテム情報を嵐士君が持っていなかったか確認して欲しい、というものだ。

 数分後、返事は智顕から直接返ってきた。

 曰く、嵐士もパーティに大楯使いを入れてライバルに対抗するか悩んでいた時期があったらしく、大楯のレア武器情報を探っていた様子だ、とのこと。

「ヨーロッパリージョンのソグネフィヨルドか」

「フィヨルド……、地理で習った気がするな……」

 ジンが呟くと、オルキヌスがそんな言葉をつぶやくので、一同が驚く。

「お前……! ちゃんと授業の内容が定着してるのか!?」

「まぁ、自分でもちょっとびっくりだよ」

 ともすれば失礼なジンの驚愕に、オルキヌスも笑う。

「ってことは、また水中ダンジョンなの?」

「あぁ。けど、嵐士君は戦ったことがあるようで、その記録によれば水中戦にはならないらしい」

 アリの問いにジンが首を縦に振る。

「なら、《ファンクサスブレード》を取りに行った時よりは楽か」

「だといいけど」

「それでどんな武器なの?」

「そこまでは分からないみたいだ。嵐士君は何度か挑んだけど、ドロップしなくて諦めたみたいだな」

 ただ、敵のボスが大楯を持っているのは確かで、戦闘終了時に地面に突き刺さってから消える演出が挟まるので、ドロップする確率は高いだろう、と嵐士は踏んでいたようだ。

 諦めたのは、結局大楯使いをパーティに採用しないことにしたのが大きいらしい。

「じゃ、早速出発だ!」


 ソグネフィヨルドはヨーロッパリージョン、ノルウェー西部にあるフィヨルドの一つである。

 グリーンランドのスコルズビ湾に次ぐ世界で二番目に大きいフィヨルドであり、ノルウェー最大のフィヨルドである。

 目的地である海底洞窟はフィヨルド内の最も深い内陸部にある。

 けれど、フィヨルドの周囲は千メートルを越える崖に覆われており、ヴェストラン県にある入り口から水中へ潜っていく必要がある。

 フィヨルドの入り口は土台のように土が盛り上がっており、水深は百メートル程度である。

 ジン達はそれぞれのヴィジョンで確保した水中呼吸手段を装備しつつ、水底を歩いて進み始める。

 現実的に考えるととても歩ける水温ではないはずだが、そこはゲームなので、特に実装はされていないようだ。

 ソグネフィヨルドの光景は美しさで知られており、観光業でも賑わっている地域なのだが、海底を歩く一行には伝わらないのが悲しいところだ。

 歩くことしばらく。現実だと二百キロメートルほどの距離だが、範囲が広い分大幅にデフォルメされているヨーロッパリージョンなので、流石にそこまで遠くはない。

「ここが入り口か」

 やがて、海底にポッカリと空いた洞窟が見つかる。その入口は青い破線で区切られており、別マップのインスタンスダンジョンになっていることが分かる。

 四人は頷きあうと、そのダンジョンへと入っていく。


 前情報通り、ダンジョンの中は水が入ってこないエリアだった。

 洞窟が一度下ってから登る形になっており、水が内部まで入ってこない様子だ。

 だが、もっと驚いたのはその後だった。

 短い土壁の洞窟を抜けると、洞窟の中とは思えない空間が広がっていた。

「どういうことだ? 地上に出たのか?

「高さ的にそんなわけ無いと思うが……」

 奥には超巨大な樹木がそびえ立ち、空には太陽が昇っている。

「とりあえず、奥へ進もう」

 出てくる敵は狼が多かった。

 オルキヌスの《ディザスターターン》がまとめて狼を吹き飛ばす。

 残された狼が《遠吠え》をして攻撃力を高めながら、オルキヌスに飛びかかるのを、間にリベレントが割り込むことで防ぎ、そこへジンの《レインピアッシング》が突き刺さる。

 並のパーティなら倒すだけで大変であろう連携してくる厄介な狼を、「JOAR」は軽々と倒して、先へ先へ進んでいく。

 暫く進むと、道は上へ上へと進んでいく。まるで太陽へと導いているかのようだ。

「なぁ、あの太陽がボスで、また近接攻撃すると燃えるってことはないよな?」

 イフリートとヒノカグツチで二回連続で経験しているパターンだ

「今ならいっそその方が楽だぞ、俺の《ファンクサスブレード》の水モードで戦えるからな」

「それもそうか」

 しばらくすると、今度は巨人が敵として出てくるようになる。

 といっても、ティタンやイフリートほどの巨体ではなく、人間の二倍の身長を持つ程度だ。

 弱点である頭部を狙いにくく、その上複数人で連携してくるという厄介な敵であるが。

 リベレントがその大楯で的確にその攻撃を受け止め、《ハードパリング》。そこにジンとオルキヌスがWSを打ち込むという見慣れた黄金パターンを崩すには至らない。

 そうして、一同はついに道の終着点にたどり着く。

「よくぞ来たな、終焉を止めることを望む者よ」

 奥に待ち受けていたのは【Shining Deity輝く神】という名前のボス。名前の通り真っ白に光り輝く身体を持った人型のボスだ。

 見る限り武器は一つ。身の丈ほども有る巨大な大楯だ。

「あれだね」

 リベレントが言う。

「この世界はもはや残滓。だがそれでも、私はこの世界を守るために戦う。お前も世界の終焉を止めたくば、私の世界を終わらせてでも挑んでくるが良い」

 輝く神が大楯を地面に突き立てる。

 戦いの始まりだ。

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